波紋
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「樹ちゃん」
後ろから名前を呼ぶと、彼女は少し身をすくませた。こういう反応は辛うじて女の子らしい。
「図書館で勉強?」
「見たら分かるでしょう」
一切の遠慮をせずに彼女は言い放つ。悪意が無いと分かっても心に刺さるものがある。
失礼ながらノートを拝見したところ、フランス語の勉強をしているようだ。樹ちゃんがその科目を苦手としているのはクラス中が知っている。なまじ他の教科では学年トップの成績を誇る樫野と並ぶ程だから、目立つんだ。
見た目通りプライドが高い子に、うかつにその話題を出したら結果は目に見えているのだけど、それでも僕は彼女の顔を見ると思わず要らないことを言ってみたくなる。
「樹ちゃん苦手そうだもんね、フランス語」
「苦手じゃないわ。要領が掴めていないだけで」
ほとんど脊髄反射のような勢いで、彼女は僕の言葉を否定した。
それが苦手って言うんだと思うけどな。
なんだか面白い反応、そう思うと口角が自然と持ち上がる。瞬間、何笑ってるのと言いたげな視線に鋭く射抜かれたので、さりげなく本を持ち上げて口元を隠す。
「でも他の人と比べて一年分基礎の授業を受けていないのに、赤点を取っていないだけで結構すごいと思うよ」
「程度の低い褒め方をされても腹が立つのだけど」
極めてありがたく無さそうに彼女は眉をひそめる。ここまで率直に言われると嫌な気もしないというものだ。
「ところで二問目だけど、時制の確認した方がいいと思うよ」
「えっ、二問目?」
身をよじってせっせとノートを書き直す動作を見て、初めて樹ちゃんが身体ごとこちらを向いていたのだと気づく。変なところは律儀だ。
少し恥ずかしそうにしている横顔がなんだか面白いので、僕は隣の椅子を引いて腰掛ける事にした。机に片肘をついて彼女のノートの真上にかかるまで顔を寄せてみる。
「教えようか?このあたりの問題」
「自分でやるからいいわ。花房君こそ勉強したら?」
樹ちゃんはてきぱきとノートを僕から遠ざける。このままだと順序に乗っ取って椅子ごと遠ざかりそうだった。
「教えることも勉強になったりするんだよ」
「あいにく私、自分の力でちゃんと理解できる程度だから」
「でも反復学習って効率が悪くない?最終的な手段にはなるし確実だけど」
「確実ならそれでいいじゃない。私は何事も自分のやり方で納得したいの」
「聞けばすぐ分かりそうなこともあるよね。だからとにかく、聞きたいことがあったら何でも僕に聞いてよ」
ここまで心を開いてくれない女の子もなかなかいない。柄でもなく少しだけ躍起になりかけていると気づいたとき、彼女はおずおずと口を開いた。
後ろから名前を呼ぶと、彼女は少し身をすくませた。こういう反応は辛うじて女の子らしい。
「図書館で勉強?」
「見たら分かるでしょう」
一切の遠慮をせずに彼女は言い放つ。悪意が無いと分かっても心に刺さるものがある。
失礼ながらノートを拝見したところ、フランス語の勉強をしているようだ。樹ちゃんがその科目を苦手としているのはクラス中が知っている。なまじ他の教科では学年トップの成績を誇る樫野と並ぶ程だから、目立つんだ。
見た目通りプライドが高い子に、うかつにその話題を出したら結果は目に見えているのだけど、それでも僕は彼女の顔を見ると思わず要らないことを言ってみたくなる。
「樹ちゃん苦手そうだもんね、フランス語」
「苦手じゃないわ。要領が掴めていないだけで」
ほとんど脊髄反射のような勢いで、彼女は僕の言葉を否定した。
それが苦手って言うんだと思うけどな。
なんだか面白い反応、そう思うと口角が自然と持ち上がる。瞬間、何笑ってるのと言いたげな視線に鋭く射抜かれたので、さりげなく本を持ち上げて口元を隠す。
「でも他の人と比べて一年分基礎の授業を受けていないのに、赤点を取っていないだけで結構すごいと思うよ」
「程度の低い褒め方をされても腹が立つのだけど」
極めてありがたく無さそうに彼女は眉をひそめる。ここまで率直に言われると嫌な気もしないというものだ。
「ところで二問目だけど、時制の確認した方がいいと思うよ」
「えっ、二問目?」
身をよじってせっせとノートを書き直す動作を見て、初めて樹ちゃんが身体ごとこちらを向いていたのだと気づく。変なところは律儀だ。
少し恥ずかしそうにしている横顔がなんだか面白いので、僕は隣の椅子を引いて腰掛ける事にした。机に片肘をついて彼女のノートの真上にかかるまで顔を寄せてみる。
「教えようか?このあたりの問題」
「自分でやるからいいわ。花房君こそ勉強したら?」
樹ちゃんはてきぱきとノートを僕から遠ざける。このままだと順序に乗っ取って椅子ごと遠ざかりそうだった。
「教えることも勉強になったりするんだよ」
「あいにく私、自分の力でちゃんと理解できる程度だから」
「でも反復学習って効率が悪くない?最終的な手段にはなるし確実だけど」
「確実ならそれでいいじゃない。私は何事も自分のやり方で納得したいの」
「聞けばすぐ分かりそうなこともあるよね。だからとにかく、聞きたいことがあったら何でも僕に聞いてよ」
ここまで心を開いてくれない女の子もなかなかいない。柄でもなく少しだけ躍起になりかけていると気づいたとき、彼女はおずおずと口を開いた。