CP無(総受/愛され系)
協会に提出をしなければならない書類があった為、暇つぶしがてらやってきた水篠は正面からやってくる二人に目を瞬かせる。
「あれ、会長と犬飼課長」
「おや、水篠ハンター、ロビーでお会いするとは。協会に用事でしたか?」
「はい、提出書類があったので」
「そうでしたか。…所で水篠ハンター、お時間がまだあるようでしたらお茶でも如何でしょうか?最近のゲート内部の様子などお聞かせ願えればと思うのですが」
如何でしょうか?と朗らかに尋ねてくる会長に一瞬考えたもののどうせ時間があるしな。と思い頷いて了承を返す。
「はい、今日は時間があるので大丈夫です」
「それは良かった。それでは参りましょう」
会長と犬飼課長に先導されながら会長室へと向かう。
***
「…成程。やはり昔よりもモンスターが活性化しているような気がしますね」
会長室のソファに座って対面でゲート内の様子を話す。やはり内部事情は色々と気になるのか、会長からも様々な質問が飛び、それに返しては昔との違いなどを教えてもらって中々に此方も楽しい。
「…ああ、失礼。興味深くて色々と話過ぎてしまいましたな。休憩がてらお菓子は如何ですか?」
手を付けていなかったお菓子を勧められ、話続けていて少々小腹も空いていたので遠慮なく頂く事にして、手を伸ばす。
「頂きます。……!!おいしい…」
普段お菓子はあまり食べないのだが、余りの美味しさについ声に出してしまった。
「それは良かった。妻も昔からここの菓子が好きでしてね。水篠ハンターの口にも合ったようで何よりです」
「本当に美味しいです。…あ、犬飼課長」
美味しさに驚きつつ食べていると、ちょっとした悪戯を思いついたので犬飼課長に向かって手招きをする。
「はい。…どうかされ、っむぐ」
「おや」
「ね?美味しいですよね」
スッと近づいてきた犬飼課長の口の中にお菓子を放り込んだ。目を丸くしながらもぐもぐと食べている姿が可愛く見えてくすりと笑ってしまう。
「ん……水篠ハンター、急にこのような行動をするのはお控え下さい」
食べ終わった犬飼課長は少し顔を赤くして眉間に皺を寄せたまま俺に注意をするのだが、今更それぐらいで怯む事は無い。
「美味しくなかったですか?」
「いえ、あの、美味しいとは思いましたが」
「もう一つ食べますか?」
「いえ、水篠ハンターそうではなく…」
「はっはっは!犬飼も水篠ハンターの前では形無しだな。犬飼も座りなさい、共に食べればいいだろう」
「いえ、僕は…」
畳み掛ける様に菓子を勧める俺に会長が笑って犬飼課長を誘う。それに続けるように自分の隣を軽く叩いて犬飼課長に座るよう促した。
「じゃあ犬飼課長、ここ座って」
「あの、水篠ハンター…」
「一緒に食べましょう。美味しいものは分けるべき、ですよ」
「くくっ、犬飼、諦めた方が良さそうだぞ」
「そうですよ。今日の俺はしつこいので」
「……はぁ。承知致しました。ご相伴にあずかります」
笑って言う会長と早く座れと言わんばかりに腕を引く俺に諦めた様にため息をついて隣に座る犬飼課長に満足げに頷いて、もう一口食べさせようと差し出した瞬間手を取られ、お菓子をこちらへ向けられる。
「僕は今頂きましたので…どうぞ」
「えっ」
「…食べては頂けないのでしょうか?」
これ自分がやられると恥ずかしいな…くそ、会長もにこにこしながら見守ってるし…。
「…あ」
「はい、どうぞ。……ふふ、水篠ハンターが先ほど楽し気に笑った理由がわかる気がしますね」
恥ずかしいけど口をぱかっと開けて犬飼課長に食べさせて貰うと、そんな事を言うので先ほどの行動をちょっと後悔したりして。
「ふむ、水篠ハンター。こちらも如何ですか?」
「え、あの、会長…!?」
「犬飼だけ、というのも狡いではないですか。さ、どうぞ」
会長まで悪ノリをし出し俺の口元にお菓子を運んできた。
流石に恥ずかしくなってきたのだが始めたのは俺なのでこんなことをするなとも言えないし、大人しく口を開けて会長にも食べさせてもらう。
「んむ…………美味しい、です」
「成程、これは確かに。…犬飼、もう一つ差し上げてはどうだ?」
「そうですね。…水篠ハンター、口を開けてください」
「~~~っ、もう!二人とも!始めたのは俺ですけどやりすぎです!」
「はははっ!申し訳ない、つい犬飼が羨ましくなってしまいまして」
「ふ、ふふっ、申し訳ございません。」
羞恥で赤くなった俺が怒ると二人とも吹き出す様に笑って。
怒りながらも残りのお菓子を頂いてその日は解散になったのだが、余程楽しかったのかそれ以来会長室でお茶をすると最低一回ずつは会長と犬飼課長から俺に手ずから食べさせるのが恒例になって。
俺もすっかり手ずから与えられることに慣れ切ってギルドマスターが集まる会議でも無意識にやってしまって大騒ぎになったのだった。
***
協会にてギルドマスター達が集まり定期会議が行われていた。
「…おや、こんな時間になってしまいましたな。少し休憩にしましょうか」
先日レッドゲートが出没したことにより通常よりも長引いてしまっていた為一度後藤が休憩の提案をする。全員異論は無いのか各々姿勢を崩し、自由に話始めた。
「はぁーあ、ずっと座りっぱなしじゃ肩凝るよな」
「まあ確かに同じ姿勢は良くありませんね」
「目も疲れますからね」
「最上ハンター、老眼ですか?」
「貴方僕とひとつしか変わらないくせによく言えますね。白虎ギルドにまたマスコミ放ちましょうか?」
「やっぱりあのレッドゲートの件はお前の仕業か!マスコミに追いかけ回されてどれだけ大変だったと思っている!」
「嫌ですねえ、やましいことがあるからそうなるんでしょう」
最上と白川のいつものやり取りが始まって。呆れたようにそれを眺めていた黒須が何かを思い出したように顔を水篠の方へ向けた。
「その例のレッドゲートの時、確か水篠ハンターが居たんだったか?」
「ん、む?」
折角当事者がいるのだから話を聞いてみようと顔を向けた先には何故か犬飼課長から直接お菓子を食べさせられている水篠が頬をお菓子で膨らませていた。
「え、なんだそれいいな。俺もやりたい」
うっかり心の声が漏れるとその声が聞こえたのか最上と白川も同様に水篠に目を向け、少々驚いた顔をしながらも追随する。
「僕もやります。ちょっと水篠ハンターこっちにも来てください」
「その、自分も…」
「…ん、むぐ、ん。…犬飼さんに食べさせて貰うからいいです」
「っ!…水篠ハンター、申し訳ございません!いつもの癖で…!」
もぐもぐとリスの様に頬を膨らませて咀嚼し終わった水篠がにべもなく断ると顔を真っ赤にした課長が一歩後ずさって頭を下げ謝罪するが水篠自身はまるで謝罪の意味がわかっていないような顔をして首を傾げている。
そして同時に聞き捨てならない言葉が聞こえて各々が犬飼に胡乱げな目を向け追求し始めた。
「いつもの癖とは」
「まさか犬飼課長、癖になるほど水篠ハンターに手ずから食べさせているんですか?」
「は?なんだそれ羨ましい変われ」
次々に向けられる言葉に顔を赤くしたまま黙り込む犬飼に疑念の目は更に鋭くなっていく。
三人とも何だかんだ言いながら水篠の警戒心を解いて構うチャンスをいつも伺っているにも関わらず犬飼があっさりと餌付け出来るほどに距離を詰めているのが気に食わない。
そんな恨めがましい視線の中、一人だけまるで状況が読めていない水篠がのんびりと次の要求をする。
「?犬飼さんは毎回食べさせてくれてますけど。あ、犬飼さん次それがいい」
「いえ、あの水篠ハンター…」
この状況下で食べさせろと?と戸惑う犬飼を不思議そうな顔をして見つめる水篠
「どうかしたんですか?」
「あの…」
「?…あーん」
早く食べさせろと言わんばかりに口をぱかっと開けて待つ水篠の圧に押し負けた犬飼が再びそっとお菓子を食べさせる
「………どうぞ」
「ん、んむ…」
「ふむ。水篠ハンター、こちらは如何ですか?」
我関せずと言わんばかりにもぐもぐと咀嚼する水篠と諦めたかのように顔を手で覆って俯く犬飼を見て愉快そうな顔をして会長までもがお菓子を差し出すとちらりと目を向け、咀嚼してから再び口を開けた。その素直な様子にまた三人が騒ぎ出す。
「んむ。…あー」
「は!?会長もかよ!ずりい!」
「水篠ハンター、こちらも…」
「こちらにもお菓子はありますが?何故来ないんです?」
騒ぎ立てる三人に対し満足げな顔を浮かべる会長と対称的に居た堪れなくなって顔を上げられない犬飼を眺め、水篠がひとつため息を吐いて黒須の方へ顔を向ける。
「はぁ…そんな騒ぎ立てる事じゃないでしょうに…」
あ。と黒須に向けて口を開ける水篠に対して嬉しそうにお菓子を物色し始める
「お!ようやく俺の番か?どれ食う?これ好きか?」
「それさっき食べた。その隣のやつにして」
ツンと返す言葉にもまるでめげずにお菓子を空けて口の中に入れる。そのあまりに楽しそうな様子にちょっと戸惑ったような顔をして水篠が問いかけた
「ん…んぐ、んむ。…そんな楽しいですか?」
「正直めちゃくちゃ楽しい。次どれにする?ああ、今度は俺も買ってくるから好きな物あったら教えてくれよ」
「何を次とか言ってるんですか、次は僕です。水篠ハンター、こちらへ」
「次は自分が」
最上と白川が既にお菓子を空けて待機しているのを見て、ちょっと面倒な顔を浮かべながらも諦めたように最上の傍に寄る。
「はい、どうぞ。召し上がってください。…これ良いですね。他に何か食べたいものはありますか?次は僕が買ってきてあげますよ?」
「お前も似たような事言ってるじゃねえかよ。しかもしれっと頭撫でやがって」
素直に口を開けてお菓子を食べる水篠を眺めながら最上が愉快そうに頭を撫でているのを横目に黒須がツッコみをいれたが呆れた目をした水篠にバッサリと断りを入れられる。
「会長と犬飼課長が用意してくれるお菓子が好きだからいらない。…で、白川ハンターもですか?」
「はい。口開けて下さい」
「はぁ…本当に俺に食べさせることの何が楽しいんですか。…あーん」
嬉しそうにお菓子を口元に寄せる白川に再度ため息を吐きながら口を開ける。
当人は気が付いていないようだが、お菓子が口の中に入ると嬉しそうな顔をするので全員が懲りずに何度も与えようとしているのだ。
恒常化させた会長や犬飼課長の気持ちもわかる。いつもの澄ました顔とは違ってちょっと眉が下がり、口角が上がる様は控えめに言っても可愛らしい。
「はは、水篠ハンター、口元付いていますよ」
「食べさせたのは白川ハンターなんだから白川ハンターのせいでしょう」
白川が笑って口元を拭うと子供扱いされたようで不服だったのか、むっとして言い返す様も更に子供の様に見えて全員に笑いが伝播していく。
「もう!みんなして何笑ってるんですか!」
笑われたのが恥ずかしいのか顔を赤くしてむくれる水篠に全員がそういうところだ、と思いながらもこれ以上からかったら本気で拗ねると思ったので口には出さずクスクスと笑うに留め、会議室の中には和やかな雰囲気が漂っていた。
これ以降会議の時は水篠以外が持ち回りでお菓子を用意してその際持ってきた人間が水篠に食べさせられるというルールが作られたのだが元々会議の回数が少ない為、結局辛抱出来ずに全員がお菓子を持ち込んだ結果、仰々しい会議は消え失せ、和やかなお茶会になるのが常となったのだった。