2話 遠すぎるスタートライン
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オーブンにパイ生地をつっこんだ樹は焼き上がるまでの時間を持て余していた。何をしようと思いながら上を見上げると、朝に見たスイーツスピリッツの女王とやらの巨大な肖像画がかかっていた。猛烈に創設者の顔面をアピールしてくるよりも、よほどたちが悪いと樹は思った。
(徹底してる学校ね、薄気味悪いわ)
樫野たちもああいうものを信じているのかと考える。てんでおかしい話だ。
(というか、周りの目を気にしすぎた裏返しの結果よね、今日の実習は。確かに私、駄目なことをしたのかもしれないけど、でもあの言い方はないわよ)
本日何度目かの思い返し。
(おばあちゃんと作っていたときの方が楽しかった・・・)
ため息をつきながらぼんやりと肖像画を眺めていると、不意に視界が歪んだ。驚いて目を瞬かせると、妖精が持っている大きなスプーンの絵が浮かび上がって見えた。
「な、何!?」
樹は悲鳴をあげて目を瞑った。しばらくして、カツカツという靴音がこちらに近づいてきた。樹がそっと目を開けると、色素の薄い金髪碧眼の美少女がそこに佇んでいた。
「・・・あなた、誰?」
「アリス」
少女はにっこりと笑う。風貌に似合いすぎるネーミングからして怪しさ満点だ。
「生徒なの?」
「さあ、どうでしょう?」
「外国の方?」
「さあね」
どうにも浮世離れした雰囲気だ。ストレスで幻覚を見ているのかもしれないと樹はこっそり目をこする。
「あんた、今日の実習すごかったからさ、ちょっと興味湧いちゃったんだ」
「・・・関係ないでしょ」
雲をつかむような物言いが癪に触り、樹はアリスをにらみつける。
「やだ、だってあれでしょ?今はやりのツンデレちゃんでしょ?ほんとは仲良くしたいくせに」
「そんなこと思ってもないわよ」
「そんなわけないでしょ、友達いない子ってあんまり向いてないよ、この世界」
アリスはにやりと笑いながら樹の顔を覗き込む。
「向いてないってどういうことよ」
「この世界じゃ挫折するポイントがやたら多いんだよね。そのときに、ましてやこんな全寮制の学校で、心の支えになる友達もいない人って、簡単には立ち直れないわけ。仮に学校で大丈夫だったとしても、ろくに人間関係を築けない子じゃお店も構えられないし、1人で店が切り盛りできるような人っていうと相当限られてるよね」
樹はアリスを見ながら思わずつばを飲んだ。適当そうな口ぶりからして、馬鹿な変人かと思いきや、案外まともそうな意見だ。
「私———店とか持つ気ないし」
「そう?じゃあ何になるの?」
「先生に———おばあちゃんみたいな」
「なおさら必要じゃん、友達」
「・・・そうだった」
アリスは弾けるように笑った。なぜか嫌な気はしなかった。樹は滅多に人と話さないため、たまに話しかけてくる人みんながどこか緊張した態度だった。心のどこかで、それを不満に感じていたらしい。素直な明るい反応が、やけに心地いい。
「私といても、つまらないでしょ」
「そんなことないかな。ていうか、思ったより面白いかも。自分からあまりしゃべらないってのも想像力をかき立てられていい感じ」
「なんの想像をしているのよ」
「下着は黒」
「やかましいわよ」
この学校には変な人が多い、と樹は思った。だが、その中に一緒にいるのもいいなと思える人がいるのかもしれない。そんなことを考えた。
「ちょっと、何座ってるのよ」
「パイがもうすぐ焼き上がるんでしょ、一緒に食べてあげるよ」
「はあ・・・いいわ、もう勝手にして」
「あたし、優しいから後片付けまで手伝っちゃう」
「じゃあ、任せちゃう」
つられて慣れない語尾をくっつけた樹に、アリスはまた笑う。少し可笑しくなって、樹も笑みをこぼした。
「あたしが一人目の友達だよ、一緒に頑張ろうね、樹」
「なんだか不本意だけどしょうがないわ」
ふと現れた少女への疑惑など、とっくに無くなっていた。実習室に自分以外の人間がいて、隣で笑ってくれることが嬉しかった。
(徹底してる学校ね、薄気味悪いわ)
樫野たちもああいうものを信じているのかと考える。てんでおかしい話だ。
(というか、周りの目を気にしすぎた裏返しの結果よね、今日の実習は。確かに私、駄目なことをしたのかもしれないけど、でもあの言い方はないわよ)
本日何度目かの思い返し。
(おばあちゃんと作っていたときの方が楽しかった・・・)
ため息をつきながらぼんやりと肖像画を眺めていると、不意に視界が歪んだ。驚いて目を瞬かせると、妖精が持っている大きなスプーンの絵が浮かび上がって見えた。
「な、何!?」
樹は悲鳴をあげて目を瞑った。しばらくして、カツカツという靴音がこちらに近づいてきた。樹がそっと目を開けると、色素の薄い金髪碧眼の美少女がそこに佇んでいた。
「・・・あなた、誰?」
「アリス」
少女はにっこりと笑う。風貌に似合いすぎるネーミングからして怪しさ満点だ。
「生徒なの?」
「さあ、どうでしょう?」
「外国の方?」
「さあね」
どうにも浮世離れした雰囲気だ。ストレスで幻覚を見ているのかもしれないと樹はこっそり目をこする。
「あんた、今日の実習すごかったからさ、ちょっと興味湧いちゃったんだ」
「・・・関係ないでしょ」
雲をつかむような物言いが癪に触り、樹はアリスをにらみつける。
「やだ、だってあれでしょ?今はやりのツンデレちゃんでしょ?ほんとは仲良くしたいくせに」
「そんなこと思ってもないわよ」
「そんなわけないでしょ、友達いない子ってあんまり向いてないよ、この世界」
アリスはにやりと笑いながら樹の顔を覗き込む。
「向いてないってどういうことよ」
「この世界じゃ挫折するポイントがやたら多いんだよね。そのときに、ましてやこんな全寮制の学校で、心の支えになる友達もいない人って、簡単には立ち直れないわけ。仮に学校で大丈夫だったとしても、ろくに人間関係を築けない子じゃお店も構えられないし、1人で店が切り盛りできるような人っていうと相当限られてるよね」
樹はアリスを見ながら思わずつばを飲んだ。適当そうな口ぶりからして、馬鹿な変人かと思いきや、案外まともそうな意見だ。
「私———店とか持つ気ないし」
「そう?じゃあ何になるの?」
「先生に———おばあちゃんみたいな」
「なおさら必要じゃん、友達」
「・・・そうだった」
アリスは弾けるように笑った。なぜか嫌な気はしなかった。樹は滅多に人と話さないため、たまに話しかけてくる人みんながどこか緊張した態度だった。心のどこかで、それを不満に感じていたらしい。素直な明るい反応が、やけに心地いい。
「私といても、つまらないでしょ」
「そんなことないかな。ていうか、思ったより面白いかも。自分からあまりしゃべらないってのも想像力をかき立てられていい感じ」
「なんの想像をしているのよ」
「下着は黒」
「やかましいわよ」
この学校には変な人が多い、と樹は思った。だが、その中に一緒にいるのもいいなと思える人がいるのかもしれない。そんなことを考えた。
「ちょっと、何座ってるのよ」
「パイがもうすぐ焼き上がるんでしょ、一緒に食べてあげるよ」
「はあ・・・いいわ、もう勝手にして」
「あたし、優しいから後片付けまで手伝っちゃう」
「じゃあ、任せちゃう」
つられて慣れない語尾をくっつけた樹に、アリスはまた笑う。少し可笑しくなって、樹も笑みをこぼした。
「あたしが一人目の友達だよ、一緒に頑張ろうね、樹」
「なんだか不本意だけどしょうがないわ」
ふと現れた少女への疑惑など、とっくに無くなっていた。実習室に自分以外の人間がいて、隣で笑ってくれることが嬉しかった。