16話 ハッピーバレンタイン
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「遅いわよ、花房くん」
樹は言いながらも、すっと心が晴れた気がした。世界が、色づいて見える。
「どうしたの、心細かった?」
「そんなわけないでしょう」
樹は咄嗟に否定したが、図星だった。知らない大人ばかりのところへ放り込まれてひとり堂々としていられる中学生というのは稀にはいるが、樹は一介の中学生だった。
花房はなんとなくその辺りを見抜いている風だったが、口には出さず悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「では一曲お願いします、お嬢様」
「なによもう、浮かれてるんじゃないわよ」
「人のこと言えないよ、樹ちゃん。珍しい格好しちゃって」
「・・・」
「可愛いよ」
樹が言い返せず悔しがる中、花房は慣れた様子で彼女をリードしはじめた。社交ダンスに親しみのない樹でも様になるような見事な手腕だった。やはり育ちが特殊なのだろうと樹は思った。
「ところでそのドレスね、僕が贈らせてもらったんだ」
「・・・えっ?」
「樹ちゃんがいらないっていうから、これは無理にでも押し付けておこうと思ってね。カフェくんに頼んで、窓から部屋に届けてもらったんだ」
「スピリッツっていうのは合ってたのね・・・」
樹は呟く。
「あ、色々考えてたの?」
「だって、不審だったもの。山田も犯人が分からないというぐらいだったから」
「不審って・・・。女の子なら素直に驚いて喜んでくれればいいのに」
「私の分も、ルミさん達が喜んでいたから大丈夫よ」
花房はその返答に苦笑した。
「いちごは結局制服だったけれど、あの子の分は用意しなかったの」
「本当に制服で行くなら用意しようと思ってたけど、バニラがいちごちゃんのドレスは用意するって言っていたから。あ、ほら」
花房が横目で何かを指した。樹が目線を追うと、可愛らしいたっぷりとしたフリルの赤いドレスをまとったいちごが樫野を相手に踊っていた。
そこに、手持ち無沙汰な様子の安堂が近づいてきた。
「わっ、東堂さんどうしたのその格好」
「彼の仕業よ」
「へえ、すごく似合ってる。やるなあ、花房。どうやって着せたのさ」
「僕って、女の子の気持ちとかよく分かってるから」
ルミ達の介入までが計算ずくだったらしい。樹は息をついた。
それから、ふと考えた。ドレスを贈ったのは結局スピリッツではなかったけれど、ある意味で自分をパートナーにしたい誰かは確かにいたのだ。
(まあ、ダンスのパートナーだなんてパティシエールとはとても程遠いけれど)
その考えに樹は少し愉快な気分になった。
「どうしても言いたいことが二つあるのよ」
「なんでもどうぞ」
「是非聞きたいな」
「一つ目に、正直パーティーで浮かれているのも悪い気はしないわ」
樹は珍しく年相応な笑顔を見せ、二人は「これははしゃいでいるな」と面白がった。
「それで、二つ目は?」
「いちごのドレスって、学園のカーテンの生地に見えないかしら」
「ああ、それは確実だね」
「いいじゃない、お手製っていうのも」
三人は目配せし合うと、一斉に吹き出した。上の方で大人しくしていたバニラが慌てて降りてきて「いちごには言うな」と必死で口止めした。
樫野といちごは、なかなか意識し合っていて妙にいい雰囲気のようなものを醸し出していた。花房がその様子を見てまた悪戯っぽく笑った。
「ねえ、あっちの方へいってやろうか。からかってやろう」
「いいわね。行きましょう、安堂君」
「了解!」
たまには特別な夜を過ごすのも悪くなかった。樹は、帰ったらチョコレートを作ってやるのもまあいいだろうと考えながら足を弾ませた。
樹は言いながらも、すっと心が晴れた気がした。世界が、色づいて見える。
「どうしたの、心細かった?」
「そんなわけないでしょう」
樹は咄嗟に否定したが、図星だった。知らない大人ばかりのところへ放り込まれてひとり堂々としていられる中学生というのは稀にはいるが、樹は一介の中学生だった。
花房はなんとなくその辺りを見抜いている風だったが、口には出さず悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「では一曲お願いします、お嬢様」
「なによもう、浮かれてるんじゃないわよ」
「人のこと言えないよ、樹ちゃん。珍しい格好しちゃって」
「・・・」
「可愛いよ」
樹が言い返せず悔しがる中、花房は慣れた様子で彼女をリードしはじめた。社交ダンスに親しみのない樹でも様になるような見事な手腕だった。やはり育ちが特殊なのだろうと樹は思った。
「ところでそのドレスね、僕が贈らせてもらったんだ」
「・・・えっ?」
「樹ちゃんがいらないっていうから、これは無理にでも押し付けておこうと思ってね。カフェくんに頼んで、窓から部屋に届けてもらったんだ」
「スピリッツっていうのは合ってたのね・・・」
樹は呟く。
「あ、色々考えてたの?」
「だって、不審だったもの。山田も犯人が分からないというぐらいだったから」
「不審って・・・。女の子なら素直に驚いて喜んでくれればいいのに」
「私の分も、ルミさん達が喜んでいたから大丈夫よ」
花房はその返答に苦笑した。
「いちごは結局制服だったけれど、あの子の分は用意しなかったの」
「本当に制服で行くなら用意しようと思ってたけど、バニラがいちごちゃんのドレスは用意するって言っていたから。あ、ほら」
花房が横目で何かを指した。樹が目線を追うと、可愛らしいたっぷりとしたフリルの赤いドレスをまとったいちごが樫野を相手に踊っていた。
そこに、手持ち無沙汰な様子の安堂が近づいてきた。
「わっ、東堂さんどうしたのその格好」
「彼の仕業よ」
「へえ、すごく似合ってる。やるなあ、花房。どうやって着せたのさ」
「僕って、女の子の気持ちとかよく分かってるから」
ルミ達の介入までが計算ずくだったらしい。樹は息をついた。
それから、ふと考えた。ドレスを贈ったのは結局スピリッツではなかったけれど、ある意味で自分をパートナーにしたい誰かは確かにいたのだ。
(まあ、ダンスのパートナーだなんてパティシエールとはとても程遠いけれど)
その考えに樹は少し愉快な気分になった。
「どうしても言いたいことが二つあるのよ」
「なんでもどうぞ」
「是非聞きたいな」
「一つ目に、正直パーティーで浮かれているのも悪い気はしないわ」
樹は珍しく年相応な笑顔を見せ、二人は「これははしゃいでいるな」と面白がった。
「それで、二つ目は?」
「いちごのドレスって、学園のカーテンの生地に見えないかしら」
「ああ、それは確実だね」
「いいじゃない、お手製っていうのも」
三人は目配せし合うと、一斉に吹き出した。上の方で大人しくしていたバニラが慌てて降りてきて「いちごには言うな」と必死で口止めした。
樫野といちごは、なかなか意識し合っていて妙にいい雰囲気のようなものを醸し出していた。花房がその様子を見てまた悪戯っぽく笑った。
「ねえ、あっちの方へいってやろうか。からかってやろう」
「いいわね。行きましょう、安堂君」
「了解!」
たまには特別な夜を過ごすのも悪くなかった。樹は、帰ったらチョコレートを作ってやるのもまあいいだろうと考えながら足を弾ませた。