白川×旬
S級ハンターとしての再覚醒を受けた水篠旬。あの日は偶然にもマスコミが集まり過ぎていたせいで逃げられてしまったが、どうしても勧誘をしたくて宍戸課長から貰った電話をかけること7回。ようやく繋がった。
『…はい。どなたですか?何回もかかってきているのでもしかして番号を間違えられて…』
「水篠ハンターですね?白虎ギルドの白川大虎です。何度もおかけしてしまい申し訳ございません」
『どうして番号を…ああ、宍戸課長ですか』
「ええ。水篠ハンターの許可も得ずに申し訳ございません。…先日のレッドゲートでは大変失礼を致しました」
『…いえ、俺もあの時は失礼しました。ご用件はそれだけですか?俺は気にしていませんので。それだけでしたら失礼します』
今直ぐにでも切られてしまいそうな雰囲気に急いで要件を伝える。
「っ!いえ、きちんとお詫びをしたいので、一度お会いすることは出来ないでしょうか?」
『俺は気にしていませんから。…失礼します』
容赦なくブツっと切られた電話にため息を吐く。やはり一筋縄ではいかないか…。だがこちらもそう簡単に勧誘を諦める気は無い。その後も毎日最低一回は電話をかけて誘いをしていると段々と雑に断られるようになってきた。
『…白川ハンター、失礼ですがしつこいです』
「承知しています。ですが一度だけでもお会い頂けないでしょうか」
『………はぁ…わかりました。一度だけお会いします。でも直ぐに帰りますからね』
「!構いません。それではいつなら宜しいでしょうか」
『いつでも』
「では明日の午後は如何ですか」
『構いません』
「有難う御座います。それでは明日、迎えに参ります」
『はぁ…わかりました』
ひらすら断られることを続け、11回目にしてようやく了承を得ることが出来た。
相も変わらずそっけないというか取り付く島もない様子ではあるが、会って会話が出来るだけチャンスはあると前向きに考え、明日に向けて店の手配をする。
…そういえば水篠ハンターの好みも何も知らないな…そう考えて好みを尋ねるために今宮ハンターと宍戸課長を呼び出した。
***
水篠ハンターの家の前へ車を停め、連絡をしようとした瞬間、水篠ハンターが階段を降りてきた。
「水篠ハンター、本日は承諾頂き有難う御座います」
「…これ以上電話がかかってくるのも困るので」
なんとも不愛想な返事に一瞬苛立ちが過ぎってしまったが、水篠ハンターの立場に立って考えてみれば無礼を働いた人間が更に電話をかけ続けてきては不愛想にもなるか、と感情を鎮める。
思考を切り替えて助手席を開けて乗る様に促すと、素直に礼を言って乗って来たので今宮ハンターの言うように悪い人間では無いのだろう。
ただ、今の自分への態度を見てもわかる通りに持たれている印象は良くないだろう。勧誘する前に挽回しなければならないと気を引き締めて店へと向かう。
***
「どうぞ」
「有難う御座います」
店に着くまでまるで会話が進まなかった…元々俺自身が口が回る方では無いのは理解しているが、この様子ではたとえ口の上手い最上や黒須でも苦労するだろう。
個室へと通され、座ってようやく一息ついた。
「今宮ハンターからの話ですとアレルギーなどはないと聞きましたのでこちらでメニューは決めてしまいましたが大丈夫でしたか?」
「はい。嫌いなものもありませんので」
「それならば良かったです」
「…」
「…」
食事が来るまでの間、無言の時間が流れる。
向坂ハンターとも一度話をしたことがあるが、あちらはまだ会話の内容に迷い、戸惑っているという表情を表に出していたのでこちらから話を振れば簡潔ながらも返事は返ってきていたのだが…水篠ハンターはどう思っているのかまるで読めない。最近の20代は皆こうなのか…?
そんな事を考えている間に食事が運ばれてきた。従業員が下がると、水篠ハンターが口を開く。
「白川ハンターは勧誘の為に俺を呼んだんですか」
「本日は勧誘を考えてはいません。勿論興味を持って頂ければ嬉しく思いますが。最初にお伝えした通り一番は先日の非礼を詫びる為です」
余りに裏表の無いストレートな質問に苦笑してしまう。これは腹芸など絶対にしないタイプだな。
そして食事の前に本来の要件を先に済ませてしまおうと、立ち上がり頭を下げる。
「改めまして、先日はレッドゲートから我がギルド員を助けて頂いたにも関わらず失礼な行動を取り申し訳ございませんでした。水篠ハンターのお陰で全滅を免れた事、感謝します」
「えっ…頭を上げてください。俺も失礼な態度を取ってすみませんでした。…その、疲れと未成年を連れていたこともあって早く帰そうと思って…」
頭を上げると今度は水篠ハンターが頭を下げた。
そう言われて一緒に居たE級の女性を思い出す。思い返せば確かに幼かったが未成年だったのか。それでは確かに早く連れて帰ろうと思うのは当然だろう、とあの時の不機嫌さに納得をする。
「頭を上げてください。こちらの配慮不足で申し訳ございませんでした。…しかしなぜ未成年のハンターと共に?」
「あー…妹の同級生で…」
そう言って事情を説明してくれる水篠ハンター。
成程。確かにE級が学校も行かずにハンターの仕事一本でやっていくのは無謀の極みだろう。それにしてもそのために宍戸課長に頼んで見学に来るとは…そういえば行動を共にしているD級の諸菱ハンターも年下だったな。意外と面倒見が良いのか?
「水篠ハンターは面倒見が良いんですね」
「えっ」
思ったことをそのまま話すと目を瞬かせる水篠ハンター。初めて表情らしい表情が見えた気がするな。
「…何か失礼なことを言ったでしょうか?」
「いえ…その…家族以外に言われたのが初めてだったので…周りに対して愛想が無い自覚はありますし」
「いえ、そのようなことは…」
無い、とは決して言えない。実際不愛想だと自分も思っているし、今日ここに来るまでも会話が弾んだり表情を変えたことも無いのだから。
「ふっ、ふふ。白川ハンターは素直な人ですね。そう思ってるって顔してますよ」
俺が言い淀む様子を見てくすくすと笑う水篠ハンター。
その笑みを見た瞬間、何かが自分の胸に刺さった気がして水篠ハンターをじっと見つめる。
「…?白川ハンター?」
「あっ…いえ。…ギルドマスターとしてなるべく表情には出さないようにはしてはいるのですが」
じっと見つめていると不審に思ったのか水篠ハンターが軽く首を傾げて問いかける。不審に思われる行動は控えなければ。
「ああ、確かにあの日も直ぐ冷静さを取り戻されていましたからね」
「ええ、ギルドマスターとして取り乱しては部下に示しがつきませんから」
「そうですか。…ああ、部下といえば…」
「宍戸が何か粗相でも?」
「いえ、宍戸課長では無くもう一人…吉田さん?が何故か手作りのスムージーを差し入れて下さるんですが、あれも白虎ギルドの勧誘の一種なんですか?」
「んぐっ!…し、失礼しました」
合間に飲んでいた水を吹き出しそうになった。なんだそれは。一体何をしているんだ!?というかそんな勧誘方法があってたまるか!揶揄われているのかと顔を見ても首を傾げられるだけで本気で聞いているのがわかり脱力してしまう。
「それは恐らく吉田本人の趣味、というか独断行動ですね。…ご迷惑をお掛けして申し訳ございません」
正直そんなバカみたいなことで頭を下げたくはないのだが、知らない人間から手作りのスムージーなど嫌がらせと捉えられてもおかしくはない。悪印象を与える前に個人の仕業として片づけなければ。
「え?あ、いや。普通に美味しいと思って頂いているのでそれはいいんですが。ただそんな勧誘方法があるのかなと思っただけで…」
「…水篠ハンター。失礼ですが親しくない人間から貰ったものを口に入れるのは如何なものかと」
「?美味しければいいんじゃないでしょうか」
レッドゲートではあんなに殺伐とした雰囲気を纏っていたくせに、危機感が死んでいるのだろうか?
掴みどころの無い人だな、と思うがまあ悪印象としてとらえられていないのならばいいかと会話を諦める。
「…水篠ハンターが良いのならば、良いのですが。ただ断じて白虎ギルドの勧誘方法ではない事だけはご理解ください」
「?わかりました」
「はぁ。…少し話過ぎましたね。食事が冷めてしまう前に食べましょうか」
「そうですね。…頂きます」
その後はゆっくりと食事をしながら会話をする。
相変わらず簡素な返事ばかりではあるが、最初の車内よりは表情を表に出し、多少は水篠ハンターからも会話を返してくれるようになったのは大分進歩であるといっても良いだろう。
そして双方ともに同じタイミングで食事を終えた。
「ご馳走様でした。…美味しかったです」
「ご馳走でした。口に合ったのでしたら良かったです。…水篠ハンター」
「はい。勧誘でしたら、」
「また食事に誘っても良いでしょうか?」
言いかけた言葉を遮り次回への誘いを口にする。
会話をしてみれば不愛想な態度の割に意外と考えは捻くれておらず、寧ろ素直。天然なところもあるが悪人ではない。そう気付いてからは勧誘も勿論大事だが、純粋にもう少し親しくなりたいと思っている自分がいた。
「…多分、俺は白虎ギルドに入りませんよ」
「それでも構いません」
「…白川ハンターって変わってるんですね。…いいですよ。空いていればまたお付き合いします」
クスリと俺に向けて笑顔を見せた水篠ハンターを見た瞬間、何故先程胸に何かが刺さった感覚がしたのか、親しくなりたいと思ったのか気がついてしまった。
「(まさか一回り以上歳下の、ましてや男に惚れる日が来るとは…)」
先ずは親しくなる事を目標としよう。ここまで来てようやく警戒を少し解いて貰った程度なのだから。
前代未聞の出来事を前にしても俺の頭は、どんな形であれこの男を手に入れようと冷静に決意していた。