18話 差し出す
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中等部予選2回戦に決着が付き、しばらく少し後ろめたそうにしていた樹だったが、みんなの態度は案外変わっていなかった。
距離を感じているのは自分だけなのだろうか。
そんなことを思いながらも、ヨーグルトクリームを泡立てる手つきだけはいつもと変わらない。スピーディに、しかし雑にならないように。
丁寧な仕事をしている樹に、花房が声をかけた。
「樹ちゃんも、その日は用事無いよね?」
「・・・えっ?」
樹はきょとんと顔をあげた。
「きいてなかったのか。次の休みでサーカスを見に行くって話だよ」
「安堂君の実家の近くでやるから招待券があるんだって!」
いつの間にか実習中にそういう話になっていたらしい。樹は二回瞬きした。よりによって主催が安堂だ。
「・・・構わないの」
「え、何が?」
「えっと・・・」
樹は安堂が純粋に不思議そうにしているのに気づいて言葉を選んだ。
「ご家族の券なんでしょう?」
「ああ、だから、家族は忙しくて行けないんだけど、一太が行きたがったからね。僕たちで連れて行こうと思って」
「ぼうっとしてんじゃねえよ」
「うるさいわね、行くわよ。私も行く」
つっけんどんに言った樹に、安堂は少し胸を撫で下ろす。いちごは久しぶりにみんなで遊びにいけることに期待を膨らませた。
その日の夜、樹はうろうろと校内を徘徊していた。中等部・高等部の調理室では樫野や天王寺が練習に励んでおり、入る気が失せたのだ。
樫野に対して前ほど憎しみじみた敵意はないが、なんとなく二人きりで和やかに話す場面が思い浮かばない。
天王寺はあの落ち着き払った、見透かすような視線が少し苦手だった。目の前に現れるとプレッシャーを感じてしまう。
勉強をする気分でもなかったので庭を歩く。すっかり夜は更けているが、聖マリー学園の庭はあたたかな電灯の明かりで照らされていた。
大理石づくりの噴水に近づいて、指をその透き通った水に浸してみる。冬場の洗い物のような鋭い痛みは無い。
というかなんでこんな贅沢な装飾品が校内にあるのか。樹は今更のように呆れながら、ふと校舎の方を見やった。
大階段の手前には、スイーツスピリッツの女王像が鎮座している。そこに、誰かが居た。
「・・・・アリス?」
「あれ———樹か、さっさと寝なよー」
アリスは言葉少なに身を翻すとどこかへ行ってしまう。
樹には、アリスが女王像を見上げながら何を考えていたのか、全く見当がつかなかった。
距離を感じているのは自分だけなのだろうか。
そんなことを思いながらも、ヨーグルトクリームを泡立てる手つきだけはいつもと変わらない。スピーディに、しかし雑にならないように。
丁寧な仕事をしている樹に、花房が声をかけた。
「樹ちゃんも、その日は用事無いよね?」
「・・・えっ?」
樹はきょとんと顔をあげた。
「きいてなかったのか。次の休みでサーカスを見に行くって話だよ」
「安堂君の実家の近くでやるから招待券があるんだって!」
いつの間にか実習中にそういう話になっていたらしい。樹は二回瞬きした。よりによって主催が安堂だ。
「・・・構わないの」
「え、何が?」
「えっと・・・」
樹は安堂が純粋に不思議そうにしているのに気づいて言葉を選んだ。
「ご家族の券なんでしょう?」
「ああ、だから、家族は忙しくて行けないんだけど、一太が行きたがったからね。僕たちで連れて行こうと思って」
「ぼうっとしてんじゃねえよ」
「うるさいわね、行くわよ。私も行く」
つっけんどんに言った樹に、安堂は少し胸を撫で下ろす。いちごは久しぶりにみんなで遊びにいけることに期待を膨らませた。
その日の夜、樹はうろうろと校内を徘徊していた。中等部・高等部の調理室では樫野や天王寺が練習に励んでおり、入る気が失せたのだ。
樫野に対して前ほど憎しみじみた敵意はないが、なんとなく二人きりで和やかに話す場面が思い浮かばない。
天王寺はあの落ち着き払った、見透かすような視線が少し苦手だった。目の前に現れるとプレッシャーを感じてしまう。
勉強をする気分でもなかったので庭を歩く。すっかり夜は更けているが、聖マリー学園の庭はあたたかな電灯の明かりで照らされていた。
大理石づくりの噴水に近づいて、指をその透き通った水に浸してみる。冬場の洗い物のような鋭い痛みは無い。
というかなんでこんな贅沢な装飾品が校内にあるのか。樹は今更のように呆れながら、ふと校舎の方を見やった。
大階段の手前には、スイーツスピリッツの女王像が鎮座している。そこに、誰かが居た。
「・・・・アリス?」
「あれ———樹か、さっさと寝なよー」
アリスは言葉少なに身を翻すとどこかへ行ってしまう。
樹には、アリスが女王像を見上げながら何を考えていたのか、全く見当がつかなかった。