蝶々
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「ホグズミードには行かないの?」
日曜の午後の始まりを知らせる鐘の音とともに、見計らったかのようにふらりとリジーは階段上の小さな棚裏を訪れた。
ニュートは驚いてきょとんとしながら彼女を見つめる。
「あ……えっと、うん……」
リジーは一言「ふーん」と、自分で聞いておきながらあまり興味無さげな様子で階段の上に腰を下ろす。
ニュートはどぎまぎしながらチラチラ視線を送る、一体何をしに来たのか、何か話すべきだろうか、何を話したらいいだろうかと頭の中でぐるぐる行ったり来たりする。
知らない間柄でも、まして緊張するような相手でもないのに心臓がバクバクして窒息しそう。
リジーのことをニュートはよく知っている、あまり話したことはないし関わりは浅いが共に入学してから数年間、同じハッフルパフのクラスメイトとして顔を合わせる機会は多い。
中でも彼女はとりわけ、周囲と違って不思議と目を惹いた。
歩きにくそうな高いハイヒールを履いた脚を投げ出して、壁に背中をもたれさせる。
水魔の泳ぐガラス瓶を興味深そうに指でつつきながら「ふふっ」と小さく笑みを零す。
ニュートはあちこちに視線を彷徨わせてから、カタカタしたくるみ割り人形のようにぎこちなく「きみは、行かないの?」と尋ねる。
「デートがね、ふいになってしまったの。だからどうしよっかなあって」
「はあ……」
「ねえ、どっか遊びに行かない?」
前のめりになりながらリジーはちょこんと首を傾げる。
それはつまり、デートだ。男女が二人でお茶したり、食事したりする事。
彼女と二人なら、たまには雑踏の人ごみに交ざって歩いてみるのも悪くないだろう、とふと考えてみる。
ハニーデュークスでお菓子を買って食べ歩きながら、三本の箒でバタービールを飲んだり。
ひげがついてるよ、とお決まりのジョークで笑わせてあげる。
マダム・パディフットの喫茶店はいつもすごい人だけど、リジーはきっと好きだろうからちょっとぐらい並んでも構わない。
帰る頃には手を繋げるかもしれない。
もしかして、もしかすると、キスも許してくれたら。
きっと楽しい、絶対に。
けれどふと思い出す、もし今朝リジーに不運な予定外の事故が起こらなければ彼女の隣には別の誰かがいて、きっと僕には一生声を掛けることなんてなかっただろうということ。
分かってはいてもほろ苦い感情が胸に広がる。
「……本当は、誰と行く予定だったの?」
「どうしてそんなこと聞くの?」
思わず手を伸ばしたくなるような、薄く弧を描く淡い桜色のくちびる。
その微笑みに嫌味はなく、無邪気な幼い子どものように純粋に心臓を弄ぶ。
まるでひらひらと舞う蝶々のように、捉えどころなく揺らぐ水面のように。
その自由な瞳に、愚かにも心惹かれずにはいられなくなる。
「……明日は、誰と行くの」
「んー、約束はあるけど……ニュートさえよければ、明日もどう?」
リジーはきっと、恋人ごっこをしたいだけだ。
誰とでもデートに行くだろうし、誰とでもキスをする。
こんな約束、その場限りの戯れかもしれないし、明日には忘れてるかもしれない。
彼女の手を掴むのは簡単だけど、彼女から手を繋ぐことはない。
けれど、ほんの少しだけ試してみたくなった。
「……明日なら、いいよ」
僕のせいで、どこまでリジーは振り回されてくれるのか。
きっと考えることは同じ幼稚な男なんて他にも山ほどいるだろうけど、君はどこまでなら許してくれるのか。
▶あとがき
日曜の午後の始まりを知らせる鐘の音とともに、見計らったかのようにふらりとリジーは階段上の小さな棚裏を訪れた。
ニュートは驚いてきょとんとしながら彼女を見つめる。
「あ……えっと、うん……」
リジーは一言「ふーん」と、自分で聞いておきながらあまり興味無さげな様子で階段の上に腰を下ろす。
ニュートはどぎまぎしながらチラチラ視線を送る、一体何をしに来たのか、何か話すべきだろうか、何を話したらいいだろうかと頭の中でぐるぐる行ったり来たりする。
知らない間柄でも、まして緊張するような相手でもないのに心臓がバクバクして窒息しそう。
リジーのことをニュートはよく知っている、あまり話したことはないし関わりは浅いが共に入学してから数年間、同じハッフルパフのクラスメイトとして顔を合わせる機会は多い。
中でも彼女はとりわけ、周囲と違って不思議と目を惹いた。
歩きにくそうな高いハイヒールを履いた脚を投げ出して、壁に背中をもたれさせる。
水魔の泳ぐガラス瓶を興味深そうに指でつつきながら「ふふっ」と小さく笑みを零す。
ニュートはあちこちに視線を彷徨わせてから、カタカタしたくるみ割り人形のようにぎこちなく「きみは、行かないの?」と尋ねる。
「デートがね、ふいになってしまったの。だからどうしよっかなあって」
「はあ……」
「ねえ、どっか遊びに行かない?」
前のめりになりながらリジーはちょこんと首を傾げる。
それはつまり、デートだ。男女が二人でお茶したり、食事したりする事。
彼女と二人なら、たまには雑踏の人ごみに交ざって歩いてみるのも悪くないだろう、とふと考えてみる。
ハニーデュークスでお菓子を買って食べ歩きながら、三本の箒でバタービールを飲んだり。
ひげがついてるよ、とお決まりのジョークで笑わせてあげる。
マダム・パディフットの喫茶店はいつもすごい人だけど、リジーはきっと好きだろうからちょっとぐらい並んでも構わない。
帰る頃には手を繋げるかもしれない。
もしかして、もしかすると、キスも許してくれたら。
きっと楽しい、絶対に。
けれどふと思い出す、もし今朝リジーに不運な予定外の事故が起こらなければ彼女の隣には別の誰かがいて、きっと僕には一生声を掛けることなんてなかっただろうということ。
分かってはいてもほろ苦い感情が胸に広がる。
「……本当は、誰と行く予定だったの?」
「どうしてそんなこと聞くの?」
思わず手を伸ばしたくなるような、薄く弧を描く淡い桜色のくちびる。
その微笑みに嫌味はなく、無邪気な幼い子どものように純粋に心臓を弄ぶ。
まるでひらひらと舞う蝶々のように、捉えどころなく揺らぐ水面のように。
その自由な瞳に、愚かにも心惹かれずにはいられなくなる。
「……明日は、誰と行くの」
「んー、約束はあるけど……ニュートさえよければ、明日もどう?」
リジーはきっと、恋人ごっこをしたいだけだ。
誰とでもデートに行くだろうし、誰とでもキスをする。
こんな約束、その場限りの戯れかもしれないし、明日には忘れてるかもしれない。
彼女の手を掴むのは簡単だけど、彼女から手を繋ぐことはない。
けれど、ほんの少しだけ試してみたくなった。
「……明日なら、いいよ」
僕のせいで、どこまでリジーは振り回されてくれるのか。
きっと考えることは同じ幼稚な男なんて他にも山ほどいるだろうけど、君はどこまでなら許してくれるのか。
▶あとがき
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