2話 遠すぎるスタートライン
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真新しいベージュ色のブレザーを着こんだ樹は、早くも名門校の学生たる風格を醸し出しながら、馬鹿に大きい校門の前に立っていた。その向こうには、城かと見まごうほどのさらに巨大な校舎がそびえ立っている。
「実際に見てみると壮観ね・・・。敷地も予想以上に広そうだわ」
校門をくぐると、西洋式の庭が広がっており、大階段の前には噴水までもが備わっている。日本とは思えない空間だ。
「そして、この像は・・・」
樹は、妖精のようなものを象ったブロンズ像の前で立ち止まった。学校のシンボルのようだが、メルヘンすぎて辺りの空気をテーマパーク風のものにしている。
「それは、スイーツスピリッツの女王像っすよ」
声の方向を向いた樹は、同い年ぐらいの女子を確認した。
「スイーツスピリッツ?」
「この学園には、そんなのがいるって言われてるんですよ。もし会うことができたなら、夢が叶うんだとか」
「学校をあげてそんな迷信が・・・」
大げさな像を再び見上げながら、樹は息をついた。正直、呆れたのだ。よほど頭がおかしい人が創設したようだ。
「ここだけの話、ケーキグランプリを勝ち抜くには彼らの協力が必要不可欠だとか・・・」
「くだらない。ところで、あなたは?」
「申し遅れました。2年B組、山田美和、東堂さんとは同室なので、お迎えにあがりました!」
「・・・どうも」
正直、忘れていた。寮が基本2人部屋だということを。
女子寮の佇まいもまた日本離れしていて、各人には2人部屋と言えど、割と広々としたスペースが確保されているようだった。
「荷物は適当にベッドの方に寄せといたんで。私、今日材料当番なので先に行きますね!初日から実習ですが頑張ってくださいねー」
美和は一気にまくしたて、薄っぺらい学生鞄をつかむと、部屋から出て行った。一見馴れ馴れしいタイプにも見えたが、割と距離感のつかみ方が絶妙だ。多分人に左右されない型の人間なので、寮でトラブルはなさそうだと樹は判断した。荷物を一通り確認した樹は、遅刻の危険性を考慮して、早めに出発することにする。
「えっと、教室のある校舎は・・・」
樹は辺りを見回し、生徒の流れを発見した。バラのツタが絡むやたらにロマンチックな雰囲気のアーチが校舎まで続いていて、生徒は皆慣れたようにその下をくぐっていく。
「バラ園もあると聞いたし、変わった趣味の学校よね」
樹はその流れに身を投じると、転校生らしさを微塵も感じさせないしっかりとした足取りで校舎に足を踏み入れた。
「なあ、もしかして東堂さん?」
手始めに職員室を目指すべきなのかどうか、階段の下で迷っている樹に、聞き慣れないイントネーションの声がかけられた。
「そうだけど」
「やっぱりー!あたし、同じクラスの近藤ルミ!よろしくなー!」
「どうも」
関西人の人もいるのか、と樹はルミの顔を観察する。二言にして、樹が如何にコミュニケーションの取りづらい人種か察したようだが、ルミは笑顔を絶やさない。おそらくクラスでは河澄のような立ち位置にいる女子だと樹は察した。
「職員室に行こうと思っとるんなら、やめといた方がええで。ここから10分はかかるから!」
「ご忠告を、どうも」
「というわけで、教室、行こか!」
ルミは先導しながら、クラスにスイーツ王子と呼ばれる3人衆がいるというようなことをしゃべりたてた。スイーツ作りも上手く、学業も優秀で、しかもかっこいいのだと言う。露骨な呼称はさておき、そこに「スポーツができて」の代わりに「スイーツ作りが上手くて」という項目が入っているあたりが専門学校らしい。
「東堂さんて、おばあさんの推薦やねんな?」
「ええ。昔教師をしていたらしいから」
「そのおばあさんに推薦されるぐらいやから、けっこう上のグループに入れそうやん。なんか聞いてへんの?」
「何も」
「へえ・・・」
教室に入ると、生徒全員の目が樹に向いた。かと思うと、ひそひそ声が広がる。あまりいい感じは伝わってこない。
「あの子が・・・」
「なんか暗そうじゃない?」
「どうせたいした実力もないのよ。放っとこう?」
のっけから嫌悪感を向けられる覚えがあるとすえば、ルミが唯一こちら側にふった話題である、いわば「身内からの推薦」という待遇のせいだろうかと樹は察した。悪口が聞こえているのか、ルミも気まずそうな笑顔を浮かべている。
「あはは・・・あ、東堂さん、あれがスイーツ王子やで!」
3人の端正な顔立ちの男子が入ってきたかと思うと、教室中がにわかに色めき立った。よほどの人気者らしい。樹が見ていると、緑色の質の良さそうな髪をした1人が気づいた。女の子のように美しい顔をしている。
「君は・・・もしかして、転校生の・・・」
「東堂さんだったよね」
眼鏡をかけている長身の男子も愛想よく声をかけてきた。こちらは大人びた雰囲気がある。
「どうも」
樹が短く応える中、傍らにいる金髪の小柄な男子だけが興味なさそうにしていた。
「僕は花房五月。一緒に美しいスイーツを作っていこうね」
「僕は安堂千之介だ。和洋折衷のスタイルを基本にしてる」
「東堂樹です」
緑髪、眼鏡の順に自己紹介された樹は面倒くささを押し殺して名乗った。
「樫野もあいさつしないと。女の子に失礼だよ?」
花房がもう1人に声をかける。
「別に、必要ねえだろ」
そう言われると良い気はしないが、愛想の悪さにかけては樹も似たようなものだ。悪いね、と安堂が代わりに謝ったが、樹は特に気にしていなかったので適当に応えておいた。
「実際に見てみると壮観ね・・・。敷地も予想以上に広そうだわ」
校門をくぐると、西洋式の庭が広がっており、大階段の前には噴水までもが備わっている。日本とは思えない空間だ。
「そして、この像は・・・」
樹は、妖精のようなものを象ったブロンズ像の前で立ち止まった。学校のシンボルのようだが、メルヘンすぎて辺りの空気をテーマパーク風のものにしている。
「それは、スイーツスピリッツの女王像っすよ」
声の方向を向いた樹は、同い年ぐらいの女子を確認した。
「スイーツスピリッツ?」
「この学園には、そんなのがいるって言われてるんですよ。もし会うことができたなら、夢が叶うんだとか」
「学校をあげてそんな迷信が・・・」
大げさな像を再び見上げながら、樹は息をついた。正直、呆れたのだ。よほど頭がおかしい人が創設したようだ。
「ここだけの話、ケーキグランプリを勝ち抜くには彼らの協力が必要不可欠だとか・・・」
「くだらない。ところで、あなたは?」
「申し遅れました。2年B組、山田美和、東堂さんとは同室なので、お迎えにあがりました!」
「・・・どうも」
正直、忘れていた。寮が基本2人部屋だということを。
女子寮の佇まいもまた日本離れしていて、各人には2人部屋と言えど、割と広々としたスペースが確保されているようだった。
「荷物は適当にベッドの方に寄せといたんで。私、今日材料当番なので先に行きますね!初日から実習ですが頑張ってくださいねー」
美和は一気にまくしたて、薄っぺらい学生鞄をつかむと、部屋から出て行った。一見馴れ馴れしいタイプにも見えたが、割と距離感のつかみ方が絶妙だ。多分人に左右されない型の人間なので、寮でトラブルはなさそうだと樹は判断した。荷物を一通り確認した樹は、遅刻の危険性を考慮して、早めに出発することにする。
「えっと、教室のある校舎は・・・」
樹は辺りを見回し、生徒の流れを発見した。バラのツタが絡むやたらにロマンチックな雰囲気のアーチが校舎まで続いていて、生徒は皆慣れたようにその下をくぐっていく。
「バラ園もあると聞いたし、変わった趣味の学校よね」
樹はその流れに身を投じると、転校生らしさを微塵も感じさせないしっかりとした足取りで校舎に足を踏み入れた。
「なあ、もしかして東堂さん?」
手始めに職員室を目指すべきなのかどうか、階段の下で迷っている樹に、聞き慣れないイントネーションの声がかけられた。
「そうだけど」
「やっぱりー!あたし、同じクラスの近藤ルミ!よろしくなー!」
「どうも」
関西人の人もいるのか、と樹はルミの顔を観察する。二言にして、樹が如何にコミュニケーションの取りづらい人種か察したようだが、ルミは笑顔を絶やさない。おそらくクラスでは河澄のような立ち位置にいる女子だと樹は察した。
「職員室に行こうと思っとるんなら、やめといた方がええで。ここから10分はかかるから!」
「ご忠告を、どうも」
「というわけで、教室、行こか!」
ルミは先導しながら、クラスにスイーツ王子と呼ばれる3人衆がいるというようなことをしゃべりたてた。スイーツ作りも上手く、学業も優秀で、しかもかっこいいのだと言う。露骨な呼称はさておき、そこに「スポーツができて」の代わりに「スイーツ作りが上手くて」という項目が入っているあたりが専門学校らしい。
「東堂さんて、おばあさんの推薦やねんな?」
「ええ。昔教師をしていたらしいから」
「そのおばあさんに推薦されるぐらいやから、けっこう上のグループに入れそうやん。なんか聞いてへんの?」
「何も」
「へえ・・・」
教室に入ると、生徒全員の目が樹に向いた。かと思うと、ひそひそ声が広がる。あまりいい感じは伝わってこない。
「あの子が・・・」
「なんか暗そうじゃない?」
「どうせたいした実力もないのよ。放っとこう?」
のっけから嫌悪感を向けられる覚えがあるとすえば、ルミが唯一こちら側にふった話題である、いわば「身内からの推薦」という待遇のせいだろうかと樹は察した。悪口が聞こえているのか、ルミも気まずそうな笑顔を浮かべている。
「あはは・・・あ、東堂さん、あれがスイーツ王子やで!」
3人の端正な顔立ちの男子が入ってきたかと思うと、教室中がにわかに色めき立った。よほどの人気者らしい。樹が見ていると、緑色の質の良さそうな髪をした1人が気づいた。女の子のように美しい顔をしている。
「君は・・・もしかして、転校生の・・・」
「東堂さんだったよね」
眼鏡をかけている長身の男子も愛想よく声をかけてきた。こちらは大人びた雰囲気がある。
「どうも」
樹が短く応える中、傍らにいる金髪の小柄な男子だけが興味なさそうにしていた。
「僕は花房五月。一緒に美しいスイーツを作っていこうね」
「僕は安堂千之介だ。和洋折衷のスタイルを基本にしてる」
「東堂樹です」
緑髪、眼鏡の順に自己紹介された樹は面倒くささを押し殺して名乗った。
「樫野もあいさつしないと。女の子に失礼だよ?」
花房がもう1人に声をかける。
「別に、必要ねえだろ」
そう言われると良い気はしないが、愛想の悪さにかけては樹も似たようなものだ。悪いね、と安堂が代わりに謝ったが、樹は特に気にしていなかったので適当に応えておいた。