犬飼×旬

ハロウィンが近い。
その事に気付いてから水篠はずっと悩んでいた。
こういったイベントの時は普通の恋人同士ならば何かしら一緒に楽しんだりするのだろうという認識はある。
けれど相手は自分よりも年上で大人の男。ハロウィンの様な子供主体のイベントになんて興味が無いのでは無いかと心配になり、一緒に過ごしたいとも言い出せずにここ数日モヤモヤしている。
誘ってしまえば相手はきっと頷いてくれるとは思うのだが…迷惑では無いかと一度考え始めてしまってから一歩が踏み出せずに日にちばかりが経過してしまって。

***

どうしよう…前日になってしまった。
結局誘えてもないくせにハロウィンの衣装だけ用意して。
その後も小一時間ほど悩んだ挙句、ダメだったらそのままお蔵入りにしようと決めて電話をかけ明日いるか確認してみる事にした。
すると、意外にも休みで1日家に居る、と言うので影交換で向かう、とだけ伝えて電話を切り衣装の準備を始めた。

***

翌日。

衣装を纏い、影交換を行った。行先は勿論、晃さんの所へ。


「…晃さん!トリックオアトリート!」

すっと現れた俺の言葉に目を瞬かせ、次いで衣装を見た瞬間フリーズする。今日の俺は全身黒でコーディネートした上に同色の猫耳としっぽを付けていて。

「っ…し、旬!その、格好、は…?」

「今言ったでしょ?トリックオアトリート、って」

「ハロウィンの仮装、ですか?」

「そう。……似合わない?」

「そんなこと有り得ません!…すみません、余りの愛らしさにどう反応をしていいものか迷ってしまいました。…とても可愛らしいですよ」

照れたように頬を染めて褒めてくれる晃さんの言葉を聞いて、俺の頬も赤く染まる。

「ありがとう。…ね、晃さん。トリックオアトリート、は?」

照れ隠しに再度お約束の言葉を告げれば返ってきたのは珍しくいたずらを企んでいるような笑みで。

「残念ながら本日はお菓子を用意出来ていないんです。…なのでトリックでお願いします」

「えっ?」

思わぬ返しに虚をつかれてしまった。
晃さんはいつも俺が遊びに来ると何かしらお菓子を用意してくれているのを知っていたからこそいきなり言っても大丈夫だと思っていたのに。

「え、えっと…」

どうしよう、この展開は予想してなかった。晃さんはなんだか楽しそうに俺の行動を待っているし…。
暫し逡巡した後に、もうやけくその気持ちで晃さんに勢いよく飛び付き耳を軽く噛んで小さく囁いた。

「にゃー…」

「っ!!!」

難なく俺を受け止めた晃さんだったが、俺が囁いた瞬間そのまま俺を抱き上げてソファの上へと俺を押し倒し、きつく抱き締める。

「…貴方が可愛過ぎてどうにかなってしまいそうです。…恐ろしい悪戯をしますね、旬」

「あ、晃さんが悪戯っていうから…!」

「それはそうですが、まさかこんなにも可愛らしい悪戯が来るとは思っていなかったものですから。…旬、もう一度聞かせては頂けませんか?」

首の辺りをそっとなぞりながら至近距離で目を合わせて来る晃さんに、そっと口を開く。

「んっ…に、にゃー…」

「っ、ふふ、可愛らしい猫さんですね…住む場所はお決まりですか?」

甘く微笑みながら問いかけられた質問に俺も同じ微笑みを浮かべて返答する。

「まだ決まって無いんだ。…ご主人様になってくれる?」

そう言って首に手を回せば口付けが降ってきて。

「ん…ンんっ、ふ…ぁ…ん、ふ…っ」

「はぁ…旬…愛しています」

「俺、も晃さんの事…あ、あいしてる」

面と向かって言われた愛の言葉に照れながらも返す。すると壊れ物を扱うようにそっと抱きしめられて。

「ありがとうございます。…貴方の行動を縛り付けはしませんが、必ず僕の元に帰ってきて下さいね」

僕に飼われて下さるんでしょう?と笑って額や首に口づけを落とす晃さんに返事代わりにひとつ「にゃあ」と鳴いてもう一度口づけた。



















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