黒須×旬

リビングのソファで寛いでいる圭介さんの元へ近付き、ポスン、と隣に座って寄りかかる

「?なんだ、珍しいな旬から来るなんて」

嬉しそうに引き寄せる圭介さんに逆らわず、寧ろ更に身体ごともっと擦り寄せた。

「旬?どうした?何かあったか?」

いつもと態度の違う俺に直ぐに気付き、心配そうに覗き込む圭介さん。直ぐに気付いてくれるのは嬉しいのだが聞いて欲しいわけじゃない、とそっと首を振る。

「…なんでもない」

「なんでもなくねえだろ。…何があった?」

「なんにもない」

そう言って擦り寄るだけでなく腕を組むように掴んで更に密着する。

***

珍しい旬の態度に戸惑いつつも、言いたくないというのならば本人が言うまで待つと決めて、まずはこの体制をなんとかするか、と旬に話しかける

「旬、腕じゃなくてこっちにしろ」

引っ張りあげて、向かい合うように膝の上に乗せる。いつも思うが、白川よりも力があるくせになんで軽いんだ?…まあ筋肉の付いた旬というのも嫌だからこのままで良いとは思っているが、不思議でしょうがない。

「重いだろ」

「お前くらいじゃ軽いもんだ。S級舐めるなよ。ほら、甘えたいんだろ?」

「…うん」

やはりおかしい。いつもならばここら辺で顔を真っ赤にして照れ隠しに怒り始めるのに素直に首に手を回し、肩に頭を預けるように抱き着いてきた。

「キスもいるか?」

ここまで言ったら流石に怒られるだろうなと思いながらも耳元で巫山戯て提案してみたのだが、旬の答えは予想を裏切ったもので。

「いる。…して」

「…仰せのままに」

「んッ…ふ、ンん、っは、ぁ…んんっ、ン、む…ッ…ぁ…は、ぁ…」

「旬、本当に何があった?」

「なんでも無い。けど…もう少し、くっついてて良い?」

「良いぜ。好きなだけこうしていてやるから」

頭を撫でながら時折口付けを送り、黙って待っているとくたりと体重をかけたまま小さく話し始めた。

「今日…E級時代の顔見知りに声、かけられて…」

「ああ」

「まるで俺と親しかったみたいにベタベタ触って来たんだけど…昔その人に突き飛ばされたり、愚図とか雑魚、とか言われてた…から…」

何がどうこうって訳じゃないんだけど、あの頃の俺の無力さを思い出してなんだか嫌になって…と続ける旬に等級が無かった時代から強いと称されてきた俺が言える事はきっと無くて。だからこそ言い渋っていたのだろうと察しはついた。

それにしても、E級時代の話を旬から直接聞いたのは初めてだ。話してくれるだけの信頼を得られた事に対する喜びはあるが、内容がよろしくない。
ましてや旬を傷付けた原因であるその顔見知りとやらを殺してやりたいという気持ちが湧いてくる。

「旬。最初からS級の俺に何かを言われても嫌だと思うが聞いてくれるか?」

「…うん」

「そんな奴らの言葉に耳を傾ける必要はねえ。今のお前は国家権力級のS級なんだから無力とは無縁だろ?黙って胸張っとけ。…勿論過去のお前が傷付いたのは間違いないだろうが、それだってお前が悪い訳じゃない。何よりも再覚醒したからと擦り寄ってくる下衆な人間のせいで俺の旬が落ち込む姿を見たくねえ」

本当はそんな奴俺が殺してやりたいところだけどな、と続けると旬が更に強く抱き締めてきて。

「別に、そいつはどうでも良くて…傷付いたとかじゃないんだ」

「ああ」

「でも、偶に考える。またE級に戻ったらどうしたらいいんだろうって」

成程。根本の不安はそれか。
けれどそれなら解決方法は簡単で。

「戻ったって良いじゃねえか」

「え?」

「有り得ないだろうが、もし旬がE級に戻ったら俺がお前の守りたいものごと全部守ってやる」

俺がそう言うと抱き着いていた身体を少し離し、目をぱちぱちと瞬かせて俺を見詰めてくる。その表情が年齢以上に幼くてつい笑ってしまった。

「なんて顔してんだよ」

「…俺が、E級になっても?」

「ああ」

「圭介さんは知らないだろうけど、E級の時の俺本当に何も出来なかったんだ」

「ああ」

「…価値、も…ない」

「馬鹿だなーお前は。惚れてる相手に価値も何も必要無いだろ?旬は俺がS級じゃ無くなったら嫌うのか?」

「っ、そんな訳ないだろ」

「そうだろ?さっき話した擦り寄ってきたって人間みたいな真似をお前がする訳無いし、俺もしねえ。…ちゃんと守ってやる。だから安心しろ」

へたりと眉を下げて不安げに俺を見る旬を安心させるようにキスをする。

「んぅっ、ん…ッん、は、ぁ…ん、んんッ…ふ…んっ…はぁ…」

「…寧ろ戻った方が俺だけのものとして大事に抱え込めるから良いかもな」

「…S級の俺は抱え込んでくれないのか?」

そう言うとギュッと1度抱きついてからようやく悩みが晴れたような顔をして微笑む旬にひとつ笑って言葉を返す。

「して良いなら今すぐにでも抱え込むぜ?」

「…して」

「手加減はしねえからな」

今日はもう最後まで甘えるつもりなのか再び擦り寄ってくる旬を抱き上げ、寝室へと連れていく。

***

翌日。
甘えた事への羞恥心が限界を迎えたのか布団を被って顔すら見せない旬を宥めるのにかなりの時間を費やしたのだった。








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