犬飼×旬
皆から撫でまわされて真っ赤になった水篠に話しかける
「水篠ハンター、先ほどの話し合いのご報告も兼ねて家までお送り致します」
「う、本当に寝ててすみません…お願いします…」
再び申し訳なさそうに謝る水篠に各々が声をかけ、解散となる
「マント代は高くつきますよ…ふふ、冗談です」
「きちんと休んだ方が良いですよ」
「水篠ハンター、お忙しい中本日はありがとうございました。犬飼、心配はないと思うが頼んだぞ」
「お任せ下さい。…では水篠ハンター、此方へ」
最後に黒須が「帰りの車内でも寝ないようにな」と言いながら頭をぐしゃぐしゃ撫でるので「もう寝ません!」と噛みつけば再び全員が笑って見送ってくれた。
***
「…と言う訳で人的被害は水篠ハンターのお陰でかなり抑えられ、各ギルドの報告のみで充分だった為、起こさなかったのですよ」
車内で各ギルドと協会の被害状況や何故起こさなかったのかを問いかけたがそのように返ってきた為、あれだけ奔走した甲斐があったな、と充実感を覚える。とはいえ寝てしまったのは大誤算であったのだが。
「それなら良かったです。」
「水篠ハンターがそこまで疲れているとは気付かず、申し訳ございませんでした」
「いや!犬飼さんが謝る事じゃ無いですって!俺も少し攻略急ぎすぎたって反省したんです。」
「しかし、今まで熟睡している水篠ハンターは誰も見たことがなかったので…あんなに、撫でられても一切起きませんでしたからね」
あんなに、の部分で正確に不穏さを感じ取った水篠が恐る恐る尋ねる
「あ、の、犬飼さん…もしかして怒ってます、か?」
「いいえ。」
「あの、本当にごめんなさい。自分の力を過信して全員に迷惑をかけて…」
職務に忠実な犬飼の事だからきっと心配を口にしてくれたものの、大事な話し合いの時に眠ってしまっていた自分に幻滅をしたのではないだろうか、と怒っている理由に当りをつけて再度謝罪したのだが、返ってきたのは大きなため息で。
「はぁー…違います。眠るのは構いませんし、寧ろ本日の水篠ハンターのスケジュールを知っていながら貴方の実力に甘え要請を出した協会に非があります。…怒っているとも少し違うのですが、本当にわかりませんか?」
「…ごめんなさい、わからない、です」
再びため息を着くと車を路肩に停止させ此方を振り向く
「はぁ…いいですか?目の前で恋人が無防備に寝ていた上に全員から撫でまわされるのを黙って見ていなければならなかった僕の気持ちも少しは考えてください。挙句に最上ハンターに上着までかけられて…」
「っ!!あ、あの、それはっ…ぅ、ご、ごめんなさい」
恋人、と直球に告げられた言葉に顔が赤くなった後、言われてからそれは怒られるのも最もだ、と反省する。
旬だって犬飼が眠っている間、勝手に誰かがべたべたと触れられていたら嫌だし、それを見ていなければならないとしたら我慢出来ず触れている手を払い除けそうだ。
旬が理解して反省したのが伝わったのか、微笑みながら手を伸ばし頭をそっと撫でる
「わかって頂けましたか?寝るな、と言っている訳じゃないんです。眠るのならば僕を呼んでください。そうすれば誰にも見せずに貴方を隠せます」
本当は僕だけが貴方を撫でたかったですし、ましてや寝顔なんて誰にも見せたくないんです、と続ける犬飼に申し訳なさが襲ってくる
「はい。晃さん、ごめんなさい」
「わかったのならば良いです。ですが今回の件に限らず以前から旬さんの無防備さについては一度話し合わなければ、と思っていましたので本日は僕の家に泊って頂きます」
「え?」
「ああ、ご家族には先に連絡をしておりますので安心してください」
こういう時に仕事の速さを発揮するのは本当に止めて欲しい。
断れる訳も無いまま犬飼の自宅へ連れて行かれる事になった
***
「お、お邪魔します」
「はい」
本当にお説教されるのだろうか、と少し警戒しつつ上がらせてもらったが、ふと思いついて先を行く犬飼さんを引き留める
「あの、晃さん、おかえりなさい」
「っ!…はい、ただいま帰りました。旬さんもおかえりなさい」
虚をつかれたような顔をした犬飼だが直ぐにとても嬉しそうな顔をしてこちらにも挨拶を返してくれた。
「え、と、ただいま、です」
自分の家じゃないのだが、犬飼がおかえりと言ってくれた事が嬉しくて今同じような顔になっているんだろうな、と思う。
そのままリビングに案内され、ソファに横並びに座る。
「(やっぱりお説教されるのか…)…あの、晃さん」
「旬さん、横になってください。頭は此方で」
「へ?」
自分の膝上をポンポンと叩き横になれ、と言い始めた犬飼にハテナマークが浮かぶ
「さ、どうぞ」
旬を軽く引っ張り膝上に頭を預けさせ、横向きに寝かせた
「あの、晃さん?これは…?」
戸惑っている旬を横目にやたらと機嫌が良さそうな犬飼が膝上に置かれたふわふわの旬の髪を梳きながら撫でる。
「眠ければ寝て構いませんからね。というか寧ろ寝て下さい」
「え?」
「先ほど言ったでしょう。全員から撫でまわされる旬さんを見ている身にもなってくれ、と。…ああ、これもですね」
そういいながらスーツの上着を脱いで旬にそっとかける犬飼にもしやと思ったが、
「もしかして、晃さんは俺の事撫でてない…?」
「…はい。なので上書きさせて下さい」
気付かれたのが恥ずかしいのか顔を赤くしてくる犬飼さんが可愛くて、
「ふふ、上着はマントの代わり?」
「…そうです。その、マントに自ら包まって寝ていた貴方がとても可愛らしかったんですが、あれは最上ハンターの衣装なので複雑で…」
記憶は無いがそんな動きをしていたらしい。
自ら包まるってなんだ?と疑問に思いながらもこの可愛らしい人を嫉妬させた責任は取るか、と上着を握りしめて犬飼を見上げる。マントとは違い長さが無いので包まるまではいかなかったが、
「…こう?」
「ん”っ!…あの、写真撮っても良いですか…」
正解だったのか咳込んで更に顔を赤くする犬飼に愉快な気持ちが湧き上がるが、いや待てなんだ写真って。
「ええ…?良いですけど…」
よくわからないが許可を出した途端スマホを構えて何枚も撮影する犬飼に段々と照れくさくなってきて上着で顔を隠す。
「もう!晃さん撮り過ぎ!もう終わりです!」
「っ!あの、もう一枚だけお願いします」
「…一枚だけですからね」
「はい。あ、そのままで…マントに包まっていた時がそのような感じでしたので」
「本当に全部上書きしたいんだ…」
「決まっているでしょう。後は旬さんが寝て下されば完璧なのですが…」
眠くはないですか?と顔を出した旬の形の良い頭を優しく撫でながら問いかける犬飼の声に、すっかり寝て回復したと思っていた眠気が再び顔を出す。
「…ねむくない」
「ふふ、もう少ししたら寝てくれそうですね」
くぁ…と少しあくびが出てしまうが、このまま寝たら犬飼が辛いだろうと無理やり起き上がる。
そして残念そうな顔をする犬飼にひとつ提案する
「晃さんも一緒に寝ようよ」
「え?」
「俺眠い。晃さんも一緒にベッドで寝よ?うっかり今日はみんなの前で寝ちゃったけど、一緒に寝られるのは晃さんだけの特権ですよ?」
そういって悪戯っ子の様に笑ってソファから立ち上がるように促す俺に、苦笑して立ち上がった
「っ、そういわれたら断れませんね。…一緒に寝て下さいますか?」
「勿論です」
そのまま手を引っ張って寝室へ向かい、ベッドへ二人横になる。
本当は着替えやら色々したいところだが、今日はもう眠いし明日休みだしいいやと諦めて。
「あ、もしかして晃さんは明日仕事…?」
「いいえ。運よく会長からメッセージが届きまして、代休の振替が余りに余りまくっているので流石にそろそろ休め、と仰って頂きまして。明日は休みです」
「…俺も晃さんの仕事増やしてる自覚あるけど、働き過ぎじゃない?」
「仕事自体は嫌いじゃないので大丈夫です」
「無理しないで下さいね。」
「ありがとうございます。」
言葉と同時にぎゅっと抱きしめられて、規則正しく聞こえる心臓の音と程よい体温に瞼がだんだんと重くなっていく。
「…旬さん?」
すぅ…すぅ…
犬飼の胸元を控えめに掴んだまま眠りについた旬の頭をまた撫で、もう少し密着する。
「僕だけの特権、ですか…貴方には敵いませんね」
特別だと言葉を惜しむことなく伝えてくれる素直な恋人の額にひとつキスを落とす。
「おやすみなさい、良い夢を」