犬飼×旬
「広報誌の写真撮影?」
定例会議にて。
協会の活動に理解を深めてもらう為、年に一度首都圏の有名ギルドと共に広報雑誌を作成しているとの説明が水篠にされる。
各ギルドからすればタダで協会が宣伝してくれるようなものなので、最上を始めとして白川、黒須も全員参加しているのだそうだ。
そんな広報雑誌が作られる時期になり、今年は我進にも、という事らしいのだが…。
「俺はお断りします」
「そう言うと思ったぜ」
「でしょうね」
「予想を裏切らないな」
考える間も感じさせず、きっぱりと断った水篠にギルドマスター達もわかっていた様に苦笑する。しかし後藤だけは諦めず、再度頼み込む。
「水篠ハンターが表に出たくないという事も、情報保護の件も重々承知の上なのですが、一度だけご協力頂けませんか」
「…どうしてです?」
「実は水篠ハンターの事が知りたいと国内だけでなく、諸外国からも問い合わせが毎日ひっきりなしでして…勿論ハンターの生活を守るのも我々ハンター協会の仕事なのですが、最近は業務に支障をきたし始めてしまっておりまして…。一度広報で簡潔に紹介してしまえば収まるのではないか、と」
疲れ切った表情を浮かべる後藤を見て、水篠もばつが悪そうな顔を向ける。
「…お騒がせしてすみません。…その、そういう事でしたら一度だけ、受けます」
水篠が謝罪と共に返事をすると、後藤の表情が少し和らいだ。
「本来、情報を守らねばならぬ立場ですのにご迷惑をおかけして申し訳ありません。了承頂きありがとうございます。それではこの後カメラ担当の者が参りますので、宜しくお願い致します」
撮影の間、私は席を外しますので。と言って後藤は去っていった。後に残されたのは最上、白川、黒須、水篠、犬飼の五人。
暫しの沈黙が部屋に拡がったが、先ずは黒須が口火を切った。
「なあ、水篠ハンター。俺と一緒に写真撮ろうぜ。元々水篠ハンターとは仲良くしてえと思ってたんだよな。…これを機に、個人的な仲を深めるってのはどうだ?」
「はっ!?な、何言って…!」
水篠の腰を抱き寄せ、耳元で囁く。
いきなりの出来事について行けず、真っ赤になった水篠を見て黒須が顔を近付けた瞬間。
バシンと2回、水篠の頭上から音がした。
「いっ、てぇ…!…おい、白川!最上!何しやがる!」
殴られたであろう頭を押さえ、叫ぶ黒須へ呆れたような声がふたつ。
「いい加減にしろ」
「手が早いんですよ」
「お前らだって手を出そうと狙ってんだろうが…!」
黒須の文句を聞き流した最上が水篠の腰に触れ、汚れを払うように軽く叩く。
「全く無遠慮に腰を掴むんじゃありませんよ。大丈夫ですか?おや、こんなに真っ赤になって…刺激が強かったんですかね?可哀想に」
「も、最上ハンター…?」
キスが出来そうな程の近さまで顔を近付け、まだ赤く染まっている水篠の頬を両手で包む。
「ふふ、緊張する事はありませんよ」
更に顔を近付けようとすると、水篠と最上の間を遮るように手のひらが挟まれた。
「おいこら最上。俺を止めておいて自分だけ良い思いしようっつってもそうはさせねえぞ」
「チッ…邪魔ですね」
間に入った黒須の手を力いっぱいに叩き落とし、舌打ちをする最上に黒須も負けじと睨み返す。
「…はぁ、あいつらはいい年をして何をしているんだ。…水篠ハンター、大丈夫か」
「え、っあ、はい。大丈夫、です」
睨み合っている二人を他所に白川が軽く頭を撫でながら問いかけると、若干まごつきながらもいつも通りの顔色に戻った水篠が微かに微笑んで返事をした。だが、気になったことがあるのかすぐに眉を下げて白川へ質問を口にする。
「…もしかして二人で撮るとかルールあるんですか?」
「いや、黒須のあれは気にしなくていい。別に二人で撮らなければいけない理由は無い。基本的に俺たちは全員で一枚、各自個別撮影という形だったしな」
だから気にするな、と再び頭を撫でる白川。礼を言おうと水篠が口を開きかけたタイミングで腰を引き寄せ、先ほどの黒須と同じような体勢にする。
「…だが、水篠ハンターが望むのなら俺と撮っても構わないが?」
「っ!?」
笑みを浮かべ告げた言葉に再び水篠の顔が赤く染まる。それを満足げに眺めていた白川の背後から低い声が掛かった。
「美味しい所を掻っ攫おうとはいい度胸ですね、白川ハンター?」
「俺言ったよなぁ?散々邪魔しておいて良い思いが出来ると思うなよって。お前にも当て嵌ってんだが?」
「…チッ、そのまま喧嘩していればいいものを。煩い奴らだな」
うんざりした表情で振り向く白川と怒り心頭な最上と黒須。
そのまま口喧嘩が始まってしまったので、その隙に水篠はこっそり壁際へと避難するのだった。
***
壁際ではなんとも言えない表情で三人の喧嘩を見ている犬飼課長が居て。最早まともな人はこの人しかいない、と駆け寄った。
「犬飼課長」
「水篠ハンター…災難でしたね」
「本当ですよ。あの人達一体何なんですか…全員で俺をからかったと思ったら急に口喧嘩を始めて…」
全くいい迷惑だ。と溜息を吐いて同意してもらおうと犬飼課長を見れば、なにやら驚いた表情を浮かべていた。
「え?」
「え?」
お互いに見つめ合い、暫くしてから犬飼課長が口を開く。
「水篠ハンター。失礼ですが、口説かれている自覚はおありでしょうか」
「口説っ!?俺が!?」
驚いて目を見開けば、犬飼課長が疲れたような溜息を吐いた。
「お気づきで無かったんですか…?全員水篠ハンターに好かれたくて、必死に口説いていらっしゃるんですよ」
「っえ、そ、そんなの知らない…」
戸惑い、うろうろと視線を彷徨わせる俺に犬飼課長がクスリと笑って手を伸ばし、頬を包まれ見つめ合う。
「水篠ハンター。好意を持つ”全員”とは誰を指し示すか…わかりますか?」
「え?ぁ、黒須ハンター、最上ハンター、白川ハンター、ですか…?」
直ぐ近くにある端整な顔立ちにどきどきと鼓動が早くなりながらも、質問に答えると、犬飼課長の笑みが深くなって…。
「残念ながら不正解です」
その言葉と共に犬飼課長の顔が更に近づいて…唇に柔らかいものが触れ、すぐに離れた。
「…え」
「貴方の唇を奪われなくて良かった。…水篠ハンター。僕も貴方のことが好きなんですよ」
予期せぬ告白にどんどん顔が熱くなる。…犬飼課長が、俺の事を?
「…嫌でしょうか?」
「い、嫌じゃないから…困ってる…」
不安げに尋ねられた言葉に、無理矢理絞り出した小さな声で返事をする。
すると犬飼課長はまるで蕩けるような微笑みを俺に向けてきて…。
「僕にも勝機がありそうで安心しました。…貴方の事を愛しています、水篠さん」
そう言いながら今度ははっきりと感覚のわかる口付けをされ、羞恥心の限界を突破した俺は倒れ込んでしまった。
***
「おっと…やり過ぎてしまいましたか」
僕の方に倒れ込んで来た水篠ハンターの身体を支える。これだけで気絶とは…なんとも可愛らしいものだ。
クスリと笑って顔を見つめていれば、殺気の籠った視線が向けられる。
「…とんだ抜け駆け野郎がいたもんだなぁ?」
「ええ。まさか犬飼課長も狙っていたとは…」
「真面目そうな顔をしておきながら、随分と手の早いものだ」
「僕は普通に口説かせて頂いただけです。…そもそも喧嘩をして目を離されたのが原因では?」
正直に言えば、この場で口説き落とすつもりなんて無かった。
運よく水篠ハンターがこちらに来たから他の人達への警戒心を植え付けると共に、少しでも僕を意識して貰えればいいと思っていただけ。
ただ、真っ赤に染まった顔が余りにも可愛らしくて、つい口付けをしてしまった上に脈があるような反応を貰えた事は自分でも想定外で。
つい思い出し笑いをしてしまったが、それを三人は挑発と捉えたようで殺気が増した。
「まだ勝負は決まっていませんが、随分と余裕そうですね?」
「全くだ。口説き落とした訳でもないだろう」
「このまま俺らが黙って見てると思うなよ?」
三人からの宣戦布告に見せつけるように抱えている水篠ハンターの髪へ口付け、今度は明確な意思を持って笑う。
…自分はこんなにも好戦的な人間だっただろうか。
「僕にも勝機があると判明しましたので、譲るつもりはありません。このまま口説き落とさせて頂きます」
定例会議にて。
協会の活動に理解を深めてもらう為、年に一度首都圏の有名ギルドと共に広報雑誌を作成しているとの説明が水篠にされる。
各ギルドからすればタダで協会が宣伝してくれるようなものなので、最上を始めとして白川、黒須も全員参加しているのだそうだ。
そんな広報雑誌が作られる時期になり、今年は我進にも、という事らしいのだが…。
「俺はお断りします」
「そう言うと思ったぜ」
「でしょうね」
「予想を裏切らないな」
考える間も感じさせず、きっぱりと断った水篠にギルドマスター達もわかっていた様に苦笑する。しかし後藤だけは諦めず、再度頼み込む。
「水篠ハンターが表に出たくないという事も、情報保護の件も重々承知の上なのですが、一度だけご協力頂けませんか」
「…どうしてです?」
「実は水篠ハンターの事が知りたいと国内だけでなく、諸外国からも問い合わせが毎日ひっきりなしでして…勿論ハンターの生活を守るのも我々ハンター協会の仕事なのですが、最近は業務に支障をきたし始めてしまっておりまして…。一度広報で簡潔に紹介してしまえば収まるのではないか、と」
疲れ切った表情を浮かべる後藤を見て、水篠もばつが悪そうな顔を向ける。
「…お騒がせしてすみません。…その、そういう事でしたら一度だけ、受けます」
水篠が謝罪と共に返事をすると、後藤の表情が少し和らいだ。
「本来、情報を守らねばならぬ立場ですのにご迷惑をおかけして申し訳ありません。了承頂きありがとうございます。それではこの後カメラ担当の者が参りますので、宜しくお願い致します」
撮影の間、私は席を外しますので。と言って後藤は去っていった。後に残されたのは最上、白川、黒須、水篠、犬飼の五人。
暫しの沈黙が部屋に拡がったが、先ずは黒須が口火を切った。
「なあ、水篠ハンター。俺と一緒に写真撮ろうぜ。元々水篠ハンターとは仲良くしてえと思ってたんだよな。…これを機に、個人的な仲を深めるってのはどうだ?」
「はっ!?な、何言って…!」
水篠の腰を抱き寄せ、耳元で囁く。
いきなりの出来事について行けず、真っ赤になった水篠を見て黒須が顔を近付けた瞬間。
バシンと2回、水篠の頭上から音がした。
「いっ、てぇ…!…おい、白川!最上!何しやがる!」
殴られたであろう頭を押さえ、叫ぶ黒須へ呆れたような声がふたつ。
「いい加減にしろ」
「手が早いんですよ」
「お前らだって手を出そうと狙ってんだろうが…!」
黒須の文句を聞き流した最上が水篠の腰に触れ、汚れを払うように軽く叩く。
「全く無遠慮に腰を掴むんじゃありませんよ。大丈夫ですか?おや、こんなに真っ赤になって…刺激が強かったんですかね?可哀想に」
「も、最上ハンター…?」
キスが出来そうな程の近さまで顔を近付け、まだ赤く染まっている水篠の頬を両手で包む。
「ふふ、緊張する事はありませんよ」
更に顔を近付けようとすると、水篠と最上の間を遮るように手のひらが挟まれた。
「おいこら最上。俺を止めておいて自分だけ良い思いしようっつってもそうはさせねえぞ」
「チッ…邪魔ですね」
間に入った黒須の手を力いっぱいに叩き落とし、舌打ちをする最上に黒須も負けじと睨み返す。
「…はぁ、あいつらはいい年をして何をしているんだ。…水篠ハンター、大丈夫か」
「え、っあ、はい。大丈夫、です」
睨み合っている二人を他所に白川が軽く頭を撫でながら問いかけると、若干まごつきながらもいつも通りの顔色に戻った水篠が微かに微笑んで返事をした。だが、気になったことがあるのかすぐに眉を下げて白川へ質問を口にする。
「…もしかして二人で撮るとかルールあるんですか?」
「いや、黒須のあれは気にしなくていい。別に二人で撮らなければいけない理由は無い。基本的に俺たちは全員で一枚、各自個別撮影という形だったしな」
だから気にするな、と再び頭を撫でる白川。礼を言おうと水篠が口を開きかけたタイミングで腰を引き寄せ、先ほどの黒須と同じような体勢にする。
「…だが、水篠ハンターが望むのなら俺と撮っても構わないが?」
「っ!?」
笑みを浮かべ告げた言葉に再び水篠の顔が赤く染まる。それを満足げに眺めていた白川の背後から低い声が掛かった。
「美味しい所を掻っ攫おうとはいい度胸ですね、白川ハンター?」
「俺言ったよなぁ?散々邪魔しておいて良い思いが出来ると思うなよって。お前にも当て嵌ってんだが?」
「…チッ、そのまま喧嘩していればいいものを。煩い奴らだな」
うんざりした表情で振り向く白川と怒り心頭な最上と黒須。
そのまま口喧嘩が始まってしまったので、その隙に水篠はこっそり壁際へと避難するのだった。
***
壁際ではなんとも言えない表情で三人の喧嘩を見ている犬飼課長が居て。最早まともな人はこの人しかいない、と駆け寄った。
「犬飼課長」
「水篠ハンター…災難でしたね」
「本当ですよ。あの人達一体何なんですか…全員で俺をからかったと思ったら急に口喧嘩を始めて…」
全くいい迷惑だ。と溜息を吐いて同意してもらおうと犬飼課長を見れば、なにやら驚いた表情を浮かべていた。
「え?」
「え?」
お互いに見つめ合い、暫くしてから犬飼課長が口を開く。
「水篠ハンター。失礼ですが、口説かれている自覚はおありでしょうか」
「口説っ!?俺が!?」
驚いて目を見開けば、犬飼課長が疲れたような溜息を吐いた。
「お気づきで無かったんですか…?全員水篠ハンターに好かれたくて、必死に口説いていらっしゃるんですよ」
「っえ、そ、そんなの知らない…」
戸惑い、うろうろと視線を彷徨わせる俺に犬飼課長がクスリと笑って手を伸ばし、頬を包まれ見つめ合う。
「水篠ハンター。好意を持つ”全員”とは誰を指し示すか…わかりますか?」
「え?ぁ、黒須ハンター、最上ハンター、白川ハンター、ですか…?」
直ぐ近くにある端整な顔立ちにどきどきと鼓動が早くなりながらも、質問に答えると、犬飼課長の笑みが深くなって…。
「残念ながら不正解です」
その言葉と共に犬飼課長の顔が更に近づいて…唇に柔らかいものが触れ、すぐに離れた。
「…え」
「貴方の唇を奪われなくて良かった。…水篠ハンター。僕も貴方のことが好きなんですよ」
予期せぬ告白にどんどん顔が熱くなる。…犬飼課長が、俺の事を?
「…嫌でしょうか?」
「い、嫌じゃないから…困ってる…」
不安げに尋ねられた言葉に、無理矢理絞り出した小さな声で返事をする。
すると犬飼課長はまるで蕩けるような微笑みを俺に向けてきて…。
「僕にも勝機がありそうで安心しました。…貴方の事を愛しています、水篠さん」
そう言いながら今度ははっきりと感覚のわかる口付けをされ、羞恥心の限界を突破した俺は倒れ込んでしまった。
***
「おっと…やり過ぎてしまいましたか」
僕の方に倒れ込んで来た水篠ハンターの身体を支える。これだけで気絶とは…なんとも可愛らしいものだ。
クスリと笑って顔を見つめていれば、殺気の籠った視線が向けられる。
「…とんだ抜け駆け野郎がいたもんだなぁ?」
「ええ。まさか犬飼課長も狙っていたとは…」
「真面目そうな顔をしておきながら、随分と手の早いものだ」
「僕は普通に口説かせて頂いただけです。…そもそも喧嘩をして目を離されたのが原因では?」
正直に言えば、この場で口説き落とすつもりなんて無かった。
運よく水篠ハンターがこちらに来たから他の人達への警戒心を植え付けると共に、少しでも僕を意識して貰えればいいと思っていただけ。
ただ、真っ赤に染まった顔が余りにも可愛らしくて、つい口付けをしてしまった上に脈があるような反応を貰えた事は自分でも想定外で。
つい思い出し笑いをしてしまったが、それを三人は挑発と捉えたようで殺気が増した。
「まだ勝負は決まっていませんが、随分と余裕そうですね?」
「全くだ。口説き落とした訳でもないだろう」
「このまま俺らが黙って見てると思うなよ?」
三人からの宣戦布告に見せつけるように抱えている水篠ハンターの髪へ口付け、今度は明確な意思を持って笑う。
…自分はこんなにも好戦的な人間だっただろうか。
「僕にも勝機があると判明しましたので、譲るつもりはありません。このまま口説き落とさせて頂きます」