黒須×旬


翌日、目が覚めて身動きが取れないな、と思ったらしっかり黒須に抱きしめられていて。その状況が恥ずかしくて隠密スキルを駆使し腕の中から抜け出す。
そっと起こさないよう、静かにドアを開けてリビングを見るとチビも丁度起きたのか目を擦りながらぽてぽてと歩いてきた。

「んぅ…ママ、おはよ」

「ああ、おはよう」

抱っこと言わんばかりに手を伸ばしてくるものだから抱き上げてやる。

「パパは?」

「まだ寝てる。騒ぐなよ」

「ん。しー、ね?」

シーっと指を口前に持って行きジェスチャーするチビに可愛いという感情が湧き上がる。

「(いや、こいつは影なんだから…!)…そうだな。起こさないようにシー、だ」

そういった後に、キューとまたチビのお腹が鳴った。

「ママ、おなかすいたの」

「…なんかあるかな」

昨日家の物は自由に使っていいと言われてはいるが、勝手に家探しするようで多少の申し訳なさを感じつつ冷蔵庫を開ける。

「卵とバターとジャムだけか…パン焼いて…オムレツ位しか作れないな」

一人暮らしにしても中身が無さすぎる冷蔵庫に呆れつつ卵を取り出す。まあ調味料が一通りあるだけマシか、と思いながらフライパンを探して出す。

「チビ、パンをトースターに入れられるか?」

「できるよ!」

「良し、じゃあ頼んだ。焼けたらパンが飛び出てくるけど、それには触るなよ」

「あい!」

「うちのと器具違うからな…上手く出来るか…?」

「…ママー、ぱんやけた」

パンを焼くのはチビに任せてオムレツを作っていくと、途中ちびが報告に来たので皿に移して次のパンを焼かせ、出来上がったオムレツとパン用のジャムを添える。
そうこうしているうちにあと一人分になったので、チビに次の指示を出す。

「チビ。パパ起こしてこい。部屋行ったらもう大声出していいぞ」

「あい」

かけていったチビを見送りながら最後のオムレツを乗せ、飲み物を用意する。

「ーーーパパー!!!!!あさだよ!!!!」

「っうわ!!」

部屋から大声と驚くような声が聞こえてきて一人くすくすと笑っているとチビを抱えた黒須がげんなりした顔でドアを開けてリビングに入ってきた

「圭介さん、おはよう。チビの大声で目が覚めただろ?」

「…」

チビを抱えたまま無言で近づいてきてチビを渡される。この人もしかして朝機嫌悪いタイプか?と警戒しながらチビを受け取るとそのまま腰を引き寄せキスをされた。

「ん…」

「おはよう、俺の奥さん」

「きゃー…パパとママらぶらぶ…!」

やっぱり新婚気分でいいな、とまた幸せそうに笑う黒須と俺の腕の中で目を両手で隠しているチビが小さく呟いた。おい誰が新婚でラブラブだ。ってかチビはどこからそんな言葉覚えてきた。

「…って旬、朝飯作ってくれたのか?」

テーブルに目を向けた黒須が驚いたように目を瞬く

「作ったって云うほど大した物じゃないけど。あ、あと勝手に色々使っちゃった」

「ああ、好きに使ってくれて問題ない。それに大したものじゃないって言うが朝食として充分過ぎるだろ。ありがとな」

言いながらこめかみにキスを落とす黒須に流石に恥ずかしくなってきて、着席を急かす

「ッ、冷めるから早く食え!」

「へいへい」

「へいへいー」

「こらチビ。圭介さんの真似するな。駄目な大人になるぞ」

成長するかは知らないけど。まあ教育に悪そうなので黒須の真似をして返事をするチビを𠮟りつける

「おい、それは酷くないか?」

文句をつけてくるが知らん。あんた駄目な大人で間違ってないだろ。
着席し、全員で食べ始める。

「「いただきます」」

「いたたます」

食べ始めたが、黒須がオムレツを見て何故かケチャップを手渡してくる

「なあ旬。あれやってくれ。ケチャップでハートマーク」

「ふざけんな。金取るぞ」

「これでもS級だからな。いくらでも稼げるからいいぜ」

平然と言う黒須に腹が立つ。確かに金には困ってないだろうけどその言い方にムカついたのでケチャップで【ボケ】と書いた後ハートマークで囲って渡す

「ひでぇ」

「煩い。ハート書いてやっただろ。食べないならいいけど?」

「食べます。…冷てえ奥さんだな」

まだぶつくさと言っている黒須を無視して食べ進める。
その後もまたチビがケチャップを跳ねさせたりひと悶着あったが、全員食べ終えた。

「「ごちそうさまでした」」

「ごちそーさまでした!」

「美味かった。ありがとな」

笑って再び礼を言う黒須に照れくさくなって一瞬そっぽを向くが、言おうと思っていたことを思い出して再び向き直る

「簡単だしこれくらいは別に…あ、でも圭介さん冷蔵庫の中身本当に無さ過ぎ!」

「あー…確かになあ、これから旬とチビが居るってなると買い足さないと拙いな」

気まずそうな顔をして言われた言葉に目を瞬かせる。

「…?チビも満足したっぽいし今日はもう家に連れて帰るけど?」

「は?」

「え…な、なに…?」

急に表情の抜け落ちた黒須を不審に思いながらも話を聞く。

「…このままここに居るんだろ?」

「え、や、居ないけど…?」

「…同棲するんじゃないのか」

「どっ、なっ、同棲!?なんでそんな話になるんだよ!?」

真顔で問いかけて来た内容に驚く。同棲するなんて一言も言ってない!

「…一応確認な?」

「え、うん…?」

「俺達付き合ってるよな?」

「…ッ……まあ…うん…」

その通りではあるのだが面と向かって訊ねられると恥ずかしくてそっぽを向いてしまう。

「チビに関しては俺がパパで旬がママだよな?」

「…まだその呼び方は不服だけど…そう」

「なら一緒に住むのが当然だろ」

「なんでだよ!」

極論に思わずツッコむ。どうしてそこまで一気に飛躍したんだ!

「はぁー…本気かよ…俺はこのまま可愛い奥さんと子供を手に入れて幸せに暮らしていくと思っていたのにこの仕打ちは無くねえ…?」

本気でそう考えていたようでしゃがみこんで落ち込む黒須にチビが声をかける

「パパ?どしたの?いたいいたいなの?」

「そう、物凄くいたいなんだ…ママがパパ置いて行くっていうから…」

「えっ、ちびはパパおいてかないよ!ママもおいてかないよ!ね!」

余計なことを吹き込んだばっかりにチビが此方を見上げて同意しろと言わんばかりの目で見てくるし、それに便乗して黒須さんが更に畳みかけてくる

「くっ…チビは良い子だなぁ…でもママは出て行くって言うんだ…」

この人笑ってんだろ。肩震えてるぞ。それでチビも衝撃を受けたような顔をするな。お前そんなナリでも立派なモンスターだろうが。そんな見え透いた演技に騙されるな。

「ママ…パパおいてくの…?」

昨日の再現の様に目がうるみ始めたチビに内心焦る。ここでまた泣かれたらたまったもんじゃない。

「………チッ!!…置いて、かない…」

「…本当か?」

「ママほんと?」

「…(今日の所は)ああ」

「あー安心したぜ!チビもありがとなー!」

立ち上がって笑いながらチビの頭を撫でる黒須に殺意が沸く。チビを利用しやがって…

「…覚えとけよ」

「あのなぁ、こっちだってお前を逃さない為に必死なんだよ。見てろ、俺と離れたくないって言わせてやるからな」

「それは別に言ってやっても良いけど」

「…は?」

笑みを引っ込め、ポカンとした表情の圭介さんに首を傾げる。

「え?」

「えって言う事あった?」

「あるだろ!?今お前俺と同棲しないっていったじゃねえか!」

「同棲は現実問題葵も母さんもいるから無理に決まってんだろ!でも別にその、離れたい、とか、思ってる訳じゃ、無いしって話で…ああもう!いちいち言わせるな!!」

「………」

「な、なに」

「…じゃあ、もし俺が旬の家族に挨拶行って、了承が取れたら一緒に住んでくれるか…?」

黙ったまま何かを考えている圭介さんの様子を伺っていると、ややあってから緊張気味に尋ねてきた内容に固まってしまう。挨拶…って。

「…それな、ら……いい、けど」

「今日、は流石に急過ぎるな…明日は旬の家族全員家にいるか?」

「え?…あ、うん。葵…妹も休みだしいるとは思うけど」

「じゃあ、挨拶行くか。…大事な息子さん、お兄さんを俺に下さいって、な」

確認してきた圭介さんにまさかと思ったのだが、照れたように笑って挨拶に行くと言われた瞬間、まるでこのまま死んでしまうのではないかと思うほど鼓動が早くなる。

「…ぁ、そ、れじゃ、プロ、ポーズみたいに、なる、けど…?」

「俺の奥さんって言ってんだから今更だろ?…でもそうだな。挨拶に向かうより先に言う事があるな」

もう顔どころか全身が熱いし心臓の鼓動がずっとうるさい。そんな中何とか絞りだした問いかけはあっさり肯定されて、圭介さんに抱きしめられた。

「旬、愛してる。どうか俺のものになってほしい」

俺はものじゃないとか脳内でなら反論はいくらでも思いつくのに。胸が苦しくなって言葉が出てこない。

「旬。……な、返事くれよ」

耳元でそっと優しく囁いてくる声に促されて、

「…仕方ないから、いいよ。圭介さんのものになってあげる。代わりに俺も圭介さんの全部貰うから」

そう言って首に手を回し、強請るように目を閉じる。

「…ああ、旬が望むのなら全部やるよ」

そのまま強く抱きしめられ、強請った通りのキスが落ちてくる。

「んっ………はぁ…」

まるで誓うかのような長いキスを交わして、照れたように笑う圭介さんにこちらも微笑み返す。

「指輪は今度買ってくる」

給料三ヶ月分の指輪探すからな、と冗談めかして笑う圭介さんに此方も吹き出してしまう。

「っ、ふふ。S級ハンターの三か月分っていくらだよ。派手なの買ってきたらインベントリに仕舞って一生出さないから」

「付けてもらわなきゃ意味ねえからな。ちゃんとシンプルなものにするから安心しろって」

そして2人でクスクスと笑い出す。

「ふふん、らぶらぶだからもうママはだいじょうぶだね!ちびかげのなかにかえるね!」

「えっ」

元気に手を上げるチビを見て、やばい。チビの事を完全に忘れてた、と先ほどの甘い空気から一転し焦ったのだが続けられた言葉を聞いて驚いた。

「え、帰る、のか?いや、そもそも帰る場所もなにもうちの子だろ!?」

「や、圭介さん、コイツ影だから。俺も忘れかけてたけど召喚獣だから。…漸く戻る気になったのか?」

「うん!ママとパパなかよしなるかなっておもってたけど、もうパパいるからだいじょうぶなの!ちびかえるー!ママ、またちびよんでね!」

あれだけ泣き叫んでいたのが嘘のようにトプン、と俺の影の中に戻っていったチビを2人して呆然と見送る。

「昨日までの駄々はなんだったんだ…?」

「…成程な。チビなりの忠誠心ってことか」

何故か納得したような圭介さんに解説しろ、という目線を向けると肩をすくめて教えてくれる。

「俺らがちゃんと上手く付き合っていけるか心配してたんだろ」

「え、なんで」

「だからチビなりの忠誠心だって。主人が俺と居て幸せになるかどうか観察されてたんだな」

ま、チビもそこまで難しくは考えてなかっただろうけど。と続いた言葉になんとなく納得する。忠誠とかわからないと言いながら心配されてたんだな。…やり方はとんでも無かったけど。

「…あれ?じゃあ、もしかして帰ったのって…」

ひとつの事実に気付いてしまい、折角戻った顔色が再びじわじわ赤くなる。

「俺が旬の相手として認められたってことだな」

俺が言わなかったことをわざわざ口に出してにやにやする圭介さんに腹が立って、グイと首を掴み口付けた。

「…俺がちゃんと圭介さんの事愛してるんだから認められるのも当たり前でしょ」

「…え?」

まさかそう返すとは思っていなかったのか口をあけて間抜けな顔をする圭介さんにひとつ笑ってS級の瞬発力を生かして即座に逃げ出す。

「え、あ、ちょ、待て!!もう一回言え!!いや、言って下さい!!」

「好きの時は言ってやったからもう言わない!じゃ俺明日の説明しに家帰るから!」

じゃあね!と言って追いつかれる前に影移動をする。

「ああくそ!スキルは卑怯だろ!?帰ってきたらぜってえもう一回言わせるからな!」

影に包まれる中、聞こえてきた声に笑いが漏れた。もう圭介さんの中では自分の所が俺の【帰る場所】なんだ。

「———指輪が気に入ったらもう一回だけ言ってあげる」

移動する瞬間にそれだけ言い残して、自分の部屋へと辿り着いた。さて、母さんたちになんて説明しようか。
悩みながらも俺の口元にはずっと笑みが浮かんでいた。

仕方ないから、一緒にいてあげるよ

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