黒須×旬


「…ん…」

目が覚めた。
部屋の中は真っ暗だから多分まだ夜の時間帯なんだろうな、と思う。
起き上がろうとして、腰に鈍い痛みが走った。
その瞬間先程の事を一気に思い出して顔が熱くなる。クソっ回復してないのか…

「俺…黒須さんと、あんな…っ!」

ハッと気付いて身体を見ると綺麗にされてパジャマを着せられていた。少しサイズが大きいので恐らく黒須さんの物だろう。

「待て…着せたって…誰が?」

そもそも身体が綺麗にされてるってことは…と考えてベッドに顔を埋める。

「どんな顔して会えばいいんだよ…!」

しかも最後に告白の返事までしてしまって。どうすれば良いのかわからなくて埋めたままもう寝てしまおうかと思った瞬間、部屋の外から話し声が聞こえてきた。

「ふふふっ!パパー!!みてみてー!」

「お、上手じゃないか。チビは才能があるな…でも今はママが寝てるからしー、な」

「ママねんね…?しー、なの。」

「そうそう、チビは偉いな」

どうやらチビと黒須さんが会話してるようだがあれはまるで、

「…家族みたい」

父親がいた頃は我が家もあんな風だったような気もする…ほんの少しだけ懐かしくも寂しい様な気持ちを抱えてしまう。

「…確かにパパを名乗ってもいいとは言ったけど、俺がママなのはやっぱり納得行かない」

哀愁の気持ちを切り替えてひとまず抗議しに行こうとベッドから降りようとした瞬間、腰の鈍痛で床に尻もちをついてしまった。

ドスン

「って、」

ガチャッ!

「っ、旬!?大丈夫か!?」

血相を変えて入ってきた黒須さんに少々びっくりしながらも気まずそうに見上げた。

「あー…ごめん、大丈夫。ちょっとその、立つの失敗しただけ、だから」

「失敗ってなんで…あ」

原因に気付いたのか少し照れたような顔をして俺をひょいと横抱きにした。

「悪い、俺のせいだな。変に打ったり捻ったりしなかったか?」

「だ、大丈夫。大丈夫だから降ろして」

まともに顔が見られなくて目を逸らして早口で頼むが、降ろしてくれない。

「俺が運ぶ。…旬が起きたら夕飯にしようと思ってたんだ。大したモンは無いけど、食べられないものとかアレルギーあるか?」

「無いけど、自分で歩けるから」

「良いから甘えとけって」

抗議は聞いて貰えず横抱きのままリビングに連れて行かれ、ソファの上に座らされた。ふと目をやると机の上でお絵描きをしているチビが居て、目が合った瞬間笑って駆け寄ってきた

「ママ!!」

元気良く人のことをママと呼ぶのですかさず訂正する

「ママじゃない」

「いや、ママだろ?」

もう1人訂正しなきゃならないやつが居た。

「ママじゃないって言ってんだろ」

「俺がパパになっていいんだろ?」

ニヤニヤしながら聞いてくる黒須さん。
段々とイラついてきたな…

「…チッ、取り消す」

「そうはさせねえに決まってるだろ?…俺の奥さん」

リップ音を立てて軽くキスをされる。
…くそ…これを避けない時点で自分がかなり末期なことは理解しているが、それとこれとは別だ。

「…ママじゃなくて他の呼び方があるだろ」

「…?母さんとか呼ばれたいのか?」

「殴るぞ」

巫山戯た回答を寄越すのでギロリと睨みつけるがまるで気にしていないのか肩を竦め更に続けてきた

「パパママって呼び方の方が可愛いだろ?何が不服なんだ?」

「それだよ。そもそもなんで俺がママなんだ?呼ぶにしても普通パパだろ」

チビを見ながら本題に入るとチビはじっとこちらを見つめ、コテンと不思議そうに首を傾げた。

「?ママはママなの」

「だから、パパって呼ぶ呼び方もあるだろ」

「?ママはママだからママなの!!」

話の通じなさにイライラして声を荒らげようとした瞬間、

「おっと、ストップ。喧嘩するなよ。…なあチビ、なんでママって呼んでるんだ?チビは旬の召喚獣なんだろ?あのアリは【主】とか言ってたぜ?」

黒須さんが俺たちの間にサラリと入り、チビの前に屈んで目を合わせ俺が聞きたかったことを代わりに聞いてくれた。

「…むぅ。ママはママだもん…あるじってわかんないもん…」

「まあチビちっちゃいもんなー。主とか言われても確かにわかんないよなー」

ムッとした顔をしながら返事するチビを宥めるように撫でながらこちらを見遣る

「んー、まあチビにとっては主に代わる言葉がママって事だから変えるのは無理なんじゃねえか?」

そりゃ忠誠がわからないんだからそうかもしれないけど。納得がいかなくてこちらもムスッとしてしまう。

「……でも黒須さんをパパって呼んでる」

「圭介、な。…チビ、なんで俺はパパって呼んだんだ?」

サラッと名前で呼べと訂正され、再度チビに尋ねる

「んー…パパがママをすきでしょ?ママのすきはパパでしょ?だからパパなの」

…要領を得ない。そもそもママの好きってなんだ。どうすんだ、という顔で黒須を見遣れば何故か満面の笑みを浮かべていた。

「ふーん、そっかー、チビはよく見てるなぁ。いーこいーこ」

ご機嫌でチビを撫で回す。こっちは意味が分からなかったがどうやら黒須さんの方は読み解けたらしい。

「…どういう事」

「難しい事なんて無くて、そのままだな。ママ呼びはもうチビの中で確定してて、その対の呼び方がパパってだけみたいだぜ?」

チビの中ではパパって呼んだ時にはもう俺の相手として見てたってことか?…なんだそれ

「お、顔真っ赤だな。やっぱりあの時から脈アリだったって事だろ?」

嬉しそうにそのまま俺の頭まで撫で回すから、その手をバシッと叩き落す

「チビが勝手に思ってただけで違うからな!」

「へいへい。そういうことにしといてやるよ。…もう手に入れたし、な」

隣に座って肩を引き寄せられ、寄りかかる体制になる。

「触んな」

「とか言って避けねえし本当に態度は素直なんだよなー……可愛いな、旬」

耳元で囁かれ震えてしまう。その振動が伝わったのかクツクツと笑う黒須にムカついて身体を離す。

「あ、こら逃げんな」

「うるさい」

「パパとママなかよしー!うれしいー!」

そのやり取りを見てきゃらきゃらと楽しそうに手を伸ばして笑うチビに毒気が抜かれてしまう。
仕方ないから抱えてやるか、と手を伸ばした瞬間チビのお腹からキューっと音が鳴った。

「…お前、影なのに腹も減るのか?」

いや、確かに会長に餌付けされてたけど。空腹とかあるのか?

「さっきからジュースとかも普通に飲んでるぞ」

「あ、いや。ジュースとかお菓子とか食べられるのは会長が餌付けしてたから知ってるんだけど…」

「あの人何してんだ?」

それはそう。ごもっともだ。俺だってなんであんな餌付けしていたのかまるでわからない。

「じぃじおかしくれた!おいちい!」

元気よく手を上げて主張するチビを抱えて見せる

「知らないけどこの通りじぃじとか呼ばれてご機嫌だった」

「あ゛ー…そりゃデレデレになって餌付けするな。見た目が旬そっくりなチビに呼ばれたら無理だろ」

「なんで?」

「なんでって…そりゃあの人は旬の事気に入ってるだろ?」

「?国家権力級ハンターとしてってこと?」

「や、それも有るけどな?…ははぁ、わかった。お前さてはかなり自己肯定感低いな」

呆れたように此方を見る黒須に更に疑問が増える。

「別にそんな事無いと思うけど」

「自覚無しかー。旬、お前思ったより手間かかる子だなー」

よくわからないがなんで嬉しそうにしてるんだこの人。子って歳でもないし。

「何が言いたいわけ」

「何でもないさ、これから教え込むのが楽しみだなーって話。さて、何はともあれチビが腹空かせてるし、俺達も飯食おうぜ」

俺が抱えているチビごと纏めて抱き上げ、ダイニングテーブルに座らせる。

「…と、言っても所詮男の一人暮らしの家だからな…ナポリタンとかでいいか?」

「あ、手伝う」

少し照れたように笑ってキッチンに立つ黒須の方へ行こうとするがその前に素気無く断られた。

「座ってろ。また転ぶぞ。代わりにチビ見といてくれ」

「…わかった」

確かにうっかり転んでも恥だし、そもそも人様の家のキッチンで勝手もわからないのでチビを抱えなおして大人しく座りなおす。
黙って料理をする姿を見ていたのだが、何気に手際が良い。

「料理出来るんだ…」

「手の込んだのは作れないぜ。流石に焼いて切って煮るとか最低限の事は出来るが、普段は外食した方が楽だから全く料理なんかしないしな」

ぽつりと呟いた言葉を耳聡く拾ったのか黒須が振り返って言う。
まあそれはそうか。一人暮らしでは外食の方が安上がりだし、そもそもS級ハンターなのだから金にも困っていないだろうし。

「旬は?」

「え?」

「料理出来るのか?」

「普通に出来ると思う。母さん入院していた間は葵の弁当も食事も毎日俺が作ってたし」

「それは凄いな。今度俺に弁当でも作ってくれよ」

「別に良いけど…?」

感心したように言いながら弁当をねだられたのでまあそのくらいなら、と了承する。

「お、じゃあ愛妻弁当楽しみにしてるからな」

「何が愛妻だ!!」

この人のこういうすぐからかってくる所が本当に嫌なんだが!?

「あいさ?」

「お前は覚えなくていい」

チビが変な言葉を覚えようとしていたのですかさず止める。
そうこうしている内にどうやら出来上がったようで、

「お待ちどうさま。味はまあ普通だと思うから食ってくれ」

コトン、と3つナポリタンの皿が置かれた。
しっかりとチビの分も小分けにされている辺り意外と細かいのかもしれない。
子供用椅子なんてあるはずも無いのでチビを抱えたまま食べ始める。

「いただきます」

「…?いたます!」

「はいよ、召し上がれ。俺も食うか…いただきます」

俺の真似をして舌っ足らずに挨拶をしたチビを黒須が再び撫でて全員が食べ始めた。

「…美味しい」

「お、良かったぜ。焼いて切って混ぜただけだけどな」

「…妹が作ったら焦げるか生焼けが混ざるから」

「それは…どうなんだ?」

葵の不器用さに流石の黒須もフォローの言葉が見つからないようで苦笑している。

「んま!!おいち!!」

ふと抱えていたチビを見るとフォークは上手く使えているようだが口元が真っ赤になっていた。

「あ、こらお前口元そんなベタベタ真っ赤にして…!圭介さんなんか拭くやつください」

急いで何か拭くものをくれ、と要求するのだが何故か中々動いてくれない。

「…?どうしたんです?」

「…あ、ああ、いや。悪い、拭くものな。ちょっと待ってろ」

ガタッと立ち上がってウェットシートを渡してくれた黒須に礼を言ってチビの口元を拭う。

「ん!んむぅ!」

「全く…もう少し小さく取って食べろ」

「や!」

「…はぁ」

大分絆されている自覚はあるがまあ見た目も中身も子供だから仕方ないと自分を納得させてチビの皿とフォークを受け取って小さく一口で口に運んでやる。

「ほら。あー、口開けろ」

「あーん…んむ。…おいち!」

暫くそのやり取りを続けてやたらと黒須が静かだな?と思い顔をそちらに向けると、自分の分を食べ進めもせずこちらをじっと見つめていて、目が合った

「えっ、な、何?圭介さんは食べてなよ」

「…んー……良いなぁ、これ」

「…?何が?」

「家族みたいだな」

旬も俺の呼び方慣れたみたいだし、と幸せそうに笑って続けられ、一気に顔が赤くなる。
呼び方もそうだが先程自分が思った事を黒須も思っていたなんて恥ずかし過ぎる…!

「…ッ!!」

「真っ赤だな」

「ママまっかー!」

「うるさい!さっさと食え!」

誤魔化すようにそう叫ぶとチビの食事を再開させる。さっさと食わせて終わらせよう…!

***

「…はぁ、ご馳走様でした」

「さまでした!」

行儀良く手を合わせて挨拶をする旬とよくわからないながらも旬を見て同じ様に挨拶するチビが可愛い。

「はい、お粗末様」

「洗い物は俺がやるから」

スッと立ち上がってチビの分と纏めて食器をシンクに持っていく旬を止める

「食洗器回すからそのまま突っ込んどいてくれ」

そういうと少しぽかんとしてから食洗器って選択肢があるのか、と呟く旬に過去の苦労が垣間見えた気がして、今度嫌がられなかったらE級時代の苦労を聞いてみようと決めた。
そのまま大人しく食洗器の中に食器を入れて戻ってきた旬をソファに座らせてその膝の上に再びうとうとし始めたチビを乗せ撫でる

「さて、チビもお腹いっぱいで眠そうだし、さっさと風呂入れちまうか」

「影なんだから戻ればいいのに…」

まだブチブチと文句を言っている旬の頭もついでに撫でてから風呂の準備に向かう。
そういや旬に俺の服を着せたが少しぶかっとしているのが良い。まあそれでいて長さがぴったりなのは旬の方が足が長いということだから悲しい気もするが。
風呂の湯張りを押してタオル類の準備をし、戻ってくると既にすぴすぴと寝息を立てているチビが居た

「間に合わなかったか」

「もう寝かしといたほうが良いと思う。騒がれても面倒だから。」

げんなりした顔で言う旬に苦笑してチビを抱え上げる。

「仕方ないな。明日の朝入れるか。寝かせてくるから少し待ってろ」

そのままチビをゲストルームのベッドに寝かせ、念のため落ちないように包んでから電気を消してリビングに戻る。
ぼーっとテレビを見ている旬の横に座って引き寄せると素直に寄りかかってきた。
さっきもだが、なんだかんだ態度で好意を示してくれる旬に可愛いの言葉しか出なくなる。

「…何見てたんだ?」

「なんか適当に。あ、さっきニュースのコーナーで最上ハンター出てた」

「ああ、最上は外面良いからな。良く呼ばれてるぜ」

たまに面倒で白川に押し付けてるようだがな、としょっちゅう喧嘩している二人を思い出して笑う。

「圭介さんは出ないの?」

「俺?俺はまあ呼ばれりゃあ出るけど、最上や白川ほど呼ばれることはないな。友谷スカウトしてからはそう言った対応は友谷が勝手にやってくれるから楽なもんだ。…旬は?依頼がひっきりなしじゃないのか?」

新たな国家権力級をマスコミが逃がすわけがないとわかっていて問いかける。

「そうだけど、全部断ってる。大体何も話すことないし」

何が知りたいんだか、とごちる旬

「旬は情報保護もかかってるし、趣味嗜好話し方、マスコミ様はどんな些細な事でも良いから知りたいんだろ」

「俺なんかに興味持たなくていいのに」

そういう旬にそれは無理があるんじゃないか、と内心苦笑する。
架南島のS級ゲート、DFNのゲートをたった一人で解決するという誰も成し遂げたことのない偉業を前に興味を持つなという方が無茶だろう。
だが先ほどの自己肯定感の低さからきっと言っても無駄だろうな、と思い言葉を飲み込んでわざと耳元で囁く

「…俺もお前の事に興味があるぜ?」

「ッ!!」

耳を抑えて距離を取ろうとする旬を捕まえて更に続ける

「身体の事は知ったけど、まだ知らない事が沢山あるしな。…なあ旬、教えてくれよ」

旬が自分の声に弱いのは既にわかっていたのであえて耳元で囁き続ける。
旬がぎゅっと目を瞑って耐えている姿が情事を思い出させ、そのまま口付けた。

「んっ!?んンッ、んっ」

「…な、今度は口開けてくれるだろ?」

唇を舐めて問いかけると素直にうっすら口を開けるものだからそのまま旬をソファに押し倒し、旬の顔を掴んで舌を絡ませ深く口付ける

「…ああ、イイコだな」

「っあ、ッんンぅ、ふ、ぁん、ッふ、んんッ、ぁっ、はっ」

俺の首に手を回して、拙いながらも応えようとする姿がいじらしくて愛おしい。
このままもう一回、と思った所で風呂が湧いた音が鳴ったので一度離れる。
良い事を思いついた。

「っはぁ、ん…」

「風呂沸いたみたいだし一緒に入るか」

「っは?え!?」

慌てて起き上がろうとする旬を抱き上げて風呂場に向かう

「や、ちょっと降ろせ!一緒になんか入らない!」

「まあまあ、風呂位いいだろ?」

「良くない!!!」

「暴れんなって。もうさっき隅々まで見てるんだから」

身体を拭いた時の事を言うと真っ赤になって更に反論してくる。

「そっ、んなの俺の意識が無いときだろうが!!」

「起きてても寝てても俺が見たのには変わり無いからなー…はい到着。じゃ服脱ごうな」

脱衣所で降ろし服を脱がそうと手を伸ばすとしゃがんで必死に抵抗してきた。本気で逃げようとすれば逃げられるのに口先だけの態度でいるから俺も諦めないんだけどな。

「入らないって言ってるだろ!」

「あー…仕方ねえな。わかった。じゃあ先に入れ。」

「…本当に?」

急に諦めた俺を訝しげに見ながら確認する旬に笑って至近距離で問いかける

「なんだ、やっぱり一緒に入りたかったのか?」

「違う!!入るから出て!!」

「へいへい。バスタオルとかはそこに置いてあるの自由に使っていいからな」

「あ…でも俺先入っていいの?」

「?ああ、気にすんな。ゆっくり入れよ」

頭をぽんぽんと叩きながら言うとありがと、と小さくいうものだから本当に可愛くて素直過ぎて寧ろ心配にまでなってくる。そのまま軽く手を振って脱衣所を出た。

———誰も一緒に入るのを諦めたとは言ってないんだけどな。







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