16話 ハッピーバレンタイン
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「パーティーに出るんだって?」
噂は他学年にも多少は広がっているらしい。元チーム市松の網川が、眼鏡を押し上げながらにやにやと話しかけてきたのはパーティー前日の午後のことだった。
「どうして知ってるんですか」
「小城は独り言がでかいからね。例のチームいちごの代表の子に勝負を仕掛けたんだって」
「年上としての品格が感じられない態度で、すごく彼女らしいですね」
「でも、相当自信ありげだよ。ホームグラウンドだし、あの素人の子一人だと分が悪いんじゃない?」
「そうは言いますが、あなた方のチームはその素人の子の采配に負けたんですよ」
「古傷をえぐるなあ」
そうは言いつつも、網川の口角は上がっている。グランプリを経て年下の知り合いができた彼らは、兄貴風を吹かせる機会ができたことに少なからず満足していたようだった。聖マリーには部活動の類はほぼ存在しない。必然的に、縦のつながりは貴重なものになる。
「ていうか、パーティーって、東堂のイメージじゃなくない?楽しそうだと思ったの?」
「別に。食事には期待できるとみんなが口を揃えるものですから。いちごにもついていなくちゃいけないし」
「えっ、友達は後なの?」
「後に思い出しただけです。いちいち優先順位を考えながら話してるわけじゃありませんから」
「ちょっと焦ってるじゃん」
べらべらとしゃべりながら歩いていると、向かい側から天王寺が歩いてきた。「出たよ女王蜂」と網川が呟いたのを樹は聞いた。会釈して通り過ぎようとするが、天王寺の方はふと足を止めた。
「東堂さん・・・だったかしら?チームいちごの皆さんと一緒にいる」
「・・・はい」
添え物のように言われ若干引っかかったが、樹は応えておいた。
「確か、あなたは中等部でも成績が優秀だと聞きました。どうしてグランプリの参加を見送ったのかしら」
「必要ないと思ったので」
「必要ない・・・?パティシエを目指す全ての生徒の実になる行事をと考えて開催するものよ。あなた達の担任の、飴屋先生も生徒だった頃は出場なさっていましたわ」
「・・・・」
樹は一瞬戸惑った。先生になるのにグランプリは必要ない、という理由を今まで掲げていた樹にとって、それはなかなか深い一撃を与える情報だった。
でも、天王寺はだからどうしろというのだ。
「クラスで同じグループだからといって、必ずしもその中でチームを組む必要はないのよ。私は、もしあなたが人数の関係でグランプリ参加を見送ったのだとしたらーーー」
「天王寺会長、そろそろ失礼します。俺たち、人を待たせているので」
「あら、ごめんなさい。網川くんね。グランプリでは残念でしたが、これからもサロン・ド・マリーへの納品を楽しみにしているわ。ごきげんよう」
天王寺は姿勢よくさっそうと歩いて行く。樹は静かにその後ろ姿を見送った。
「・・・東堂、あまり気にすんなよ。会長も色々分かってないところってあるし」
網川は言葉を失っている様子の樹に声をかけたが、樹は心もとない様子で少し頷いただけだった。
天王寺は、何が言いたかったのだろうか。
何となく、それはアリスが言っていたのと似たようなことだという気がしていた。
噂は他学年にも多少は広がっているらしい。元チーム市松の網川が、眼鏡を押し上げながらにやにやと話しかけてきたのはパーティー前日の午後のことだった。
「どうして知ってるんですか」
「小城は独り言がでかいからね。例のチームいちごの代表の子に勝負を仕掛けたんだって」
「年上としての品格が感じられない態度で、すごく彼女らしいですね」
「でも、相当自信ありげだよ。ホームグラウンドだし、あの素人の子一人だと分が悪いんじゃない?」
「そうは言いますが、あなた方のチームはその素人の子の采配に負けたんですよ」
「古傷をえぐるなあ」
そうは言いつつも、網川の口角は上がっている。グランプリを経て年下の知り合いができた彼らは、兄貴風を吹かせる機会ができたことに少なからず満足していたようだった。聖マリーには部活動の類はほぼ存在しない。必然的に、縦のつながりは貴重なものになる。
「ていうか、パーティーって、東堂のイメージじゃなくない?楽しそうだと思ったの?」
「別に。食事には期待できるとみんなが口を揃えるものですから。いちごにもついていなくちゃいけないし」
「えっ、友達は後なの?」
「後に思い出しただけです。いちいち優先順位を考えながら話してるわけじゃありませんから」
「ちょっと焦ってるじゃん」
べらべらとしゃべりながら歩いていると、向かい側から天王寺が歩いてきた。「出たよ女王蜂」と網川が呟いたのを樹は聞いた。会釈して通り過ぎようとするが、天王寺の方はふと足を止めた。
「東堂さん・・・だったかしら?チームいちごの皆さんと一緒にいる」
「・・・はい」
添え物のように言われ若干引っかかったが、樹は応えておいた。
「確か、あなたは中等部でも成績が優秀だと聞きました。どうしてグランプリの参加を見送ったのかしら」
「必要ないと思ったので」
「必要ない・・・?パティシエを目指す全ての生徒の実になる行事をと考えて開催するものよ。あなた達の担任の、飴屋先生も生徒だった頃は出場なさっていましたわ」
「・・・・」
樹は一瞬戸惑った。先生になるのにグランプリは必要ない、という理由を今まで掲げていた樹にとって、それはなかなか深い一撃を与える情報だった。
でも、天王寺はだからどうしろというのだ。
「クラスで同じグループだからといって、必ずしもその中でチームを組む必要はないのよ。私は、もしあなたが人数の関係でグランプリ参加を見送ったのだとしたらーーー」
「天王寺会長、そろそろ失礼します。俺たち、人を待たせているので」
「あら、ごめんなさい。網川くんね。グランプリでは残念でしたが、これからもサロン・ド・マリーへの納品を楽しみにしているわ。ごきげんよう」
天王寺は姿勢よくさっそうと歩いて行く。樹は静かにその後ろ姿を見送った。
「・・・東堂、あまり気にすんなよ。会長も色々分かってないところってあるし」
網川は言葉を失っている様子の樹に声をかけたが、樹は心もとない様子で少し頷いただけだった。
天王寺は、何が言いたかったのだろうか。
何となく、それはアリスが言っていたのと似たようなことだという気がしていた。