14話 バラ色の思い出
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樹は水面に顔を出し、思い切り息を吸った。傍らにはなぜか樫野がいた。樹を支えて浅場まで泳いでいく。
樫野が樹の方を見て声をあげた。
「大丈夫か!?」
「・・・大丈夫。ローズウォーターもふたがしっかりしてあったから無事よ」
「大丈夫か、二人とも!」
「ごめんなさい!あたしがぶつかったから・・・」
焦った様子の安堂といちごが二人に手を貸してくれた。冬場のダイビングは体に響く。芯まで凍えきった二人は身震いしていたが、ケガはないかと尋ねてきた花房をにらみつける元気は残っていた。
二人をあたためる必要があったが、樹が議論を求めていそうな目つきをしているので、五人は温室に移動した。いちごが、花房が調理室へ戻ってこないのを心配していたのだと言っている限り、また彼は抜け出したのだったらしい。
「これ、返すわ。大事なものなんでしょう」
樹は瓶を花房の前に突き出す。花房が少しためらったので、手を取って握らせた。
「・・・使えないんじゃ意味ないよ」
「花房くん・・・」
いちごは樹の髪をごしごしとタオルで拭いながら呟いた。
「一回戦明日なのに・・・。これ以上迷惑かけられない。これに縛られる事もないんだ。別に、バラのケーキじゃなくても・・・」
花房が力なくぼやいたその瞬間、パンと甲高い音が鳴り、花房の顔は右を向いていた。左の頬がじんじんと痛み始める。樹に打たれたのだと遅れて気がついた。
「だからって捨てる事ないでしょ!?」
樹はそのまま花房につかみかかった。
「それ形見なんでしょう!?私知ってるわよ、何か付けその瓶眺めてたくせに!そんな簡単に捨てるものじゃないはずよ!」
花房にとって、樹が自分のために怒っているという状況は衝撃的だった。興奮した様子で距離を詰めている樹の眼力に圧倒される。
「これでバラのケーキを作るんでしょう!?言っておくけどね、こんなところで諦めたらせっかく話してくれたお父様の思い出が後味悪くなるのよ!」
至近距離で見ると、樹の瞳は微かに潤んでいた。その様子に気づき、花房は胸を詰まらせた。
「レディを泣かせるなんて、五月らしくないよ」
「は?泣いてないんだけど」
カフェが花房に囁いた言葉に敏感に反応した樹が口を挟む。花房は少し笑みを浮かべると、襟元を引っ張っていた樹をそっと押し戻した。
「本当、びっくりするなあ、樹ちゃんは。あんな馬鹿な事するなんて思わなかった」
「本当に馬鹿な事をしたわ。いちごに飛び込んでもらえばよかった」
「ご、ごめんって樹ちゃん!」
「冗談よ」
いちごは樹の言葉に少しむくれる。いつのまにこんな軽口を叩く間柄になっていたのかと少し花房は驚いた。
「まあ、私がやらなかったらいちごがやってたことよ。きっと理由は同じ」
「仲間だからだよ。だから、必死になったんだよ。放っておけないもん」
「お前一人でやるんじゃないんだぞ」
「そうだよ。力になるし、相談にものる。だから、一人で思い詰めるなよ」
「みんな・・・」
花房は、樹に続いた三人の顔を見て呟いた。バラのケーキ、作ろうよといちごが笑顔を向ける。激昂から一転、クールダウンした様子の樹も頷いていた。花房はそちらをじっと見た。
「樹ちゃん・・・水苔くさい」
「・・・表に出て沈んできなさい」
樹はあまりの発言に静かに怒りを表す。デリカシーがなさすぎだといちごも非難する。
「本当に最悪・・・。この服買ったばかりだったのに・・・」
「全身びしょぬれだ・・・。身体中匂うぞ、これは」
樹は揃って匂いに不快そうにしている樫野と目を合わせた。そういえば彼が咄嗟に飛び込んできたのだ。一番仲が悪いはずなのに謎に行動力のある男だな、と樹は不思議に思った。
「そうか、分かった!」
そのとき、ふいに花房は明るい声をあげた。
樫野が樹の方を見て声をあげた。
「大丈夫か!?」
「・・・大丈夫。ローズウォーターもふたがしっかりしてあったから無事よ」
「大丈夫か、二人とも!」
「ごめんなさい!あたしがぶつかったから・・・」
焦った様子の安堂といちごが二人に手を貸してくれた。冬場のダイビングは体に響く。芯まで凍えきった二人は身震いしていたが、ケガはないかと尋ねてきた花房をにらみつける元気は残っていた。
二人をあたためる必要があったが、樹が議論を求めていそうな目つきをしているので、五人は温室に移動した。いちごが、花房が調理室へ戻ってこないのを心配していたのだと言っている限り、また彼は抜け出したのだったらしい。
「これ、返すわ。大事なものなんでしょう」
樹は瓶を花房の前に突き出す。花房が少しためらったので、手を取って握らせた。
「・・・使えないんじゃ意味ないよ」
「花房くん・・・」
いちごは樹の髪をごしごしとタオルで拭いながら呟いた。
「一回戦明日なのに・・・。これ以上迷惑かけられない。これに縛られる事もないんだ。別に、バラのケーキじゃなくても・・・」
花房が力なくぼやいたその瞬間、パンと甲高い音が鳴り、花房の顔は右を向いていた。左の頬がじんじんと痛み始める。樹に打たれたのだと遅れて気がついた。
「だからって捨てる事ないでしょ!?」
樹はそのまま花房につかみかかった。
「それ形見なんでしょう!?私知ってるわよ、何か付けその瓶眺めてたくせに!そんな簡単に捨てるものじゃないはずよ!」
花房にとって、樹が自分のために怒っているという状況は衝撃的だった。興奮した様子で距離を詰めている樹の眼力に圧倒される。
「これでバラのケーキを作るんでしょう!?言っておくけどね、こんなところで諦めたらせっかく話してくれたお父様の思い出が後味悪くなるのよ!」
至近距離で見ると、樹の瞳は微かに潤んでいた。その様子に気づき、花房は胸を詰まらせた。
「レディを泣かせるなんて、五月らしくないよ」
「は?泣いてないんだけど」
カフェが花房に囁いた言葉に敏感に反応した樹が口を挟む。花房は少し笑みを浮かべると、襟元を引っ張っていた樹をそっと押し戻した。
「本当、びっくりするなあ、樹ちゃんは。あんな馬鹿な事するなんて思わなかった」
「本当に馬鹿な事をしたわ。いちごに飛び込んでもらえばよかった」
「ご、ごめんって樹ちゃん!」
「冗談よ」
いちごは樹の言葉に少しむくれる。いつのまにこんな軽口を叩く間柄になっていたのかと少し花房は驚いた。
「まあ、私がやらなかったらいちごがやってたことよ。きっと理由は同じ」
「仲間だからだよ。だから、必死になったんだよ。放っておけないもん」
「お前一人でやるんじゃないんだぞ」
「そうだよ。力になるし、相談にものる。だから、一人で思い詰めるなよ」
「みんな・・・」
花房は、樹に続いた三人の顔を見て呟いた。バラのケーキ、作ろうよといちごが笑顔を向ける。激昂から一転、クールダウンした様子の樹も頷いていた。花房はそちらをじっと見た。
「樹ちゃん・・・水苔くさい」
「・・・表に出て沈んできなさい」
樹はあまりの発言に静かに怒りを表す。デリカシーがなさすぎだといちごも非難する。
「本当に最悪・・・。この服買ったばかりだったのに・・・」
「全身びしょぬれだ・・・。身体中匂うぞ、これは」
樹は揃って匂いに不快そうにしている樫野と目を合わせた。そういえば彼が咄嗟に飛び込んできたのだ。一番仲が悪いはずなのに謎に行動力のある男だな、と樹は不思議に思った。
「そうか、分かった!」
そのとき、ふいに花房は明るい声をあげた。