19話 愛のかたち
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「寮でアイデアを考えてた夜に・・・全部話しちゃった・・・」
「やっぱり、デザインが盗まれたんだ・・・」
「馬鹿!なんでチーム以外の奴にそんなこと言うんだよ!」
「だって、クラスメイトだから・・・まさか、小城さんのチームだったなんて・・・」
いちごは泣き出しそうになっていた。
「いちごちゃんを責めるな!悪いのは盗んだ方だ!」
「鮎川さん!どうしてこんなこと・・・!ケーキのデザインを探る為にあたしに近づいたの!?」
「なんのこと?」
「だってあれ、あたしのデザイン・・・」
「言いがかりはやめて!証拠でもあるの?」
鮎川はいちごを睨んで堂々と言ってのける。
今まで同じBグループでも他の三人とは違い、ひとり何も言わず携帯をいじっているような女の子だった。
こんな人だったなんて、と樹は唖然とする。
「それは・・・」
「だいたい怪しい人なら他にもいるじゃない。東堂さんって、いつもあなた達と一緒なんでしょう」
鮎川は急に樹を話題に上げる。樹の周りがざわつく。
「何てこというねん、あの子・・・」
ルミはたまらず鮎川を睨みつける。樹に疑わしげな視線を送る生徒も何人か見つけたのでそちらも睨み返す。かなこもおろおろとしながらBグループの三人の方を見てみる。彼女らもどことなく意外そうな顔をしていた。
「東堂がそんなことするか!」
樫野が、鮎川を怒鳴りつけた。
樹は目を見開いた。
「そうだよ!たとえ見てたって樹ちゃんはそんなことしない!」
「だいいち東堂さんは今回のケーキを知らないんだ!」
「人の仲間のことを何だと思ってる!証拠も無いのに人を疑っているのはそっちだ!」
「確かめただけでしょ」
いちご達も援護射撃を行い、鮎川は少し臆して作業台に向かった。周囲の目も気まずそうにひいていく。
教師達はこの騒ぎに対して対応しようがないらしい。確証のない不正疑惑をどうこうすることは危険のようだ。
いちご達が樹に目を向けてわずかに微笑んだ。手だても無く辛い状況なのに。樹は「ありがとう」と何度も頷いて、涙が出そうになるのをこらえた。
一方で小城は順風満帆だ。楽しそうに作業を進めており、佐藤と塩谷は完璧な連携を見せつつ小城のそんな様子に感動しているようだった。
一方でこちらは殺伐としている。
「樫野!どうした!作業中にぼうっとするなんて、らしくないぞ!」
「悪い・・・こ、これは!?38℃!?」
樫野がふと温度計を見て愕然とする。
「グラサージュ・フォンダンショコラの温度は32℃を絶対に超えちゃいけないのに!何をやってるんだ!」
「馬鹿な・・・」
チームいちごは混乱している。スピリッツ達も降りて来て何やらこっそりと話していたが、バニラがふとエアコンが起動していることに気づいた。
「・・・この調理台めがけて風が吹いてる!しかも熱い!」
花房の目が樹と合った。樹ははっと頷いて席を立った。エアコンの調節部は会場の上にある。
温度を下げた樹は意を決してその足で理事長の前へ出る。
「無効試合にするべきだと思います。環境が不適正だなんてーー」
「甘えたこと言わないで!」
その声を鮎川が遮った。
「環境がいつも同じとは限らない。気温や湿度を考え、湯煎の温度や時間を変えたり冷却を加えたり、いろいろな調整をしながらスイーツを作る。パティシエールにはそういうことも必要なんじゃないの!?」
「鮎川の言う通りだ。状況に合わせた作り方をするのも大切な技術だ」
辛島先生が鮎川に同調する。樹は思わず二人を睨みつけた。
「何よ、遅刻して来たくせに偉そうな!」
「席に戻りなさい」
「私、あなたみたいな子がパティシエールになれるなんて思わないわ。そんなセコい生き方してる人間が何作ったって、そんなもの食べたくないもの!」
「試合を妨害しているぞ、早く戻りなさい」
「樹ちゃん」
ルミが階段を駆け下りて来て樹を引っぱり戻す。そのついでに鮎川を睨んだが、鮎川はそそくさと背を向けて足早に戻っていってしまった。
しかし、責めても怒鳴ってもチョコレートは元に戻らない。
樫野は、駄目になったチョコレートを前に自信をなくしていた。
「まだ時間はある、やり直そうよ」
「・・・もう間に合わない!」
樫野は呻いて俯いた。得意にしていたチョコレートを前にこんな情けない姿をさらしている自分が惨めだった。
その手をいちごが両手で包み込んだ。
「・・・樫野はいつもチョコレートの香りがするね」
「えっ・・・」
「あたし達、知ってるんだよ。樫野が毎日毎日一日も欠かさずテンパリングの練習をしてること。もちろん、樹ちゃんだって。色々言ってるけどさ。・・・それってすごい愛だと思うの」
「・・・愛?」
「樫野は、チョコレートが大好きなんだよね。じゃなきゃ、そこまでできないもん。樫野は愛なんて分からないって言ったけど、立派な愛情を持ってるじゃない」
樫野はその言葉に戸惑って、いちごの手を離す。
「・・・そんなの、大したもんじゃねえよ」
「大したもんだよ。君みたいなチョコレート馬鹿、滅多に居ないよ。少なくとも、この学園では間違いなく一番だ」
「花房・・・」
「そうだよ!いつもチョコだらけになってるその手が、何よりの証拠だよ」
「安堂・・・」
「大好きなチョコレートでしょ?諦めちゃ駄目だよ!最後の最後まで、頑張ろうよ!」
樫野はみんなに励まされ、自分の両手を見つめた。
まだ自分は自信を持っていても良い。
「みんな、手を貸してほしい!頼めるか?」
「もちろんだよ!」
「ああ!」
「当然だろ?チームなんだから」
「やっぱり、デザインが盗まれたんだ・・・」
「馬鹿!なんでチーム以外の奴にそんなこと言うんだよ!」
「だって、クラスメイトだから・・・まさか、小城さんのチームだったなんて・・・」
いちごは泣き出しそうになっていた。
「いちごちゃんを責めるな!悪いのは盗んだ方だ!」
「鮎川さん!どうしてこんなこと・・・!ケーキのデザインを探る為にあたしに近づいたの!?」
「なんのこと?」
「だってあれ、あたしのデザイン・・・」
「言いがかりはやめて!証拠でもあるの?」
鮎川はいちごを睨んで堂々と言ってのける。
今まで同じBグループでも他の三人とは違い、ひとり何も言わず携帯をいじっているような女の子だった。
こんな人だったなんて、と樹は唖然とする。
「それは・・・」
「だいたい怪しい人なら他にもいるじゃない。東堂さんって、いつもあなた達と一緒なんでしょう」
鮎川は急に樹を話題に上げる。樹の周りがざわつく。
「何てこというねん、あの子・・・」
ルミはたまらず鮎川を睨みつける。樹に疑わしげな視線を送る生徒も何人か見つけたのでそちらも睨み返す。かなこもおろおろとしながらBグループの三人の方を見てみる。彼女らもどことなく意外そうな顔をしていた。
「東堂がそんなことするか!」
樫野が、鮎川を怒鳴りつけた。
樹は目を見開いた。
「そうだよ!たとえ見てたって樹ちゃんはそんなことしない!」
「だいいち東堂さんは今回のケーキを知らないんだ!」
「人の仲間のことを何だと思ってる!証拠も無いのに人を疑っているのはそっちだ!」
「確かめただけでしょ」
いちご達も援護射撃を行い、鮎川は少し臆して作業台に向かった。周囲の目も気まずそうにひいていく。
教師達はこの騒ぎに対して対応しようがないらしい。確証のない不正疑惑をどうこうすることは危険のようだ。
いちご達が樹に目を向けてわずかに微笑んだ。手だても無く辛い状況なのに。樹は「ありがとう」と何度も頷いて、涙が出そうになるのをこらえた。
一方で小城は順風満帆だ。楽しそうに作業を進めており、佐藤と塩谷は完璧な連携を見せつつ小城のそんな様子に感動しているようだった。
一方でこちらは殺伐としている。
「樫野!どうした!作業中にぼうっとするなんて、らしくないぞ!」
「悪い・・・こ、これは!?38℃!?」
樫野がふと温度計を見て愕然とする。
「グラサージュ・フォンダンショコラの温度は32℃を絶対に超えちゃいけないのに!何をやってるんだ!」
「馬鹿な・・・」
チームいちごは混乱している。スピリッツ達も降りて来て何やらこっそりと話していたが、バニラがふとエアコンが起動していることに気づいた。
「・・・この調理台めがけて風が吹いてる!しかも熱い!」
花房の目が樹と合った。樹ははっと頷いて席を立った。エアコンの調節部は会場の上にある。
温度を下げた樹は意を決してその足で理事長の前へ出る。
「無効試合にするべきだと思います。環境が不適正だなんてーー」
「甘えたこと言わないで!」
その声を鮎川が遮った。
「環境がいつも同じとは限らない。気温や湿度を考え、湯煎の温度や時間を変えたり冷却を加えたり、いろいろな調整をしながらスイーツを作る。パティシエールにはそういうことも必要なんじゃないの!?」
「鮎川の言う通りだ。状況に合わせた作り方をするのも大切な技術だ」
辛島先生が鮎川に同調する。樹は思わず二人を睨みつけた。
「何よ、遅刻して来たくせに偉そうな!」
「席に戻りなさい」
「私、あなたみたいな子がパティシエールになれるなんて思わないわ。そんなセコい生き方してる人間が何作ったって、そんなもの食べたくないもの!」
「試合を妨害しているぞ、早く戻りなさい」
「樹ちゃん」
ルミが階段を駆け下りて来て樹を引っぱり戻す。そのついでに鮎川を睨んだが、鮎川はそそくさと背を向けて足早に戻っていってしまった。
しかし、責めても怒鳴ってもチョコレートは元に戻らない。
樫野は、駄目になったチョコレートを前に自信をなくしていた。
「まだ時間はある、やり直そうよ」
「・・・もう間に合わない!」
樫野は呻いて俯いた。得意にしていたチョコレートを前にこんな情けない姿をさらしている自分が惨めだった。
その手をいちごが両手で包み込んだ。
「・・・樫野はいつもチョコレートの香りがするね」
「えっ・・・」
「あたし達、知ってるんだよ。樫野が毎日毎日一日も欠かさずテンパリングの練習をしてること。もちろん、樹ちゃんだって。色々言ってるけどさ。・・・それってすごい愛だと思うの」
「・・・愛?」
「樫野は、チョコレートが大好きなんだよね。じゃなきゃ、そこまでできないもん。樫野は愛なんて分からないって言ったけど、立派な愛情を持ってるじゃない」
樫野はその言葉に戸惑って、いちごの手を離す。
「・・・そんなの、大したもんじゃねえよ」
「大したもんだよ。君みたいなチョコレート馬鹿、滅多に居ないよ。少なくとも、この学園では間違いなく一番だ」
「花房・・・」
「そうだよ!いつもチョコだらけになってるその手が、何よりの証拠だよ」
「安堂・・・」
「大好きなチョコレートでしょ?諦めちゃ駄目だよ!最後の最後まで、頑張ろうよ!」
樫野はみんなに励まされ、自分の両手を見つめた。
まだ自分は自信を持っていても良い。
「みんな、手を貸してほしい!頼めるか?」
「もちろんだよ!」
「ああ!」
「当然だろ?チームなんだから」