最上×旬
初めて見た時、ハンタースをさらに大きなギルドへする為にS級が欲しいのだとギルドマスターとしての所有欲もあったが、純粋にその存在を自分のモノにしたいと強く願ったことを憶えている。
***
「外園ハンター。今日お時間ありますか」
「最上代表。…はい、大丈夫です」
「助かります。それではいつもの店で」
「…はい」
歯切れが悪い外園の事を気にせず去っていく最上代表の背中を恨めしい目で見つめる。
しっかりと去ったのを確認した後机に突っ伏した。
「外園ハンター可哀想。また水篠ハンターに断られたって愚痴に付き合わされるんだ…」
「毎回断られているのに代表も懲りませんね」
「諦めた方がいいんじゃないかしら…」
突っ伏している外園の周りを早手、藤崎、向坂の三人が囲みながら好き勝手に話す。
「最上代表のアピールが下手くそなんですよ…もう毎回付き合わされる身にもなって欲しいです」
「噂ですが、白川ハンターと黒須ハンターにも聞いて貰っているらしいです」
「それは聞きたくなかったです」
ただでさえ毎回の代表の絡みに疲弊しきっている中、真面目な外園は藤崎の言葉にうちの代表が世話をかけて申し訳御座いません、という気持ちまで持ってしまった。
———最上真は水篠旬に惚れている
これはハンタースのみならず協会や他ギルド等、最上代表と親しい人達からすると周知の事実である。
また、同時にいつまでたっても進展しないのも皆知っている。
というのも最上代表がアピールの仕方を間違えすぎてて水篠ハンターに一遍たりとも好意が伝わっていないのだ。
この前見たシーンを思い返してみてもあれは無いとわかる。
***
「おや、水篠ハンターこんにちは」
「…最上ハンター、と外園ハンター?こんにちは。お久しぶりです」
「お久しぶりです」
「丁度良かった。水篠ハンター今お時間ありますか?折角ですのでどこかで食事をしながらお話でも如何でしょうか?」
言いながら近づき腰を抱こうとする最上代表を水篠ハンターがさっと避ける。
「…すみませんが予定があるので。では」
簡潔極まりない言葉で断り、足早に居なくなる水篠ハンター。
「外園ハンター…今のは一体何が悪かったのでしょうか」
全部だよ!と叫びたいのをグッと我慢する。
なんでそんな最初からワンナイト狙いのような動きをするんですか!?警戒されて当然でしょう!
呆然と眺める最上代表を見ていられず、最早天を仰ぐしかなかった。
***
そんな間違ったアピールばかりしているから水篠ハンターに相手をされないのだと呆れた眼差しを隣でやけ酒を呷る最上代表に向ける。
「聞いているんですか外園ハンター!何故水篠ハンターは一向に僕と食事にすら行ってくれないんです!?こんなに誘っているのに。…やはり嫌われているんでしょうか…?僕は一体どうしたら…」
正直物凄く面倒だ。最初は勢いよく話しているのに最上代表はこうして後半になってくると中々にネガティブな事をぐずぐずと言い始める。
「あー、まあ水篠ハンターも忙しいんですよきっと」
「忙しいのは知っています。ですが一度くらいは食事に付き合ってくれても良いと思いませんか?…こんなに惚れているとアピールしているのに…どうして…やっぱり初対面の態度が悪かったんですね…」
それを素直に言えば気持ちを無下にする方ではないと思うので一回ぐらい食事には行ってもらえると思うのだが、どうして素面になるとあんなにも駄目になるのだろうか。
その後もぐだぐだと水篠ハンターのどこが可愛いだとか綺麗だとか結局全部が好きだとか話し続ける最上代表を適当にいなし、部屋まで送り届けた。
…最近誘いの頻度も上がってきて正直限界なので明日同じように被害に合っているらしい黒須ハンターや白川ハンターに相談してみようと決めた。
***
「と、言う訳で僕も限界でして…何かいい案は無いものでしょうか」
ハンター協会の一室を借りて黒須ハンターと白川ハンターに相談する。
本来他所のギルドマスターに相談なんてとんでもない行為だが、ハンター協会の人に最上代表と水篠ハンターの事で相談したい、と言ったら直ぐに繋ぎを付けてくれた。
「それなぁー…俺らもしょっちゅう呼び出されて絡み酒されてるからどうにかしなきゃとは思ってたんだが…なあ?」
「ああ。流石にそろそろ限界だからな…」
「あの、うちの代表がすみません」
「いや、別に悪いのは最上だけだから謝らなくていいけどな。…もういっそ告白させる前に水篠ハンターに全部暴露するか」
黒須ハンターが苦笑しながらとんでもない案を出してきた。
「そっ、それは流石に拙いのでは?」
「いや、最上の事だからこのままじゃ自分が悪手を重ねていくことに気付かないし寧ろムキになって更に酷い事になる可能性が高い。その前に片づけてしまうというのは存外悪くないかもしれん」
「だろ?そうと決まれば早い方が良いよな。水篠ハンターに電話するわ」
白川ハンターからの同意を得ると、止める間もなく黒須ハンターが電話をかけ始め、約束を取り付けてしまった。
「これで良し、っと。来週時間貰ったから、もう全部暴露してやろうぜ」
「今日も飲みに行くし録音でもするか」
「お、それいいな!」
楽しくなってきた、と言わんばかりに計画を立てるお二人に、相談する相手を間違えただろうか、と少し後悔をした。
***
「だから!こんなにも僕は水篠ハンターに惚れているのになんで食事すら断られるんですか!?」
「おーおー、可哀想になー」
「忙しいだけだろう」
「それは外園ハンターにも言われましたが、それにしても1回くらい付き合ってくれても良いでしょう…!どうして…」
良い感じに酔いが加速してきた最上を見てそろそろ頃合かとそっとレコーダーを起動して黒須とアイコンタクトを取る。
「なあ、最上。水篠ハンターのどこに惚れたんだ?」
「…は?なんですか今更。全部ですよ。一目見た瞬間に欲しくなったんです。あの綺麗な顔も身体も心も全部。
…まあ、最初は見た目が好みだったというのが先行していましたが、見ているうちに意外と抜けているところが可愛いとか、身内に対して愛情深いところだとかそういった内面の良さにも惚れたんです。…1度だけ、恐らく妹さんに電話をしている所を見掛けた事があるんですが、とても柔らかい表情をしていて…あの顔を僕にも向けて欲しいと思うのに…なのに…それなのにどうして誘いひとつ受けてくれないんですか…!!こんなに好きなのに僕そんなに嫌われる事しましたか!?」
***
「………と、言う事です」
後日水篠ハンターを協会に呼び出し、最上の熱烈な告白を聞かせると固まってしまった。
「…水篠ハンター?」
もしかして失恋確定か?と少し焦ったが続く言葉を聞いてどうやら違うようだと安心する
「…なん、なんなんですかあの人!?絶対俺を懐柔しようとかそういう打算で誘ってきてたと思ったのに…!す、すきだとか…!」
打算はあながち間違いでも無いが、そこに潜む下心に気付いていない時点で水篠ハンターも大分鈍いな、と思う。
普通あの最上が胡散臭い笑みで近付いて来た挙句、腰を抱こうとしたり耳元で囁いてきたらそういう誘いを受けてると思うだろう。
警戒の方向がそもそも違っていたのでは手遅れになる前で良かった。気の強い水篠の事だ、もし食事に行って途中でそういう誘いだと気付いたら最上は取り返しの付かない失態をすることになっていただろう。その前に手を打ってやったんだから感謝して欲しい。
そしてなんなんだと怒りながらも真っ赤になっている水篠を見てもしかして脈アリか?と黒須の方を見ると頷くのでもうひとつの計画をそのまま進めることにする。
気付かれないように外園ハンターに連絡を入れると既に準備は出来ているとの返事が返ってきた。
「水篠ハンター。まあ聞いた通りの訳なんだ。自分達が言うのもお節介極まりねえんだけど、最上が完全に不器用過ぎるだけで、悪意はまるでゼロって事だけわかってやってくれ」
「まあ、その…わかりました。俺も疑って全部断ったのは悪かったとは思います」
黒須の言葉に真っ赤になりながらも反省をする水篠ハンターの頭を黒須と共にわしゃわしゃと撫で回す。
「水篠ハンターは気にせずとも良いんです。そもそも最上ハンターが悪いのですから」
「そうそう、気にすんな。そもそもあいつが悪い……なあ最上?」
黒須が話しながらドアを開けると去ろうとしている体制で固まっている最上と腕をつかんだ状態で困った顔をしている外園ハンターが顔を見せる。
「えっ!?最上ハンター!?どうして…!」
「悪いな、水篠ハンター。この最年長サマが情けなさ過ぎてちょっとお膳立てさせて貰った」
「最上、さっさと言え」
「最上代表。ここまで来たらもう流石に引けませんよ、頑張ってください…!」
驚く水篠には申し訳ないが、ここまでしないといつまで経っても進展しないし自分たちが被害にあうので外園ハンターと協力して最上を呼びつけ強制的に告白させることにしたのだ。
まあここで水篠が脈ナシの様子だったらせめて一回くらい食事に行ってやってくれと頼む程度で済まそうとしたのだが、反応を見るに問題がなさそうだったので直接言わせる事にした。
***
外園ハンターに協会に連れて来られた時点で何か怪しいとは思っていたのだが、まさか録音された挙句水篠ハンターに全て暴露されるとは思わなかった。
監視カメラで見せられ、内容を聞いた瞬間あの人たちは一体何を余計な事をしているのかと殴り込みに行こうとしたのを必死で止められ、続きを聞いて愕然とした。
「僕のアピールは打算だと思われていたんですか…?」
「代表…本気で欠片も気付いていなかったんですね」
外園ハンターの憐みの目が痛い。
そして黒須。好き放題言うな。誰が不器用ですか。
「さて、と。もう良いそうなので最上代表、行きましょうか」
「どこへですか?」
質問へ答えずに移動する外園ハンターに嫌な予感を覚えつつもついて行くと、ひとつの部屋の前で立ち止まる。中から聞き覚えのある声がした瞬間、プライドも何も捨てて身をひるがえし去ろうとしたのだが、それを見越していたのか瞬時に外園ハンターに腕を掴まれ、無情にもドアが開かれた。
そうして情け容赦もないお膳立てをされ、今僕は人生最大の窮地に立たされている
「…………」
「……………」
真っ赤な顔のまま見つめてくる水篠ハンターが可愛い。
そんな現実逃避をずっとしていたいが、他の人間からの早く言えと言わんばかりの目がうるさい。
こっちだってそんな簡単に言えたら苦労してないんですよ!と叫びだしたくなるのをぐっと我慢して息を吸う。
「……ぁ…あなたのことが、好きです」
馬鹿か僕は。もっと言える言葉があるだろう…!
自分の情けなさに顔を上げられなくなり両手で覆い隠す。すると覆った手のひらをそっと外され、恐る恐る見ると変わらず真っ赤な顔をした水篠ハンターが困ったように笑っていた。
「…最上ハンター、今まで勘違いしていてすみませんでした」
「っ、い、え。その、本当に好きなんです」
「っふふ、はい、聞きました」
焦ってもう一度告白してしまった自分に初めて水篠ハンターが笑いかけてくれて。
「…最上さんって結構だめな人ですね。俺以外ならきっと断ってましたよ?」
そう言って、仕方ないなあというようにあの欲しかった柔らかい笑みで頬に口付けられ、思考が完全に停止する。
「まずは食事からならいいですよ」
そう言って頬を赤くしながらもいたずらが成功したかのように笑う水篠に、惚れた方が負けという言葉を思い出す。
こうやって一生僕は水篠ハンターに情けない姿を晒してしまうんだろう。