11話 七年目のクリスマス
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
できあがったケーキと共に、みんなは売り場に直行した。樹たちの持ち場はBグループと同じだ。彼女らのケーキは樹たちのものと比べると多少技巧的でない感じはするが、決して見劣りしない出来栄えだ。そんな彼女らがこちらを見てせせら笑っているのはいちごのケーキがひとり貧相なものになってしまったからだった。手直しの時間があまり取れなかったのだ。
即売会は毎年好評のようだが、今年も例に漏れなかったようで、皆のケーキは飛ぶように売れていった。樹のケーキは最初に売り切れたので、「勝ち誇ったような顔をしている」と樫野が不機嫌そうにしていた。
「クリスマスケーキ、まだまだたくさんありまーす!おひとついかがですかー!」
やがてみんなのケーキも売り切れてしまった中、いちごはひとり在庫を全て抱えたまま取り残され、必死で声をかけていた。
「あら、まだ売れてないの?」
「そのケーキじゃ無理なんじゃない?」
公開処刑状態のいちごにBグループの二人は嫌味を言う。樹はそちらをにらみつけた。
「事故だったんだからしょうがないでしょ。いらないこと言うぐらいなら帰ってくれないかしら」
「言われなくてもそうするわ。こんなのつき合ってられないもの」
Bグループはさっさと去っていく。樹と言い合う体力はあいにく持ち合わせていなかった。Aグループ側には、樫野でさえもいちごに鋭い言葉を浴びせる気が無い。
「仕上げの時間がなかったからな・・・」
「天野さんがかわいそうだよ。何か手伝えないかな」
「ここは僕の笑顔でなんとかするしかなさそうだね」
「あのね、ふざけてる場合じゃないのよ、花房君」
そのとき一人の男性が俯いているいちごの前に現れた。どうやらケーキをご所望らしい。買い手が見つかったので、いちごはぱっと笑顔になった。
「おまたせしました!2800円になります!」
「おつりはチャリティーに回してください」
男性は5000円札を一枚出して言った。ケーキを片手に去っていく。
「ありがとうございます!」
「よかったね、いちごちゃん!」
「うーん・・・」
樫野はひとりケーキを買った男性の後ろ姿を見つめていた。
「どうしたの?知ってる人?」
「どっかで見たような・・・どこだったかな?」
「なに安心してるのよあなた達。まだ一個しか売れてないのよ!」
樹は腕時計を見ながらみんなを急かした。分担して呼び込みなどをはかり、どうにかいちごのケーキを売りつくした。
その後、全員参加のセレモニーが終わり、現地解散となった。生徒は街に散り散りになった。さっさと学園に帰る生徒もいたのだが、五人は前者の方だった。
「学園のクリスマスパーティーまで時間あるけど、どうする?」
「街のケーキ屋がどんなクリスマスケーキを売ってるか、見に行かないか」
「野暮だね、まーちゃん。クリスマスのときぐらいスイーツのこと忘れようよ」
「はあ!?パティシエがスイーツ忘れてどうすんだよ!」
樫野と安堂が言い合う中、いちごが公園の中の噴水のほとりに座っている男性に気がついた。最初にいちごのケーキを買ってくれた人だ。
「あの・・・」
俯きがちなその様子が気にかかり、いちごは男性に声をかけた。男性もいちごの顔を覚えていたようで「さっきの・・・」とゆっくり顔を上げて目を丸くした。
「お客さん、どうしたんですか?あたしのケーキが気に入らなかったとか・・・」
「・・・そうじゃないよ。ケーキを渡す勇気が出なくてね」
「勇気・・・?」
「ああああああ!」
だしぬけに樫野が大声を出していちごを押しのけ、前へしゃしゃり出た。
「思い出した!あなたは、マイルズジャレットクインテットの阪口陽介さんじゃありませんか!?」
「・・・ああ」
「やっぱり!俺、マイルズの大ファンなんです!CDも全部持ってます!」
樫野は人が変わったようにぺちゃくちゃしゃべり、阪口氏に握手を求めた。
「あ・・・ありがとう」
「いやあ、感激です!」
「な・・・なんとか、じゃれっと・・・なんとかって・・・」
樫野の興奮の意味が分からなかったいちごは、戸惑いながら安堂に尋ねる。
「ニューヨークを中心に活動してる、有名なジャズバンドだよ。まーちゃんの家でいやというほどきかされたよ」
「ふうん・・・樹ちゃんもこういうの聞くの?・・・樹ちゃん?」
樹は阪口さんに向ける目を全力でそらした。
「なによあいつ握手してくださいとかガキみたい」
「・・は、花房君は?」
「僕はクラシックしか聴かないから」
「!?」
樫野はその言葉に敏感に反応して花房を睨んだ。花房はその時、樹も自分を睨んでいるような気がした。
即売会は毎年好評のようだが、今年も例に漏れなかったようで、皆のケーキは飛ぶように売れていった。樹のケーキは最初に売り切れたので、「勝ち誇ったような顔をしている」と樫野が不機嫌そうにしていた。
「クリスマスケーキ、まだまだたくさんありまーす!おひとついかがですかー!」
やがてみんなのケーキも売り切れてしまった中、いちごはひとり在庫を全て抱えたまま取り残され、必死で声をかけていた。
「あら、まだ売れてないの?」
「そのケーキじゃ無理なんじゃない?」
公開処刑状態のいちごにBグループの二人は嫌味を言う。樹はそちらをにらみつけた。
「事故だったんだからしょうがないでしょ。いらないこと言うぐらいなら帰ってくれないかしら」
「言われなくてもそうするわ。こんなのつき合ってられないもの」
Bグループはさっさと去っていく。樹と言い合う体力はあいにく持ち合わせていなかった。Aグループ側には、樫野でさえもいちごに鋭い言葉を浴びせる気が無い。
「仕上げの時間がなかったからな・・・」
「天野さんがかわいそうだよ。何か手伝えないかな」
「ここは僕の笑顔でなんとかするしかなさそうだね」
「あのね、ふざけてる場合じゃないのよ、花房君」
そのとき一人の男性が俯いているいちごの前に現れた。どうやらケーキをご所望らしい。買い手が見つかったので、いちごはぱっと笑顔になった。
「おまたせしました!2800円になります!」
「おつりはチャリティーに回してください」
男性は5000円札を一枚出して言った。ケーキを片手に去っていく。
「ありがとうございます!」
「よかったね、いちごちゃん!」
「うーん・・・」
樫野はひとりケーキを買った男性の後ろ姿を見つめていた。
「どうしたの?知ってる人?」
「どっかで見たような・・・どこだったかな?」
「なに安心してるのよあなた達。まだ一個しか売れてないのよ!」
樹は腕時計を見ながらみんなを急かした。分担して呼び込みなどをはかり、どうにかいちごのケーキを売りつくした。
その後、全員参加のセレモニーが終わり、現地解散となった。生徒は街に散り散りになった。さっさと学園に帰る生徒もいたのだが、五人は前者の方だった。
「学園のクリスマスパーティーまで時間あるけど、どうする?」
「街のケーキ屋がどんなクリスマスケーキを売ってるか、見に行かないか」
「野暮だね、まーちゃん。クリスマスのときぐらいスイーツのこと忘れようよ」
「はあ!?パティシエがスイーツ忘れてどうすんだよ!」
樫野と安堂が言い合う中、いちごが公園の中の噴水のほとりに座っている男性に気がついた。最初にいちごのケーキを買ってくれた人だ。
「あの・・・」
俯きがちなその様子が気にかかり、いちごは男性に声をかけた。男性もいちごの顔を覚えていたようで「さっきの・・・」とゆっくり顔を上げて目を丸くした。
「お客さん、どうしたんですか?あたしのケーキが気に入らなかったとか・・・」
「・・・そうじゃないよ。ケーキを渡す勇気が出なくてね」
「勇気・・・?」
「ああああああ!」
だしぬけに樫野が大声を出していちごを押しのけ、前へしゃしゃり出た。
「思い出した!あなたは、マイルズジャレットクインテットの阪口陽介さんじゃありませんか!?」
「・・・ああ」
「やっぱり!俺、マイルズの大ファンなんです!CDも全部持ってます!」
樫野は人が変わったようにぺちゃくちゃしゃべり、阪口氏に握手を求めた。
「あ・・・ありがとう」
「いやあ、感激です!」
「な・・・なんとか、じゃれっと・・・なんとかって・・・」
樫野の興奮の意味が分からなかったいちごは、戸惑いながら安堂に尋ねる。
「ニューヨークを中心に活動してる、有名なジャズバンドだよ。まーちゃんの家でいやというほどきかされたよ」
「ふうん・・・樹ちゃんもこういうの聞くの?・・・樹ちゃん?」
樹は阪口さんに向ける目を全力でそらした。
「なによあいつ握手してくださいとかガキみたい」
「・・は、花房君は?」
「僕はクラシックしか聴かないから」
「!?」
樫野はその言葉に敏感に反応して花房を睨んだ。花房はその時、樹も自分を睨んでいるような気がした。