お題置き場(CP混ぜこぜ)

「映画…ですか?」

「はい。ペアチケットを頂きまして、他の方に譲ろうかとも思ったのですが映画が指定の物以外選べないものですので好みが別れるかと思い中々人には言えず。どうしようかと思っていたのですが、以前に水篠ハンターをお送りした際にポスターを見て興味を持たれていた映画だという事を思い出しまして。その…宜しければ一緒に如何でしょうか?」

犬飼課長に送ってもらい、家の前で別れる間際。映画のチケットを差し出されて誘われた。
内容を見れば確かに以前俺が観てみたいと言った動物映画で。葵が友人の朝比奈さんと一緒に観てきたらしいのだが内容がとても良かったと言っていたので興味があったのだ。
その時の会話は一瞬だっただろうに、覚えていてくれた事が嬉しくて微笑みながら誘いに頷く。

「はい、是非。行きたいです」

「有難う御座います。…では、予定はいつが宜しいですか?」

「うーん、犬飼課長は忙しいでしょうから、空いてる日を教えてもらえれば俺が予定を空けますが…」

「いえ、僕が誘ったのにそういう訳には参りません。水篠ハンターのご都合に合わせます」

俺がそう提案してもきっぱり俺の都合に合わせる、と言い張っている犬飼課長にこれでは俺が言うまで譲って貰えなさそうだな、と一旦は引くことにする。

「…わかりました。じゃあ一応レイドの予定とかは諸菱くんにお願いしてしまっているのでそちらを確認してから今日中に連絡します。…でもその日に予定が入っていたら教えてくださいね」

「承知いたしました。…それでは失礼いたします」

一礼して去っていく犬飼課長の車を見送りながら、あれは絶対に教えてくれないだろうなと察してすかさず会長へ連絡をする。

「…こんにちは、水篠です。会長に教えて頂きたいことがあるんですが…」

『こんにちは、水篠ハンター。教える事、とは?』

「犬飼課長の休みっていつですか?」

『犬飼ですか?…申し訳無いのですが理由を聞いても?』

怪訝そうな声の会長にそれはそうだろうな、と思う。そんなことを聞いたのは初めてだし。でも犬飼課長の負担にはなりたくないので素直に事情を話すことにする。

「あの、実は先ほど犬飼課長に映画に誘われまして…俺の予定に合わせるとは言ってくれたんですがただでさえ犬飼課長忙しいのに俺の予定に合わせる訳には行かないと思って…」

『…成程。犬飼の事を気遣って下さったのですね。水篠ハンター、有難う御座います。…ですが正直なところいつでも構いません』

「えっ?」

『犬飼は休みを取らなさ過ぎて困っているほどなので。水篠ハンターのご都合に合わせて休みを取るというのならばこちらとしてはいつでも歓迎する、と言う訳です』

会長に聞かされた内容に愕然とした。犬飼課長休んでないのか…!?

「え、じゃあ本当にいつでも良いんですか…?」

『ええ。ですがもし可能ならば近い日にちの方が良いですね。あれは準備期間を与えると休みの日の分の仕事まで残業して片づけようとしますから。…真面目なのは良いのですが、もう少し肩の力を抜いてほしい所です』

ため息交じりに聞こえる会長の言葉に、なるべく近々の日にちを伝えようと決意した。

「わかりました。そうしたら明日か明後日位で出掛けられるようにします。…会長有難う御座います」

『それが良いでしょう。…いえ、こちらこそお気遣いを有難う御座います。楽しんできてください』

「はい、失礼します」

会長との電話を切って次は諸菱君に電話を入れる。なるべくゲートを競り落として欲しいと頼んであるので本当に確認はしておかなければならない。

「もしもし、諸菱君?」

『水篠さんこんにちは!どうされたんですか?』

「確認なんだけど明日か明後日って俺ギルドに行かなくても大丈夫?」

『?どちらも大丈夫ですよ!ひとつA級ゲートはありますが、見つかったばかりでブレイクの予兆も無いそうなので!』

「わかった。有難う」

よし、これで確認は出来たので犬飼課長へ連絡を入れようと思ったのだが恐らくまだ運転中だろうし、迷惑になると考え、明後日でお願いしたいとメールを打っておいた。

「いくら仕事をするといっても流石に明日は迷惑だろうしな…」

そうひとり呟き、暫く待っていると了承する旨のメールが届いた。

「えっとまだ何か書いてあるな…デートへの了承頂けて嬉しいです。楽しみにしています。…?え、そういえば俺何気なく頷いたけど、これってデート…なのか?」

口に出してから猛烈な羞恥心が襲ってきた。え?俺デートするのか?犬飼課長と?
犬飼課長はスマートな大人って感じで動作も何もかも格好良いし、つい目で追ってしまうことはあったけれど、そんな人とデート?
想像しただけで真っ赤になってしまい、狭いベッドの上をゴロゴロと転がる。

「いったいどんな顔で会いに行けばいいんだよ…!」

余計な一言を付け足してくれた犬飼課長へほんの少しの恨みを持ちながら、その日は就寝した。

***

当日、デートだと書かれては下手な格好も出来ないと葵にコーディネートを頼み、いつもよりきちんとした格好で犬飼課長を待つ為に外に出る。するとそこにはもう犬飼課長が居て。

「えっ!?もう来ていたんですか!?待たせてすみません!」

「いえ、僕も今着いて連絡を入れようとしたところです。…今日の服はいつもと雰囲気がまた違って素敵ですね」

「あ、有難う御座います。犬飼課長も…その…格好良い、です」

そう、犬飼課長もいつものスーツと違いラフな格好をしているのだが、これがまた芸能人かと思うくらいに決まっていた。褒められたことに照れながらもなんとか褒め返す。

「有難う御座います。水篠さんとのデートですから少々気合を入れさせて頂きました。…それと、今日は協会職員はお休みですので、僕の事も普通に呼んでください」

微笑みながら面と向かってデートだと言われ、顔に熱が上がっていく。目線を逸らしながら頷いて小さく呼びかけた。

「…いぬかい、さん」

「はい。今日はそう呼んでくださいね。…では行きましょうか、水篠さん」

今にも羞恥心で爆発しそうな俺の心境なんて気にもせずに嬉しそうに微笑んで助手席のドアを開け、俺を促す。

「…よろしくお願いします」

「はい。では向かいますね」

やたらと機嫌が良さそうな犬飼さんに乗せてもらって映画館へと向かった。
車内では何故だか緊張し過ぎて余り会話も出来なかったのだが、それでも犬飼さんは始終楽しそうで。
ようやく映画館に着いた頃には謎の疲労感に襲われていた。疲れている俺を気遣ってか飲み物を代わりに買ってくれたり甲斐甲斐しく世話を焼いてはくれたのだが…問題が一つ。

「あの、飲み物有難う御座います、お金…」

「今日はデートなので全て僕に出させてください」

そう言って優しく微笑むものだから俺の心臓は休まる暇が無い。
映画の時間になって席に座り、やっと休憩が出来ると思っていたのだが、映画が始まってからその考えが甘かったのだと思い知らされた。

***

水篠さんが観たいと言った日にチケットを購入し、誘う機会を窺っていた。了承を貰えた時にはつい浮かれてデートという言葉を使ってしまったのだが、逆にそれが功を奏したようで水篠さんが朝からずっと僕を意識しているのがわかる。
しかもどうやら脈無しと言う訳では無さそうで、その可愛らしい反応見たさにいつもよりも饒舌に話しかけてしまう。そしていざ映画を観始めて、誤算がひとつ。

「ふ…っ…ぅ…ぐず…っ」

隣の席から聞こえてくる泣き声に、今すぐ抱きしめて拭ってやりたいとの思いを必死に耐える。
…まさか水篠さんがこんなにも感動ドキュメンタリー系の動物映画に弱いとは思わなかった。
そうと知っていれば別のアプローチ方法を試したのにと後悔してももう遅い。
途中退席するか問いかけたが、どうやら最後まで観たいとのことだったので大人しく観ているのだが…。

「っ、ぐす…っふ…」

泣き続けている横顔をそっと横眼で眺める。泣いている姿も可愛らしい。けれどこんなにも泣いていては目が腫れてしまうのではないだろうかと心配になってくる。じっと見つめていると視線に気付いたのか涙で膜が張っている目を向けられて…気が付いた時には吸い寄せられるかのように目じりにキスをしていた。

「っえ…?」

驚いた拍子に反対の目からポロリと涙が零れ落ちるのを見た瞬間、勿体ないと思い頬を伝う涙をそっと舐め取っていて。目を丸くした後に暗闇でもわかる程真っ赤に染まった水篠さんの顔を見て、自身の限界を感じそっと手を引いて退席をした。
そのまま駐車場まで戻ると、耳まで赤く染めて俯いている水篠さんを車に乗せる。

「…水篠さん」

「っ!」

僕が呼ぶとビクリと跳ねる身体にクスリと笑って両手で頬を包んで顔を上げさせると、ようやく目が合った水篠さんは先ほどのように瞳に涙の膜が張っていて、再び吸い寄せられるように両方の目じりにキスを落とし、最後に唇へ触れるだけのキスをした。

***

一体今、何が起こっているんだろうか。
映画を観て、感動して泣いていたら犬飼さんにキスされて、連れて行かれてまたキスをされて、最後は口にもキスをされた…?

「…え?」

「申し訳ございません、水篠さんが泣いている姿を見ていたら我慢が利かなくなってしまいました。…順番が違いますが…水篠さん、貴方の事が好きです。どうか僕と付き合ってくださいませんか?」

俺の頬に手を当てたまま微笑みながら告白してくる犬飼さんに、俺の熱は上がっていく一方で。
…キスが嫌じゃなくて嬉しいと思っている時点できっと答えは決まっているのだろうけれど、恥ずかしくて、胸がいっぱいで声が出ない。

「っ…」

それでも返事はしなければと微かに頷いて肯定の意を示せば、甘いものを全て煮詰めたような優しい目で見つめられて。
再びゆっくりと近付いてくる端整な顔に、その先を察してそっと目を閉じた。





実は映画の話を聞いた時から俺を誘いたくて、自らチケットを用意したのだと恥ずかしそうに教えてもらったのは付き合ってから暫くしての事だった。











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