黒須×旬

「お、噂をすればってやつだな」

「水篠ハンター、今丁度貴方の話をしていたところなんです」

「4人で親睦を深める為酒でも、と思っていたんですが如何でしょうか?」

「親睦…ですか?」

ハンター協会のロビーで語り合っていた3人の横を挨拶して通ろうとした時に黒須と目が合い、会話に引きずり込まれた。

「ええ、ギルドマスター同士で。如何でしょうか?」

「最上とも白川ともある程度話したことあるだろ?それなのに俺だけは水篠ハンターと碌に話した事ないからな」

2人だけ狡いだろと言う黒須ハンターに、別に狡い事なんて何も無いと思うけど…と思いつつこういう交流も一応は必要か、と了承の意を返す。

「…良いですよ」

「「えっ!?」」

「お、本当か!?ほらなー、ちゃんと誘えば乗ってくれるじゃねえか」

了承を返すと何故か最上ハンターと白川ハンターが驚いたような声を上げ、黒須ハンターだけはどうだと言わんばかりに自慢げな顔をしていて。何か変なことを言っただろうか?

「…了承しない方が良かったですか?」

「いや!承諾してくれねえと困る!ほら、お前らが変な反応するから戸惑ってるじゃねえかよ」

黒須ハンターにそれぞれどつかれてようやく我に返ったのか急いで2人とも弁明をしてきた

「そういう意味では無く…」

「まさか誘いに乗ってもらえるとは思っていなかったもので…」

「それなのに誘ったんですか?」

「コイツら俺が水篠ハンターと酒飲みてえって言ったら誘いに乗るわけねえだろって言ってきてなー」

「そこまで言ってませんよ!」

「誇張するな!」

俺の言葉にグッと詰まったような顔をする2人に呆れたような顔をして黒須ハンターが説明をしてくれた。
なるほど。2人は焦っているようだがまあ人付き合いをしていない自覚はあるのでなんとも否定しきれないんだよな…

「…そうですか」

「あっ、怒ったか?悪い!コイツら気に食わなければ俺と2人でも構わねえから行こうぜ!」

「おい」

「なに人をダシにして抜け駆けしようとしているんですか。…水篠ハンター、気分を害したのでしたら申し訳ありません」

「申し訳ない」

「いえ!俺自身人付き合いしていない自覚はあるので怒ってはいません」

軽く頭を下げる最上ハンターと白川ハンターを急いで止める。というかこのくらいで怒ると思われているのか…?

「じゃあ水篠ハンターも参加で4人で飲み行くってことで決定だな。俺らは今日の夜空いてるんだが、水篠ハンターはどうだ?」

「空いています」

「では僕の方で店は予約しましょう。場所は連絡しま…水篠ハンター、連絡先を教えて頂いても?」

「あ、俺も俺もー」

「自分も良いでしょうか」

「あ、そうですね。…って白川ハンターは俺の連絡先ご存知では?」

最上ハンターの言葉に確かに連絡先交換もしていなかったなと思い至るのだが白川ハンターは宍戸課長から聞いているのでは無いのだろうかと思い手を止める。するとバツが悪そうに目線を逸らしてきたので何か拙い事を言っただろうか?と首を傾げる

「…おい、白川お前…」

「先程は水篠ハンターの連絡先を知らないと僕たちに言いましたよねえ?」

「…番号が変わっているかもしれないし、又聞きの情報を教えるのは良くないだろう」

一気に2人に距離を詰められ更に反対方向へ目線を逸らす白川ハンターとバッチリ目が合い、俺が振った訳だし仕方ないなと息をつく

「番号は変わってませんよ。でもメールとか知っていた方が便利ですから教えておきます。…はい、最上ハンターと黒須ハンターもスマホ出して下さい」

「あ、ああ。お願いします」

「チッ…白川後で覚えておけよ」

「自分だけ情報を握っておこうとは良い性格をなさっていますね」

白川ハンターを横目で睨みつけながら2人とも番号を交換する。…友人とも連絡はもう取ってないし、協会と家族以外は登録していなかったのに3人も一気に番号が増えるってなんか変な感じ。

「それでは後ほど場所を連絡します。時間は20時頃からにしようと思っていますので宜しくお願いしますね」

「はい、お願いします」

「わからなければ俺に連絡してくれよ」

「自分でも構いません」

「貴方達に連絡してどうするんですか。僕が予約するんですから僕に連絡するのが筋でしょう。迷ったら僕に連絡を」

何故か今日はグイグイ来る3人に戸惑いながらも返事を返し、その場を離れる。
さっさとゲートをクリアして時間に余裕を作っておこう。

***

夜、最上ハンターから連絡を貰った場所に行くと、おしゃれなバーに辿り着いて。俺普通に場違いなんじゃ…と若干躊躇いながらも中に入るとそのまま地下へと案内された。

「お、来たな」

「こんばんは、水篠ハンター」

「迷わなかったようで何よりです」

「…こんばんは」

カウンターに三人横並びで座っていたのだが俺が入ると立ち上がり、ボックス席の方へ移動し始めた。

「さて、水篠ハンター。誰の隣に座りますか?…是非とも僕の隣に来て頂きたい所ですが」

「自分の隣は如何ですか?」

「やっぱ俺だろ」

矢継ぎ早に言われ、目線をうろうろとさせてしまう。誰の隣って…俺が選ぶのか?
黙って待たれているので早く何か言わなければ、と思った時最初の会話を思い出した。

「え…と、じゃあ黒須ハンター、で。…話したこと無いですし」

「よし!やっぱ俺だよなー、じゃ水篠ハンターこっち座ってくれ」

「チッ…仕方ないですね。」

「…まあ最初に提案したのはコイツだからな…チッ」

さらっと肩を抱かれ、席に誘導される。最上ハンターと白川ハンターもそれぞれ舌打ちをしながらも俺たちの正面に座った。

「水篠ハンター何か飲みたいものはありますか?」

「今日はお兄さん達の奢りだから好きなもの頼めよ」

「我々はお兄さんという歳では無いでしょう。図々しいですね」

「え…あ、の…俺こういうところ来たことないんでよくわからなくて…」

どうやら今日は俺主体で色々考えてくれている様なのだが、そもそもこんな店に足を踏み入れようと思ったことも無い自分では好きなものもよくわからなくて。正直に伝えて目線を逸らす。
3人はギルドマスター歴も長いからこういう店も良く来ているのだろうが…なんか俺だけ子供みたいで結構恥ずかしいな…。

「こだわりが無ければ僕が選んでも?」

「はい、お願いします」

最上ハンターの言葉に直ぐに頷く。どのみち見て聞いてもよくわからないし、それなら勧められたものを飲む方が良い。

「…水篠ハンターってすげえ不愛想って聞いてたけど全然違うじゃねえか」

「いえ、これは…普段と違いすぎません?」

「いつもは機嫌が悪いのか…?」

「え…いつも不愛想にしているつもりは無いんですけど…」

「「「嘘だろう(でしょう)?」」」

全員に驚いたような顔をされるのだが本当に機嫌の善し悪しなんて最近は殆ど…あ。

「あ…あの、白川ハンターとの初対面の時は確かに機嫌悪かったです。…今更ですけどごめんなさい」

「っ!いえ、此方こそかなり強引に引き留めようとしてしまい礼を欠いた行動をしました。申し訳ございません」

「あの状況では仕方なかったと思っています。白川ハンターは悪くありません」

そう思われる原因に思い至って頭を下げる。すると白川ハンターが焦ったように頭を下げてくるが、あの時の俺は確かに不機嫌だったからそんな風に思われたとしても仕方がないと思う。
お互いに謝罪をしていると黒須ハンターと最上ハンターが気になったのか詳細について尋ねてきた。

「初対面ってレッドゲートだろ?何があったんだ?」

「折角ですしレッドゲートの話も合わせて聞かせて下さい。滅多に遭遇しない、というかしたくないモノではありますが情報としてかなり貴重ですので。…もう時効ですし白川ハンターも良いでしょう?」

「はぁ、こっちは新人を失うしその後もお前のせいで散々な目に合ったんだがな。…まあ自分も詳細を水篠ハンターの口から聞きたかったというのはありますのでお願い出来ますか?」

「はい。じゃあ…俺が白虎ギルドのゲート見学に行きたいって話をしたところから、ですかね。妹の同級生の子が———」

そうしてレッドゲートであったことをぼかしながら語った。時折質問やスキルについての疑問も投げられたが元々架南島レイドで能力を見せていることもあり素直に答えていく。

「———それで、そのボスを召喚獣として捉えるのに失敗して不機嫌になっていて…」

「成程なぁ。水篠ハンターで手こずるって事は相当強かったって事だろ?」

「再覚醒したばかりでは上手く身体もついて来ていなかったということでは?」

「スキルは失敗することもあるんですか?」

「そうですね。確かに強くはありましたけど今の俺なら簡単に倒せるとは思うので、スキルも含めて身体が慣れていなかった部分が強かったかと」

流石にレベルアップの事は語れないので最上ハンターの推測に全力で乗せてもらった。その後も次々に聞かれる質問に答えているといつの間にか俺を含む全員がかなりの量の酒を飲んでいることに気づく。
…いや、思い返してみると相当飲んでないか!?俺は酔わないから良いけど全員が今日やたらと饒舌なのはもしかして酔いが回ってる…のか?

***

「やっぱり直接話してみる方が良いな。元々噂なんて当てにしちゃあ居なかったが、遠目からみても無口で不愛想な美人って印象だったんだが、全然話すし意外と表情も変わるしなあ」

酔っぱらっているのでは?と疑問を持った矢先に黒須ハンターが俺の頬を片手でむぎゅっと潰して四方から眺める様にぐいぐいと顔の向きを無理矢理変えさせられる。

「んむ…くろひゅはんたー、はなひてください」

「ハハッ、くろひゅハンターだってよ!可愛いな!」

けらけらと笑っているが、あんたが俺の頬潰しているからだろうが!この酔っ払いから助けて欲しいと正面に座っている2人を横目で見るといつの間にかどちらも背もたれとひじ掛けに凭れて寝落ちしていて。俺の視線に気付いたのか黒須ハンターも2人に目をやり、何故か笑みを深くする。

「あーあ、寝ちまったのか。こいつら水篠ハンターの話に夢中になってペース考えずにいってたからなぁ…俺の一人勝ちってやつ?」

「かち?」

「こっちのハナシ。にしても頬これだけ摘ままれても怒らねえのな」

飲み比べでもしていたのだろうか?首を傾げるとまた愉快そうに笑って俺の頬をぐにぐにと押してくる。
怒るというか…酔っ払いに何言っても仕方ないしな。父さんも酒飲むと俺と葵がいくら離せって言っても抱えたまま離そうとしなかったし。
怒りはしないが離せという気持ちを込めてジトっとした目で黒須ハンターを見つめる。

「…なんだ、急に可愛い目を向けて。キスでもして欲しいのか?」

「は!?なんでそうな、っん!?ん、ッ…んむ…っ、ん…!…はっ、ぁ…」

「…真っ赤になっちまったな。…なあ、あいつら寝かせといて俺と店出てイイコトしようぜ?」

「ぁ…は、はぁ!?」

頬を掴んだままいきなり口付けしてきた黒須ハンターからはかなりお酒の匂いも…味、もして。
酔っ払うとキス魔になるって事か?そうしたら最上ハンターと白川ハンターも被害に遭うのではと考えてから、とりあえず黒須ハンターを家に帰した方がいいと思ったので赤い顔のまま黒須ハンターの腕をそっと退かす。

「…イイコト…はよく分からないし、しませんけど。黒須ハンター飲み過ぎです。家近いなら送りますから、帰りましょう」

「へぇ…送ってくれるのか?」

「え、まあ…黒須ハンターかなり酔っ払っているようですから」

「じゃあお言葉に甘えっか。家な、結構近くなんだわ。…着いてきてくれるか?」

「はぁ、わかりました」

ため息をひとつついて黒須ハンターと外へ出る。お会計は?と思ったのだがどうやらよく利用している店だけあって3人で訪れた時は順番に請求が回ってくるらしい。良いのだろうか?と思ったのだがどうせS級ハンターは金を余らせてるんだから、の一言で現実を思い出し今回はお言葉に甘えることにして黒須ハンターと連れ立って店を出る。
最上ハンターと白川ハンターは黒須ハンターが迎えを呼んだらしいのでなんとかなるだろう。

***

酔っ払ったフリをして上機嫌な俺の後を水篠ハンターが呆れながらも着いてくる。
ずっと前から気になっていた水篠ハンターと飲めただけじゃなくてお持ち帰りまで成功するとはなあ…今日はツイてる。まあ持ち帰られてるってのも本人わかってねえみたいだけど。

最初は美人だし酔わせてあわよくばワンナイト狙っていたが話してみると中身は随分幼くて可愛いし、結構素直な事がわかったし、これは本格的に口説くのもアリだな。1回で終わらせるのは勿体ねえ。

それにしてもあいつらも詰めが甘い。最初は水篠ハンターと繋がりを持とうという打算だけで飲みに来ていた癖に途中からずっと水篠ハンターのコロコロ変わる表情に夢中になって俺が度数強めのばかり代わりに頼んでいた事も気付かずに飲み干して。普段ならあんな失態はしなかっただろうに、気を取られているからそうなるんだ。

「…やっぱり俺の一人勝ちってな」

「?さっきも言ってましたよね。おふたりと飲み比べの約束でもしていたんですか?」

「ん、まあそんなところだ」

飲み比べも何も俺が潰したようなものだけどな、という言葉は胸に秘めておく。そうこう話しているうちにマンションのエントランスに辿り着く。

「ここ、ですか?大きなマンションですね…」

ぽかんと口を開けている様がなんとも幼くて、もう一度塞いでやろうかと思うのだが今は我慢だと自分に言い聞かせる。ちゃんと部屋に連れ込むまでは警戒されないようにしないとな。

「まあS級にもなるとマスコミも集ってくるし、ある程度はしっかりしたところの方が都合が良いんだよ」

「そういうもの、なんですね。…あ、じゃあ俺はここで失礼します」

「ちょーっと待った。折角だから上がっていかないか?ここまでの道中で酔いも醒めたし、もう少し呑もうぜ?」

「結構呑んでいたし、もう止めた方が良いんじゃ…」

「いや、こんな機会は滅多にないからもう少し水篠ハンターと話したいんだ。付き合ってくれないか?」

「………じゃあもう少しだけ、なら」

先ほどの会話からもどうやら水篠ハンターは正面から頼まれると弱いということが判明したので回りくどいことはせずに素直に頼み込んだ。
すると案の定ちょっと躊躇ってはいたが了承を返してくれたのでこんなにちょろくて大丈夫かと若干心配になったが、まあ今の俺からすると好都合だし付き合うことになったら言い聞かせれば良い話だしな、と今回は気にしないことにする。

***

黒須ハンターに引き留められ、なんだかんだで家にお邪魔させて貰う。呑むために人様の家に来るのって初めてだな…。

「水篠ハンターはビール大丈夫か?」

「はい。なんでも呑めます。酔っぱらったりもしませんので安心してください」

「そう、さっき思ったんだよな。水篠ハンターってめちゃくちゃ酒強いか?」

「…多分?」

「へえ。会長もザル超えてワクって聞くけどそれ以上かもな」

「どうなんでしょう」

本当はスキルのお陰で解毒出来ているだけなんだけど、それを言ってしまうと楽しそうに酒を出してくれているのに申し訳なくなるので曖昧に返して誤魔化す。

「酔っぱらった水篠ハンターも見てみたかったんだけどなあ」

「面白いものじゃ無いと思いますよ」

「面白くはなくとも、もう少しガードは緩むだろ。…な?」

いきなり隣に腰掛けて来たと思えば先ほどのように頬を潰される。…その目が同じ様に熱を持っているのに気が付いて、急いで顔を逸らそうとするのにしっかりと掴まれていて逸らせなくなる。

「お、気付いたか。キスしてきた男の家に上がり込むなんてちょっと警戒心が足りなかったな」

「なっ!は、はなせって!…んっ!っふ、ぁ…んんっむ、ッう、ぁ…んン…は…っぁ」

「…最初はワンナイトのお相手を願おうとしてたんだけどな。思った以上に素直で可愛いし?見た目も中身も俺好みってことで…本気で手に入れたくなっちまった」

そう囁くと、再びキスをしながら俺の服を捲り上げてくるので急いで腕を掴み、止めようとしたのだが逆にその腕を取られ片手で俺の両手を掴んで拘束されてしまう。酔いが醒めたとか言ってたけどやっぱり酔っぱらっているじゃないか!

「ちょ、っと黒須ハンター、酔っぱらってますよね!?冗談なら止めてくださ、…ッあ!」

「残念だけどな、店では少しばかり酔ってたかもしれないがキスした瞬間からずっと正気だ」

「うそっ、ひ、ッぁ、っ!ひ、ぅ…それ、や、だ…ッあ、ぅ…ッん!」

捲り上げた服の隙間から黒須ハンターの手のひらが入り込み、不意に俺の乳首を押し潰した。
話している間もずっと摘ままれたり、指でなぞられたり、ゾワゾワした感覚が背中から襲ってくる。

「へえ…感じやすいし、抵抗もしないし、…良い子だな」

「ん、ぅッ…ていこ、う、してる…っ!はっ、ぁ…ん、は、なせ!」

「純粋な力で水篠ハンターに勝てるとはこっちも思ってねえのに抑え込めてるって事はそういうコト、だろ?」

「ちが、ッあ!ん、ッああ!ゃ、やだ、そっちさわんな!」

酔っぱらってるし、こんなことでS級ハンター同士が喧嘩だなんて事になったら嫌だから我慢してるだけなのに黒須ハンターは都合のいい解釈でどんどん手を侵入させてきて、俺の中心部に触れそのままズボンまで脱がそうとする。

「こら、脱がせ辛いだろ。動くなって。…な、お試しで1回とかどうだ?水篠ハンターだって遊んだことくらいあるだろ?」

「…は?…っ、そんなの無いに決まってるだろ!?」

「いって!……は?」

黒須ハンターのあまりの言葉にイラっとして怪我をしても良いという気持ちで振り払い、距離を取る。最悪ポーション飲ませれば酔いも醒めるだろと思ったのだが流石S級ともいうべきか一瞬顔をしかめたが何でもないみたいだ。これならもっと早く振りほどいておけば良かった。
当の本人は何故か固まっているし、もうこの隙に帰るか。

***

「…黒須ハンター、飲み過ぎには気を付けた方がいいですよ。それじゃあ俺はこれで」

「待て待て!待ってくれ!わ、悪かった。その、水篠ハンター、本当に遊んだことないのか…?」

先ほどまでの空気が霧散してしまったが聞いた言葉の衝撃から立ち直れていない。遊んだことが無い!?この顔で!?今は美人だがE級の時だって可愛い系で顔の造形は整っていたのに遊んだことが無いなんてことあるのか!?

「はぁ…無いですよ、そんなの」

「まさか付き合ったこともない、とか?」

「う、うるさいな!あんたに関係ないだろ!?それどころじゃなかったんだよ!」

図星だったのか顔を赤くさせて怒る水篠ハンターに心の底から歓喜が湧き上がってくる。そこまでは無くとも何度かは遊んだことはあるだろうと勝手に思い込んでいたのに。まさか誰の手もついていない状況だとは思いもしなかった。…チッ、そう考えたらさっきまでのは悪手だったな…正面からリカバリーするしかないか

「あー…悪かった。…もしかしてキスも初めて、とか?」

「…………」

キスも、その先も全部俺が初めてか。
拙いな。顔がにやける。好みど真ん中の水篠を完全に真っ新な状態で手に入れることが出来るなんて。

「何笑ってるんですか。そりゃ俺は皆さんみたいに経験、とかないですけど…!」

「あー、違う違う。別に馬鹿にしてるわけじゃねえよ。好都合だなって話」

「好都合?って何が…?」

さっきも伝えたはずなのにこの期に及んで尚俺の言いたいことに気が付かない水篠を見て、遊びも恋愛もしたことが無いというのが本当なのだという事がわかる。ここまでにぶいと天然記念物かなんかだな。

「さっきも言っただろ?…見た目も中身も、好みだって」

「~~~ッ!!は、離れろ!」

一気に距離を詰め、髪に触れながら耳元で囁くと真っ赤な顔のまま押しのけようとする動きに再びスイッチが入りそうになるが、この初心な青年を手に入れるためには行動より言葉の方が効く様なので正常な思考に戻るより前に畳みかけていく

「俺はこう見えて一途だから付き合えば浮気もしねえし、同じS級だから都合も合わせられるし、結構尽くすタイプなんだが、どうだ?」

「そんなこと言われても…」

「じゃあお試しでどうだ?1回付き合ってみて、嫌になったら別れても良い」

「それは不誠実ってやつなんじゃ…?」

返ってきた言葉に吹き出しそうになる。本当に見た目にそぐわず素直だし真面目だな。
こんなんじゃS級としてどこかで言質を取られかねないからそこらへんも教えないとな、とこちらも釣られて真面目なお節介を考えてしまう。

「俺が良いって言ってるんだから良いんだよ。で、水篠ハンター的にはどうだ?中身はまあこれから知っていけば良い話として……俺の顔も、声も、嫌いじゃねえだろ?」

「ッ!!その耳元で言うのやめろ!」

「じゃあ早く了承してくれよ。ほら、早くしないとさっきの続きするぜ?」

耳朶をそっと噛んで返事を促す。了承しなければ身体から堕とすつもりだから別にどっちでも良いんだけどな

「ゃ、っ…!わかっ、た。その…試しなら…」

よし。これで大義名分を手に入れた。後は万が一にも別れるなんて言い出せねえようにしないとな。

「お、じゃあ今から付き合うって事で!よろしくな、旬!」

「は、え?な、名前…!」

「恋人同士で水篠ハンターなんて普通呼ばないだろ?ほら、旬も俺の名前呼んでみろ」

「ぇ…あ、俺は、その…黒須さん、呼びでいい」

「俺が良くねえ。呼び直し」

目線を逸らして呼ぶ姿にグッとくるものはあるが、お試しなんて名目だけで別れる気なんか更々無いんだから今のうちに名前呼びを浸透させておかねえとな。顔をこちらに向けさせ呼び直しを要求する。

「旬。俺の名前は?」

「ぅ…圭介、さん、ッん…ふ…」

「…よく出来ました」

呼んだ後触れるだけの口付けをして、今は抱き締めるに止めた。

「晴れて恋人になった訳だし、泊まってくか?」

「泊まらない!帰る!」

勢いよく拒絶する反応が面白くて、今度は我慢出来ずに笑ってしまう。砕けた口調になってきてるし、いい傾向だな

「ふっ、ははっ!そこまで勢いよく否定しなくても良いだろ?」

「うるさいな!もう俺帰るから!」

「悪い悪い、まあこんな時間だしな…仕方ねえか。下まで見送る」

「別にいいよ、黒須さ「圭介」…圭介、さんはまだお酒抜けて無いだろ?」

「ずっと正気だって言ってんだろ。ほら、行くぞ」

直ぐに苗字呼びに戻そうとした旬にすかさず訂正を入れて旬をエントランスまで連れていく。

「また連絡する」

「…ん。…わかった」

「あ、ちょっと待て。…次は泊まりに来いよ」

カメラの死角になるところで引き寄せ、耳元で囁くついでにキスを落とす。

「~~~ッ!来ない!馬鹿!じゃあな!」

真っ赤になったであろう顔すら見せることも無く、去っていった旬に笑いが止まらなくなる。
雑でもちゃんと挨拶していなくなる辺りが本当に律儀だ。

「さぁーて、気分も良いしそろそろ最上と白川からの連絡を見るか」

実は俺が仕組んだことに漸く気付いたのか先ほどからずっとスマホが通知を知らせ続けていたのだ。勿論旬に気付かれないように速攻電源は落としていたのだが。
通知を見ると「よくもやってくれたな」だの「早く電話に出なさい」やら最後の方には罵詈雑言が並んでいて先ほどとは違う笑いが込み上げてくる。

「詰めが甘いのが悪いんだよ、っと」

既読を付けた瞬間から怒涛の様にかけてこられる電話を全て無視してメッセージだけ送る。あとは2人を一時的にブロックしておいた。
どうせ明日には会議で顔を突き合わせるんだから良いだろう。この楽しい気分をぶち壊されたくねえしな。

「明日は旬も来るし見せつけてやろうかね」

そうしてご機嫌なままスマホを部屋に放り投げて、部屋の電気を消した。















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