CP無(総受/愛され系)
———グー、キュウ
ハンタース、白虎、死神、我進の首都圏主要ギルドが集まり行われる月一の報告会議中、会話が途切れた時になんとも気の抜けた音が鳴った。
誰だ?とそれぞれが顔を見合す中、一人顔を赤くして俯く水篠に[ああ、お腹が鳴ったのか]と全員が気付き声をかける。もしも水篠以外の誰かが鳴ったならここぞとばかりにそれぞれ馬鹿にし出すが、それが水篠というのならば誰一人そんなことを言う訳も無い。
「おや、水篠ハンターお腹空いたんですか?」
「確かにそろそろ昼時ですからね」
「まあ腹が減るってのは悪いことじゃ無いし鳴った位気にするな。あ、飴ならあるぞ」
「飴ごときで足りるわけないでしょう。何か食べますか?」
「あの、会議中にすみません…大丈夫です…」
お腹を鳴らしたことも恥ずかしいのだが、全員から甘やかすような対応を受け、元々年下扱いに慣れていないことも相まって控えめに断る。
だがここにいる三人は既に水篠を年の離れた弟のように認識しているのだからそんな遠慮は無駄となる。可愛い弟分がお腹を空かせているのに放っておいてくれるはずも無い。
というわけで、
「丁度良いので休憩がてらご飯にでも行きましょうか。僕と水篠ハンター二人で。」
おふたりはまあ適当に過ごしていたらいいんじゃないですか?とのたまい自分だけちゃっかり水篠と過ごそうとする最上に白川と黒須も負けじと反論する。
「最上ハンターこそ休憩がてら[おひとりで]煙草でも吸ってこられては?」
「そうだな、白川も休みたいだろ?ゆっくり二人で行ってきていいぜ。その間に俺と水篠ハンターは飯食ってくるから」
キュウ、クルル
「…ごめんなさい」
バチバチと三人が睨み合いを始めたのだが再び水篠のお腹が鳴った為、一度睨み合いを止めて全員が水篠に気付かれない様休戦するか、とアイコンタクトをとる
「…仕方ありません。四人でご飯に行きましょう」
「…ですね」
「…まあそうなるか」
「あ、あの、俺お腹空いてないし、今もさっきのもたまたま鳴っちゃっただけで大丈夫なので…!」
ただでさえ大型ギルドマスターといえば忙しいのにまだ会議も終わってない中自分がお腹を鳴らしたからといって余計な時間を取らせるわけにはいくまいと必死に遠慮をするのだが、水篠を構いたい三人にはその遠慮は逆効果だった。
「遠慮はいりません。丁度僕も休憩したいと思っていましたし、お腹も空いていたんです」
「最上ハンターの言う通りですよ。自分も空腹になってきたので」
「そうそう、時間も時間だしな、昼飯には丁度いい」
数の上でも人生経験でも上を行く三人に当然ながら勝てるはずも無く、あれよあれよという間に言いくるめられ連れ出されてしまった。
***
「さ、水篠ハンター好きなものをなんでも頼んでください」
「俺天ぷらセット」
「自分はカツのセットで」
「チッ、あなた達には聞いてません。水篠ハンター、何が良いですか?」
「えっと…」
庶民の水篠からするとこの店は完全個室という時点で戸惑っているのにお品書きを見せられてもいまいち何が食べたいのかすらわからなくなる。しかもこのお品書き値段が書いてない。怖い。
「…もしかしてこういったお店は苦手でしたか?」
最上に問いかけられ急いで否定する
「違います!…少し前まで俺E級だったし…こういったお店来たことなくて…その、」
場違いな気がして…と言いにくそうに続ける水篠に三人は自分達の基準ではなくもう少し水篠に合わせてやるべきだったと反省する。
自分たちからすれば本当にいつもふらりと立ち寄るのに選ぶ程度の店を選んだつもりだったが水篠からすればまるで違ったのだろう。
「すみません、水篠ハンターの意見も聞くべきでしたね」
「あー、でもまあ徐々に慣れていけばいいだろ」
「そうですね、こういった店もいずれ使うことが出てくるでしょうし雰囲気に慣れるというのも必要です」
「…はい、ありがとうございます」
揶揄いもせずフォローしてくれる三人に感謝しながら、言われたことも最もだと思う。
水篠だって今はS級でギルドマスターなのだからいつまでもE級の感覚ではいけないと思うし、白川や黒須がいうように慣れ、というのも必要なのだろう。
難しい顔で考え込んでしまった水篠の思考を遮るように最上がパン、と手を叩く
「はい、難しいことを考えるのは後になさい。今は素直に食べたいものを選べばいいんですよ。僕は魚にしますが、水篠ハンターは若いんですからお肉が良いんじゃないですか?」
最上が指し示したのは高そうなステーキセット。美味しそうだが、流石に人のお金でこれを頼むのはと遠慮しようとしたのだが、そんな遠慮をさせる様な相手ではない
「お、気に入りそうだな。水篠ハンターこれにするってよ」
「ちょ、黒須ハンター!?」
「どうせ遠慮しようとしたのでしょう。最上ハンターの金なんだから気にしなくて良いんですよ」
「白川ハンターまで!?」
「あなた方が言う事じゃないがその通りです。遠慮する必要はありません」
キッと白川と睨み合ってから笑顔で言う最上に降参した。
「う”…じゃああの、これ、が良いです」
詰まりながらも素直に言えた水篠を褒めるように頭を撫でる
「はい、じゃあ頼みますね」
「何ちゃっかり頭撫でてるんだ」
白川がべりっと撫でている手を引き剥がし、ついでに撫でると黒須も手を伸ばしてくる。
「あ、あの!なんでそんな急に皆さん俺を構うようになったんですか…!?」
尋ねる水篠に全員が虚を突かれた顔をしてそれぞれ顔を見合わせる。
全員が撫でまわす様になってから最初はその度に払いのけて威嚇していたのに最近は照れつつも受け入れているし、こちらが話しかけても以前のつんけんした態度も見せないどころか自分たちを見かけると進んで話しかけに来るし。
野良猫が室内猫になった様な懐きの変化を見せているのだからこれは可愛がるなという方が無理なのだが水篠は無自覚でやっているのだろうか?
「なんでってそりゃあ、なあ?」
「日頃の態度というか…」
「そうですね、僕らに懐いていますと態度で見せてきて今更何言ってるんですか?」
そんな態度見せられれば構うに決まっているじゃないですか、と続けた最上の言葉にうんうんと頷く2人だが水篠はその言葉を聞くと赤くなって否定する
「な、懐いてない!!」
「お、なんだ水篠ハンターは俺らの事嫌いなのか?あー、お兄さん悲しいなー」
そのむきになる態度すら可愛くて黒須がからかい始める
「べ、つに嫌いとは言ってないだろ!懐いてないってだけで!」
「では我々を好きだと」
「素直だな」
最上と白川まで悪乗りをし出す。
いつもならば白川が窘める所だが、今回はとことん乗ろうと決めているのかにこやかに話を続ける
「なっ、だっ、すきじゃない!!」
「じゃあやっぱり嫌いなんですか?」
「~~~~っ!!!うるさいな!好きか嫌いかで言えば好きだよ!これで満足かよ!?」
嫌いとも言えたはずなのに真っ赤になって自分たちが好きだという水篠の素直さに全員が腹を抱えて笑い出してしまう。
「あっはっは!俺も水篠ハンターの事好きだぞー」
「ふ、くっ、あははっ!僕も水篠ハンターの事好きですよ」
「ん”っ、くくっ、ははっ!くっ、自分も好きですよ」
よしよしと頭を撫でる黒須の手を叩き落とし、同様に最上と白川の手も跳ね除ける。
そして完全に拗ねました、という態度でそっぽを向く水篠に全員がこういうところなんだよなあと思う。
以前ならば食事どころか最低限の会話しかしなかったのに。
「からかって悪かったって。機嫌直してくれよ」
「可愛い顔が台無しですよ」
「可愛くない!!!」
「くっ、ははっ、最上ハンター本当のことを言っては更に拗ねられますよ」
「拗ねてない!!!」
噛みつく水篠を全員で撫でまわし機嫌を取っているとそっと料理が運ばれてきたので一旦ご機嫌取りは中断にして食事をすることにした。
「…美味しい」
一口食べてびっくりするような水篠の顔が幼く見え、しかも先ほどまで拗ねていたくせに美味しい食べ物の前ではリセットされるのがまた子供の様に見えて余計に庇護欲が出る。
「お、良かったな。ほらこっちも美味いぞ」
黒須としては一口分皿に乗せてやるつもりだったのだが、持ち上げて水篠に向けた瞬間口を開けるものだからそのまま食べさせた。
「んむ。…美味しい。黒須ハンターありがとうございます」
「どういたしまして。もっと食うか?」
自然に食べさせてもらえるものだと思っている水篠の動作が可愛くて此方の顔もにやけてしまう。
「同じものよりも違うものの方が良いだろう。水篠ハンター、どうぞ」
折角のチャンスを逃すものか、と白川も最上も口元に一口分を差し出して行く。
「白川ハンター有難う御座います。ん。…これも美味しい」
「では次は僕ですね。はい、どうぞ。口開けてください」
「あー…んむ。凄い、全部美味しい…。最上ハンターも有難う御座います」
手ずから食べさせるのが楽しくなってきた大人たちは自身の食事そっちのけで水篠に食べさせようとしたのだが、の前にそれぞれに爆弾が落とされる。
「え、と、あの…お返し…です」
照れながらも水篠が一人一人お返しと称して自身の分を切り分け食べさせてきた。
食事中ではあるが撫でまわしたくて仕方がない衝動をなんとか抑え、また今揶揄いでもしようものならばもう二度と食事についてこなくなるかもしれないと思った三人はそれぞれ我慢を強いられつつ食事を進める羽目になった。
***
「ご馳走様でした。…あの、最上ハンター本当に奢って貰って良かったんですか…?」
「僕が良いと言っているんですから遠慮なんてするものじゃありませんよ。…ほら御覧なさいあの2人を。いい歳してなんの遠慮も無いんですから」
食事後、店を出た際に遠慮がちに問いかけてくる水篠の問いかけに頭を撫でながら気にするなと伝えると同時にまるで遠慮のない2人をあきれた目で見やる。
「お、ごちそうさん」
「美味かったな」
「貴方達は水篠ハンターを見習って遠慮というものを覚えなさい」
「最年長がケチケチすんなよ」
「痛手でも何でもないでしょう」
「はあ、聞きましたか?この通り遠慮も何もない人間がいるんです。そんなに気にすることはありませんよ」
「…はい、有難う御座います」
「どういたしまして。それでは戻りましょうか」
なんてことのない話をしながら会議室へ戻り、その後も平和に報告会議は終了した。
その後、店前で最上が水篠の頭を撫でていた姿が週刊誌に撮られており恥ずかしさのあまり一切の誘いに乗らなくなった水篠を宥めながら何とか次の機会を得ようと奮闘する3人の姿が各場所で見られるようになったのだった。