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裸足

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幼い頃、人魚姫に憧れたことがあった。
真珠と貝殻で身を飾り、美しい尾鰭を揺蕩わせ、初めての愛を貫き最後は泡となって消え去る。
その姿さえも美しいと思えたのは彼女が清廉潔白で、一途で、自己犠牲的に描かれているからだ。
今となって考えてみれば、自分のまいた種を刈り取っただけのことなのに。
愛する家族や穏やかな海の世界を捨て、地上に焦がれるあまり言いつけを破って自ら破滅を身に招いただけのこと。
大切な命を天秤にかけてまで価値のあるものなんて、果たしてこの世に存在するのか。
一度や二度会ったばかりの人間に愛が芽生えるはずがない、ただ若さゆえに海の中の静けさや穏やかさに退屈していただけだろう。
けれどわたしは違う、わたしはそんなこと何ひとつ望んでいない。
平々凡々とした穏やかな未来と、慎ましい暮らしで十分満ち足りていた。
まだ見ぬ世界に没頭したことも、手に入らないものに恋焦がれたこともない。
大切な人たちと愛してくれる人だけで、他には何も望んでいなかった。
それなのに、どうしてこんな思いをしなくちゃならないのか。
そんなひねくれた事を思ってしまう自分に腹が立って嫌気が差す。

「しにたい」

お気に入りのハイヒールを胸に抱きながら、リジーはぽつりと零す。
初めてのパーティーの時に履いた大切な靴。
ついこの前まで普通に地についていた両脚は、もう歩くことも立つことすらままならない。
鱗に半身を喰い尽くされ、もうすでに人の形ではなくなっている。
未来に夢を見るどころか骨の軋む痛みで夜も眠れない。
いっそ霞となって消えてしまいたい、とリジーは静かに願う。
その頬を一筋の涙が乾いた涙の跡をたどり、ハイヒールを濡らした。

「リジー……」

ニュートは黙って彼女の肩を強く抱きしめた。
決して離すまいというようにその腕に力を込める。
彼は陳腐な慰めの言葉なんて軽々しく口にしなかった、ただ涙を堪えてその口元に穏やかな微笑みを浮かばせていた。
黙って優しく見つめる目のどこかが以前とは変わってしまったのをリジーは悟る。
ニュートはもう、わたしを自分と同じ人として見ていない。
彼はこんな風に微笑んだり見つめたりしない、たとえ恋人同士であっても。
こんな風に穏やかに彼が微笑みかけるのは唯一動物たちに対してだけだ。

「……わたしのこと、まだあいしてる？」

リジーは震える声で祈るように尋ねる。
ニュートは静かに彼女の頬を撫でて、その唇に触れるだけのキスをした。涙の味が舌にしみる。

「愛してるよリジー」

ニュートはわたしの恋人でありながら、"ママ"のように優しくわたしを抱きしめる。
その眼差しが、以前よりも柔らかく愛おしげに見つめるのを熱い涙が滲ませた。
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