19話 愛のかたち
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「やはり、チョコレートに関しては樫野の方が腕が上ですわ」
「うるさいわね」
ショコラと共同生活が始まった樹だが、けんか別れして来たとはいえショコラの樫野に対する愛はなかなか根強いらしい。練習を横から覗き込んでは得意げに口を挟んでくるので樹はうんざりしていた。
「それだけ樫野が好きなら帰ったら」
「嫌ですわ!樫野は———樫野が、私が邪魔だって———」
「はいはい」
樹は練習を続けることにする。中等部の調理室を利用しているのだが、なぜかいつまでたってもチームいちごが四人揃って練習に来ない。樹は不安だった。
「それにしても樫野達は何をやってますの?」
ショコラもこの点については気になっていたらしい。
「パウンドケーキの時なんかは毎日のように放課後から夜遅くまでみんなで調理室にこもっていたのに、おかしいですわ!」
「ケーキの意思疎通自体ができているかあやしいわよね。教室でも何となく口数が少ないし」
「・・・」
「そんなに気になるなら樫野のところに帰って聞いてみなさいよ」
「そ、そっちこそ・・・!ですわ!」
ショコラはなかなか意地が強いが、樹は彼女が夜中にいつも寂しそうにしていることを知っていた。
「樹だって寂しそうにしてるくせに」
「・・・はあ?」
「樫野達といないと暗いですわ!」
「樫野を代表にするのはやめなさいよ」
「あらショコラ、パートナーを代えたの?」
二人がジト目でにらみ合う中、突如声が響いた。独特の澄ましたような、高貴な印象を受ける声だった。
「ハニー様!」
ショコラはそちらを見ると、頬を紅潮させて姿勢をピンとした。
「天王寺会長」
樹は少し緊張して固くなる。
天王寺がスピリッツを連れているのを初めて見た。よく似た雰囲気のパートナー同士でプレッシャーを放っている。ハニーというスピリッツはショコラの態度からして、スピリッツの中でも格上の存在らしい。
「ハニー様・・・私・・・その、ちょっと樫野と・・・」
「都合が悪くて一時的に私のところに居候しているんですよ」
口ごもるショコラの代わりに樹が事情を極めて簡潔に告げた。天王寺が口を開く。
「そういえばあなたはスピリッツのパートナーが居ないのに彼らが見えると聞いたわ」
「はい、そうです」
「隠しているのではなくて?」
「違います」
「そう、ごめんなさいね。私やハニーにも見当がつかなくて」
「別に見当がつかなくてもいいです」
樹はわずかに目を伏せて冷たく言う。
「今日は天野さん達と一緒じゃないのね」
「いつも一緒な訳じゃないので」
「そう」
「というか、何をしにわざわざ中等部の実習室まで来たんですか」
「少しあなたを探そうかと思っていて。伝言を預かっていたから」
「会長が伝言を・・・?」
「『夢を持ちなさい』と」
樹はきょとんとした。誰からかは言わないと天王寺は怪しげなことを言って去っていってしまう。
ショコラも不思議そうな顔をした。
「夢・・・樹の夢は未定でしたわよね?」
樹は機械的に頷いた。何故だか忌避してしまう。夢ならあるはずなのに、口にできない。
知っているのは樫野とアリスだけだ。
「なんだか訳の分からないことを言われて力が抜けたわ。お腹が空いたからスフレでも作りましょう」
「スフレ・・・」
樹は少し怠そうに材料を揃えたものの、作り始めるとその動きは無駄が無く品がある。ショコラは彼女がチョコレートを材料に加えたのを見て少し目を輝かせた。
一通り作業を終えてスフレをオーブンに入れると樹は腰を下ろして頬杖をついた。オーブンを見守っているショコラに声をかける。
「何も考えてなかったけれど、あなたってチョコばかり食べてて飽きないの?」
「チョコレートが大好きですもの!同じチョコ菓子でも作る人や種類によって味は全然違うし、ちっとも飽きませんわ!」
「ならいいけど」
樹は自分が来てからチョコ菓子ばかり作っている。ショコラはふとそのことを意識しはじめた。もしかしたら寂しがっているのに気を遣って好きなものを食べさせようとしていたのだろうか。
それはやはり少し、彼に似ている。
「樹は樫野と全然仲直りしませんのね」
「しないっていうか、試みても無駄だもの。できないのよ」
「樹が仲直りしたがっているなら、樫野もそうだと思いますわ」
スフレがぷくりと膨れ上がり、樹はオーブンを開ける。
「意味が分からないわ。理屈を聞かせてもらってもいいかしら」
樹は出来上がったスフレをショコラに差し出しながら眉をひそめて言う。
ショコラは一欠片を口に入れた。表面はさくっと、中はふわふわで温かさが胸に沁みる。20分も立てばしぼんでしまうスフレのそんな味が、友達の味なのだと教えられたことがあった。
「だって、樹と樫野はすっごく似てますもの」
ショコラは言った。
「まあ、樫野のスフレの方が何倍も美味しいですけど!」
「うるさいわね」
ショコラと共同生活が始まった樹だが、けんか別れして来たとはいえショコラの樫野に対する愛はなかなか根強いらしい。練習を横から覗き込んでは得意げに口を挟んでくるので樹はうんざりしていた。
「それだけ樫野が好きなら帰ったら」
「嫌ですわ!樫野は———樫野が、私が邪魔だって———」
「はいはい」
樹は練習を続けることにする。中等部の調理室を利用しているのだが、なぜかいつまでたってもチームいちごが四人揃って練習に来ない。樹は不安だった。
「それにしても樫野達は何をやってますの?」
ショコラもこの点については気になっていたらしい。
「パウンドケーキの時なんかは毎日のように放課後から夜遅くまでみんなで調理室にこもっていたのに、おかしいですわ!」
「ケーキの意思疎通自体ができているかあやしいわよね。教室でも何となく口数が少ないし」
「・・・」
「そんなに気になるなら樫野のところに帰って聞いてみなさいよ」
「そ、そっちこそ・・・!ですわ!」
ショコラはなかなか意地が強いが、樹は彼女が夜中にいつも寂しそうにしていることを知っていた。
「樹だって寂しそうにしてるくせに」
「・・・はあ?」
「樫野達といないと暗いですわ!」
「樫野を代表にするのはやめなさいよ」
「あらショコラ、パートナーを代えたの?」
二人がジト目でにらみ合う中、突如声が響いた。独特の澄ましたような、高貴な印象を受ける声だった。
「ハニー様!」
ショコラはそちらを見ると、頬を紅潮させて姿勢をピンとした。
「天王寺会長」
樹は少し緊張して固くなる。
天王寺がスピリッツを連れているのを初めて見た。よく似た雰囲気のパートナー同士でプレッシャーを放っている。ハニーというスピリッツはショコラの態度からして、スピリッツの中でも格上の存在らしい。
「ハニー様・・・私・・・その、ちょっと樫野と・・・」
「都合が悪くて一時的に私のところに居候しているんですよ」
口ごもるショコラの代わりに樹が事情を極めて簡潔に告げた。天王寺が口を開く。
「そういえばあなたはスピリッツのパートナーが居ないのに彼らが見えると聞いたわ」
「はい、そうです」
「隠しているのではなくて?」
「違います」
「そう、ごめんなさいね。私やハニーにも見当がつかなくて」
「別に見当がつかなくてもいいです」
樹はわずかに目を伏せて冷たく言う。
「今日は天野さん達と一緒じゃないのね」
「いつも一緒な訳じゃないので」
「そう」
「というか、何をしにわざわざ中等部の実習室まで来たんですか」
「少しあなたを探そうかと思っていて。伝言を預かっていたから」
「会長が伝言を・・・?」
「『夢を持ちなさい』と」
樹はきょとんとした。誰からかは言わないと天王寺は怪しげなことを言って去っていってしまう。
ショコラも不思議そうな顔をした。
「夢・・・樹の夢は未定でしたわよね?」
樹は機械的に頷いた。何故だか忌避してしまう。夢ならあるはずなのに、口にできない。
知っているのは樫野とアリスだけだ。
「なんだか訳の分からないことを言われて力が抜けたわ。お腹が空いたからスフレでも作りましょう」
「スフレ・・・」
樹は少し怠そうに材料を揃えたものの、作り始めるとその動きは無駄が無く品がある。ショコラは彼女がチョコレートを材料に加えたのを見て少し目を輝かせた。
一通り作業を終えてスフレをオーブンに入れると樹は腰を下ろして頬杖をついた。オーブンを見守っているショコラに声をかける。
「何も考えてなかったけれど、あなたってチョコばかり食べてて飽きないの?」
「チョコレートが大好きですもの!同じチョコ菓子でも作る人や種類によって味は全然違うし、ちっとも飽きませんわ!」
「ならいいけど」
樹は自分が来てからチョコ菓子ばかり作っている。ショコラはふとそのことを意識しはじめた。もしかしたら寂しがっているのに気を遣って好きなものを食べさせようとしていたのだろうか。
それはやはり少し、彼に似ている。
「樹は樫野と全然仲直りしませんのね」
「しないっていうか、試みても無駄だもの。できないのよ」
「樹が仲直りしたがっているなら、樫野もそうだと思いますわ」
スフレがぷくりと膨れ上がり、樹はオーブンを開ける。
「意味が分からないわ。理屈を聞かせてもらってもいいかしら」
樹は出来上がったスフレをショコラに差し出しながら眉をひそめて言う。
ショコラは一欠片を口に入れた。表面はさくっと、中はふわふわで温かさが胸に沁みる。20分も立てばしぼんでしまうスフレのそんな味が、友達の味なのだと教えられたことがあった。
「だって、樹と樫野はすっごく似てますもの」
ショコラは言った。
「まあ、樫野のスフレの方が何倍も美味しいですけど!」