最上×旬

「…では次に今年のクリスマスイベントについてですが…」

「ああ、もうそんな時期ですか」

「1年って早いよなぁ…」

「…去年は相当な無茶振りをされましたね」

会議も終盤になったところで会長がこの場に似つかわしく無い言葉を口に出したので首を傾げてしまう。

「クリスマスイベント?」

「ああ、水篠ハンターは参加したことがありませんからね。説明不足で申し訳ありません。…ハンターという職業に休みはありませんが、少しでも家族と過ごしたり何かしらの楽しみがあった方がいいと考え、毎年12月25日には協会職員と大型ギルドの力を借りてバザーやちょっとしたプレゼントの配布等をしているんです」

「因みに去年はサンタのコスプレをした我々を見つけられたら握手かつサインが貰える、というイベントでファンから追いかけ回され酷い目に合いましたので、水篠ハンターは参加される場合内容をしっかりと聞いてからの方が良いですよ」

会長の説明に成程、チャリティーイベントのような物かと納得は出来たのだがその後に続いた白川ハンターの言葉で参加はよく考えてからにしようと決めた。

「まあとはいえ白川ハンターが目立ってくれたお陰で俺と最上ハンターはちびっ子の対応に追われたくらいだけどな」

「ええ、無駄に高い身長が大層役に立たれていましたね」

「…おい、ちょっと待て。お前ら2人とも去年女性に追いかけ回されて大変だったと言っていただろう」

「あ、やべ。言っちまった」

「そういえばそんな設定にして誤魔化しましたね」

「あれは嘘か!!お前ら…!!」

何やら揉め始めた3人をちらりと見て苦笑しながら会長が説明を続ける。

「今年は水篠ハンターにも是非ご協力を頂きたいと思っております。内容は毎年差程変わりはありませんが、白川ハンターの仰った通りS級ハンターが何かをしてくれる、となると大変な事態になると去年学びましたので今年は少々企画を変更致しました。…皆さんのご意見次第で変更も可能ですので一度耳を傾けて頂いても宜しいでしょうか?」

会長がそう言うと言い争っていた(というか白川ハンターが2人に苦情を入れていただけだが)3人がこちらを向く。

「今年は例年通りサンタの格好をして頂き、皆さんには一度挨拶をして頂いた後、規定の場所でお菓子の配布と握手を行って頂きたい。そして前回の反省を踏まえ対象は中学生以下の子供のみ。おひとり100人まで対応頂き、他のS級ハンターの列への並び直しも無しと考えております」

「バラバラに動くより1箇所に俺らを纏めとくって事か」

「それならば問題は無いかと」

「そうですね。僕としても異論はありません」

「水篠ハンターはいかがでしょうか?」

話を振られ、少し考える。…一瞬家族と過ごすので断ろうかと思ったのだが、全員が参加をするようだしここで俺だけが断るというのもなんだか申し訳無い。
まあクリスマスイブに祝ってしまえば良いだけの話だしな、と結論付けて会長に向かって頷いた。

「参加します」

「有難う御座います。それでは詳細はまた後日打ち合わせを行わせて頂きますのでよろしくお願いいたします。…さて、本日はこれで全ての議題が終了となります。本日も有難う御座いました」

会長の礼の言葉と締めの挨拶を聞いてその場は解散となった。

***

その後もサンタ服の採寸やら当日のタイムスケジュールを何回か打ち合わせ、完璧に準備が完了したと思えばあっという間にクリスマスイブを迎えていた。

「そういえばさあ、お兄ちゃん明日はイベントなんでしょ?」

「ん?ああ、協会のな」

「恋人と過ごせなくない?今日家にいて良かったの?」

「!?ごふっ!げほっ!ごほっ!」

葵から爆弾発言をされて食べていたチキンを喉に詰まらせてしまった俺の背を母さんが軽く叩き飲み物を渡してくれる。

「あらあら、旬大丈夫?」

「やだお兄ちゃん吐き出さないでよー?」

「っげほ、っ、吐き出す訳無いだろ!っ、ごほっ…はぁ、葵が変なこと言うからだろ」

揶揄うように笑う葵を睨みつけるが、全く効いていないようでにやにやとしながら更に続けてきた。

「だってさぁ、付き合って初めてのクリスマスでしょ?あ、もしかしてイベントの後に会うとか!?」

「会う訳無いだろ!」

「嘘!?約束もしてないの!?ありえない!もう!お兄ちゃん明日泊ってきちゃいなよ!ね?お母さん!」

「馬鹿お前何言って…!」

俺が予定なんかないと言えば信じられないとでも言わんばかりに目を見開き、泊りの提案を勝手にする葵にそろそろ抓るか、と手を伸ばすと今度は母さんからの爆弾発言が待っていた。

「そうね、折角のクリスマスなんですもの。連絡が無ければ泊りだと思う事にするわね。頑張っていらっしゃい」

「母さんまで何言ってるんだよ!」

にこりと微笑んで何故か俺では無く葵の味方をする母さんにツッコむが、二人が組んで俺が口で勝てる訳も無く、結局連絡を入れなければ泊りだと思うからと押し切られてしまった。
そして食事を終えたあと、謎の疲労感でベッドへと倒れ込む。

「…そんなこと言ったって、忙しいに決まってる」

プレゼントは一応用意したけれど、どうせ誘われてもいないし明日は寂しく帰ってくるのだとほんの少しの寂しさを抱え、眠りについた。

***

そしてイベント当日。
それぞれが横並びに座り、子供たちにお菓子を配っていたのだが、俺の席だけ他の人達と少々毛色が違っていて…。

「みずしのはんたー!けっこんしてください!」

「ぼくのおよめさんになって!」

「あの、あと少しで私16になるので!お付き合いしてください!」

「…っ、ほ、本気です!俺と付き合ってください!一生大事にします!」

etc.
何故か来る子供達の半数以上が握手をしながらお付き合いや結婚の申し込みをしていく。…いや、なんでだよ!
最初は横目で笑っていた協会職員や会長、犬飼課長、ギルマス達も半分が過ぎるにつれ引き攣った顔をこちらに向けるようになった。
その後も求婚は続き…ようやく終了を伝えられた時には俺は机に突っ伏してぐったりとしていた。

「以上で終了となります。皆さんご協力ありがとうございます。お疲れ様でした」

会長の言葉にようやく終わったと顔を上げる。

「…会長、俺今日はもう帰っても大丈夫ですか」

「ええ、勿論です。…水篠ハンターの人気は凄まじかったですね。お疲れ様でした」

苦笑しながら告げられた了承の言葉に軽く頷いて席を立つ。そうしてまずは着替えようと足早に会場を歩いていると後ろから呼び止められた。

「水篠ハンター」

***


「最上ハンター?」

「置いていくなんて酷いじゃないですか。さ、行きましょう」

「え?」

「この後は恋人同士の時間でしょう?」

「!?な、何言って…!」

呼び止められたと思えば当たり前のように肩を抱かれ、隣を歩く。
そして此方からすれば突拍子もない発言をしているのは真さんの方なのに、何故か俺が意味の分からないことを言っているかのように首を傾げられているが、急に恋人の時間だなんて言われたって…!

「…まさか旬…こっちに来なさい」

「えっ、な、何?」

何かに気付いたかのような顔をした真さんが俺の手を引いて手近なドアを開け、会議室へと入り込んだ。

「はぁ…旬。一応確認します。僕とクリスマスを過ごす気はありますか?」

「っえ!…え、と…」

「返答を早く。【はい】か【いいえ】のみで答えて下さい」

いきなりの質問に戸惑い、言い淀んでいるとイライラしたように軽くつま先を鳴らして答えを急かしてきた。

「あ、ある…けど…誘われてないし…」

「はぁ〜…本当に貴方は…!誘わなくてもわかるでしょう!僕は恋人とのイベントを蔑ろにするほど甲斐性なしではありませんよ!」

俺の返答に、信じられない!と言わんばかりな驚愕の表情を浮かべた真さんが捲し立てて来るが、そんなのわかるわけないだろ!と言い返したいのをぐっと我慢して聞き返す。

「そ、そうなの…?」

「…僕の事を甲斐性なしだと思っていたんですか」

「ち、違うけど…そもそも誘われないとわからないだろ!」

ジト目で言われた言葉に、我慢が出来なくなって先ほど思ったことを言い返す。

「なんでわからないんですか!こっちは貴方と過ごす為に2ヶ月前からスケジュールも完璧に調整してディナーも部屋も取ってあるんですよ!」

「えっ…真さん、そんなに俺とクリスマス過ごしたいと思ってくれてたわけ…?」

正直誘われていないのだから真さんの訴えは逆切れに等しいと思っているのだけれど、言われた言葉が気になって。…2ヶ月も前から俺と過ごそうって考えてたのか?

「………悪いんですか」

俺がツッコむと先ほどの勢いが一気に消え去って、バツが悪そうに目線を逸らす真さんがなんだか可愛く見えてしまって、此方も正直な気持ちを伝えてやるか、と笑みを零した。

「悪くない。……あのさ、忘れられてると思ってたから…嬉しい」

「ん゛ん゛っ!…そう、ですか。僕も鈍い貴方に予定を確認しなかった事は悪かったと思います。…では改めて誘います。この後の時間を僕に下さい」

「…はい」

なんだか一瞬貶された様な気もするが、折角のクリスマスだから許してやろうと頷いて、共に会議室を出た。

***

「旬。クリスマスプレゼントです」

旬がまさかクリスマスを共に過ごす事を考えもしていなかった事に気が付いた時はどうするかと思ったが、何とか予定通り食事を済ませ、ホテルの一室へと来ることが出来て安堵した。
全く…鈍いのはわかっていましたがここまでとは…こうも鈍いとなると今後は下手にサプライズを用意しない方がいいのかもしれないと旬に箱を差し出しながら考える。

「ありがとう。…開けていい?」

「ええ、開けてみて下さい」

大事そうに両手で受け取り、開封した中身を見て不思議そうに目を瞬かせる旬に内心クスリと笑う。余程自分に縁が無い物だと思っているのだろうか。

「…ペンダント?」

「あなたは洒落っ気が一切ありませんからね。シンプルな物なのでフォーマルな場でも日常でも使って問題ありません。…つけてあげますので後ろを向いてください」

「うん」

素直に後ろを向いた旬にペンダントを付けてやりながら、選んだ理由を話す。

「…贈り物には意味があるのをきっと旬は知らないでしょう?」

「確かに知らないけど、なんかその言い方馬鹿にしてる?」

「していませんよ。そもそも僕から贈られるもの以外に意味なんてありませんから考えなくて良いです」

振り返ってムスッとした顔を向けてくる旬の頬を軽くつついて笑う。そう、僕以外から贈られるものに意味なんて見出さなくていい。本当は受け取ってすら欲しくないけれど、それを言葉に出すことは出来ないから、ペンダントに意味を込めた。

「…これには意味があるってこと?」

「勿論。…ペンダントの意味は【束縛】です。…貴方がどこにも行かないように、ずっと僕の元に居るように、と」

ペンダントの留め具を嵌め、うなじにひとつキスをして所有印を押すかのように痕を付ける。

「っん…!…そく、ばく…?」

「ええ。僕は自分が束縛されるのは嫌いでしたが、縛りつけたがる側の気持ちが最近ようやくわかりました。…旬、ずっとつけていてくれますか?」

祈るような気持ちで旬を後ろから抱き締める。暫く黙っているものだから、流石に重いと思われただろうかと焦ったが、そっと手を握られて。

「…いいよ。その代わり、俺もクリスマスプレゼント変更する。今日は無理だけど、真さんにペンダント渡すから…つけてて」

「それは…まさか旬も僕を束縛したいと言っていますか?」

「………ん」

旬の口から思いもよらない言葉を伝えられて、僕の都合の解釈でないかと思って確認すれば恥ずかしそうに頷かれ、歓喜の感情が溢れ出しているがひとつだけ納得出来ないことがある。

「一生つけることを約束しますが、プレゼント変更は受け付けません。それは別の機会にください」

「え、なんで?」

「元々用意してあったプレゼントがあるのならそれも欲しいに決まっているでしょう。さ、出してください」

そう、何を旬は言っているのか。ペンダントをくれるというのならば喜んで貰うが、元々贈られる予定の物があるのならばそれはそれで欲しいに決まっているでしょう。旬の身体をくるりとこちらへ向き直させて強請る。

「や、やだ。俺ペンダント用意するから…!」

「早く出さないとマスコミ呼びつけて衆人環視の前でキスしますよ」

「な、なんの脅しだよ!……本当に大したものじゃないんだけど」

遠慮がちに言うが、旬から貰うもので嬉しくないものなど無いに決まっている。…まあセンスは別にして、どんなものでも気持ちが嬉しいのだから大人しく出せと手を差し出した。


「構いません。出してください」

「…これ」

「封筒?…中身は…白紙なんですが?はぁ…旬。この期に及んで往生際が悪いですよ」

しぶしぶ差し出してきた箔押しがされている封筒を開けてみれば白紙の紙しか入っておらず、諦めの悪さに溜息を吐いたのだが、どうやら違ったようで。

「違うって!それがプレゼント!好きに書けって事!」

「!…なんでも良いんですか?」

「俺が出来る範囲かつ長期じゃないなら良い」

「何が大したことないプレゼントなんですか。僕のペンダントよりも余程、いえ…今まで貰った中で一番良いものでしょう」

本当に何が大した事は無い、だ。僕だからくれたのだとわかってはいるが、これを貰えるのならば冗談抜きに世界中で争奪戦が起こるレベルの物だろう。

「…本当に?」

「ええ。…今書いても?」

「うん」

嬉しそうにする旬が可愛らしい。叶えて欲しい事、旬と共にしたいことは山ほどあるが折角のクリスマスなのだから。どうせならば飛び切りを貰おうと、一文を書いて旬に差し出した。

「では………これで」

【僕への好意を全て言葉にして伝えて下さい】

「え…これって…」

見た瞬間赤く染まった旬に、何時まで経っても初心なものだと笑みが浮かぶ。こなれた旬も見たいが、もうしばらくはこの初心な姿を見せていて欲しいとも思う。

「旬は普段素直ではありませんからね。言葉で僕に伝えてみて下さい」

「…条件つけても良い?」

「聞くだけ聞きましょう」

「…後ろ向いて、言い終わって俺が良いって言うまで振り向かないで」

「…まあそのくらいなら良いでしょう。ではお願いします」

最悪断られる位までを想定していたのだが、そのくらいで了承してくれるというのならば問題は無い。

「え、今!?」

「そうですよ。さ、後ろ向きましたから早くして下さい」

「………」

内心浮かれながら背を向けて待っていると後ろから旬の腕が伸びてきて、ぎゅっと抱きつかれ、吐息が耳元にかかる。

「!」

「ふ、振り向くなよ!?……ちょっと意地悪だけど優しいところが好き。今日だって、いつもだって俺の事考えてくれているのもわかってる。俺と違って真さんはハンタースの代表として忙しいのに、こうして時間作ってくれるのも凄く嬉しい。プレゼントも嬉しかった。…真さんになら束縛されてもいいし、俺もしたいって、思ってる。…あ、のさ、真さんからの愛情は全部、嬉しい。…その、いつも恥ずかしくて言えないけど、大好き。愛してる、っん!?ん、んぅ…ふ、ぁ…んむっ、ッぁ…はぁ」

耳元で囁かれる愛情の籠った言葉に、堪え切れずに旬の唇に噛みつくようにキスをする。

「はぁ…熱烈ですね」

「振り向くなって言ったのに…!そもそもあんたが言えって言ったんだろ!?って…真っ赤」

「うるさいですよ」

「え、耳まで」

「うるさいって言ってるんですよ!」

にやにやと笑い始めた旬を𠮟りつける。こんなにもストレートに愛情表現をされたことなんて今まで無かったんだから仕方が無いでしょう!?…くそ、付き合いたての子供ではあるまいし、こんな醜態を晒すなんて…。
けれどそういう旬も顔を覗き込めば真っ赤に染まっていて、少しだけ溜飲が下がる。

「っふ、ふふ…!照れた?」

「黙りなさい。貴方も耳まで真っ赤でしょう」

「…うるさいな」

「…愛していますよ、旬」

「………ん」

言葉への返答には足りないかもしれないけれど、抱き締めて微笑めば返ってきたのは触れるだけのキスで。

「っ、」

「いつもの最上ハンターも…俺の真さんも…ちゃんと全部愛してるよ」














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