無邪気
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恋人のアパート前でリジーは小さく息をついて、念入りによくよく確かめながら何度目かのノックを繰り返した。
玄関のドアは固く閉ざされたまま、一向に開く気配はない。
留守だろうか、いやまさか。そんなはずはない。
「明日、家に行くからね」と昨日の今日、確かに約束してたのに。
リジーは中の様子に耳を澄ましながら、もう一度ノックする。
室内から微かにカタ、コトという物音が聞こえた気がして、リジーはもう一度強めにドンドン!と扉を叩いた。
カシャン、と鍵の開く小さな音がして、リジーは恐る恐るノブに手をかける。
リジーを最初に出迎えてくれたのは、この家の主で恋人のニュート・スキャマンダーではなく、彼の飼っているボウトラックルのピケットであった。
「ピケット!どうもありがとう、いい子ね」
ピケットは小さな手足を使って器用に鍵穴からリジーの手の上に飛び移り、小さな目をくりくりと輝かせてリジーを歓迎する。
約束してたのに家の中にニュートの姿は見当たらない、しかもピケットにひとりで玄関を開けさせるなんて!
「もうっ、あなたの“宿り木”はどこに行ってしまったの?」
リジーはぽつんと独り取り残されて、二人でゆっくり飲もうと楽しみにしていたワインを残念そうに見つめる。
その時ふと、地下の方からドタドタと激しい物音がして家の窓硝子や照明器具を微かに揺らした。
リジーは何事かと ピケットを肩に乗せたまま、急いで地下室への階段を駆け下りる。
そこに広がっていた光景にリジーは呆れて顔を顰めた。
「リジー!あれ、いつの間に?」
前身泥だらけになりながら、頭もいつもよりさらにぐしゃぐしゃになって、ムーンカーフたちの群れの間から慌てて顔を出す。
「さっきから何度もノックしてたのに!」ピケットが開けてくれたのよ、とリジーは思わず責めるような口調で話す。
「ちょっと取り込み中で、ごめん――わっ、コラ!ダメだって、あっははは!」
押し寄せるムーンカーフたちにもみくちゃにされて、ニュートは楽しげに笑い転げる。
なによう、とリジーは悪態をつきながら周りを見渡してぽつんと一人取り残された気分になる。
リジーなんかそっちのけで動物たちと夢中になって戯れるニュートを見て、「楽しみにしていたのはわたしだけだったんだ」と何だか自分が馬鹿馬鹿しく思えてきた。
「ねえ!ちょっと!ニュートってば!」
リジーは声を張り上げるが、ニュートの耳には届かない。
約束してたのに、楽しみにしてたのに。
動物たちに嫉妬してしまうなんて、大人気ないとは分かっていても、リジーの心はもやもやと晴れぬまま、これ以上ここにいたら心無いことを言ってしまいそうで、「そう」と一言呟いてくるりと踵を返した。
「まあいいわ。わたし、今日は帰らせてもらうわね」
「え!ど、どうしてだい」
慌ててニュートが身体を起こす、それと同時にムーンカーフたちが一斉にくるりとこちらを向いて、たくさんの大きな瞳がキョトンとリジーを見つめた。
「実は食事に誘われてたのよね、でも先に約束してたしお断りしたんだけど、いつでもいいって言ってくれたし……それじゃあねニュート、ワインは置いていくから、どうぞごゆっくり――」
「ちょっと待って!リジー!食事って……!?」
「ニュートの知らない人と」
「だれ?!」
半分泣きそうな表情で切羽詰まって尋ねるニュートにリジーはつんとそっぽを向いたまま、泥だらけのニュートに「早くお風呂に入ってきて!」とタオルを放り投げる。
「ど、どこにも行かない……?」
「どうかしら」
「リジー、僕が悪かったから……キスしてもいい?」
リジーは眉をひそめてニュートの姿を上から下まで眺めてから「ご遠慮願いたいわ」と首を振る。
大きな背中を小さく丸めておろおろと不安げに謝るニュートに、リジーはくすっと笑って「もういいから早く行って!」とバスルームに放り込む。
リジーは小さく息をついてピケットと顔を見合わせ、そわそわと浮き足立ちながらワインのボトルを開けた。
▶あとがき
玄関のドアは固く閉ざされたまま、一向に開く気配はない。
留守だろうか、いやまさか。そんなはずはない。
「明日、家に行くからね」と昨日の今日、確かに約束してたのに。
リジーは中の様子に耳を澄ましながら、もう一度ノックする。
室内から微かにカタ、コトという物音が聞こえた気がして、リジーはもう一度強めにドンドン!と扉を叩いた。
カシャン、と鍵の開く小さな音がして、リジーは恐る恐るノブに手をかける。
リジーを最初に出迎えてくれたのは、この家の主で恋人のニュート・スキャマンダーではなく、彼の飼っているボウトラックルのピケットであった。
「ピケット!どうもありがとう、いい子ね」
ピケットは小さな手足を使って器用に鍵穴からリジーの手の上に飛び移り、小さな目をくりくりと輝かせてリジーを歓迎する。
約束してたのに家の中にニュートの姿は見当たらない、しかもピケットにひとりで玄関を開けさせるなんて!
「もうっ、あなたの“宿り木”はどこに行ってしまったの?」
リジーはぽつんと独り取り残されて、二人でゆっくり飲もうと楽しみにしていたワインを残念そうに見つめる。
その時ふと、地下の方からドタドタと激しい物音がして家の窓硝子や照明器具を微かに揺らした。
リジーは何事かと ピケットを肩に乗せたまま、急いで地下室への階段を駆け下りる。
そこに広がっていた光景にリジーは呆れて顔を顰めた。
「リジー!あれ、いつの間に?」
前身泥だらけになりながら、頭もいつもよりさらにぐしゃぐしゃになって、ムーンカーフたちの群れの間から慌てて顔を出す。
「さっきから何度もノックしてたのに!」ピケットが開けてくれたのよ、とリジーは思わず責めるような口調で話す。
「ちょっと取り込み中で、ごめん――わっ、コラ!ダメだって、あっははは!」
押し寄せるムーンカーフたちにもみくちゃにされて、ニュートは楽しげに笑い転げる。
なによう、とリジーは悪態をつきながら周りを見渡してぽつんと一人取り残された気分になる。
リジーなんかそっちのけで動物たちと夢中になって戯れるニュートを見て、「楽しみにしていたのはわたしだけだったんだ」と何だか自分が馬鹿馬鹿しく思えてきた。
「ねえ!ちょっと!ニュートってば!」
リジーは声を張り上げるが、ニュートの耳には届かない。
約束してたのに、楽しみにしてたのに。
動物たちに嫉妬してしまうなんて、大人気ないとは分かっていても、リジーの心はもやもやと晴れぬまま、これ以上ここにいたら心無いことを言ってしまいそうで、「そう」と一言呟いてくるりと踵を返した。
「まあいいわ。わたし、今日は帰らせてもらうわね」
「え!ど、どうしてだい」
慌ててニュートが身体を起こす、それと同時にムーンカーフたちが一斉にくるりとこちらを向いて、たくさんの大きな瞳がキョトンとリジーを見つめた。
「実は食事に誘われてたのよね、でも先に約束してたしお断りしたんだけど、いつでもいいって言ってくれたし……それじゃあねニュート、ワインは置いていくから、どうぞごゆっくり――」
「ちょっと待って!リジー!食事って……!?」
「ニュートの知らない人と」
「だれ?!」
半分泣きそうな表情で切羽詰まって尋ねるニュートにリジーはつんとそっぽを向いたまま、泥だらけのニュートに「早くお風呂に入ってきて!」とタオルを放り投げる。
「ど、どこにも行かない……?」
「どうかしら」
「リジー、僕が悪かったから……キスしてもいい?」
リジーは眉をひそめてニュートの姿を上から下まで眺めてから「ご遠慮願いたいわ」と首を振る。
大きな背中を小さく丸めておろおろと不安げに謝るニュートに、リジーはくすっと笑って「もういいから早く行って!」とバスルームに放り込む。
リジーは小さく息をついてピケットと顔を見合わせ、そわそわと浮き足立ちながらワインのボトルを開けた。
▶あとがき
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