最上×旬



最上は向坂へ後の指示を出し、処理を任せ機嫌良く応接室へ足を進めていた。

「こういう時、向坂ハンターがいるのは助かりますね。入りたての当初と違い実力が知れ渡っている今軋轢をおこすメンバーもいませんし随分と僕の仕事も楽になりました」

独り言を呟きながら応接室のドアを開ける。気配からして未だ水篠以外は来ていないようだ。

がちゃ

「お待たせしまし、」

すぅ…すぅ…

「水篠ハンター…?まさか寝ているんですか?」

話しかけても全く起きる素振りが無い。
気配に敏い普段の水篠ならばありえない事だと思い、顔を覗き込む距離まで詰めてみた。

「………本当に起きませんね」

S級ハンターがここまで起きないとなるとどこか悪いのでないかと心配になり脈拍を測ったりしてみるのだが触れても起きず、脈拍も正常なのでただ熟睡しているだけだと判断する。

「はぁ…こんな鍵もない部屋で無防備に寝ているんじゃありませんよ」

なにかあったらどうするんですか、と水篠の鼻先を摘まむ。

「む…?…んっ!!…」

眉間に皺を寄せて唸る水篠にようやく起きるかと思ったのだが、そのまま最上の手をぺっと払ってそっぽを向き、再びすやすやと寝始めたので流石の最上もイラっと来て少し痛い目を見せてやろうという大人げない考えが浮かぶ。

「…このガキ…」

優しく起こしてやろうと思ったが、止めた。あれで起きない方が悪い。
そっぽを向いた水篠の顔を掴み、此方へ向け直してキスをする。

「………ん、ん?んぅ、んぐ……ん!?…は!?ぁ、なにして、ぁっ、ンむっ、!?」

段々と呼吸が苦しくなってきたのかうっすら目を開け、キスをされている事に気付いて抗議しようと開いた口内へ遠慮無く舌を入れる。

「んぅ、ふぁっ、ん、はっ、ン、ふっぁ、や、も、がみはんた、なにしっ、んぅ、ぁ…っ!!」

「おはようございます水篠ハンター」

「!?!?なにしてんですか!?」

「貴方が起きないのでついうっかり」

真っ赤な顔で後退る水篠に溜飲を下げ、にこやかに告げると今の状況を思い出したのか今度は焦った顔になった。

「うっかり!?って、起きっ、!?…え?……俺、もしかして寝てました…?」

「ええ。それはもうぐっすりと」

「す、すみません!」

「話しかけても鼻をつまんでも起きないし、僕だから良かったですがこれが悪意のある人間ならばいくら水篠ハンターでも大変なことになっていましたよ。S級だからと油断するのはよくありませんね」

「返す言葉もありません…」

今度はサーっと顔を青くさせて頭を下げ、しょぼんと効果音が付きそうな程に落ち込んでいる水篠が少し可哀想になり頭をそっと撫でた。

「…まあお説教はこのくらいにしましょう。ほら、落ち込んでる顔を直しなさい。全員やってきた様ですよ」

同様に此方へ向かってくる気配を感じ取ったのかパッと顔を上げて皺になった服を伸ばして誤魔化す水篠に軽いキスを送る

「ん…ぇっ!?」

「続きは後ほど。」

「も、最上ハンター!?」

再び赤い顔に戻った水篠に満足し、くすくすと笑う。

「ほら、もう扉が開きますがそんな顔で出迎えるんですか?」

「だ、誰のせいだ…!」

「僕のせいですかね?…報告が終わったら本日は僕が送りますので待っていてくださいね」

ツーっと耳から輪郭にかけてなぞりビクっとする水篠の反応に再び満足げに笑う。

その後表面上は和やかに会議を進めつつ、頭の中ではこの不用心で生意気な子をどうやって手に入れようか、と思索に耽る最上であった。


***

会議終了後

「水篠ハンター、お疲れの所申し訳ない。少しご相談があるのですがお時間宜しいでしょうか?」

「最上ハンター…」

「ああ、宜しければ僕の車で送っていきますのでその際にお話を聞いて頂ければ結構ですよ」

どうでしょうか?と物腰柔らかに問い掛けてくるものの目が決して逃がさないと宣言していた為、諦めて承諾する。

「わ、かりました」

「有難う御座います。それでは行きましょうか」

最上に連れられ会話も無いまま駐車場へ。
どうぞ、と助手席を開けられたのでため息をひとつ吐いて乗り込む。
最上が運転席に乗り込み、ドアを締めたとたんに素早い動きで顔を掴まれキスをされた

「んっ!?ッ!!な、何するんですか!」

「余りにも緊張しているようでしたから解して差し上げようかと」

「は!?馬鹿じゃないのか!?」

「全く、随分口が悪いですね」

もう一度塞ぎますよ?と言うと真っ赤になって狭い車内で距離を取ろうとするものだから可笑しくなってしまう

「ふっ、ははっ、冗談です。お子様な貴方に合わせて手加減はしてあげますよ」

「誰がお子様だ!!」

「貴方しかいないでしょう?キス程度で真っ赤になって。先ほどもそうですがファーストキスとでもいうわけでもないでしょうに」

そういうと真っ赤な顔のままぶすっと黙り込んだので、まさかと思い問いかける

「…まさか本当に初めてですか」

「………うるさい」

どうやらファーストキスを奪ってしまったらしい。資料として水篠がE級だった時代の写真も見た事があるがとても可愛らしい顔立ちをしていたから恋人の一人や二人当たり前にいると思っていたし、過去居なかったとしても今の水篠では困ることもないだろうと思っていたのに。顔には出さないが最上の内心はかなり動揺していた。

「…道理で」

「道理で、なんだよ。お子様で悪かったな!」

「ま、仕方ありませんね。これから慣れていけば良いでしょう」

慣れるまで教えてあげますよ、と含み笑いをしながら流し目でこちらを見る最上に水篠が「別に教えてくれなくていい!」とそっぽを向くものだからまた堪えきれずに笑ってしまう

「くっ、ふふ、遠慮なさらず。…さて、そろそろ行きましょうか」

「…家まで送ってくれるんですよね?」

「ええ。水篠ハンターの家はわかりますのでご心配無く。ああ、眠ければ寝ていても構いませんよ」

「もう寝ません」

「ふっ、まあ寝たとしてもちゃんと運びますのでご安心を」

機嫌が良さそうに話す最上によく分からない人だなと思いながら流れる風景に目を向ける。
暫くすると車の程よい振動と物静かな車内に再び瞼が重くなり、窓に頭を寄せて目を閉じてしまった。

「…案の定寝ましたね。さて、連れて帰りますか」

水篠は若さゆえか詰めが甘い。
最上は先程水篠の家がわかる、とは言ったが自宅に送り届けるとは一言も言っていない。
尋ねるのならば自分の自宅に送り届けてくれるんだろうな?と聞くべきだったのに。

「家は家ですからね」

ちゃんと僕の自宅へ運んであげますよ、と悪どい笑みを浮かべ、助手席の水篠を獲物を見る目でジッと見つめていた。
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