17話 すれ違い
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「おっ、ついに作業始まったで!」
ルミの言葉に、樹ははっと顔を上げた。
再戦当日。久々に樹は四人の顔を拝むことになった。今回は不安も無く和気あいあいとしている様子なので樹はほっとする。同じように、観客の中から彼女を見つけたいちご達もほっとしたようにしていた。
少しだけ気持ちに余裕が出て来た樹はチームれもんの方にも視線を向けてみる。こちらは雰囲気が良くなかった。れもんがぴりぴりしていて、三人をことあるごとに叱りつけているのだ。
「なんや・・・仲悪いな」
「だね・・・」
ルミとかなこも眉をひそめる。『友情』がテーマの試合に、似つかわしくない険悪な雰囲気だ。
「いちごちゃん達は調子良さそうやな!」
「安堂君も完全復活だもん!」
一方のチームいちごを見て二人は頬を緩ませた。どんなものが出来上がるのか、樹も純粋に興味を持った。
作業が終わり、れもんが片手を上げて完成を宣言すると、いちご達は対照的に一斉に声を揃えた。明らかに余裕ありげな様子で笑顔を見せ合っている彼らが気に食わず、れもんはそちらを睨みつけていた。
チームれもんの作品はチョコレートとレモンのロールケーキだった。れもんはいちごたちの様子を気にしながらも堂々と説明を加えた。
「二つのケーキを交互に食べていただければ、私たちの友情の深さを味わえると思います」
「では、ごちそうになりますか」
審査員が一斉にフォークを入れる。理事長はすばらしい、と声をあげた。
「甘酸っぱいレモンとほろ苦いチョコレートが見事にマッチしています!」
「特に、レモンの味の方のレモンピールが程よいアクセントになってますね」
辛島先生の評価に理事長は頷く。良い評価をもらい、れもんは勝ち誇ったような笑みを向ける。
「あたし達の作品は、これです!」
続いていちごが披露したのは、見事な扇を模したケーキだった。扇に描かれた梅の木には、うぐいすが四羽とまっている。キャラメルがカードを作ってスイーツ王国の女王に報告しているのが樹には見えた。
「和テイストの抹茶ガトーショコラです」
「四羽のうぐいすの飴細工には何か意味でも?」
「一番下の枝にいる一羽は、この間個人戦で負けて落ち込んでいる安堂で、上の三羽はそれを励ますーーー」
「違うよ」
花房が、樫野の言葉を遮る。
「その一羽は、安堂じゃなくて君だ」
「な、何で俺が・・・」
そのことについての説明はそこそこに、花房は試食を促した。一口かみしめた理事長は神妙な顔をする。
「・・・少し甘過ぎるような・・・」
「たしかに・・・。ふつう、抹茶ガトーショコラは抹茶がほろ苦く、ホワイトチョコが甘いのに、これは抹茶のほろ苦さも少ないし、チョコの弱さも甘い・・・」
れもんはその感想にこれは勝ったと笑みを漏らす。
しかし、理事長が何か思いついた風に言った。
「いや、待ってください。これは、味わえば味わうほど奥深い味に変わっていきませんか?いちごジャムの甘酸っぱさや、飴細工のほどよい甘さが、甘さをおさえたホワイトチョコとマッチして、何とも言えぬハーモニーを作り出しています」
言われてもう一口味わった辛島先生も頷いてみせる。
「通り一遍ではない豊かさを感じます」
「さすがの感受性やな、理事長」
ルミはその感想にしみじみと頷く。
「ルミさん、ほんとに分かってるの?」
「なんや、かなちゃんひどいなあ!」
「ところで、四羽のうぐいすの意味ですが・・・」
理事長は続けた。
「三羽の方は、落ち込む友達を励まし慰める優しさ、皆から離れる一羽は、友達とあえて距離を置き、あるいは突き放すようなことまでして相手を思う。そう、このケーキのように通り一遍ではない優しさを表しているのではないですか?私には、そんな風に感じられました。あはは、考え過ぎかなあ?」
理事長はお茶目に笑う。旗色が悪くなったとたんチームれもんの男子三人はぶつぶつと何か言いだした。れもんはその様子にはっと泣きそうな顔をする。
「両チームの出来に大きな差はないでしょう。しかし、友情というテーマを考慮すれば、勝負は決まりではないでしょうか」
チームいちごの味と技術、テーマに満点が付き、チームれもんはテーマにだけ最低点がつけられた。会場がどっと沸く。
「やったーっ!」
かなとルミが立ち上がって抱き合う。チームいちごも喜び合うが、チームれもんの方はれもんに三人の冷たい声が刺さっていた。れもんが耐えきれず走って会場を飛び出し、いちごがそれを追っていく。なるほど『励まし慰める優しさ』だ、と樹は妙に納得する。いちごは悪意で自分を貶めたれもんのことを、少しも嫌っていないのだった。
樹は理事長の解釈を反芻していた。
私はどちらに居るうぐいすだろうか。
同じ梅の木にとまっても、いいだろうか。
ルミの言葉に、樹ははっと顔を上げた。
再戦当日。久々に樹は四人の顔を拝むことになった。今回は不安も無く和気あいあいとしている様子なので樹はほっとする。同じように、観客の中から彼女を見つけたいちご達もほっとしたようにしていた。
少しだけ気持ちに余裕が出て来た樹はチームれもんの方にも視線を向けてみる。こちらは雰囲気が良くなかった。れもんがぴりぴりしていて、三人をことあるごとに叱りつけているのだ。
「なんや・・・仲悪いな」
「だね・・・」
ルミとかなこも眉をひそめる。『友情』がテーマの試合に、似つかわしくない険悪な雰囲気だ。
「いちごちゃん達は調子良さそうやな!」
「安堂君も完全復活だもん!」
一方のチームいちごを見て二人は頬を緩ませた。どんなものが出来上がるのか、樹も純粋に興味を持った。
作業が終わり、れもんが片手を上げて完成を宣言すると、いちご達は対照的に一斉に声を揃えた。明らかに余裕ありげな様子で笑顔を見せ合っている彼らが気に食わず、れもんはそちらを睨みつけていた。
チームれもんの作品はチョコレートとレモンのロールケーキだった。れもんはいちごたちの様子を気にしながらも堂々と説明を加えた。
「二つのケーキを交互に食べていただければ、私たちの友情の深さを味わえると思います」
「では、ごちそうになりますか」
審査員が一斉にフォークを入れる。理事長はすばらしい、と声をあげた。
「甘酸っぱいレモンとほろ苦いチョコレートが見事にマッチしています!」
「特に、レモンの味の方のレモンピールが程よいアクセントになってますね」
辛島先生の評価に理事長は頷く。良い評価をもらい、れもんは勝ち誇ったような笑みを向ける。
「あたし達の作品は、これです!」
続いていちごが披露したのは、見事な扇を模したケーキだった。扇に描かれた梅の木には、うぐいすが四羽とまっている。キャラメルがカードを作ってスイーツ王国の女王に報告しているのが樹には見えた。
「和テイストの抹茶ガトーショコラです」
「四羽のうぐいすの飴細工には何か意味でも?」
「一番下の枝にいる一羽は、この間個人戦で負けて落ち込んでいる安堂で、上の三羽はそれを励ますーーー」
「違うよ」
花房が、樫野の言葉を遮る。
「その一羽は、安堂じゃなくて君だ」
「な、何で俺が・・・」
そのことについての説明はそこそこに、花房は試食を促した。一口かみしめた理事長は神妙な顔をする。
「・・・少し甘過ぎるような・・・」
「たしかに・・・。ふつう、抹茶ガトーショコラは抹茶がほろ苦く、ホワイトチョコが甘いのに、これは抹茶のほろ苦さも少ないし、チョコの弱さも甘い・・・」
れもんはその感想にこれは勝ったと笑みを漏らす。
しかし、理事長が何か思いついた風に言った。
「いや、待ってください。これは、味わえば味わうほど奥深い味に変わっていきませんか?いちごジャムの甘酸っぱさや、飴細工のほどよい甘さが、甘さをおさえたホワイトチョコとマッチして、何とも言えぬハーモニーを作り出しています」
言われてもう一口味わった辛島先生も頷いてみせる。
「通り一遍ではない豊かさを感じます」
「さすがの感受性やな、理事長」
ルミはその感想にしみじみと頷く。
「ルミさん、ほんとに分かってるの?」
「なんや、かなちゃんひどいなあ!」
「ところで、四羽のうぐいすの意味ですが・・・」
理事長は続けた。
「三羽の方は、落ち込む友達を励まし慰める優しさ、皆から離れる一羽は、友達とあえて距離を置き、あるいは突き放すようなことまでして相手を思う。そう、このケーキのように通り一遍ではない優しさを表しているのではないですか?私には、そんな風に感じられました。あはは、考え過ぎかなあ?」
理事長はお茶目に笑う。旗色が悪くなったとたんチームれもんの男子三人はぶつぶつと何か言いだした。れもんはその様子にはっと泣きそうな顔をする。
「両チームの出来に大きな差はないでしょう。しかし、友情というテーマを考慮すれば、勝負は決まりではないでしょうか」
チームいちごの味と技術、テーマに満点が付き、チームれもんはテーマにだけ最低点がつけられた。会場がどっと沸く。
「やったーっ!」
かなとルミが立ち上がって抱き合う。チームいちごも喜び合うが、チームれもんの方はれもんに三人の冷たい声が刺さっていた。れもんが耐えきれず走って会場を飛び出し、いちごがそれを追っていく。なるほど『励まし慰める優しさ』だ、と樹は妙に納得する。いちごは悪意で自分を貶めたれもんのことを、少しも嫌っていないのだった。
樹は理事長の解釈を反芻していた。
私はどちらに居るうぐいすだろうか。
同じ梅の木にとまっても、いいだろうか。