12話 開幕
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「ふて腐れている」
開口一番にアリスから言われた一言に、樹は思い切り眉をひそめた。
「なにが」
「仲間はずれにされて寂しいんでしょ。言われるの待ってないで自分から入っていかないと」
「十分に手は足りているでしょ。私が参加する意味が分からない」
樹はつんとした声でアリスに口答えする。その言葉から、自分のことよりもいちごの特訓について意識が傾いていることが分かるあたり、案外樹は友達思いだったらしい。アリスは少々驚いた。
「やだ、人のことより先に自分のこと気にした方がいいと思うけどなあ」
「そういうのって、自己中心的って言うんじゃないの」
「極端だなあ。自分のことも他人のことも考えるのは当たり前だよ」
「ああそう」
樹は面倒くさそうに言った。先日いちごが、バニラが説教臭くて学校の中に保護者がいるみたいだと嘆いていたことがあった。樹は今なんとなくその気持ちを理解した。
「私自身に不満があるわけじゃないからいいじゃない。ルミさん達と過ごすのもまあ良いわよ」
「良いのかもしれないけど。あのBグループの女子にまで何となく気を遣われてるんだよ。それ、結構恥ずかしくない?」
樹はきょとんとした。今、確実におかしな名前が出たのだ。
「Bグループ?私、この前怒鳴って以来なにもないわよ。しかも気を遣うだなんて、あの子達にできた芸当じゃないでしょ」
「ところが、あのリーダー格の子が、この前樹の机にお菓子を入れていたんだよね」
「え・・・」
樹はケーキの味を何となく思い出そうとする。普通に美味しかったが、Bグループのものとなるとどこかケチを付けたくなるのは性だ。
「ああ、あの食べづらかったやつね。すぐぼろぼろとこぼれるんだもの」
「私が言うのもなんだけど、その性格でよく気を遣ってもらえたよね」
「うるさいわね。とにかく、私はグランプリに出ないことに後悔してないわよ。そこだけは分かっててよね」
樹はひらひらと手を振りながら去って言った。アリスは、何も言えず黙って顔を背けておいた。
樹が寮に戻ると偶然にもBグループの面々が揃っていた。目が合ったので、礼でもしておくべきかと観念した樹が近づくと、案の定警戒される。そういえばいつも携帯をいじっている女子がいないなと樹は気づいた。
「パウンドケーキを放り込んでくれたのはあなたらしいわね。美味しかったわよ。どうもありがとう」
礼を言っている割に果てしなく偉そうだが、中島は反発する余裕が無く、顔をみるみる赤くして口をぱくぱくさせた。
「・・・・あ・・・あ、なんで・・・」
「べっつに、いくえは練習で余ったのを・・・その、配ってだけなんだから!」
「ちょっ、ちなつ・・・!」
「あ、ごめんっ!」
代わりに言い訳をした佐山ちなつが叩かれる。秘密のつもりだったようだ。三原りえが前に出て声を上げる。
「おいしいのなんか当たり前でしょ。いくえが作ったんだから」
「そう、なんかぽろぽろして食べ辛かったけど味は良かったわ」
「感想とか頼んでないんだけど!」
いくえが大声を出した。敵意は感じられないのでこれが照れ隠しというやつだろうかと樹は察した。
「ていうかなんで知ってんのよ」
「あっ、分かった。あの子に聞いたのよ」
りえが階段の上を指差した。そこには、面白そうにこちらを見ている美和がいた。一瞬どきりとした樹だったが、やはりアリスのことは知らないらしい。
「そういえばあなた達の中にいつも携帯をいじっている子がいたはずだけど。今日はいないのね」
「あんたまだ名前覚えてないの?ありえない!」
「馬鹿じゃないの。鮎川さんでしょ、鮎川ようこさん」
友人の認知度に疑問を覚えたらしいいくえに凄まれて、樹は嫌味っぽく答えた。
「ようこはどっかのチームにまざってグランプリに出るみたいなのよね。最近付き合い悪いの」
「ああ、そう」
りえの返答に樹は生返事をする。美和が敏感に反応して階段の上から大声を上げた。
「そんなことはもう知ってんですよ!もっと詳しいことを吐いてくださいよ!」
「うっさいわね!もう、あんた消えろ!」
ぎゃあぎゃあ言っていると、寮長が怖い顔をして向かってきたので、一同は慌てて階段を駆け上って部屋へ飛び込んだのだった。
ケーキグランプリは、思っていたよりもひっそりと開幕しようとしていた。
開口一番にアリスから言われた一言に、樹は思い切り眉をひそめた。
「なにが」
「仲間はずれにされて寂しいんでしょ。言われるの待ってないで自分から入っていかないと」
「十分に手は足りているでしょ。私が参加する意味が分からない」
樹はつんとした声でアリスに口答えする。その言葉から、自分のことよりもいちごの特訓について意識が傾いていることが分かるあたり、案外樹は友達思いだったらしい。アリスは少々驚いた。
「やだ、人のことより先に自分のこと気にした方がいいと思うけどなあ」
「そういうのって、自己中心的って言うんじゃないの」
「極端だなあ。自分のことも他人のことも考えるのは当たり前だよ」
「ああそう」
樹は面倒くさそうに言った。先日いちごが、バニラが説教臭くて学校の中に保護者がいるみたいだと嘆いていたことがあった。樹は今なんとなくその気持ちを理解した。
「私自身に不満があるわけじゃないからいいじゃない。ルミさん達と過ごすのもまあ良いわよ」
「良いのかもしれないけど。あのBグループの女子にまで何となく気を遣われてるんだよ。それ、結構恥ずかしくない?」
樹はきょとんとした。今、確実におかしな名前が出たのだ。
「Bグループ?私、この前怒鳴って以来なにもないわよ。しかも気を遣うだなんて、あの子達にできた芸当じゃないでしょ」
「ところが、あのリーダー格の子が、この前樹の机にお菓子を入れていたんだよね」
「え・・・」
樹はケーキの味を何となく思い出そうとする。普通に美味しかったが、Bグループのものとなるとどこかケチを付けたくなるのは性だ。
「ああ、あの食べづらかったやつね。すぐぼろぼろとこぼれるんだもの」
「私が言うのもなんだけど、その性格でよく気を遣ってもらえたよね」
「うるさいわね。とにかく、私はグランプリに出ないことに後悔してないわよ。そこだけは分かっててよね」
樹はひらひらと手を振りながら去って言った。アリスは、何も言えず黙って顔を背けておいた。
樹が寮に戻ると偶然にもBグループの面々が揃っていた。目が合ったので、礼でもしておくべきかと観念した樹が近づくと、案の定警戒される。そういえばいつも携帯をいじっている女子がいないなと樹は気づいた。
「パウンドケーキを放り込んでくれたのはあなたらしいわね。美味しかったわよ。どうもありがとう」
礼を言っている割に果てしなく偉そうだが、中島は反発する余裕が無く、顔をみるみる赤くして口をぱくぱくさせた。
「・・・・あ・・・あ、なんで・・・」
「べっつに、いくえは練習で余ったのを・・・その、配ってだけなんだから!」
「ちょっ、ちなつ・・・!」
「あ、ごめんっ!」
代わりに言い訳をした佐山ちなつが叩かれる。秘密のつもりだったようだ。三原りえが前に出て声を上げる。
「おいしいのなんか当たり前でしょ。いくえが作ったんだから」
「そう、なんかぽろぽろして食べ辛かったけど味は良かったわ」
「感想とか頼んでないんだけど!」
いくえが大声を出した。敵意は感じられないのでこれが照れ隠しというやつだろうかと樹は察した。
「ていうかなんで知ってんのよ」
「あっ、分かった。あの子に聞いたのよ」
りえが階段の上を指差した。そこには、面白そうにこちらを見ている美和がいた。一瞬どきりとした樹だったが、やはりアリスのことは知らないらしい。
「そういえばあなた達の中にいつも携帯をいじっている子がいたはずだけど。今日はいないのね」
「あんたまだ名前覚えてないの?ありえない!」
「馬鹿じゃないの。鮎川さんでしょ、鮎川ようこさん」
友人の認知度に疑問を覚えたらしいいくえに凄まれて、樹は嫌味っぽく答えた。
「ようこはどっかのチームにまざってグランプリに出るみたいなのよね。最近付き合い悪いの」
「ああ、そう」
りえの返答に樹は生返事をする。美和が敏感に反応して階段の上から大声を上げた。
「そんなことはもう知ってんですよ!もっと詳しいことを吐いてくださいよ!」
「うっさいわね!もう、あんた消えろ!」
ぎゃあぎゃあ言っていると、寮長が怖い顔をして向かってきたので、一同は慌てて階段を駆け上って部屋へ飛び込んだのだった。
ケーキグランプリは、思っていたよりもひっそりと開幕しようとしていた。