12話 開幕
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いちごのトレーニングは苛烈を極めた。毎朝の筋トレ・ジョギングの体力作りから、一年時の授業復習、化学の実験、フランス語講座まで、三人はいちごにつきっきりで面倒を見た。樹には正直出番が無かった。クラスメイトからしても、五人が前ほど共に行動していないのは明らかだった。
「樹ちゃん、これからみんなで街まで行くんだけど、一緒に来ない?」
「そちらが構わないなら、お邪魔させてもらうけど」
「東堂さんと遊びにいくの初めてー!」
かなこやルミを筆頭としたクラスメイトは樹に気を回したのか、よく放課後に樹を誘うようになっていた。この前などは、樹の机の中にかぼちゃのパウンドケーキの切れ端のようなものが雑に投げ入れられていた。
樹は一応気晴らしを求めていたので、誘いにはだいたい応じていた。グランプリが近づき、午前授業になったことで、より自由度が増した放課後。ルミやかなこのグループ仲間である森ミキや神田さゆりとも樹はつるむようになった。
「うわー、サロン・ド・マリーや授業以外でケーキ食べるの久しぶりー!」
五人が街におりてやってきたのは、当然のようにケーキ屋だった。慣れた様子で一人三種類ずつ注文する様子に、店員の目に若干驚きの色が含まれていた。
「うわ、これおいしい!バナナのムースかあ、今度作ってみようかな・・・」
「このショコラクラシック、濃厚!めっちゃおいしいー!」
「人参のぷりん、おいしいよー!ヨーグルトクリームかかってるんだー!」
「抹茶のプリンもいけるよ!黒蜜と絡んでほんのり甘いの!」
「このチーズケーキ、ベリーのソースが鮮烈で飽きない味だわ」
五人は思い思いに感想を漏らす。
「てゆうか、このチャイ、めっちゃケーキと合うやん!」
「私、飲んだの初めて!」
「シフォンケーキとの相性が最強だと思うわ」
お茶にも大はしゃぎする五人を横目に、女子学生が入店してきた。学校帰りらしく、セーラー服姿だ。歳は同じくらいだろう。
「たまにさ、もし普通の中学生だったらって思わない?」
さゆりは少し小声気味に話を振った。ああ、と全員が頷く。
「体育祭とか、文化祭とか、修学旅行とか!いいよねえ、そういうのも」
ミキはめぼしいイベントを数え上げてみせたが、どれも聖マリー学園にはないものだった。
「東堂さんは、去年そういうの経験したんでしょ?」
「そうね・・・だけど、私、あまりそういうの興味なかったから」
「えー、文化祭とかつまんなかった?」
「美術の展示とか、自由研究の展示とか、そんなものよ」
「模擬店とかないんだー」
「ある学校もなくはないと思うけど」
樹はお茶をすすりながら冷静に言った。いわゆる「普通の中学生」をやっていた時のことが嘘のように思い出しにくい。転校に全く躊躇しなかったこともあるし、元の中学校にはほとんど思い入れが無いのだ。
「でも、うちで文化祭とかやったら面白そうだよね!」
「もちろん模擬店ありのやつな!」
「各クラスで喫茶店をやることになりそうね」
「あはは、絶対そうなるよ!」
「むしろ、みんなで同じことやるならクラス別対抗戦?」
「ケーキグランプリやん!」
五人はどっと笑った。みんな完全にスイーツ中心のものの考え方になっているのだ。
「でも、修学旅行は行きたかったなー。樹ちゃん、もうすぐだったんじゃないの?」
「そうね。うちは京都だったわ」
「いいなー京都!うちもあったらいいのに、修学旅行!」
「でも、冷静に言ってこれ以上この学園、催し物は無理やんな。ケーキグランプリだけでどんだけ金と労力使うねん」
ルミは身もふたもないことを言いだす。
「優勝グループはパリだもんね・・・いいなー、パリ・・・」
「まだチャンスは四回あるで!高等部にあがったらチャレンジや!」
「でも私、高等部のひとのスイーツを見てると不安になってくるの。なんだかとても私じゃあと二年であそこのまでのものは作れそうにないもん」
かなこは突如不安そうな顔をする。
「進学できなかったらどうしよう・・・!」
「大丈夫だって!」
「みんなうまくやってるやん!」
「樹ちゃんみたいに上手く出来たらなあ・・・」
「私?私なんてまだまだでしょ。他をあたった方が良いわよ」
樹は褒められているのに表情一つ変えずに言った。
「でも、やっぱりスイーツ王子みたいな専門職の人って、他とかぶると嫌だもんね」
「せやな、樹ちゃん、あの中じゃ一番バランスええもん、憧れるわー」
「そんなこと言っても、あの三人だって、苦手な分野は無いわよ。私、見劣りしているようで気分悪いもの」
「そんなことないよー」
「ねえ、やっぱり東堂さんにとって、樫野くんってライバルなの?」
「は、ライバル?」
「だって・・・ねぇ」
みんなは顔を見合わせる。樹が転校してきてからというもの、樫野との対立は見物だったからだ。
「私、知らない」
樹は目を細めると、ひとことそう言った。
「樹ちゃん、これからみんなで街まで行くんだけど、一緒に来ない?」
「そちらが構わないなら、お邪魔させてもらうけど」
「東堂さんと遊びにいくの初めてー!」
かなこやルミを筆頭としたクラスメイトは樹に気を回したのか、よく放課後に樹を誘うようになっていた。この前などは、樹の机の中にかぼちゃのパウンドケーキの切れ端のようなものが雑に投げ入れられていた。
樹は一応気晴らしを求めていたので、誘いにはだいたい応じていた。グランプリが近づき、午前授業になったことで、より自由度が増した放課後。ルミやかなこのグループ仲間である森ミキや神田さゆりとも樹はつるむようになった。
「うわー、サロン・ド・マリーや授業以外でケーキ食べるの久しぶりー!」
五人が街におりてやってきたのは、当然のようにケーキ屋だった。慣れた様子で一人三種類ずつ注文する様子に、店員の目に若干驚きの色が含まれていた。
「うわ、これおいしい!バナナのムースかあ、今度作ってみようかな・・・」
「このショコラクラシック、濃厚!めっちゃおいしいー!」
「人参のぷりん、おいしいよー!ヨーグルトクリームかかってるんだー!」
「抹茶のプリンもいけるよ!黒蜜と絡んでほんのり甘いの!」
「このチーズケーキ、ベリーのソースが鮮烈で飽きない味だわ」
五人は思い思いに感想を漏らす。
「てゆうか、このチャイ、めっちゃケーキと合うやん!」
「私、飲んだの初めて!」
「シフォンケーキとの相性が最強だと思うわ」
お茶にも大はしゃぎする五人を横目に、女子学生が入店してきた。学校帰りらしく、セーラー服姿だ。歳は同じくらいだろう。
「たまにさ、もし普通の中学生だったらって思わない?」
さゆりは少し小声気味に話を振った。ああ、と全員が頷く。
「体育祭とか、文化祭とか、修学旅行とか!いいよねえ、そういうのも」
ミキはめぼしいイベントを数え上げてみせたが、どれも聖マリー学園にはないものだった。
「東堂さんは、去年そういうの経験したんでしょ?」
「そうね・・・だけど、私、あまりそういうの興味なかったから」
「えー、文化祭とかつまんなかった?」
「美術の展示とか、自由研究の展示とか、そんなものよ」
「模擬店とかないんだー」
「ある学校もなくはないと思うけど」
樹はお茶をすすりながら冷静に言った。いわゆる「普通の中学生」をやっていた時のことが嘘のように思い出しにくい。転校に全く躊躇しなかったこともあるし、元の中学校にはほとんど思い入れが無いのだ。
「でも、うちで文化祭とかやったら面白そうだよね!」
「もちろん模擬店ありのやつな!」
「各クラスで喫茶店をやることになりそうね」
「あはは、絶対そうなるよ!」
「むしろ、みんなで同じことやるならクラス別対抗戦?」
「ケーキグランプリやん!」
五人はどっと笑った。みんな完全にスイーツ中心のものの考え方になっているのだ。
「でも、修学旅行は行きたかったなー。樹ちゃん、もうすぐだったんじゃないの?」
「そうね。うちは京都だったわ」
「いいなー京都!うちもあったらいいのに、修学旅行!」
「でも、冷静に言ってこれ以上この学園、催し物は無理やんな。ケーキグランプリだけでどんだけ金と労力使うねん」
ルミは身もふたもないことを言いだす。
「優勝グループはパリだもんね・・・いいなー、パリ・・・」
「まだチャンスは四回あるで!高等部にあがったらチャレンジや!」
「でも私、高等部のひとのスイーツを見てると不安になってくるの。なんだかとても私じゃあと二年であそこのまでのものは作れそうにないもん」
かなこは突如不安そうな顔をする。
「進学できなかったらどうしよう・・・!」
「大丈夫だって!」
「みんなうまくやってるやん!」
「樹ちゃんみたいに上手く出来たらなあ・・・」
「私?私なんてまだまだでしょ。他をあたった方が良いわよ」
樹は褒められているのに表情一つ変えずに言った。
「でも、やっぱりスイーツ王子みたいな専門職の人って、他とかぶると嫌だもんね」
「せやな、樹ちゃん、あの中じゃ一番バランスええもん、憧れるわー」
「そんなこと言っても、あの三人だって、苦手な分野は無いわよ。私、見劣りしているようで気分悪いもの」
「そんなことないよー」
「ねえ、やっぱり東堂さんにとって、樫野くんってライバルなの?」
「は、ライバル?」
「だって・・・ねぇ」
みんなは顔を見合わせる。樹が転校してきてからというもの、樫野との対立は見物だったからだ。
「私、知らない」
樹は目を細めると、ひとことそう言った。