犬飼×旬



最近、晃さんが忙しいようだ。
仕事を増やしている原因の自覚もあるし、そうでなくとも忙しいというのはわかっているのだが、もう一週間以上も会えていないとなると少しだけ不満が溜まる。
そもそもあの人は根を詰め過ぎるきらいがあるので純粋に心配というのもあるし…。

「睡眠はどうせ取ってないと思うけど、ご飯ってちゃんと食べてるかな…いや、食べてる訳無いな」

この間自宅にお邪魔させてもらった時に冷蔵庫の中に食料が無さ過ぎてどんな生活をしているのかと問い詰めたのを思い出す。
曰く、協会の食堂で食べているから大丈夫だと言っていたが協会の食堂が夜遅くまでやっている訳も無いだろうし、きっと不摂生な生活をしているに違いない。

「お弁当とか…持っていったら迷惑か…?」

会長の付き人として外出する可能性もあるけれど、それならそれで夕飯にでもしてもらえばいいし…もし迷惑そうなら持ち帰ればいいと考えてキッチンに立ち、料理を作り始めた。

「ただいまー!ってあれ?お兄ちゃん、何作ってんの?お昼ご飯?」

「葵、おかえり。早かったな。あー、これは違う。昼ご飯は母さんが作るからもう少し待っててくれるか?」

「それはいいんだけどさ。…お弁当?」

「…そうだよ」

帰ってきた葵が俺の手元を覗き込む。
葵は晃さんとの事を知っているからあんまり見つかりたくなかったんだけどな…。
そっと目を逸らした俺を見てにやにやし出す葵に嫌な予感が過った。

「ふーーーん…成程ね。わかっちゃった!お兄ちゃんってば愛妻弁当届けに行くんでしょ!」

「愛妻!?ば、馬鹿!何言ってんだ!」

「馬鹿じゃありませんー。だってこれ犬飼さんにでしょ?」

「…そうだけど」

「恋人に届けに行くんだから愛妻弁当であってるじゃん」

「合ってない!全く…変な事ばっかり言うなよな」

「お兄ちゃんが変なとこ頑固なんでしょ!」

言い合っているうちに弁当を詰め終わったのでこれ以上葵に揶揄われる前に早く出かけようと支度をする。

「じゃ行って来るから母さんの事見といてくれよ」

「あっ、まだ話の途中なのに!もう!わかってるよ、いってらっしゃい」

「いってきます」

玄関を出て、影移動で協会の人気のないところへ出る。
見つかると厄介なので隠密スキルを使用したままロビーに入ろうとすると丁度会長と晃さんが出てくるのを見つけた。一緒にいるのは黒須ハンターか。向かいながら驚かせないように隠密スキルを解くと全員が此方を振り向く。

「水篠ハンター?何か協会に用事でしたか?」

「あー、いやそういう訳では無くて…」

会長に用件を問われるが、なんていえばいいのかまるで考えていなかった。晃さんにお弁当届に来ました、なんて言える訳も無いし。
思い付きで行動するにせよ、せめて晃さんに連絡しておくべきだったと今更考えても後の祭りだ。

「丁度良い、今から会長と飯に行くんだが水篠ハンターも一緒にどうだ?」

言葉を濁す俺に何を思ったのか黒須ハンターが食事の誘いをかけてくる。会長と食事に行くのか。それなら晃さんも一緒に出ていくに決まってるよな…。

「あ、いや、俺は…すみません、この後用事があるので」

晃さんの方を一瞬見てしまったが当然ながら首を傾げられた。…弁当持って帰るか…。

「…ふむ。それならば犬飼、水篠ハンターを送って差し上げなさい。…それから今日はそのまま上がって構わない」

「承知致しまし…はい?」

会長の突然の言葉に俺も晃さんも目を丸くする。

「あー、そういうことか。水篠ハンター、犬飼課長に話があるんだろ?犬飼課長、会長の事は俺に任せてもらっていいからさっさと行けって。そうやって仕事にかまけて可愛い恋人を放っておくと愛想つかされて振られるぜ?」

黒須ハンターの全てを知っているような言葉に真っ赤になる。

「なっ、なんで…!?」

「何でってそりゃあれだけの事してれば…ってまさか水篠ハンターのあれ恋人に手を出すなよって牽制じゃなかったのか?」

「牽制って何!?」

黒須ハンターの口から知らない言葉が飛び出した。俺がいつそんなことしたんだ!?

「マジかよ…。水篠ハンターって犬飼課長と話している時に時々苗字じゃなくて名前で呼んでるし、傍にいないときは呼ぶか自分から行くし。手を出すなよって牽制されてるのかと思ってたんだが…その顔見ると無意識だったのか。逆に凄いな」

黒須ハンターから感心したように言われ、消えてしまいたいぐらい恥ずかしくなる。名前を呼んでる意識なんて無かったし、協会にいる時は傍に居ようとか考えていないつもりだったのに…!

「黒須ハンター、そう苛めるものではありませんよ」

「あー、水篠ハンターが余りにも真っ赤になってるもんだからつい面白くて。悪かったな」

窘められ謝る黒須ハンターだがにやにやと笑っていてまるで悪いと思っていないことがわかる。

「さて、まあ2人は置いて行くとして。会長、そろそろ行きますか」

「そうしましょう。犬飼、何なら明日も休みで構わない。喧嘩をする前にしっかり水篠ハンターと話し合うように。」

そういって真っ赤な顔をしたままの俺と展開について行けず呆然としている晃さんをあっさり置いて2人とも居なくなってしまった。
どうしよう、気まずい。

「………」

「………あ、あの…ごめんなさい!」

「えっ?」

先手必勝とばかりに謝る

「その、俺名前で呼んでるとか、傍に居ようとするとか本当に意識してなくて…晃さんに迷惑かけてごめんなさい!」

「え、あの、いえ、旬さんが謝る事ではありません。頭を上げてください!」

頭を下げて勢い良く謝る俺を焦ったように晃さんが止める。

「でも、俺…」

「それについては謝罪をしなければならないのは僕の方なのですが…一先ず移動しましょう。ここでは人目についてしまいますので」

「はい…」

確かに若干周りから見られ始めていたので大人しく晃さんについて行き、車に乗せてもらう。

「…僕の家で宜しいでしょうか」

「はい」

気まずい沈黙のまま晃さんの自宅へと向かう。

「…お邪魔します。」

「旬さん、こちらへ」

上がってすぐリビングのソファへ座るように誘導される。

「え、っと、あの…」

「旬さん。申し訳御座いません」

ソファに座った俺の前に晃さんが跪いて手を握り、先ほどの俺のように頭を下げる。

「え、ちょ、なんで晃さんが謝るんですか!頭を上げてください!」

「その、僕は知っていたんです。他の方々が僕らの関係に気付いていると」

「えっ?」

「申し訳御座いません。旬さんが名前を呼んだのもわかっていましたが、敢えて同じように名前で呼び返していました。…黒須ハンターが仰ったように牽制していたのは僕の方なんです。…貴方を誰かに取られたくなくて」

知っていたという突然の告白にかなり驚いたが、それはそれで嬉しいと思う自分がいて。晃さんがそこまで俺の事を想ってくれていたなんて。

「それにここ最近は仕事が忙しいからと碌に連絡も取らず寂しい思いをさせ、旬さんの優しさに甘えてばかりで…愛想を尽かされるのも当然だとは思いますが、どうかもう一度機会を頂けないでしょうか」

なんだか急に話がおかしくなったような…?

「なんでですか?」

「っ!…都合が良い事を言っているのは承知の上です。ですが旬さんを愛している事に変わりはありません。このまま別れるというのは絶対に嫌です。どうかもう一度だけ機会を下さい。…お願いします」

真剣に俺を愛しているという晃さんだが、明らかに話がおかしなことになっている

「だから、なんでですか?俺別れるつもりなんてまるで無いんですけど」

「…え?」

ポカン、として俺を見る晃さんに此方も首を傾げてしまう。なんでそんな発想になったんだ?

「え、あの…仕事ばかりの僕に愛想を尽かせて別れを告げに来たのでは…?」

「はあ!?そんな訳ないでしょう!?晃さんが忙しくて不摂生してるかと思ってお弁当届けに来たんです!!」

「え?」

ほら!と証拠とばかりにインベントリに突っ込んでいた弁当を取り出して突きつける。

「あの、本当に…?」

「これ見ても疑うんですか?」

「いいえ…旬さんが作ってくださったんですか?僕の為に?」

お弁当箱を抱えて呆然と訊ねる晃さんに、気恥ずかしいが全部正直に話す事にした。

「そうです。その、会えなくて寂しいのもありましたけど、それよりも晃さんの体調が心配で…お弁当なんて作ったはいいものの思い付きで作っちゃったから連絡するのも忘れて協会に行っちゃって、会長にもなんていえばいいのかわからなかったんで…っえ?」

話している最中に立ち上がった晃さんから思い切り抱きしめられた。

「僕の事を考えていて下さったんですね…本当に嬉しいです。勘違いをしてしまい申し訳御座いません。」

「それは良いんですけど、なんでそんな勘違いをしたんですか?前にも仕事が忙しくて連絡を取れなかった期間はあったでしょう?確かに今回よりは短かったけど」

「黒須ハンターが仰ったことも最もだと思ったので…てっきり別れを切り出されるのかと思い焦ってしまったんです」

抱きしめられた腕の中から疑問を投げかけると、恥ずかしそうに頬を染めながら理由を教えてくれる。

「別れませんよ。…俺だって晃さんの事、その…愛してますから」

「ええ、有り難う御座います。僕も旬さんの事を誰よりも愛しています」

同じように顔を赤く染めて告白すると嬉しそうに返し、そのまま顔をそっと上に向かされたので素直に目を閉じる。

「ん、…んぅ、っ、ぁ、はぁ、んぁ、ふ、っんぅ」

「はぁ…本当は今すぐにでも貴方を押し倒したい位なのですが、折角作って下さったお弁当をそのままにしておくわけにはいきませんね」

残念そうに苦笑して離れる晃さんに少しイラっと来た。人をその気にさせておいて…。
スッと立ち上がって弁当箱を冷蔵庫の中へ雑に入れ、犬飼さんの手を引いて寝室のベッドの上に押し倒して馬乗りになる

「旬さん!?」

「暫く会えてなかったのにあんなキスして、そのまま終わりとか怒りますよ。お弁当なんて後で食べればいいのに」

拗ねたように言う俺を見た晃さんが身体を反転させ今度は俺を押し倒す形になる

「っ、うわっ」

「…それは、今貴方を抱いても良いということですか?」

欲を秘めた目で俺を射貫く晃さんに背筋がゾクリと震える。

「…お弁当より俺が先に決まってるでしょ?」

甘えるように首に手を回せば再び口付けが降ってきて。二人ゆっくりとベッドに沈み込んだ。













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