犬飼×旬
「…では次に今年のクリスマスイベントについてですが…」
「ああ、もうそんな時期ですか」
「1年って早いよなぁ…」
「…去年は相当な無茶振りをされましたね」
会議も終盤になったところで会長がこの場に似つかわしく無い言葉を口に出したので首を傾げてしまう。
「クリスマスイベント?」
「ああ、水篠ハンターは参加したことがありませんからね。説明不足で申し訳ありません。…ハンターという職業に休みはありませんが、少しでも家族と過ごしたり何かしらの楽しみがあった方がいいと考え、毎年12月25日には協会職員と大型ギルドの力を借りてバザーやちょっとしたプレゼントの配布等をしているんです」
「因みに去年はサンタのコスプレをした我々を見つけられたら握手かつサインが貰える、というイベントでファンから追いかけ回され酷い目に合いましたので、水篠ハンターは参加される場合内容をしっかりと聞いてからの方が良いですよ」
会長の説明に成程、チャリティーイベントのような物かと納得は出来たのだがその後に続いた白川ハンターの言葉で参加はよく考えてからにしようと決めた。
「まあとはいえ白川ハンターが目立ってくれたお陰で俺と最上ハンターはちびっ子の対応に追われたくらいだけどな」
「ええ、無駄に高い身長が大層役に立たれていましたね」
「…おい、ちょっと待て。お前ら2人とも去年女性に追いかけ回されて大変だったと言っていただろう」
「あ、やべ。言っちまった」
「そういえばそんな設定にして誤魔化しましたね」
「あれは嘘か!!お前ら…!!」
何やら揉め始めた3人をちらりと見て苦笑しながら会長が説明を続ける。
「今年は水篠ハンターにも是非ご協力を頂きたいと思っております。内容は毎年差程変わりはありませんが、白川ハンターの仰った通りS級ハンターが何かをしてくれる、となると大変な事態になると去年学びましたので今年は少々企画を変更致しました。…皆さんのご意見次第で変更も可能ですので一度耳を傾けて頂いても宜しいでしょうか?」
会長がそう言うと言い争っていた(というか白川ハンターが2人に苦情を入れていただけだが)3人がこちらを向く。
「今年は例年通りサンタの格好をして頂き、皆さんには一度挨拶をして頂いた後、規定の場所でお菓子の配布と握手を行って頂きたい。そして前回の反省を踏まえ対象は中学生以下の子供のみ。おひとり100人まで対応頂き、他のS級ハンターの列への並び直しも無しと考えております」
「バラバラに動くより1箇所に俺らを纏めとくって事か」
「それならば問題は無いかと」
「そうですね。僕としても異論はありません」
「水篠ハンターはいかがでしょうか?」
話を振られ、少し考える。…一瞬家族と過ごすので断ろうかと思ったのだが、全員が参加をするようだしここで俺だけが断るというのもなんだか申し訳無い。
まあクリスマスイブに祝ってしまえば良いだけの話だしな、と結論付けて会長に向かって頷いた。
「参加します」
「有難う御座います。それでは詳細はまた後日打ち合わせを行わせて頂きますのでよろしくお願いいたします。…さて、本日はこれで全ての議題が終了となります。本日も有難う御座いました」
会長の礼の言葉と締めの挨拶を聞いてその場は解散となった。
***
その後もサンタ服の採寸やら当日のタイムスケジュールを何回か打ち合わせ、完璧に準備が完了したと思えばあっという間にクリスマスイブを迎えていた。
「そういえばさあ、お兄ちゃん明日はイベントなんでしょ?」
「ん?ああ、協会のな」
「恋人と過ごせなくない?今日家にいて良かったの?」
「!?ごふっ!げほっ!ごほっ!」
葵から爆弾発言をされて食べていたチキンを喉に詰まらせてしまった俺の背を母さんが軽く叩き飲み物を渡してくれる。
「あらあら、旬大丈夫?」
「やだお兄ちゃん吐き出さないでよー?」
「っげほ、っ、吐き出す訳無いだろ!っ、ごほっ…はぁ、葵が変なこと言うからだろ」
揶揄うように笑う葵を睨みつけるが、全く効いていないようでにやにやとしながら更に続けてきた。
「だってさぁ、付き合って初めてのクリスマスでしょ?あ、もしかしてイベントの後に会うとか!?」
「会う訳無いだろ!」
「嘘!?約束もしてないの!?ありえない!もう!お兄ちゃん明日泊ってきちゃいなよ!ね?お母さん!」
「馬鹿お前何言って…!」
俺が予定なんかないと言えば信じられないとでも言わんばかりに目を見開き、泊りの提案を勝手にする葵にそろそろ抓るか、と手を伸ばすと今度は母さんからの爆弾発言が待っていた。
「そうね、折角のクリスマスなんですもの。連絡が無ければ泊りだと思う事にするわね。頑張っていらっしゃい」
「母さんまで何言ってるんだよ!」
にこりと微笑んで何故か俺では無く葵の味方をする母さんにツッコむが、二人が組んで俺が口で勝てる訳も無く、結局連絡を入れなければ泊りだと思うからと押し切られてしまった。
そして食事を終えたあと、謎の疲労感でベッドへと倒れ込む。
「…そんなこと言ったって、忙しいに決まってる」
プレゼントは一応用意したけれど、どうせ誘われてもいないし明日は寂しく帰ってくるのだとほんの少しの寂しさを抱え、眠りについた。
***
そしてイベント当日。
それぞれが横並びに座り、子供たちにお菓子を配っていたのだが、俺の席だけ他の人達と少々毛色が違っていて…。
「みずしのはんたー!けっこんしてください!」
「ぼくのおよめさんになって!」
「あの、あと少しで私16になるので!お付き合いしてください!」
「…っ、ほ、本気です!俺と付き合ってください!一生大事にします!」
etc.
何故か来る子供達の半数以上が握手をしながらお付き合いや結婚の申し込みをしていく。…いや、なんでだよ!
最初は横目で笑っていた協会職員や会長、犬飼課長、ギルマス達も半分が過ぎるにつれ引き攣った顔をこちらに向けるようになった。
その後も求婚は続き…ようやく終了を伝えられた時には俺は机に突っ伏してぐったりとしていた。
「以上で終了となります。皆さんご協力ありがとうございます。お疲れ様でした」
会長の言葉にようやく終わったと顔を上げる。
「…会長、俺今日はもう帰っても大丈夫ですか」
「ええ、勿論です。…水篠ハンターの人気は凄まじかったですね。お疲れ様でした」
苦笑しながら告げられた了承の言葉に軽く頷いて席を立つ。そうしてまずは着替えようと足早に会場を歩いていると後ろから呼び止められた。
「水篠ハンター」
***
「…犬飼課長?」
振り向くと晃さんが追いかけて来ていた。何か、まだ用事があったのだろうか、と足を止めて追いつくのを待つ。
「お帰りになるのでしたらお送り致します」
「え?…じゃあ、お願いします」
事務的な対応だけれど、ほんの少しでもふたりきりで居られるのならばと素直に頼むことにした。
「はい。それでは先に車を持ってきますので着替えられましたら駐車場にお願いいたします」
「わかりました」
それでは、と表情も変えずに去っていく晃さんにクリスマスだから特別な何かがある訳じゃ無いしな…と自分に言い聞かせ、サンタ服を脱ぐ。そうしていつもの服に着替え、駐車場へと向かうと何故か社用車ではなく自家用車が停車していた。
「水篠ハンター」
「犬飼課長、お待たせしました。…今日は自家用車なんですか?」
「ええ、本日はもう上がって良いとのことでしたので」
「それで俺を送って行くのは業務扱いになるんじゃ…」
帰れるのならば帰りたいだろうに、と思って口に出したのだがその考えは微かに微笑んだ晃さんにより否定される。
「いいえ、僕が好きで送って行くのですからなりませんよ」
「っ!…あ、有難う御座います」
「ふふ、はい。…それではこちらへ」
ストレートな言葉に少々詰まりながらもお礼を言うと、クスリと笑って助手席のドアを開けてくれたので素直に乗り込んだ。
シートベルトを装着しようとするとそっとその手を晃さんが握ってきて、心臓がドキリと跳ねる。
「…旬。きっと今日はご家族でお祝いされるでしょうから先にプレゼントを渡しても宜しいでしょうか」
「っえ?」
家族でお祝い?それは昨日したのだが…もしかしてとひとつの可能性に思い当たり、おずおずと尋ねた。
「…もしかして家族で祝うだろうから、今日誘わなかったんですか…?」
「ええ。お母さまが退院されて初めてのクリスマスですから、きっとお祝いされると思い、」
優しく微笑む晃さんにムッとして、身を乗り出し晃さんに抱きついた。
「っ!?」
「クリスマスパーティーなら昨日しました。母さんが退院して初ではあるけど、晃さんと付き合ってからも初のクリスマスなのに。…俺、本当は誘ってくれるの期待していたんですよ。でも何にも言ってくれないし、晃さん仕事で忙しいのかなって思ったのに」
子供っぽいとは思ったが、抱きついたまま拗ねた口調で言えば晃さんからもきつく抱き締め返される。
「申し訳ございません。その、僕がご家族の邪魔をするわけにはいかないと思い…」
「寧ろ葵と母さんに恋人と過ごさないのかって聞かれましたが」
「…あの、旬。今から挽回の機会を頂けないでしょうか…?」
恐る恐る訊ねてくる晃さんに内心喜びはしているが、わざとそっぽを向く。
「晃さん俺とクリスマス過ごす気は無いんじゃないんですか?」
「僕が至らなかったのは重々承知の上ですが、どうか意地悪を仰らないでください。旬と過ごしたく無いだなんて考えたこともありません」
俺の機嫌を取るかのように頬や額にキスを落とす晃さんに少し溜飲が下がり、わざとため息を吐いた。
「…俺とクリスマス過ごしてくれる?」
「僕からお願いします。…どうか残りの時間を全て僕に下さい」
クリスマスという日の事を言っているのはわかるのだが、まるでプロポーズのような言葉に思わず赤面してしまう。誤魔化す為に晃さんの頬へキスをして耳元で囁いた。
「…日付が変わっても一緒に居て下さいね」
「っ!勿論です」
***
助手席で機嫌良さそうに外を眺めている旬を横目に内心で安堵のため息を吐く。
危うく恋人の期待に沿えず、付き合って初のクリスマスを逃すという人生最大といっても過言ではないほどの失態を晒すところだった。
まさか旬が僕と過ごすクリスマスをそんなにも楽しみにしてくれていただなんて…。
まるで物わかりの良い大人のような態度を取ったが、本当は家族と過ごすからと断られるのが怖かった。旬の一番は家族だと理解しているからこそ、イベントごとは期待しないようにと思っていたのだが…。
「(勝手に旬の気持ちを決めつけるのはよくありませんね)」
「晃さん?協会の仕事の後だしやっぱり疲れてるんじゃ…」
反省をしていたら旬に話しかけられている事に気が付かず、心配そうな顔を向けられてしまった。
「いえ、すみません。…先程の事を反省していました。思い込みで動くのは良くありませんね」
「それはそうだけど。…でも俺からも言えばよかったんですよね…ごめんなさい。さっきはあんな風に言っちゃったけど、晃さんとクリスマスを一緒に過ごせる事凄く嬉しい」
照れた様に微笑む旬を横目で見てしまい、我慢が効かず一度路肩に車を停め、手を伸ばして頬を包み、口付けた。
「晃さん?どうし…っん!ふ…ッん、んぅ…」
「はぁ…すみません、余りにも可愛らしい事を仰るので我慢が効かなくなりました」
「っだ、だからってこんなところで、人に見られたら…っ!」
頬を真っ赤に染めて潤んだ目は決して嫌がっていないのが手に取るようにわかったのだが、その言葉でふと先程のイベントの事を思い出し再び口付ける。
「ッん!ん、んぅ…っンん、はっ…な、なんで…見られるって言ったのに…!」
「見つかれば今日のように旬に求婚する方もいなくなるでしょうね」
「え?…求婚ってまさかイベントの?」
「ええ。…今日僕が何回嫉妬したかわかりますか?」
子供しかいなかったのに?とびっくりしたように目を丸くさせている旬だが、子供だからこそだ。感情に素直で、世間体なんて考えない。男女問わず好き勝手に告白して…関係を知っている会長は始終楽しそうになさっていたが、こちらはずっとヤキモキしていた事を思い出す。
「年齢なんて関係ありません。…ずっと子供たちを旬から引き剥がしたい衝動に駆られていました」
「…晃さんでも嫉妬するんだ」
話をきいて呆然と呟く旬に、失望されたかと心配になって問いかける。
「子供にすら嫉妬する心の狭い男でがっかりしましたか?」
「そんな訳無い。…その、誰に告白されても求婚されても、俺の一番は晃さんだから」
「っ!…旬、そんな可愛らしい事ばかり言われると、止められなくなります」
「ここじゃ駄目ですけど…今日はクリスマスだから…家に行ったら晃さんの好きにしていいよ」
恥ずかしそうに目を伏せて小さく口にした許しの言葉に、一刻も早く帰ろうとアクセルを踏んだ。
「その言葉の撤回は受け付けません。…旬、覚悟をなさってくださいね」
「ああ、もうそんな時期ですか」
「1年って早いよなぁ…」
「…去年は相当な無茶振りをされましたね」
会議も終盤になったところで会長がこの場に似つかわしく無い言葉を口に出したので首を傾げてしまう。
「クリスマスイベント?」
「ああ、水篠ハンターは参加したことがありませんからね。説明不足で申し訳ありません。…ハンターという職業に休みはありませんが、少しでも家族と過ごしたり何かしらの楽しみがあった方がいいと考え、毎年12月25日には協会職員と大型ギルドの力を借りてバザーやちょっとしたプレゼントの配布等をしているんです」
「因みに去年はサンタのコスプレをした我々を見つけられたら握手かつサインが貰える、というイベントでファンから追いかけ回され酷い目に合いましたので、水篠ハンターは参加される場合内容をしっかりと聞いてからの方が良いですよ」
会長の説明に成程、チャリティーイベントのような物かと納得は出来たのだがその後に続いた白川ハンターの言葉で参加はよく考えてからにしようと決めた。
「まあとはいえ白川ハンターが目立ってくれたお陰で俺と最上ハンターはちびっ子の対応に追われたくらいだけどな」
「ええ、無駄に高い身長が大層役に立たれていましたね」
「…おい、ちょっと待て。お前ら2人とも去年女性に追いかけ回されて大変だったと言っていただろう」
「あ、やべ。言っちまった」
「そういえばそんな設定にして誤魔化しましたね」
「あれは嘘か!!お前ら…!!」
何やら揉め始めた3人をちらりと見て苦笑しながら会長が説明を続ける。
「今年は水篠ハンターにも是非ご協力を頂きたいと思っております。内容は毎年差程変わりはありませんが、白川ハンターの仰った通りS級ハンターが何かをしてくれる、となると大変な事態になると去年学びましたので今年は少々企画を変更致しました。…皆さんのご意見次第で変更も可能ですので一度耳を傾けて頂いても宜しいでしょうか?」
会長がそう言うと言い争っていた(というか白川ハンターが2人に苦情を入れていただけだが)3人がこちらを向く。
「今年は例年通りサンタの格好をして頂き、皆さんには一度挨拶をして頂いた後、規定の場所でお菓子の配布と握手を行って頂きたい。そして前回の反省を踏まえ対象は中学生以下の子供のみ。おひとり100人まで対応頂き、他のS級ハンターの列への並び直しも無しと考えております」
「バラバラに動くより1箇所に俺らを纏めとくって事か」
「それならば問題は無いかと」
「そうですね。僕としても異論はありません」
「水篠ハンターはいかがでしょうか?」
話を振られ、少し考える。…一瞬家族と過ごすので断ろうかと思ったのだが、全員が参加をするようだしここで俺だけが断るというのもなんだか申し訳無い。
まあクリスマスイブに祝ってしまえば良いだけの話だしな、と結論付けて会長に向かって頷いた。
「参加します」
「有難う御座います。それでは詳細はまた後日打ち合わせを行わせて頂きますのでよろしくお願いいたします。…さて、本日はこれで全ての議題が終了となります。本日も有難う御座いました」
会長の礼の言葉と締めの挨拶を聞いてその場は解散となった。
***
その後もサンタ服の採寸やら当日のタイムスケジュールを何回か打ち合わせ、完璧に準備が完了したと思えばあっという間にクリスマスイブを迎えていた。
「そういえばさあ、お兄ちゃん明日はイベントなんでしょ?」
「ん?ああ、協会のな」
「恋人と過ごせなくない?今日家にいて良かったの?」
「!?ごふっ!げほっ!ごほっ!」
葵から爆弾発言をされて食べていたチキンを喉に詰まらせてしまった俺の背を母さんが軽く叩き飲み物を渡してくれる。
「あらあら、旬大丈夫?」
「やだお兄ちゃん吐き出さないでよー?」
「っげほ、っ、吐き出す訳無いだろ!っ、ごほっ…はぁ、葵が変なこと言うからだろ」
揶揄うように笑う葵を睨みつけるが、全く効いていないようでにやにやとしながら更に続けてきた。
「だってさぁ、付き合って初めてのクリスマスでしょ?あ、もしかしてイベントの後に会うとか!?」
「会う訳無いだろ!」
「嘘!?約束もしてないの!?ありえない!もう!お兄ちゃん明日泊ってきちゃいなよ!ね?お母さん!」
「馬鹿お前何言って…!」
俺が予定なんかないと言えば信じられないとでも言わんばかりに目を見開き、泊りの提案を勝手にする葵にそろそろ抓るか、と手を伸ばすと今度は母さんからの爆弾発言が待っていた。
「そうね、折角のクリスマスなんですもの。連絡が無ければ泊りだと思う事にするわね。頑張っていらっしゃい」
「母さんまで何言ってるんだよ!」
にこりと微笑んで何故か俺では無く葵の味方をする母さんにツッコむが、二人が組んで俺が口で勝てる訳も無く、結局連絡を入れなければ泊りだと思うからと押し切られてしまった。
そして食事を終えたあと、謎の疲労感でベッドへと倒れ込む。
「…そんなこと言ったって、忙しいに決まってる」
プレゼントは一応用意したけれど、どうせ誘われてもいないし明日は寂しく帰ってくるのだとほんの少しの寂しさを抱え、眠りについた。
***
そしてイベント当日。
それぞれが横並びに座り、子供たちにお菓子を配っていたのだが、俺の席だけ他の人達と少々毛色が違っていて…。
「みずしのはんたー!けっこんしてください!」
「ぼくのおよめさんになって!」
「あの、あと少しで私16になるので!お付き合いしてください!」
「…っ、ほ、本気です!俺と付き合ってください!一生大事にします!」
etc.
何故か来る子供達の半数以上が握手をしながらお付き合いや結婚の申し込みをしていく。…いや、なんでだよ!
最初は横目で笑っていた協会職員や会長、犬飼課長、ギルマス達も半分が過ぎるにつれ引き攣った顔をこちらに向けるようになった。
その後も求婚は続き…ようやく終了を伝えられた時には俺は机に突っ伏してぐったりとしていた。
「以上で終了となります。皆さんご協力ありがとうございます。お疲れ様でした」
会長の言葉にようやく終わったと顔を上げる。
「…会長、俺今日はもう帰っても大丈夫ですか」
「ええ、勿論です。…水篠ハンターの人気は凄まじかったですね。お疲れ様でした」
苦笑しながら告げられた了承の言葉に軽く頷いて席を立つ。そうしてまずは着替えようと足早に会場を歩いていると後ろから呼び止められた。
「水篠ハンター」
***
「…犬飼課長?」
振り向くと晃さんが追いかけて来ていた。何か、まだ用事があったのだろうか、と足を止めて追いつくのを待つ。
「お帰りになるのでしたらお送り致します」
「え?…じゃあ、お願いします」
事務的な対応だけれど、ほんの少しでもふたりきりで居られるのならばと素直に頼むことにした。
「はい。それでは先に車を持ってきますので着替えられましたら駐車場にお願いいたします」
「わかりました」
それでは、と表情も変えずに去っていく晃さんにクリスマスだから特別な何かがある訳じゃ無いしな…と自分に言い聞かせ、サンタ服を脱ぐ。そうしていつもの服に着替え、駐車場へと向かうと何故か社用車ではなく自家用車が停車していた。
「水篠ハンター」
「犬飼課長、お待たせしました。…今日は自家用車なんですか?」
「ええ、本日はもう上がって良いとのことでしたので」
「それで俺を送って行くのは業務扱いになるんじゃ…」
帰れるのならば帰りたいだろうに、と思って口に出したのだがその考えは微かに微笑んだ晃さんにより否定される。
「いいえ、僕が好きで送って行くのですからなりませんよ」
「っ!…あ、有難う御座います」
「ふふ、はい。…それではこちらへ」
ストレートな言葉に少々詰まりながらもお礼を言うと、クスリと笑って助手席のドアを開けてくれたので素直に乗り込んだ。
シートベルトを装着しようとするとそっとその手を晃さんが握ってきて、心臓がドキリと跳ねる。
「…旬。きっと今日はご家族でお祝いされるでしょうから先にプレゼントを渡しても宜しいでしょうか」
「っえ?」
家族でお祝い?それは昨日したのだが…もしかしてとひとつの可能性に思い当たり、おずおずと尋ねた。
「…もしかして家族で祝うだろうから、今日誘わなかったんですか…?」
「ええ。お母さまが退院されて初めてのクリスマスですから、きっとお祝いされると思い、」
優しく微笑む晃さんにムッとして、身を乗り出し晃さんに抱きついた。
「っ!?」
「クリスマスパーティーなら昨日しました。母さんが退院して初ではあるけど、晃さんと付き合ってからも初のクリスマスなのに。…俺、本当は誘ってくれるの期待していたんですよ。でも何にも言ってくれないし、晃さん仕事で忙しいのかなって思ったのに」
子供っぽいとは思ったが、抱きついたまま拗ねた口調で言えば晃さんからもきつく抱き締め返される。
「申し訳ございません。その、僕がご家族の邪魔をするわけにはいかないと思い…」
「寧ろ葵と母さんに恋人と過ごさないのかって聞かれましたが」
「…あの、旬。今から挽回の機会を頂けないでしょうか…?」
恐る恐る訊ねてくる晃さんに内心喜びはしているが、わざとそっぽを向く。
「晃さん俺とクリスマス過ごす気は無いんじゃないんですか?」
「僕が至らなかったのは重々承知の上ですが、どうか意地悪を仰らないでください。旬と過ごしたく無いだなんて考えたこともありません」
俺の機嫌を取るかのように頬や額にキスを落とす晃さんに少し溜飲が下がり、わざとため息を吐いた。
「…俺とクリスマス過ごしてくれる?」
「僕からお願いします。…どうか残りの時間を全て僕に下さい」
クリスマスという日の事を言っているのはわかるのだが、まるでプロポーズのような言葉に思わず赤面してしまう。誤魔化す為に晃さんの頬へキスをして耳元で囁いた。
「…日付が変わっても一緒に居て下さいね」
「っ!勿論です」
***
助手席で機嫌良さそうに外を眺めている旬を横目に内心で安堵のため息を吐く。
危うく恋人の期待に沿えず、付き合って初のクリスマスを逃すという人生最大といっても過言ではないほどの失態を晒すところだった。
まさか旬が僕と過ごすクリスマスをそんなにも楽しみにしてくれていただなんて…。
まるで物わかりの良い大人のような態度を取ったが、本当は家族と過ごすからと断られるのが怖かった。旬の一番は家族だと理解しているからこそ、イベントごとは期待しないようにと思っていたのだが…。
「(勝手に旬の気持ちを決めつけるのはよくありませんね)」
「晃さん?協会の仕事の後だしやっぱり疲れてるんじゃ…」
反省をしていたら旬に話しかけられている事に気が付かず、心配そうな顔を向けられてしまった。
「いえ、すみません。…先程の事を反省していました。思い込みで動くのは良くありませんね」
「それはそうだけど。…でも俺からも言えばよかったんですよね…ごめんなさい。さっきはあんな風に言っちゃったけど、晃さんとクリスマスを一緒に過ごせる事凄く嬉しい」
照れた様に微笑む旬を横目で見てしまい、我慢が効かず一度路肩に車を停め、手を伸ばして頬を包み、口付けた。
「晃さん?どうし…っん!ふ…ッん、んぅ…」
「はぁ…すみません、余りにも可愛らしい事を仰るので我慢が効かなくなりました」
「っだ、だからってこんなところで、人に見られたら…っ!」
頬を真っ赤に染めて潤んだ目は決して嫌がっていないのが手に取るようにわかったのだが、その言葉でふと先程のイベントの事を思い出し再び口付ける。
「ッん!ん、んぅ…っンん、はっ…な、なんで…見られるって言ったのに…!」
「見つかれば今日のように旬に求婚する方もいなくなるでしょうね」
「え?…求婚ってまさかイベントの?」
「ええ。…今日僕が何回嫉妬したかわかりますか?」
子供しかいなかったのに?とびっくりしたように目を丸くさせている旬だが、子供だからこそだ。感情に素直で、世間体なんて考えない。男女問わず好き勝手に告白して…関係を知っている会長は始終楽しそうになさっていたが、こちらはずっとヤキモキしていた事を思い出す。
「年齢なんて関係ありません。…ずっと子供たちを旬から引き剥がしたい衝動に駆られていました」
「…晃さんでも嫉妬するんだ」
話をきいて呆然と呟く旬に、失望されたかと心配になって問いかける。
「子供にすら嫉妬する心の狭い男でがっかりしましたか?」
「そんな訳無い。…その、誰に告白されても求婚されても、俺の一番は晃さんだから」
「っ!…旬、そんな可愛らしい事ばかり言われると、止められなくなります」
「ここじゃ駄目ですけど…今日はクリスマスだから…家に行ったら晃さんの好きにしていいよ」
恥ずかしそうに目を伏せて小さく口にした許しの言葉に、一刻も早く帰ろうとアクセルを踏んだ。
「その言葉の撤回は受け付けません。…旬、覚悟をなさってくださいね」