19話 愛のかたち
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考え事をするなら、湖畔に限る。
樹は温室を出ると、いつものように現れたアリスと岸辺に座って穏やかな水面を見つめていた。
「やっぱり樫野ってうまくいかないよね」
「本当に。ついこの間私もチームの一員なんだって言われたところだったのに、樫野はやっぱり私のこと部外者だと思ってるみたい」
「傷ついたんだ」
「あんなどうしようもない奴の言うことで傷ついたりしないわ。ただ、気に食わないのよね。あの偉そうな言い方」
そうは言うが、アリスの方に視線を向けずむっつりとした表情をつくっている樹はどう見てものけ者扱いされたことに傷ついているようすだった。
図太いところもあるが、こういう人間関係においては割と繊細だったりする。アリスは樹の肩を叩いて慰めながら、かける言葉を選んでいた。
「あの子達のチョコレートケーキを手伝う気分じゃないんだよね。そうならそうで練習したり勉強したり、前向きにスキルアップでもしようよ」
「それがやるべきことってやつかしら」
「ん?」
「分からないのよね。とりあえず目先はグランプリ優勝に向かって突き進んでいけばいいみんなとは違って、私のやるべきことってよく分からないの。単純な練習とか勉強ってわけでもなさそうで」
「うーん、案外そういうのって思いつきじゃない?うじうじ考えているよりはどの道確実に役に立つ練習とかしたら?」
「現実的な意見をありがとう」
樹は曲げた膝の上に頬杖をつきながら息を吐く。非現実的な存在のアリスだが、言うことは割とシビアなので気持ちが不安定になっているときに相談ごとをしていると頭が冷やされるようで落ち着く。
しかし、それでいて自分が感情的に求めている答えとは違うようで、どこかもやもやした気分が残る。
アリスとの付き合いも、言うほど簡単ではない。アリスだって都合のいいお友達なわけではないのだ。
「とりあえず、チョコレートケーキには関わらないわ!ご立派な樫野くんのテリトリーですものね!」
樹は立ち上がるとおもむろに湖に平たい小石を放った。小石は水面を四回跳ねるととぷんと沈んでいく。
「あれ、対岸でも誰かやってるよ」
「何回だった?」
「四回」
「似たような人っているものね」
樹が何気なく言いながらもう一度試みようと石を探そうと振り返ると、そこに小城達がいた。
「独り言・・・?随分寂しいことするのね、あなた」
「・・・なんでしょう」
アリスはいつの間にか消えている。樹は思わず恥ずかしさが際立って少し赤くなった。
それにしても、小城が自分に個人的な用があるとは意外だ。樹はスカートを軽く払って向かう。
「あなた、今回の勝負で私のチームに協力しない?」
「・・・はい?」
「念には念を入れたいのよね。あなた、いつもチームいちごと一緒らしいじゃない。私にそっちがグランプリで作るケーキの情報を教えてほしいの」
「・・・!?」
樹はあまりの申し出に面食らった。
「あなたにとっても損は無いはずですよ。樫野が抜ければあなたがチーム入り!」
「三位決定戦を勝ち抜けば、本戦出場も可能です!」
佐藤と塩谷も畳み掛けるが、樹はいっそう表情を歪めただけだった。
本当はみんなと一緒にグランプリに出たい。もしかしたら樹の密かな気持ちに気づいていて付け込む気だったのだろうか。しかし、樹はそんな文句にほだされるほど落ちぶれたつもりではなかった。
「何を馬鹿なことを。そんな不誠実な役目をよくも平気で人に頼めますね」
樹は即座に断ち切った。
「あら残念。まあ、万一しくじった時のためだったし。いいわ、じゃあね」
小城はあまり固執せず、すんなり頷くとつかつかと去っていった。肩の力が抜けて樹はまた座り込む。
まさか自分が悪事の片棒を担がされそうになるとは思わなかった。アリスに言いたかったが、彼女はもう現れなかった。
それにしてもアリスと話していたのは小城が現れるたった一瞬前だったのに、小城にはアリスの声が聞こえなかったのだろうか。それ以前に自分を見つけて近づいていくときにアリスが視界に入っていなかったのか。
「樹!」
ひとり首を傾げていると、対岸から泣きはらした目のショコラが飛んで来た。ショコラに個人的に話しかけられるのもあまり無いので樹はまたも面食らった。
「何よいきなり。あなた樫野に着いていったんでしょう」
「いいですの、今回だけは私あなたの味方ですわ!しばらく寝床を提供してほしいですの!」
彼女も樫野と喧嘩別れしてきたのだろうか。樹は息を吐きながらも剣幕に押されて頷いた。
樹は温室を出ると、いつものように現れたアリスと岸辺に座って穏やかな水面を見つめていた。
「やっぱり樫野ってうまくいかないよね」
「本当に。ついこの間私もチームの一員なんだって言われたところだったのに、樫野はやっぱり私のこと部外者だと思ってるみたい」
「傷ついたんだ」
「あんなどうしようもない奴の言うことで傷ついたりしないわ。ただ、気に食わないのよね。あの偉そうな言い方」
そうは言うが、アリスの方に視線を向けずむっつりとした表情をつくっている樹はどう見てものけ者扱いされたことに傷ついているようすだった。
図太いところもあるが、こういう人間関係においては割と繊細だったりする。アリスは樹の肩を叩いて慰めながら、かける言葉を選んでいた。
「あの子達のチョコレートケーキを手伝う気分じゃないんだよね。そうならそうで練習したり勉強したり、前向きにスキルアップでもしようよ」
「それがやるべきことってやつかしら」
「ん?」
「分からないのよね。とりあえず目先はグランプリ優勝に向かって突き進んでいけばいいみんなとは違って、私のやるべきことってよく分からないの。単純な練習とか勉強ってわけでもなさそうで」
「うーん、案外そういうのって思いつきじゃない?うじうじ考えているよりはどの道確実に役に立つ練習とかしたら?」
「現実的な意見をありがとう」
樹は曲げた膝の上に頬杖をつきながら息を吐く。非現実的な存在のアリスだが、言うことは割とシビアなので気持ちが不安定になっているときに相談ごとをしていると頭が冷やされるようで落ち着く。
しかし、それでいて自分が感情的に求めている答えとは違うようで、どこかもやもやした気分が残る。
アリスとの付き合いも、言うほど簡単ではない。アリスだって都合のいいお友達なわけではないのだ。
「とりあえず、チョコレートケーキには関わらないわ!ご立派な樫野くんのテリトリーですものね!」
樹は立ち上がるとおもむろに湖に平たい小石を放った。小石は水面を四回跳ねるととぷんと沈んでいく。
「あれ、対岸でも誰かやってるよ」
「何回だった?」
「四回」
「似たような人っているものね」
樹が何気なく言いながらもう一度試みようと石を探そうと振り返ると、そこに小城達がいた。
「独り言・・・?随分寂しいことするのね、あなた」
「・・・なんでしょう」
アリスはいつの間にか消えている。樹は思わず恥ずかしさが際立って少し赤くなった。
それにしても、小城が自分に個人的な用があるとは意外だ。樹はスカートを軽く払って向かう。
「あなた、今回の勝負で私のチームに協力しない?」
「・・・はい?」
「念には念を入れたいのよね。あなた、いつもチームいちごと一緒らしいじゃない。私にそっちがグランプリで作るケーキの情報を教えてほしいの」
「・・・!?」
樹はあまりの申し出に面食らった。
「あなたにとっても損は無いはずですよ。樫野が抜ければあなたがチーム入り!」
「三位決定戦を勝ち抜けば、本戦出場も可能です!」
佐藤と塩谷も畳み掛けるが、樹はいっそう表情を歪めただけだった。
本当はみんなと一緒にグランプリに出たい。もしかしたら樹の密かな気持ちに気づいていて付け込む気だったのだろうか。しかし、樹はそんな文句にほだされるほど落ちぶれたつもりではなかった。
「何を馬鹿なことを。そんな不誠実な役目をよくも平気で人に頼めますね」
樹は即座に断ち切った。
「あら残念。まあ、万一しくじった時のためだったし。いいわ、じゃあね」
小城はあまり固執せず、すんなり頷くとつかつかと去っていった。肩の力が抜けて樹はまた座り込む。
まさか自分が悪事の片棒を担がされそうになるとは思わなかった。アリスに言いたかったが、彼女はもう現れなかった。
それにしてもアリスと話していたのは小城が現れるたった一瞬前だったのに、小城にはアリスの声が聞こえなかったのだろうか。それ以前に自分を見つけて近づいていくときにアリスが視界に入っていなかったのか。
「樹!」
ひとり首を傾げていると、対岸から泣きはらした目のショコラが飛んで来た。ショコラに個人的に話しかけられるのもあまり無いので樹はまたも面食らった。
「何よいきなり。あなた樫野に着いていったんでしょう」
「いいですの、今回だけは私あなたの味方ですわ!しばらく寝床を提供してほしいですの!」
彼女も樫野と喧嘩別れしてきたのだろうか。樹は息を吐きながらも剣幕に押されて頷いた。