20話 好敵手たち
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
樹が樫野に会ったのは、その日の深夜だった。飴細工で紫陽花を作ろうと試みていると、樫野がテンパリングの練習にやってきたのだ。
「・・・」
「・・・」
やはり二人だと反射的ににらみ合ってしまうし、会話もない。
こういう雰囲気になったのは一度や二度ではないし最早慣れたものだった。
背中合わせに黙々と作業を続ける。
「天野達、どうしてた」
ぽつりと樫野が言葉を漏らした。
「いつも通りやってるわ。けど、いちごは不安そうだった」
「天野が・・・珍しいな」
「一人欠けたから」
樹は短く答える。樫野が手を止める音がした。
「心配しなくても代役は入ってないわよ」
「・・・お前は、入ろうと思わなかったのか」
「あそこは私の場所じゃないわ」
「でも、お前だってチームで———」
「私には私の場所があるの。樫野の場所じゃなくて」
振り返ると、樫野と目が合った。
二人で目を合わせて静かな声で会話するのは、どのぐらい久しぶりだろうか。
「ほんと言うと私もグランプリに出たくてしょうがないわ。でも、自分で譲ったんだからいいの。樫野が一番最初に分かってくれてた」
「俺、んなもん分かってたか・・・・?」
「じゃあ分かってなかったってことでもいいけれど。でも、樫野がさっさと私の意志を汲んでくれたから拗れずに済んだ」
その言葉に、樫野はいちごをグランプリのメンバーに決めてサロン・ド・マリーへ行った日を思い出した。
樹が出る気がないと言ったのを真っ先に「そう言ってるならそれで良い」と言ってさっさと決めたのは確かに自分だった。
正直良いことをしたなんて全く思っていなかった。
それでも、樹はありがたそうに言うのだ。
「でも俺のせいで今回負けた。正直、何度か俺の代わりにお前が入ってた方が良かったんじゃないかって思ってた」
「はあ?」
樹は眉を吊り上げてすごい顔をした。
「何馬鹿なこと言ってるの?私あんなにチョコレートだけで技術点稼げないわよ。あんたの馬鹿みたいなチョコレート愛に勝てるもんがあるなんて、思ってない。だから別の土俵で勝負させてもらうけど」
「・・・・」
「この前の試合は私もちょっと悪かった。煽ったのは私もだし、実は小城先輩からケーキのデザインを盗むかもしれないこと聞いてたの。勿論私は引き受けはしなかったけどみんなに言っておいたらいちごも警戒したかもしれない」
樫野はそれを聞いて驚く。
「オジョーが、お前に・・・?」
「そう」
「・・・まあ、言ったところで天野は駄目だ。人を疑うなんてこと、絶対しねえ奴だ。ほんとお人好しっていうか・・・」
「試合中、かばってくれてありがとう」
樹はいちごのことを話しながら微妙に照れくさそうな顔をしている樫野に、少しだけ笑いかけた。
「いちごと同じように、私も信じてもらえてた。結構嬉しかった」
「馬鹿、あんなの当然だ。お前だって俺が姉貴に捕まった時俺のこと色々信じてくれてた。チームに関係ないとか言って悪かった。こんなにいつもいつも出しゃばってる奴に言うことじゃなかった」
言いながら、樫野も少しだけ笑みを漏らした。
あまり素直な言葉ばかりではないけれど、それぐらいが心地よかった。
彼と自分は、そういう関係だ。
「・・・」
「・・・」
やはり二人だと反射的ににらみ合ってしまうし、会話もない。
こういう雰囲気になったのは一度や二度ではないし最早慣れたものだった。
背中合わせに黙々と作業を続ける。
「天野達、どうしてた」
ぽつりと樫野が言葉を漏らした。
「いつも通りやってるわ。けど、いちごは不安そうだった」
「天野が・・・珍しいな」
「一人欠けたから」
樹は短く答える。樫野が手を止める音がした。
「心配しなくても代役は入ってないわよ」
「・・・お前は、入ろうと思わなかったのか」
「あそこは私の場所じゃないわ」
「でも、お前だってチームで———」
「私には私の場所があるの。樫野の場所じゃなくて」
振り返ると、樫野と目が合った。
二人で目を合わせて静かな声で会話するのは、どのぐらい久しぶりだろうか。
「ほんと言うと私もグランプリに出たくてしょうがないわ。でも、自分で譲ったんだからいいの。樫野が一番最初に分かってくれてた」
「俺、んなもん分かってたか・・・・?」
「じゃあ分かってなかったってことでもいいけれど。でも、樫野がさっさと私の意志を汲んでくれたから拗れずに済んだ」
その言葉に、樫野はいちごをグランプリのメンバーに決めてサロン・ド・マリーへ行った日を思い出した。
樹が出る気がないと言ったのを真っ先に「そう言ってるならそれで良い」と言ってさっさと決めたのは確かに自分だった。
正直良いことをしたなんて全く思っていなかった。
それでも、樹はありがたそうに言うのだ。
「でも俺のせいで今回負けた。正直、何度か俺の代わりにお前が入ってた方が良かったんじゃないかって思ってた」
「はあ?」
樹は眉を吊り上げてすごい顔をした。
「何馬鹿なこと言ってるの?私あんなにチョコレートだけで技術点稼げないわよ。あんたの馬鹿みたいなチョコレート愛に勝てるもんがあるなんて、思ってない。だから別の土俵で勝負させてもらうけど」
「・・・・」
「この前の試合は私もちょっと悪かった。煽ったのは私もだし、実は小城先輩からケーキのデザインを盗むかもしれないこと聞いてたの。勿論私は引き受けはしなかったけどみんなに言っておいたらいちごも警戒したかもしれない」
樫野はそれを聞いて驚く。
「オジョーが、お前に・・・?」
「そう」
「・・・まあ、言ったところで天野は駄目だ。人を疑うなんてこと、絶対しねえ奴だ。ほんとお人好しっていうか・・・」
「試合中、かばってくれてありがとう」
樹はいちごのことを話しながら微妙に照れくさそうな顔をしている樫野に、少しだけ笑いかけた。
「いちごと同じように、私も信じてもらえてた。結構嬉しかった」
「馬鹿、あんなの当然だ。お前だって俺が姉貴に捕まった時俺のこと色々信じてくれてた。チームに関係ないとか言って悪かった。こんなにいつもいつも出しゃばってる奴に言うことじゃなかった」
言いながら、樫野も少しだけ笑みを漏らした。
あまり素直な言葉ばかりではないけれど、それぐらいが心地よかった。
彼と自分は、そういう関係だ。