恋心
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――さあ始まりました!第306回、ハッフルパフ対レイブンクロー戦!いよいよ試合開幕です!!
音割れのひどいマイクで司会者が声高らかに宣言する。
観客は一気に高揚感を高められ、対戦相手の寮だけでなくグリフィンドールやスリザリンの客席までどっと沸き立つ。
耳元で響く割れんばかりの拍手と歓声にニュートは退屈そうに指で耳を塞いだ。
音楽隊のラッパとともに選手たちが競技場内に姿を現す。
雲ひとつない青空の下、目も覚めるような青い芝の上に意気揚々と箒に乗って飛び出す選手たち。
風を切ってはためくイエローのクィディッチローブ、緑の芝生とのコントラストはまるで春を告げるたんぽぽの花のよう。
その中で一際目立つ長い髪を高く結わえた背の高い少女。
リジー――ハッフルパフの紅一点、誉れ高きビーター、我らが幼馴染み。
観客席の頭上を凄まじい速度で箒が駆け抜ける、空中のリジーと一瞬目が合ったような気がして小さく手を上げると、ゴーグル越しに不敵な笑みを浮かべた。
……なんだあれ、なんのつもりなんだ。
同い年だけど僕の方が背も高くて男なのに、意味が分からない、つくづくかっこいいやつで腹が立つ。
ニュートはむすっと退屈そうに頬杖をつく。
選手たちが輪になって位置に着く、会場内が一瞬、静寂に満たされた。
選手宣誓の演説が響く中、不意にリジーが隣の選手に箒を寄せる。
耳元で何事かを囁き、クィディッチローブの襟元に手を伸ばして糸くずを取り、自分のローブのポケットにしまい込んだ。
客席から一部始終を目撃していたニュートは呆然と、ただ目を見開いていた。
今のなに?どういうこと?
一瞬、目の前で何が起こったのか情報処理が追いつかず、ニュートは目を白黒させる。
がたいのいい大柄の男子が照れくさそうにへらへら笑っている、何がそんなにおかしいのか、リジーに糸くずを取ってもらえたことがそんなに嬉しいかい?そりゃ嬉しいだろうね、羨ましい限りだよ。
彼女も彼女だ、一体どういうつもりなんだ。
普通、男の服についた糸くずなんて取るだろうか?
ニュートは脳裏にとりあえずテセウスを思い浮かべ、徐に手を伸ばして何もない空中を指でつまみ、顔を顰める。
……いや取らない、同性でも取らない、「テセウス、服にゴミ付いてるよ」とかせいぜいそのぐらいだ。
そしてふと思い出す、幼い頃一緒に遊んだ懐かしい思い出を。
森の中を散々走り回って、川に潜って遊んで、顔中泥だらけになって頭に草やら葉っぱやらをつけたひどい格好の僕を見て、彼女はこう言ったのだ。
「ニュート、頭に葉っぱ付いてるわよ」
……なんてひどい話だ、他人の糸くずは取るけど幼馴染みの葉っぱは取らないなんて。
試合開始のピストルが鳴る、ブラッチャーが放たれ、バットを手にしたリジーが真っ先に追いかけて行った。
苛立ちと今すぐ彼女のもとに走って行けないもどかしさにニュートは益々不機嫌さを露わにする。
胸に広がるもやもやとした感情が嫉妬だと気づくまでには時間が掛かった。
試合を終え、額に汗を浮かべたリジーがニュートの姿を見つけパッと笑顔になる。
勝利の興奮冷めやらぬまま、息を切らしながらハイタッチを求めて右手を掲げ走ってきた彼女に、ニュートはむすっと眉をひそめイエローのクィディッチローブをぐいっと掴んだ。
てっきり幼馴染みとして激励に来てくれたものと思っていたリジーは、勢い余ってそのままニュートの横を数歩通り過ぎる。
「……え?ちょっと、なに、ニュート、」
不意にリジーのローブのポケットの中に手を突っ込み、ごそごそと中を探って糸くずを見つけ出すと、競技場目がけて思いっ切り振りかぶって投げ捨てた。
「ちょっと!スタジアムにゴミ捨てないで!」
珍しくリジーが声を荒らげる。
優勝おめでとうの一言もなく、いきなり女子のローブを掴んで人のポケットをまさぐるなんて、幼馴染みの奇行に腹を立てるのも無理はない。
それを見てニュートも益々顔を顰める。
「糸くずを取り合うような関係ってどんな関係?」
「はあ?あなた何怒ってるの?彼は普通に友達よ、それにわたしに糸くずはついてなかった――」
「普通ってなんだい?僕の時は取ってくれなかったじゃないか、幼馴染みなのに」
「……ニュートってばいつの話してるの?」
「僕ならテセウスに糸くずがついててもたぶん取らない」
「そうでしょうね、でもきっとテセウスなら喜んで取ってくれるわよ、あなたと違って!」
リジーは怒ってグローブをニュートの顔面に投げつけた。
「もう最悪、ニュートがそんな心の狭い人間だなんて思わなかった!わたしすっごい頑張ったのに!なんで糸くずのことぐらいでぐちぐち言われなきゃいけないの?!おめでとうの一言ぐらいあってもいいでしょ?!」
べしっ!ともう片方のグローブも投げつけられる、確かにそうだったかもしれないと少し思い直して反省したニュートの頭にゴーグルがゴツン!と音を立てる。
「いてっ、リジー、悪かったよ、お願いだから落ち着いて、」
「十何年も前の話まで持ち出して、ばっかみたい!好きな男の頭撫でられるわけないじゃない!!告る勇気もないくせに嫉妬するな!ニュートのアホ!ガキンチョ!あんたの箒の穂先、全部引っこ抜いてやる!」
頬を林檎のように真っ赤にしたリジーがニュートの頭を乱雑にかきむしる。
扱いにくい巻き毛をぐしゃぐしゃにされたまま、ニュートは信じられないような気持ちでリジーの言葉を反芻する。
好きな男の、好き、リジーが僕のことを好き。
思わず自分の耳を疑った、ぷいっと背を向けて逃げ出したリジーが振り返って廊下の向こうから叫ぶ。
「追いかけて来なさいよー!もうーっ!」
「え、あ、ごめん!待ってリジー!」
「絶対いや!」
「じゃあ!これからデート、行く……?!」
ぎゅっと固く手のひらを握りしめたまま、勢いに任せてニュートは思い切って声に出す。
途端にぴくっとリジーの動きが止まる、耳まで真っ赤に染めて何かを言いかけ、やっぱり止めて、数秒考える。
「っ……今日はいや!」
「ど、どうして?!」
「自分で考えて!」
踵を返して去っていくリジーの後をニュートは慌てて追いかける。
――子供の頃から募りに募らせた初恋、誰よりも近しい相手なだけに一生伝えることはないだろうと無意識のうちに蓋をしてカビを生やしていた。
たった一言で埋まる距離なのに、それに気づかない振りをするのはもうやめた。
わたしは、欲しいものは自分の手で掴みに行く、そう決めたのだ。
▶あとがき
音割れのひどいマイクで司会者が声高らかに宣言する。
観客は一気に高揚感を高められ、対戦相手の寮だけでなくグリフィンドールやスリザリンの客席までどっと沸き立つ。
耳元で響く割れんばかりの拍手と歓声にニュートは退屈そうに指で耳を塞いだ。
音楽隊のラッパとともに選手たちが競技場内に姿を現す。
雲ひとつない青空の下、目も覚めるような青い芝の上に意気揚々と箒に乗って飛び出す選手たち。
風を切ってはためくイエローのクィディッチローブ、緑の芝生とのコントラストはまるで春を告げるたんぽぽの花のよう。
その中で一際目立つ長い髪を高く結わえた背の高い少女。
リジー――ハッフルパフの紅一点、誉れ高きビーター、我らが幼馴染み。
観客席の頭上を凄まじい速度で箒が駆け抜ける、空中のリジーと一瞬目が合ったような気がして小さく手を上げると、ゴーグル越しに不敵な笑みを浮かべた。
……なんだあれ、なんのつもりなんだ。
同い年だけど僕の方が背も高くて男なのに、意味が分からない、つくづくかっこいいやつで腹が立つ。
ニュートはむすっと退屈そうに頬杖をつく。
選手たちが輪になって位置に着く、会場内が一瞬、静寂に満たされた。
選手宣誓の演説が響く中、不意にリジーが隣の選手に箒を寄せる。
耳元で何事かを囁き、クィディッチローブの襟元に手を伸ばして糸くずを取り、自分のローブのポケットにしまい込んだ。
客席から一部始終を目撃していたニュートは呆然と、ただ目を見開いていた。
今のなに?どういうこと?
一瞬、目の前で何が起こったのか情報処理が追いつかず、ニュートは目を白黒させる。
がたいのいい大柄の男子が照れくさそうにへらへら笑っている、何がそんなにおかしいのか、リジーに糸くずを取ってもらえたことがそんなに嬉しいかい?そりゃ嬉しいだろうね、羨ましい限りだよ。
彼女も彼女だ、一体どういうつもりなんだ。
普通、男の服についた糸くずなんて取るだろうか?
ニュートは脳裏にとりあえずテセウスを思い浮かべ、徐に手を伸ばして何もない空中を指でつまみ、顔を顰める。
……いや取らない、同性でも取らない、「テセウス、服にゴミ付いてるよ」とかせいぜいそのぐらいだ。
そしてふと思い出す、幼い頃一緒に遊んだ懐かしい思い出を。
森の中を散々走り回って、川に潜って遊んで、顔中泥だらけになって頭に草やら葉っぱやらをつけたひどい格好の僕を見て、彼女はこう言ったのだ。
「ニュート、頭に葉っぱ付いてるわよ」
……なんてひどい話だ、他人の糸くずは取るけど幼馴染みの葉っぱは取らないなんて。
試合開始のピストルが鳴る、ブラッチャーが放たれ、バットを手にしたリジーが真っ先に追いかけて行った。
苛立ちと今すぐ彼女のもとに走って行けないもどかしさにニュートは益々不機嫌さを露わにする。
胸に広がるもやもやとした感情が嫉妬だと気づくまでには時間が掛かった。
試合を終え、額に汗を浮かべたリジーがニュートの姿を見つけパッと笑顔になる。
勝利の興奮冷めやらぬまま、息を切らしながらハイタッチを求めて右手を掲げ走ってきた彼女に、ニュートはむすっと眉をひそめイエローのクィディッチローブをぐいっと掴んだ。
てっきり幼馴染みとして激励に来てくれたものと思っていたリジーは、勢い余ってそのままニュートの横を数歩通り過ぎる。
「……え?ちょっと、なに、ニュート、」
不意にリジーのローブのポケットの中に手を突っ込み、ごそごそと中を探って糸くずを見つけ出すと、競技場目がけて思いっ切り振りかぶって投げ捨てた。
「ちょっと!スタジアムにゴミ捨てないで!」
珍しくリジーが声を荒らげる。
優勝おめでとうの一言もなく、いきなり女子のローブを掴んで人のポケットをまさぐるなんて、幼馴染みの奇行に腹を立てるのも無理はない。
それを見てニュートも益々顔を顰める。
「糸くずを取り合うような関係ってどんな関係?」
「はあ?あなた何怒ってるの?彼は普通に友達よ、それにわたしに糸くずはついてなかった――」
「普通ってなんだい?僕の時は取ってくれなかったじゃないか、幼馴染みなのに」
「……ニュートってばいつの話してるの?」
「僕ならテセウスに糸くずがついててもたぶん取らない」
「そうでしょうね、でもきっとテセウスなら喜んで取ってくれるわよ、あなたと違って!」
リジーは怒ってグローブをニュートの顔面に投げつけた。
「もう最悪、ニュートがそんな心の狭い人間だなんて思わなかった!わたしすっごい頑張ったのに!なんで糸くずのことぐらいでぐちぐち言われなきゃいけないの?!おめでとうの一言ぐらいあってもいいでしょ?!」
べしっ!ともう片方のグローブも投げつけられる、確かにそうだったかもしれないと少し思い直して反省したニュートの頭にゴーグルがゴツン!と音を立てる。
「いてっ、リジー、悪かったよ、お願いだから落ち着いて、」
「十何年も前の話まで持ち出して、ばっかみたい!好きな男の頭撫でられるわけないじゃない!!告る勇気もないくせに嫉妬するな!ニュートのアホ!ガキンチョ!あんたの箒の穂先、全部引っこ抜いてやる!」
頬を林檎のように真っ赤にしたリジーがニュートの頭を乱雑にかきむしる。
扱いにくい巻き毛をぐしゃぐしゃにされたまま、ニュートは信じられないような気持ちでリジーの言葉を反芻する。
好きな男の、好き、リジーが僕のことを好き。
思わず自分の耳を疑った、ぷいっと背を向けて逃げ出したリジーが振り返って廊下の向こうから叫ぶ。
「追いかけて来なさいよー!もうーっ!」
「え、あ、ごめん!待ってリジー!」
「絶対いや!」
「じゃあ!これからデート、行く……?!」
ぎゅっと固く手のひらを握りしめたまま、勢いに任せてニュートは思い切って声に出す。
途端にぴくっとリジーの動きが止まる、耳まで真っ赤に染めて何かを言いかけ、やっぱり止めて、数秒考える。
「っ……今日はいや!」
「ど、どうして?!」
「自分で考えて!」
踵を返して去っていくリジーの後をニュートは慌てて追いかける。
――子供の頃から募りに募らせた初恋、誰よりも近しい相手なだけに一生伝えることはないだろうと無意識のうちに蓋をしてカビを生やしていた。
たった一言で埋まる距離なのに、それに気づかない振りをするのはもうやめた。
わたしは、欲しいものは自分の手で掴みに行く、そう決めたのだ。
▶あとがき
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