CP無(総受/愛され系)
~♪~♪~♪~♪
「ん……」
いつもの目覚ましとは違う音が聞こえる。俺、マナーモードにしていなかったのか……?
油断すればもう一度眠りに落ちそうな身体をどうにか動かして、手探りでスマホを掴み通話ボタンを押した。
瞬間。
「み、水篠さーん!!大変なんです!!助けてください!!」
「えっ、諸菱君!?」
電話の向こうから聞こえてきたのは泣きそうな諸菱君の声。その声に驚いて飛び起きた。
「な、何事!?」
「とにかく急いで事務所に来て下さい!!」
「わ、わかった」
事務所、という事は諸菱君自身に何かが起きたという事では無さそうだ。だが、緊急事態なのは間違いないだろう。急いで服を着替え、影の交換で事務所に向かった。
***
「諸菱君どうし、……は?」
「ああ!水篠さん!やっと来てくれたんですね!助けてください!このままじゃウチの事務所の床が抜けます!」
事務所に辿り着いた俺が見たものは……俺の身長を優に越す段ボールの山と、むせかえるような香りを放つ花束の山。どういうことだ……?思わず近くにあった段ボールを指さす。
「え、あの……諸菱君、何これ」
「何って……水篠さんへの誕生日プレゼントですよ!明日は誕生日でしょう!?去年の一件で誕生日が知れ渡っちゃったからかアメリカ、DFN、中国と国内外問わずプレゼントが事務所に続々と送り付けられているんです!」
今日でこの量じゃ明日が恐ろしい、と嘆く諸菱君。
「……これ全部、俺に?なんで?」
「なんでって……そりゃあ架南島レイドの事もありますし、DFNでの一件も含めて水篠さんの人気は凄いので当然ですよ!ただ、ちょーっと量が多すぎて……いや、弟分としては誇らしい事なんですけど……」
困惑する俺に力説した後、困った顔で段ボールの山を眺める諸菱君。人気だとかはイマイチわからないけど、確かにこのままじゃ仕事もままならない。
「取り合えず収納していくよ」
「有難う御座います!でも中身の確認もしないと駄目ですよねえ……どうしましょう」
段ボールごと片っ端から亜空間に収納していくが、諸菱君の言う通り中身も判らないし、確認しなきゃいけないんだよな。
「うーん……あ、犬飼部長に相談してみよう」
「ああ!確かに協会に協力してもらえば人員も確保出来ますね!流石水篠さん!」
犬飼部長ならきっと何かしらの良いアイデアをくれるだろう。早速スマホを取りだして、見なれた連絡先をタップした。
『——はい、犬飼です』
「こんにちは、水篠です」
『こんにちは。どうされました?』
電話口からは穏やかな声が聞こえてくる。それなりの付き合いになってきただけあって、緊急では無いと理解されているらしい。
「えーっと、あの……」
『?はい』
話し出そうとして、少し迷う。そのまま言うしかないのはわかっていても「俺宛の誕生日プレゼントが山積みなので助けてください」なんて、言うのが気恥ずかしい。
『水篠ハンター?』
「あの、ですね……」
『何の用事かは判りかねますが、どんな小さい事でも遠慮なく仰ってください』
もごもごと言い淀む俺に穏やかな声で続きを促す。なんか、犬飼部長ってちょっと会長に似てきた気がするな。
「……俺宛の誕生日プレゼントが事務所の天井まで山積みで……」
『成程。去年の一件ですね。……情報の制御が間に合わず申し訳ございません。此方の不手際で水篠ハンターの情報が拡がってしまい』
「えっ、いや協会の責任とかは全くないです!そもそも隠すほどの事じゃないし!」
あっさり納得をして、謝罪に入ろうとする犬飼部長を慌てて止める。そもそもあれは俺が周囲に気を配っていなかったせいだし、見られてSNSに上げられたからと言って困る内容でもなかった。
「それに、俺宛にこんなプレゼントが来ると思っていなかったので」
『有難う御座います。ただ、プレゼントの量は水篠ハンターであれば当然かと。明日は更に届くのでしょうね』
まるでそれが当たり前かのように話すから、少し笑ってしまった。
「ふふ、犬飼部長まで諸菱君みたいなこと言いますね。それで、本題なんですけど。今あるプレゼントの山は俺の方で収納したんですが、中身を確認するには事務所だと狭すぎるのでプレゼントを開封する場所と人員を貸して欲しくて」
『それでしたら協会の訓練場をお使いください。人員は本日直ぐの用意が難しい為、明日からでも宜しいでしょうか?荷物に関しましては本日から置いて頂いて構いませんので』
「勿論です。届いた中には生花もあるので、今日の分は亜空間に入れておいて、明日纏めて出させてもらいますね。有難う御座います」
『承知致しました。生花や食品、手元に置けない品物については寄付先なども此方で確認しますので水篠ハンターはそのままお越しください。それでは明日、協会でお待ちしております』
「助かります。よろしくお願いします」
流石犬飼部長。開封した品物の行き先なんて全く考えていなかったから助かった。お礼を言って通話を切り、諸菱君の方へ向き直る。
「犬飼部長が何とかしてくれるって」
「良かったですね!」
「ああ。取り合えず今届いた分は収納したけど、まだ来るかな……?」
「当然来ると思いますよ!水篠さん今日はレイド3件入れてますよね?終わったら迎えに行くので、その都度届いた分を収納してもらっても良いですか?」
「ええ……わかった」
俺の問いかけに当たり前だろうという顔をして頷く。レイドが終わるたびに戻ってくるのか……面倒だけどしょうがない。了承を返して、その日は往復を繰り返すことになったのだった。
***
——ピピピピピピ
「ん……」
枕元で鳴るアラームの音。ゆっくり身体を起こしながら、昨日の事を思い返す。
「(昨日は往復で疲れて、帰ってきて直ぐに寝たんだったな)」
肉体的疲労は日付を跨げば回復されるが、精神的疲労は中々回復しない。まだダラダラと寝ていたい気持ちを抑え、顔を洗ってリビングへ。ドアを開けると……。
パン!パーン!
「「旬(お兄ちゃん)!お誕生日おめでとう!!」」
「わっ!」
大きなクラッカーの音と俺に向かって降り注ぐ紙吹雪。目の前にはニコニコしている母さんと葵がいた。
「あ、ありがとう」
「さ、朝ごはん一緒に食べよー!今日は早く帰ってきてよ?」
「わかってるよ」
俺の腕をとってリビングへ引っ張る葵。子供っぽい仕草に苦笑しながら頭を撫でて席に着く。
「ふふ、相変わらず仲がいいわね。旬、プレゼントは夜に渡すからね」
「別にいいのに」
「駄目よ。ちゃんと祝わせてちょうだい」
そんな会話をしていると、小さな頃プレゼントを朝一で強請る俺に「旬はまだこの時間生まれていないから、夜にね」と笑っていた母さんの姿を思い出す。あの頃は父さんも居たんだよな……。
「そうそう!今年のプレゼントはすっごいんだから!お兄ちゃん楽しみにしててよね!」
「そうか、それは楽しみだな」
しんみりしているとその空気を払拭するように葵が笑顔で話し出す。自分が前々から準備して頑張ったのだとアピールする葵の話を聞きながら3人で朝食を食べていると、スマホの着信音が鳴り始めた。
「あ。電話だ。ちょっとごめん」
着信相手を見れば諸菱君で。……嫌な予感がしたが、出ないわけにもいかない。
「……はい」
『水篠さーん!!助けてください!!あ、お誕生日おめでとうございます!!』
デジャヴ。昨日も同じセリフを聞いた気がするな。
「ありがとう。それで、やっぱり大量に届いたのか?」
『大量にはそうなんですけど……届きすぎて今事務所の前が大渋滞です』
「……どのくらい届いたんだ?」
「……今の時点で事務所が満杯。歩く隙間も殆どないです」
「……事務所前は?」
「……4トントラックが5台並んでます」
諸菱君の言葉にげんなりする。行かなきゃダメか?
「聞かなかったことにして良いか?」
『駄目に決まってます!早く来てください!待ってますからね!』
力強く言い切ってブツッと通話を終わらせた諸菱君に、逞しくなったなと場違いな感想が浮かぶ。
仕方ない、行くか。
「はぁ……ご馳走様でした。ちょっと出掛けてくる。早めには帰るから」
「有難いけれど大変ね。気を付けて行ってらっしゃい」
「ええー?お兄ちゃんそんな人気なの……?」
電話の話が聞こえていたのだろう。困った顔をする母と疑惑の表情を浮かべている葵。
「何だよその顔は。……まあ俺だって信じられないけどな。行ってきます」
生意気な葵の額を軽く叩いてから玄関へと向かい、事務所へと急いだ。
***
「うっわぁ……」
事務所前の道路を見て踵を返したくなった。
諸菱君の言ったようにトラックが並んでいるのはまだ良い。けれどそのトラックが原因で渋滞を引き起こしているようだ。これは早く片付けないと迷惑がかかる。
「あ!水篠さん!」
「諸菱君。先にこのトラックの中身を収納するから、事務所は後で良いか?」
「勿論です!僕もそれを先に頼もうと思っていました!お願いします!」
「いや、頼むも何も俺宛だからな。ちょっと待ってて」
バッと頭を下げる諸菱君の肩を軽く叩き、トラックの運転手の元へ。荷台を開けてもらい、中身確認は後でするから、と告げて片っ端から放り込む。1台目、2台目、とその動作を何回か行えば、あっという間にトラック5台分の荷物は無くなった。
「はぁ。これで全部だな。よし、次は事務所か」
ぐるりと肩をまわす。別に疲れている訳じゃないが、気分的な問題だ。
「お疲れ様です!水篠さんが収納している間に協会にお願いして、次に来るトラックは協会に直送するように変更してもらいました!なのであともう少しだけお願いします!」
「ありがとう」
いつの間にか気を利かせてくれたようだ。今日も往復するのかと思っていたのでかなり有難い。話しながら事務所に入り、同じように荷物を収納していく。
「——よし、終わった」
「お疲れ様でした!お茶淹れてますから休憩にしましょう!」
元気よくソファを指し示し、お茶を用意してくれる諸菱君。本当は早く協会に向かった方が良いんだろうけど……少し休憩させて貰おうかな、とソファに腰掛けた。
「あら、片付いたのね」
丁度俺たちが腰掛けた瞬間、事務所のドアが開いて明菜さんが顔を出す。
俺が挨拶をする前に諸菱君が立ち上がった。
「あー!明菜姉ちゃん!遅いよ!」
「あら、賢太の癖に生意気言うじゃない。仕方ないでしょ?どの道あの状態じゃ入れやしないわよ」
「それはそうだけど~……」
「そんな事より。水篠さん、誕生日おめでとう。今年も私からのプレゼントはコーディネート一式よ。今日はこんな調子だから、また後日事務所に届けさせるわね」
「有難う御座います」
従弟同士のやり取りを微笑ましく見守っていれば、俺の方を向き直った明菜さんからお祝いの言葉を貰った。……また洋服か。いや、確かにここ一年いざという時に凄く助かってはいたし、気持ちはとても嬉しいのだけど。
「あー!そうだ!水篠さん!僕からもプレゼントあります!ちょ、ちょっと待っていてくださいね!」
明菜さんに礼を言えば、思い出したように諸菱君が立ち上がって自身のデスクへと向かう。目で追っていると、代わりに明菜さんが俺の隣に腰かけた。
「今年は想定以上の事が起きて賢太もバタバタしているけれど、水篠さんの誕生日をとても楽しみにしていたのよ。水篠さんってば普段は素直にプレゼントも感謝も受け入れてくれないから、って」
「感謝されることは何も……」
「まあ。謙遜も行き過ぎれば嫌味よ?……そうね、水篠さんは人の気持ちをもっと知る事からかしら。あの大量のプレゼントの送り主も、賢太も皆貴方に感謝の気持ちを示すのと同時に喜んで欲しくてやっているんだから、せめて今日ぐらいは素直に受け取ってあげなさいな」
ね、と微笑む明菜さんは仕方のない弟を見る目で俺を見つめていた。……感謝、か。
俺は大した事していないと本気で思っている。でも、今日ぐらいは自分が感謝される対象なんだと自惚れてもいいのかもしれない。
「そう、してみます」
「水篠さんお待たせしました!……って明菜姉ちゃん!席取らないでよ!」
「全く騒がしい弟ね。まあいいわ、私の用事は終わったもの。じゃあ水篠さん、素敵な誕生日を過ごしてね」
「あ、はい。明菜さん、有難う御座います」
騒ぐ諸菱君を軽くいなした明菜さんは、俺にウインクを残すと颯爽と去っていった。……格好良いな。
「全くもう、明菜姉ちゃんはいっつも急に来て急にいなくなるんだから。……さ、水篠さん!これが今年の僕からのプレゼントです!開けてみてください!」
溜息を吐いた諸菱君だったが、気を取り直すかのようにドン!と机にA3位の長方形の箱とそれよりも二回りほど小さな箱を置いた。まずは想像がついた大きな箱からラッピングを外し、開けてみる。
「あ、アルバムだ。ありがとう」
「はい!去年から今日まで、記事と写真を更に沢山載せました!えっと、こっちがスクラップした記事で、こっちがその日付周辺の写真です」
元気よく説明してくれる諸菱君に自然と口角が上がる。これ、去年は母さんにも葵にも好評だったんだよな。俺があんまりハンターでの活動を報告しないからって。
「そっちの箱も似た様な物なんですけど、開けてみてください」
説明に頷いていると、もう一つの箱を指し示したので手を伸ばして開封する。
「これは……フォトフレーム?」
見た目はフォトフレームだが、ボタンが多いし随分と重たい。
「デジタルフォトフレームです。SDカードには今までの写真全部入っていますし、設定もこのフォトフレーム内で完結するのでパソコンに繋げる必要も無いんですよ」
成程。だからこんなに重たいのか。
「ありがとう」
「いえいえ!今年も写真や記事を増やしていきましょうね!」
「ああ、そうだな」
記事はわからないけど、こうして纏めてくれるのなら写真も悪くない。ニコニコしている諸菱君の頭を葵にするように撫でた。
「わっ!……へへ、ありがとうございます!」
嬉しそうに笑っているけど、お礼を言うのは此方なんだけどな。
「……よし!やる気も出ました!本来なら派手にパーティでもしたい所ですが、僕はまだ配送の手続きをしなければいけないので、ここで頑張ります!水篠さんは協会へお願いしますね!」
ぐっと拳を握ってやる気を出す諸菱君。
一気に気が重くなったが……仕方ない。犬飼部長を始め、協会側で人員を用意してくれているのだから何時までも待たせるわけにはいかない。
「そうだな、行くか」
***
「お待ちしておりました。水篠ハンター、誕生日おめでとうございます」
「ありがとうございます」
協会に着くと直ぐに犬飼部長が迎えてくれた。祝いの言葉に少し頬が緩む。
「早速ですが荷物を出しても良いですか?」
「ええ。人員もある程度は確保出来ております。こちらへ」
案内され、訓練場へと向かう。道中、職員と擦れ違うたびにお祝いの言葉を投げかけられ、なんだか照れてしまう。
「本来S級ハンターの方々に職務以外で話しかけるのは禁止なんですが……今日は仕方がありませんね」
俺の反応を見て苦笑する犬飼部長。そうして何人かと擦れ違いながら訓練場へとたどり着いた。
中には整理の為かブルーシートが全面に敷かれており、既に手間をかけさせているみたいだ。
「えっと、じゃあ……出しますね」
「はい。…………え?」
取り合えず花よりも先に荷物の方が良いよな、と隅を埋めるように5箱ずつくらい重ねながら段ボールを影たちに運ばせる。黙って作業していると、やがて視界いっぱいが段ボールの山で埋まった。でも一旦このくらいで止めておいた方が良いだろうか、と犬飼部長の方を振り向く。
「犬飼部長」
「これで、全部ですか?」
「え?いや、まだあります。花も出してませんし」
「……水篠ハンターが規格外という事を改めて実感しますね。このままではいつ終わるのか皆目見当もつきません。まずは開封していきましょう。——全員、きちんと目録に記載するのを忘れないように」
「「「「はい!」」」」
頭痛を感じているかのようにこめかみに手を当てる犬飼部長。だが、あっという間に気を取り直し、てきぱきと人員を集め指示を出す。……いつも苦労かけて申し訳ない。
「……あれ?」
「どうかされましたか?」
開封作業の為、散らばっている人たちの中に見知った顔を見つけた。俺の視線を追って犬飼部長も気が付いたのか、少し表情を緩める。
「ああ、馬渕ハンターと観月ハンターですね」
「どうしてあの2人が?」
「流石に職員だけでは人手が足りませんから、協会所属のハンターにもボランティアとして依頼を出したんです。あのお二人は真っ先に志願してくださいましたよ」
その言葉を聞いて、一目散に駆け出した。
「馬渕さん!観月さん!」
「おや、水篠君!誕生日おめでとう」
「おめでとうございます!」
話しかけるとにこやかな笑顔で返してくれる。
「ありがとうございます。あの、今犬飼部長からおふたりがボランティアで来てくれたって聞いて……」
「片腕じゃああまり役には立たないかもしれないがね。目録を作る事くらいは出来るだろうと」
「私も、こういう細かい作業は得意なので。……それに、これなら水篠さんのお手伝いが間接的に出来るでしょう?いつも水篠さんには感謝しているので、少しでもお役に立つならって」
「ああ、私も含めてね」
「そんな、俺は別に……」
告げられた言葉に少し戸惑って、明菜さんの言葉を思い出す。……この二人なら、きっと大丈夫だろう。
「……いえ、手伝って貰えて凄く助かります。ありがとうございます」
「「!」」
素直に礼を伝えれば、二人が驚いた顔をしてから顔を見合わせて笑い出す。
「……ふふっ!ね?馬渕さん、水篠さん逞しくなったでしょう?」
「ははっ、そうだな。私が心配することはもう無さそうだ」
「?」
「E級時代は自分に自信を持てずにいただろう?それに色々と事件に巻き込まれて……だからこそS級になってからも心配していたんだ。去年はあまり言葉も交わせずにいたから尚更様子がわからなくてね。先ほど観月君にそれを話したら、逞しくなっていたから大丈夫だと堂々と言われてな。余計なおせっかいで済まない」
首を傾げた俺の肩にポン、と馬渕さんの温かい手が乗せられた。……俺、心配されていたんだな。静かに首を振った。
「いえ、ありがとうございます」
「さ、水篠さんはまだやることがあるでしょう?ここは馬渕さんと私に任せてください!」
「そうだな、今日の主役なんだ。きっと水篠君と話したい人間も沢山いるだろう」
行ってこい、と背中を押し出す二人に頭を下げて、犬飼部長のいる入口へと戻る。
すると、こちらも見覚えのある姿が見えた。
「おや、主役のお戻りですね」
「ここまでの量は流石の僕でもありませんよ」
「はー、こりゃまたすっげえな」
「これでも全てじゃないのだろう?」
「み、水篠ハンター!お誕生日おめでとうございます!」
「「「「おめでとう(ございます)」」」」
入り口には会長をはじめ、最上ハンター、向坂ハンター、黒須ハンター、白川ハンターが俺を待っていた。
「ありがとうございます」
「あ、あの、これを!」
一歩前に進み出た向坂ハンターが俺に小さな透明なケースに入った花を差し出す。これは……。
「ダリア、ですね。去年もらったやつ」
「!はい。今年は大量の贈り物が届いていると聞いたので、邪魔にならないよう小さいものにしました。ブリザーブドフラワーなので枯れません」
「ありがとうございます。家に飾りますね」
向坂ハンターが差し出してきたのはダリアの花。
「僕からは去年受け取って頂けなかったマンションを……って冗談ですよ。そんなに嫌そうな顔をするんじゃありません」
感謝を嚙みしめていると、最上ハンターが一歩進み出てくる。……マンションなら絶対に要らない。
「最上の冗談はさておき、実際今年はプレゼントしてもインパクトが薄れちまうからな。実用性のあるものにしたぜ」
「実用性?」
黒須ハンターの言葉に首を傾げると、白川ハンターが荷物の山を指さした。
「我々のギルドからも人員を貸し出します。まだまだ荷物があるでしょう?」
それぞれの倉庫に置いて頂ければギルド員が仕分けをします、と続ける言葉に俺だけじゃなく会長も犬飼部長も驚いていた。それはそうだろう。緊急時でもないのに人員を貸し出すなんて。ポカン、としている俺の顔が面白かったのか、3人が吹き出した。
「俺たちは困ってる後輩の面倒も見れねえような狭量な男じゃねえぜ?」
「とはいえ来年からは贈り物の送付は禁止にした方が良いだろうな」
「そこら辺の手続きは協会に任せれば大丈夫でしょう」
最上ハンターが確認するかのように会長を見れば穏やかな顔で頷いていた。
「独断で行う訳にはまいりませんので我進からも発表をしていただく形にはなりますが、こちらで対応いたします」
「と、言う訳で後日でも良いからそれぞれのギルド倉庫に置いてくれよ」
取りまとめる黒須ハンターの言葉に頷いて、頭を下げる。
「ありがとうございます」
頭を上げると、最上ハンターに頭を撫でられた。
「マンションはまた来年ですね」
「要らない」
「じゃあやっぱり車か?」
「それも要らない」
「家だろう」
「要らないって言ってんだろ」
順番に頭を撫でてくる手を雑に振り払う。全く、相変わらず金銭感覚バグってるなこの人たちは。
「じゃあ後はまた片付けが落ち着いた頃に飯でも行くって事で」
「そうだな」
「そうしましょう」
「わ、私も行きます!」
「勝手に決めるなって……」
またしても勝手な約束を取り付けられる。嫌と言う訳では無いからいいんだけど。
話しも落ち着いたからと4人が帰ろうとすると、ひとりの職員が真っ青な顔で駆けこんできた。
「か、会長!スカベンジャーギルドのトーマス・アンドレハンターが協会にお越しです!!」
「「「「「「「!?」」」」」」」
その言葉に全員が警戒態勢を取る。
「……職員、ボランティアの方々は引き続き作業を続けてください」
「皆さんは一度協会内へお願いします」
戸惑いながらも犬飼部長が指示を出し、会長が俺たちに向き直る。……でも、この魔力って。
「あの」
「?はい」
「トーマス、こっちに来てますけど」
「「「「「「!」」」」」」
俺がそう言った瞬間、目の前に巨大な影が差す。
「——Best wishes on your birthday! ミズシノ!」
言葉と同時に逞しい腕に抱き締められた。
「ああ、ありがとな。で、降ろしてくれ」
「ハハハ!なんだ、冷たいな!プレゼントもあるぞ!」
口ではそう言いながらもあっさりと俺の事を開放したトーマス。
プレゼントってなんだ?
「プレゼント?」
「ああ!これだ!」
ローラさんから何かを受け取り、自信満々に俺に突き出す。それは普通の封筒のように見える。ただ一つ違うのはアメリカのハンター管理局のマークが入っている事だろうか。
俺はピンとこなかったものの、全員が警戒した気配を感じた。
「!……トーマスハンター。いくら貴方といえど協会内での勧誘は」
会長が静かな声で俺の前に割って入ろうとするが、トーマスは笑って首を振る。
「ミスターゴトウ。全くの誤解だ。ミズシノ、封筒を開けてみろ」
「え?わかった」
さらりと会長の苦言を流すトーマスに促され、封筒を開く。中にはなにやらサインされた紙一枚。
ひとまず内容を読み進める。
「!これって……!」
「何と書かれていましたか?」
犬飼部長の心配そうな声に応えるよりも先に弾んだ声が出てしまった。
「——アメリカのゲート攻略許可証!」
「「「「「はぁ?」」」」」
「……成程」
怪訝そうな顔をする人たちと理解したように頷く会長。次いで犬飼部長もわかったのか、またしても頭痛を耐えるようなポーズをとっていた。
「待っていたのにお前ときたら一向にアメリカに来ないから、先に許可を取っておいた。まあお前ならば何をしても文句をつけるやつはいないだろうが、これは正式な書類だからな。これでアメリカのゲートを好きに攻略出来るぞ!」
どうだ、と言わんばかりに自信満々のトーマス。本当ならば何をしてるんだ、と言うべきなんだろうが……。
「ありがとう!」
「「「「「!!」」」」」
──海外のゲート攻略を出来るという喜びに我慢出来ず笑顔になってしまった。これでまたレベルアップが期待出来るし、向こう特有のモンスターがいれば影に出来るかもしれない!
「ハハハ!やっぱりミズシノの事をいちばん理解しているのはこの俺だな!」
「……ほぉ」
「へーぇ」
「随分と嬉しそうだな」
「……むー」
「……犬飼、我々もゲートを」
「……去年も申し上げましたが、ダメです」
「あ」
やばい。うっかり喜んでしまった。
向けられる視線が痛い。向坂ハンターは拗ねましたとはっきり顔に書いてあって、尚更罪悪感が……!
「やはりマンションでは足りませんでしたか」
「金に換算出来ない価値があるからな」
「随分とまあ贅沢さんだなあ?水篠ハンター?」
「(むすっ)」
煽るように告げられる最上ハンターと白川ハンター。揶揄うような口調の黒須ハンターとむっすり頬を膨らませて不服を訴える向坂ハンター。トーマスは渡せて満足したのか、会長と何やら話しているし……この場からどうやって逃げようかと迷っていると犬飼部長と目が合った。
「(犬飼部長!助けてください!)」
「……はぁ。……会長。本日はこれ以上荷物を拡げることが出来ませんし、後日各ギルドの皆様方の協力も得られますので本日は解散で宜しいでしょうか?水篠ハンターは僕がお送り致しますので」
「ああ、そうだな。犬飼、頼んだ」
ため息をついた犬飼部長の助け舟に乗って、その場を解散とし、帰路に着くことになった。
***
「……犬飼部長。ありがとうございました」
「いえ、お疲れ様でした。……ゲートを差し上げられず申し訳ございません」
「要りませんけど!?」
「ふふっ、冗談です」
くすくすと運転席で笑う犬飼部長に恨めがましい目を向ける。そういえば去年も揶揄われたな。
「…………」
「…………」
「……去年は戸惑いの方が大きかったように見受けられましたが、今年は随分と楽しそうでしたね。……良い誕生日になりましたか?」
「!」
犬飼部長から穏やかな声で問いかけられた内容に驚く。
……気付かれてたんだ。
「……なりました。少しは俺も受け取って良いのかなって。……そう、思った」
「ええ、沢山受け取って下さい。貴方の努力は評価されるべきですから」
その言葉で犬飼部長は去年の【俺の理解者である】という約束を守っててくれているんだ、と嬉しくなった。
「犬飼部長も、約束守ってくれてありがとうございます。……またご飯行ってくれますか?」
「!……勿論です」
ルームミラー越しに目が合って、俺たちは静かに笑いあった。
***
「ただいまー」
「あ、おかえり〜!よしよし、ちゃんと早めに帰ってきたね!」
「偉そうだな」
犬飼部長と別れ、玄関を開ければ余韻も何も無く腰に手を当てて頷く葵の姿。思わず軽くデコピンをする。
「いったーい!!折角可愛い妹が出迎えてあげたのに!お母さん!お兄ちゃんがデコピンしたー!!」
「大袈裟なんだよ」
バタバタと母さんに言いつけに行く葵の背中を見て少し笑い、洗面所へ。手洗いを済ませリビングに入ると、そこにはハンバーグ、オムライス、ビーフシチュー、サラダ、etc.
テーブルいっぱいに所狭しと色んな料理が並んでいた。
「……凄い」
「旬。お帰りなさい。凄いでしょう?折角の誕生日だもの、お母さん張り切って沢山作っちゃった」
「私も手伝ったんだからね!」
「そうね、味見係を沢山頑張ったわね」
「あ!お母さん酷い!なんで言っちゃうの!?」
「ふふ」
文句を言う葵に笑う母さん。そうだ、母さんが倒れる前はこんな光景が当たり前だった。
「…………」
「お兄ちゃん!今の嘘だからね!お母さんが、って……え」
「あらあら」
「……あ、れ」
気が付けば、視界が滲んで……涙がこぼれ落ちた。
ごしごしと、袖で目を擦るが、涙は次から次へと溢れ出てきてしまう。
「っ、……ぅ、ちょ、っと、まって……っ」
「……我慢しなくていいのよ。旬、いつもありがとう。旬が生まれてきてくれて嬉しいわ」
ふわり、と優しく母さんに抱き締められる。
「……う゛、ん……っ」
「……っ、お、おにいちゃんなかないでよぉ……っ!」
「あらあら、葵もいらっしゃい。……そういえば、小さい頃から旬が泣くと葵も必ず泣いていたわね」
「っ、ぐすっ、ないてないもん……!」
「……ふっ、泣いてるだろ」
「おにいちゃんだってないてるじゃんばかぁ!」
「はいはい、そうだな」
俺と母さんにしがみ付き、泣きながら怒るという器用な事をする葵に思わず笑ってしまった。
昔も葵の泣く勢いの方が凄くて、気が付けば俺が慰める側になっていたんだよな。母さんも同じことを思い出したのか、泣いている葵を見て笑っていた。
俺と葵を撫で続ける母さんの腕の中からそっと離れ、代わりにと葵の頭を撫でてやる。
「うう~……おにいちゃんのばか。これで拭いてあげようとしたのになんで泣き止むのよぉ……」
「っ、あはは!泣き止んで怒るのは理不尽だろ!って、これは?」
ぐずる葵から差し出されたハンカチ。折られているから少ししかわからないが、見覚えのある図が刺繍されている気がする。
「……プレゼント」
「見ていいか?」
「うん」
許可をもらったので受け取ったハンカチを広げる。
「……凄いな。我進ギルドのマークだ」
広げたハンカチには隅に刺繍で我進ギルドのマークと俺の名前が刺繍されていた。マークが少しいびつな円になっていることから手作りだろうと想像がつく。……葵は不器用なはずなのに。良く出来たなと感心してしまう。
「お母さんに手伝ってもらって一生懸命作ったんだよ」
「そうね。葵、凄く頑張っていたのよ」
「……そっか、ありがとう。大事にする」
「えへへ、うん」
ハンカチを握りしめてお礼を言えば、泣いていた葵がにっこりと笑う。表情がころころ変わるのは本当に小さいころから変わらないな。
「旬、お母さんからのプレゼントも受け取ってくれるかしら?」
「え?料理がそうじゃないの?」
「やあね、頑張っている息子の誕生日にそれだけじゃ足りないわよ」
……俺からすれば、母さんが家で料理を作ってくれるだけで充分すぎるんだけどな。
「はい、これ」
「これって……ネクタイ?」
「ええ。今の旬はきちんとした場に出ることが多いでしょう?予備はいくつあってもいいかと思って」
渡された箱を開けてみれば中にはシンプルなネクタイ。だが、よく見ると小さく影たちのイラストが刺繍されていた。
「お母さんこんな小さい刺繍出来るんだから凄いよね」
「ああ、凄いな。小さくてもどれがどれだか直ぐにわかる」
「ふふ、よくお父さんのハンカチにも目印として刺繍を入れてあげてたのよ。あの人直ぐに失くしてくるんだもの」
「そうだったんだ」
「ええ。でも旬はしっかりしているから大丈夫だと思うけど」
父さんのことを懐かしむように少し遠くを見てから、俺の髪を優しく撫でる母さんの手。
「……ありがとう。凄く、嬉しい」
手の中のハンカチとネクタイの刺繡をそっとなぞり、母さんと葵を見て笑えばよく似た笑顔が返ってくる。
……また来年も、こうして過ごしたいな。
8/8ページ