犬飼×旬
「晃さんの馬鹿!!」
「水篠ハンター!!待ってください!!」
白川ハンター、黒須ハンターと会話していた最中、不意に協会のロビーに響いた大きな声に振り向くと、犬飼課長を睨み付けている水篠ハンターとその腕を掴んで引き留めている犬飼課長の姿が見えた。
「お、珍しいな。痴話喧嘩か?」
「まあ、あの様子ではそうだろうな」
「あの二人では喧嘩もしないかと思っていましたが…」
いつもいつも水篠ハンターは犬飼課長に心底惚れています、という態度でいるし、犬飼課長は公の場で言葉に出さずとも強い執着を秘めた目で見つめていてあの二人が揃うと空気が甘くなるので困るくらいだったのだが…喧嘩もするんですね…。
「茶々入れに行くか?」
「やめなさい」
「関わっても仕方ないだろう」
そっと移動しようとした黒須ハンターの肩を白川ハンターと同時に掴む。
全く、いい歳して野次馬所か横槍を入れようとするんじゃありませんよ。
「水篠ハンター!…っ、どうか落ち着いて下さい!僕の話を…っ」
「離せよ!晃さんが浮気したからだろ!?話すことなんか何も無い!女の人が良いならそう言えよ!!」
「っ聞いてください!違います!!全て誤解です!!」
野次馬をせずとも聞こえてくる会話の内容に僕達の表情も険しくなる。…浮気?
「…なあ、あれちょーっと穏やかじゃ無いんじゃねえか…?」
「監視課の課長とS級ハンターが往来でしていて良い会話の範疇は越えたな」
「…はぁ、そうですね。一旦止めましょう」
溜息を付いて2人の方に向かう。
そして黒須ハンターが水篠ハンターの肩を、白川ハンターが犬飼課長の肩をそれぞれ掴んで引き剥がした。
「はい、そこまでです。…お2人とも一旦落ち着いて下さい。協会のロビーでする話では無いでしょう」
「…はい、仰る通りですね。申し訳御座いません」
「…俺は別に…」
素直に頭を下げる犬飼課長とは違い、不機嫌そうに目線を逸らす水篠ハンター。
まあ浮気が本当であれば気持ちはわからなく無いが、真面目一辺倒なこの男が浮気するとは考えにくいですし…なにかの勘違いなのでしょうね。
「ここでは人目が多過ぎますから移動しましょう。水篠ハンターも宜しいですね?」
「俺、帰りたいんですけど」
「まー、そう言うなって。ここまで来たらお兄さん達が話聞いてやるから。な?」
「別に話聞いて欲しいわけじゃ…」
「よし、じゃあ行こうなー」
「え、あ、ちょっと!黒須ハンター!?」
帰ろうとする水篠ハンターを宥め、黒須ハンターがさっさと会議室の方へと連れて行く。
「…あいつはああいう事だけは上手いな」
「同感です。…さて、犬飼課長。流石に事情は聞かせて頂けますね?」
「…はい。ご面倒をお掛けし、申し訳御座いません」
こちらはこちらで落ち込んだ雰囲気を纏わりつかせている犬飼課長の肩を軽く叩き、先に黒須ハンターと水篠ハンターが向かった会議室へと3人で歩き始めた。
***
「さて…何があったんだ?」
会議室に入って早々苦笑しながら尋ねてくる黒須ハンターに目を逸らしながら簡潔に伝える。
「晃さ…犬飼課長が浮気した」
「していません!!」
「はい、犬飼課長は少し黙って下さい。先ずは水篠ハンターの意見を聞いてみましょう」
即座に否定してくる晃さんに文句をつけようかと思ったのが、その前に最上ハンターが止めてくれた。
「…今日、俺がお弁当作って持っていくって事前に伝えていたのに、監視課に入ったらもう既にお弁当食べてて…職員の人に聞いたら美人な女の人が持って来たって…」
「旬!違います!話を聞いて下さい!」
「犬飼課長、落ち着いて下さい」
「あー…確かにそこの部分を聞いた限りじゃあ浮気って言われてもまあ仕方ねえと思うが…」
またしても口を挟んできた晃さんを今度は白川ハンターが止めてくれる。そして黒須ハンターも同意を示してくれた。
「…ふむ。まあ状況的には水篠ハンターの言い分はわからなくないですね。…では犬飼課長の方はどうなんでしょう。浮気したんですか?」
「する訳が無いでしょう!?…本当に違います。ただ、確かにしゅ、…水篠ハンターのお弁当以外を口にしたことは事実ですが」
「やっぱり浮気じゃっ、むぐ!」
「今度は犬飼課長の番だと言っているだろう」
「気持ちはわかるけどな。ちょーっと聞いてみようぜ?」
認めた晃さんにまた怒りが募って、口を開こうとしたら白川ハンターに口を塞がれ、黒須ハンターに宥められる。
「約束をしていたのでしょう?何故その約束を破ってまで口にしたんです?面倒なことになるのは目に見えていたじゃないですか」
「…破ったつもりは無かったんです。僕はそのお弁当を水篠ハンターからのものだと思って口にしていたので…」
「どういうことです?」
晃さんの説明に全員が疑問符を浮かべる。俺からの物だと思って食べたって…どうして?
「…その女性に言われたんです『水篠ハンターが急遽我進ギルドに呼び出されたから代わりに犬飼課長に渡して欲しいと言われた。偶々居た自分を職員と勘違いしたようです』…と」
「っ!そんな事言ってない!」
咄嗟に白川ハンターの拘束から抜け出して叫ぶ。そもそも万が一そんなことがあったら影に渡させるに決まってるだろ!?
「はい、僕も最初はそう思いました。けれどその女性が『急いで片づけて戻ってくるから』とも言っていたと言われ、嘘ならばそんなことは言わないだろうと信じてしまったんです。…申し訳ございません」
「…成程な。確かに騙すだけならばわざわざ本人が戻ってくることは伝えないだろう」
「そいつは何がしたかったんだ?弁当も普通の弁当だったんだろ?」
苦しそうな顔で謝罪する晃さんの姿に俺の中の怒りが急速に静まっていくのを感じる。…俺からだと思ってたから食べたのか。
そして渋面を浮かべる白川ハンターと黒須ハンターに対し、最上ハンターが口を開く。
「もしかすると…別れさせたかったのかもしれませんね」
「「え?」」
「ああ、成程な。随分知恵が回るお嬢さんだったって事か」
「姑息な事だ」
どうやら意味合いが伝わったらしい黒須ハンターと白川ハンターが今度は軽蔑の表情を浮かべて吐き捨てる様な言い方をする。そして意味が解っていない様子の俺と晃さんに最上ハンターがかみ砕いて説明してくれた。
「犬飼課長が勘違いしてお弁当を食べたことに対して水篠ハンターは怒ったでしょう?恐らくそれが狙いだったんです。勘違いを引き起こして喧嘩をさせ、あわよくば別れて欲しかった。…動機としては犬飼課長を狙っていたんでしょうね」
「え…じゃあ、俺…」
「まんまと罠に嵌る所だったってことだな」
「ですが水篠ハンターが悪いわけではありませんよ」
「そうだな。悪いのはその女で間違いないが、防げた可能性もあった筈だ」
俺が勘違いして怒ったのは思うツボだったって事か、と愕然としていれば三人がフォローをしてくれた。
「…白川ハンターの仰る通りですね。僕がきちんと確認をしていればこうしてお三方の手を煩わす事も、水篠ハンターを悲しませる事も無かったのに」
心底後悔をしていると言わんばかりの表情を浮かべている晃さんにそっと近づいて手を取る。
「…ごめんなさい。俺、晃さんの話も聞かずに一方的に怒って、責め立てて…」
「っ!旬は悪くありません!僕がきちんと確認をすれば良かったのに…まんまと騙されて挙句に貴方を悲しませるだなんて…本当に申し訳ございません…!」
「…俺の事嫌いになってない?」
「なる筈がありません。…旬の方こそ、あんな単純な罠に引っかかってしまうような情けない僕の事を嫌いになってはいませんか?」
ギュッと握られた手と晃さんの眉を下げた微笑みに堪らず抱きつくとそれ以上の力で抱き締め返してくれた。その温かな体温と俺を見つめる目に思わず目を閉じて顔を近付ける…。
「さっきは怒っちゃったけど、俺はいつだって晃さんの事…」
「ん゛ん゛っ」
「あー…俺らもまだいるんだよなー」
「…仲直りしたのは何よりですが、それは後にしてください」
「「!!」」
背後から聞こえた咳払いと二人の気まずい声に驚いて晃さんから離れる。…すっかり忘れていた…!
「ごめんなさい…!」
「お恥ずかしい所をお見せしました…!」
「…まあ構いません。解決したようですので僕らはこれで失礼しますよ」
「仲良くしとけよ」
「…先ずはきちんと話し合う事だな」
二人して謝ると溜息と共に順番に俺の頭をひと撫でし、晃さんの肩を叩いて会議室を去っていった。
「今度お礼しなきゃ」
「そうですね。後日何か考えましょう」
静かになった会議室で三人が出て行ったドアを見つめながら俺がぽつりと呟けば晃さんが同意する。
そっと様子を伺えば、苦笑している晃さんと目が合って…。
「…晃さん」
「旬。…先ほどの続きを聞かせてくれますか?」
そっと名前を呼べば微笑んで腕を拡げてくれたので、勢いよく飛びつく。
「…いつだって晃さんの事大好き。…愛してます」
優しく抱きとめられ、更に身体を擦り寄らせる。するとそっと頬を両手で包まれ、優しくキスをされた。
「僕も、旬の事を誰よりも愛しています」
***
後日、監視カメラに映っていた情報から女性を探し出し詰問したところ、最上ハンターの想定通り僕達を別れさせようとしていたらしい。
どうやら会長の付き人として出席したパーティで会ったらしいのだが…記憶には全く残っていなかった。
「貴方のことを愛しているの!!」
「そうですか。僕は貴方に一切興味がありません」
この期に及んでも尚、ふざけた事を言う女性にハッキリと拒絶を伝える。
「わ、私の方が水篠ハンターより貴方の事を満足させてあげられるし、やっぱり女性の方が「いい加減にして下さい」っ!」
「貴方が何を言おうが、僕は水篠ハンター以外を愛する事はありません。…今回は厳重注意として警告のみで見逃しますが、万が一同様の事をするのであれば…」
そこで言葉を止め、魔力を流す。
「ひ…!!し、しない!しないわ!もう二度と近付かないって約束する!!」
「そうして下さい。…それでは。二度とお会いしないことを願っています」
怯えた目で僕を見る女性を一瞥し、部下に連れて行かせた。一般人にはさぞかし恐怖を感じた事だろう。
あれだけ脅かしておけば本当に二度と近付くことはあるまい。
…しかし、旬の周りばかりに気を張って自分自身の周りを見ていなかったとはなんともお粗末な話だ。今後はそちらにも気を付けなくては。
反省しながら車を運転し、家へと辿り着く。
そして玄関の鍵を開けようとすると内側から扉が開かれた。
「おかえりなさい、晃さん。ご飯にする?それともお風呂?」
微笑んで出迎えてくれた旬に、先程までの怒りも気落ちした気分も吹き飛んで、正面の身体を抱き締める。
「っわ!あ、晃さん…?」
「旬を頂きたいです」
「!……晃さんが運んでくれたらいいよ」
僕の言葉に一気に耳まで赤く染めた旬がそっと僕の背中に腕を回し、小さく呟く。その言葉を聞いた瞬間、旬の身体を抱え上げた。
「貴方だけを愛しています」
「水篠ハンター!!待ってください!!」
白川ハンター、黒須ハンターと会話していた最中、不意に協会のロビーに響いた大きな声に振り向くと、犬飼課長を睨み付けている水篠ハンターとその腕を掴んで引き留めている犬飼課長の姿が見えた。
「お、珍しいな。痴話喧嘩か?」
「まあ、あの様子ではそうだろうな」
「あの二人では喧嘩もしないかと思っていましたが…」
いつもいつも水篠ハンターは犬飼課長に心底惚れています、という態度でいるし、犬飼課長は公の場で言葉に出さずとも強い執着を秘めた目で見つめていてあの二人が揃うと空気が甘くなるので困るくらいだったのだが…喧嘩もするんですね…。
「茶々入れに行くか?」
「やめなさい」
「関わっても仕方ないだろう」
そっと移動しようとした黒須ハンターの肩を白川ハンターと同時に掴む。
全く、いい歳して野次馬所か横槍を入れようとするんじゃありませんよ。
「水篠ハンター!…っ、どうか落ち着いて下さい!僕の話を…っ」
「離せよ!晃さんが浮気したからだろ!?話すことなんか何も無い!女の人が良いならそう言えよ!!」
「っ聞いてください!違います!!全て誤解です!!」
野次馬をせずとも聞こえてくる会話の内容に僕達の表情も険しくなる。…浮気?
「…なあ、あれちょーっと穏やかじゃ無いんじゃねえか…?」
「監視課の課長とS級ハンターが往来でしていて良い会話の範疇は越えたな」
「…はぁ、そうですね。一旦止めましょう」
溜息を付いて2人の方に向かう。
そして黒須ハンターが水篠ハンターの肩を、白川ハンターが犬飼課長の肩をそれぞれ掴んで引き剥がした。
「はい、そこまでです。…お2人とも一旦落ち着いて下さい。協会のロビーでする話では無いでしょう」
「…はい、仰る通りですね。申し訳御座いません」
「…俺は別に…」
素直に頭を下げる犬飼課長とは違い、不機嫌そうに目線を逸らす水篠ハンター。
まあ浮気が本当であれば気持ちはわからなく無いが、真面目一辺倒なこの男が浮気するとは考えにくいですし…なにかの勘違いなのでしょうね。
「ここでは人目が多過ぎますから移動しましょう。水篠ハンターも宜しいですね?」
「俺、帰りたいんですけど」
「まー、そう言うなって。ここまで来たらお兄さん達が話聞いてやるから。な?」
「別に話聞いて欲しいわけじゃ…」
「よし、じゃあ行こうなー」
「え、あ、ちょっと!黒須ハンター!?」
帰ろうとする水篠ハンターを宥め、黒須ハンターがさっさと会議室の方へと連れて行く。
「…あいつはああいう事だけは上手いな」
「同感です。…さて、犬飼課長。流石に事情は聞かせて頂けますね?」
「…はい。ご面倒をお掛けし、申し訳御座いません」
こちらはこちらで落ち込んだ雰囲気を纏わりつかせている犬飼課長の肩を軽く叩き、先に黒須ハンターと水篠ハンターが向かった会議室へと3人で歩き始めた。
***
「さて…何があったんだ?」
会議室に入って早々苦笑しながら尋ねてくる黒須ハンターに目を逸らしながら簡潔に伝える。
「晃さ…犬飼課長が浮気した」
「していません!!」
「はい、犬飼課長は少し黙って下さい。先ずは水篠ハンターの意見を聞いてみましょう」
即座に否定してくる晃さんに文句をつけようかと思ったのが、その前に最上ハンターが止めてくれた。
「…今日、俺がお弁当作って持っていくって事前に伝えていたのに、監視課に入ったらもう既にお弁当食べてて…職員の人に聞いたら美人な女の人が持って来たって…」
「旬!違います!話を聞いて下さい!」
「犬飼課長、落ち着いて下さい」
「あー…確かにそこの部分を聞いた限りじゃあ浮気って言われてもまあ仕方ねえと思うが…」
またしても口を挟んできた晃さんを今度は白川ハンターが止めてくれる。そして黒須ハンターも同意を示してくれた。
「…ふむ。まあ状況的には水篠ハンターの言い分はわからなくないですね。…では犬飼課長の方はどうなんでしょう。浮気したんですか?」
「する訳が無いでしょう!?…本当に違います。ただ、確かにしゅ、…水篠ハンターのお弁当以外を口にしたことは事実ですが」
「やっぱり浮気じゃっ、むぐ!」
「今度は犬飼課長の番だと言っているだろう」
「気持ちはわかるけどな。ちょーっと聞いてみようぜ?」
認めた晃さんにまた怒りが募って、口を開こうとしたら白川ハンターに口を塞がれ、黒須ハンターに宥められる。
「約束をしていたのでしょう?何故その約束を破ってまで口にしたんです?面倒なことになるのは目に見えていたじゃないですか」
「…破ったつもりは無かったんです。僕はそのお弁当を水篠ハンターからのものだと思って口にしていたので…」
「どういうことです?」
晃さんの説明に全員が疑問符を浮かべる。俺からの物だと思って食べたって…どうして?
「…その女性に言われたんです『水篠ハンターが急遽我進ギルドに呼び出されたから代わりに犬飼課長に渡して欲しいと言われた。偶々居た自分を職員と勘違いしたようです』…と」
「っ!そんな事言ってない!」
咄嗟に白川ハンターの拘束から抜け出して叫ぶ。そもそも万が一そんなことがあったら影に渡させるに決まってるだろ!?
「はい、僕も最初はそう思いました。けれどその女性が『急いで片づけて戻ってくるから』とも言っていたと言われ、嘘ならばそんなことは言わないだろうと信じてしまったんです。…申し訳ございません」
「…成程な。確かに騙すだけならばわざわざ本人が戻ってくることは伝えないだろう」
「そいつは何がしたかったんだ?弁当も普通の弁当だったんだろ?」
苦しそうな顔で謝罪する晃さんの姿に俺の中の怒りが急速に静まっていくのを感じる。…俺からだと思ってたから食べたのか。
そして渋面を浮かべる白川ハンターと黒須ハンターに対し、最上ハンターが口を開く。
「もしかすると…別れさせたかったのかもしれませんね」
「「え?」」
「ああ、成程な。随分知恵が回るお嬢さんだったって事か」
「姑息な事だ」
どうやら意味合いが伝わったらしい黒須ハンターと白川ハンターが今度は軽蔑の表情を浮かべて吐き捨てる様な言い方をする。そして意味が解っていない様子の俺と晃さんに最上ハンターがかみ砕いて説明してくれた。
「犬飼課長が勘違いしてお弁当を食べたことに対して水篠ハンターは怒ったでしょう?恐らくそれが狙いだったんです。勘違いを引き起こして喧嘩をさせ、あわよくば別れて欲しかった。…動機としては犬飼課長を狙っていたんでしょうね」
「え…じゃあ、俺…」
「まんまと罠に嵌る所だったってことだな」
「ですが水篠ハンターが悪いわけではありませんよ」
「そうだな。悪いのはその女で間違いないが、防げた可能性もあった筈だ」
俺が勘違いして怒ったのは思うツボだったって事か、と愕然としていれば三人がフォローをしてくれた。
「…白川ハンターの仰る通りですね。僕がきちんと確認をしていればこうしてお三方の手を煩わす事も、水篠ハンターを悲しませる事も無かったのに」
心底後悔をしていると言わんばかりの表情を浮かべている晃さんにそっと近づいて手を取る。
「…ごめんなさい。俺、晃さんの話も聞かずに一方的に怒って、責め立てて…」
「っ!旬は悪くありません!僕がきちんと確認をすれば良かったのに…まんまと騙されて挙句に貴方を悲しませるだなんて…本当に申し訳ございません…!」
「…俺の事嫌いになってない?」
「なる筈がありません。…旬の方こそ、あんな単純な罠に引っかかってしまうような情けない僕の事を嫌いになってはいませんか?」
ギュッと握られた手と晃さんの眉を下げた微笑みに堪らず抱きつくとそれ以上の力で抱き締め返してくれた。その温かな体温と俺を見つめる目に思わず目を閉じて顔を近付ける…。
「さっきは怒っちゃったけど、俺はいつだって晃さんの事…」
「ん゛ん゛っ」
「あー…俺らもまだいるんだよなー」
「…仲直りしたのは何よりですが、それは後にしてください」
「「!!」」
背後から聞こえた咳払いと二人の気まずい声に驚いて晃さんから離れる。…すっかり忘れていた…!
「ごめんなさい…!」
「お恥ずかしい所をお見せしました…!」
「…まあ構いません。解決したようですので僕らはこれで失礼しますよ」
「仲良くしとけよ」
「…先ずはきちんと話し合う事だな」
二人して謝ると溜息と共に順番に俺の頭をひと撫でし、晃さんの肩を叩いて会議室を去っていった。
「今度お礼しなきゃ」
「そうですね。後日何か考えましょう」
静かになった会議室で三人が出て行ったドアを見つめながら俺がぽつりと呟けば晃さんが同意する。
そっと様子を伺えば、苦笑している晃さんと目が合って…。
「…晃さん」
「旬。…先ほどの続きを聞かせてくれますか?」
そっと名前を呼べば微笑んで腕を拡げてくれたので、勢いよく飛びつく。
「…いつだって晃さんの事大好き。…愛してます」
優しく抱きとめられ、更に身体を擦り寄らせる。するとそっと頬を両手で包まれ、優しくキスをされた。
「僕も、旬の事を誰よりも愛しています」
***
後日、監視カメラに映っていた情報から女性を探し出し詰問したところ、最上ハンターの想定通り僕達を別れさせようとしていたらしい。
どうやら会長の付き人として出席したパーティで会ったらしいのだが…記憶には全く残っていなかった。
「貴方のことを愛しているの!!」
「そうですか。僕は貴方に一切興味がありません」
この期に及んでも尚、ふざけた事を言う女性にハッキリと拒絶を伝える。
「わ、私の方が水篠ハンターより貴方の事を満足させてあげられるし、やっぱり女性の方が「いい加減にして下さい」っ!」
「貴方が何を言おうが、僕は水篠ハンター以外を愛する事はありません。…今回は厳重注意として警告のみで見逃しますが、万が一同様の事をするのであれば…」
そこで言葉を止め、魔力を流す。
「ひ…!!し、しない!しないわ!もう二度と近付かないって約束する!!」
「そうして下さい。…それでは。二度とお会いしないことを願っています」
怯えた目で僕を見る女性を一瞥し、部下に連れて行かせた。一般人にはさぞかし恐怖を感じた事だろう。
あれだけ脅かしておけば本当に二度と近付くことはあるまい。
…しかし、旬の周りばかりに気を張って自分自身の周りを見ていなかったとはなんともお粗末な話だ。今後はそちらにも気を付けなくては。
反省しながら車を運転し、家へと辿り着く。
そして玄関の鍵を開けようとすると内側から扉が開かれた。
「おかえりなさい、晃さん。ご飯にする?それともお風呂?」
微笑んで出迎えてくれた旬に、先程までの怒りも気落ちした気分も吹き飛んで、正面の身体を抱き締める。
「っわ!あ、晃さん…?」
「旬を頂きたいです」
「!……晃さんが運んでくれたらいいよ」
僕の言葉に一気に耳まで赤く染めた旬がそっと僕の背中に腕を回し、小さく呟く。その言葉を聞いた瞬間、旬の身体を抱え上げた。
「貴方だけを愛しています」