10話 飴色カラメル
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翌日樹は花房達から事情を聞いた。オジョーとの対決にいちごが勝って、喜びムード一色だったはずの一同だったが、浮かれたいちごがパティシエを目指すものとして少々品性に欠ける発言をしたので、責めたらしい。
具体的に言えば、プリンの勝負で勝ったことでプリンに対して自信が出てきたらしいいちごが、みんなの助言を遮って復習は必要ないと豪語したらしいのだ。
「ああ・・・」
それはまあいちごの方が問題だなと樹は思って、そう言おうとしたのだが、なぜだか言葉にならなかった。その代わりに別の言葉が口から飛び出した。
「最低ね、あなた達」
樫野達が目を見開く。彼女のことだからいちごのどの部分が悪いか淡々と説くだろうと思っていたのだ。樹自身もなんだかよく分からないのだが、どうも自分はいちごを擁護しなくてはいけない気がしたのだった。
「よってたかって一人の女の子を責め立てるのって、倫理的にどうなのかしら。私は決して良いことだとは思えないけど」
「なんでおまえがキレてるんだよ」
樫野は戸惑いつつ不機嫌そうな声を上げた。樹は反射的にきっとそちらを睨む。
「は?勝った時いちごより
はしゃいでたくせに何よ」
「あ?んなわけあるか」
「た、確かにそうかもね、ほらオジョーと組まなくてよくなったんだから・・・」
思わず口を挟んだ花房の言葉に含まれた忌むべき名前に樫野は身震いしてみせる。
「初めての勝負に勝ったのよ。いいじゃないちょっとぐらい浮かれても。心が狭いわよねあなた達って」
「わ、悪かったとは思ってるんだって・・・」
「悪かったって言い方すごく癪に障るわね」
「えっと、でも・・・」
「えっとじゃないわよ、このヘタレ眼鏡」
安堂は思わずひっと息を漏らす。女子にこのような暴言を吐かれたのは初めてだ。
「ひでえ・・・」
花房は苦笑し、樫野も思わず呟いた。樹は少ししまったと思ったが、ここで謝るのもなんだか勢いに欠ける。フンと鼻を鳴らして背を向けた。ぽかんとその場に佇む三人の元へルミがやってきた。
「やれやれ、分かってへんなあ三人は」
「何を分かれってんだよ」
「女子の友情はなめたらあかんで!友達がいじめられてるのを見過ごしてられん!」
「いや、僕たちいじめては・・・」
安堂は必死で弁明する。樫野は、樹自身も自分が何に怒っているのか分かっていなさそうな気がしたが、ルミの見立てではいちごをかばおうとして怒っていたらしい。樫野にとっては、樹がいちごときちんと友達としてつき合っているというのがなんとなく意外であった。
「意外やった?樫野」
見事に的を射たルミの言葉に、樫野はフンと鼻を鳴らした。
その夜、もしかしたら実家に帰ったと思われるいちごが帰ってくるかもしれないと思って、樹は校門で待つことにした。だんだんと肌寒くなってきている。両手に息を吹きかけながら、夜空を見上げた。
(人を待つなんて、初めてだわ)
樹は遠い目で星を眺める。この学園に来て自分がよく分からなくなっている。いちごのことはなんとなく避けたかったはずだったのに。友達になった義務からだろうか、自分にしてはいやに親身だなと思っていた。
校門の側の壁に寄りかかって、道路の先を見つめる。それにしても物寂しい場所だ。
「東堂」
背後から短い声がしたと思ったら、樹の頬に温かい缶が押し付けられた。
「なにすんのよ、どういう風の吹き回し?」
「素直に受け取れ、アホ」
樫野が缶コーヒーを差し出して仏頂面で立っている。樹は不審に思いながらもそれをむしり取った。樫野が呟くように言う。
「・・・お前でも思いやりとかあるんだな」
「・・・何が」
「天野だけが友達だと思ってるのかと思ってた」
「それはあまりにも失礼ってものだよ、樫野」
花房が後から現れて言う。やっぱり来てた、と隣で安堂も笑顔を見せた。
「みんな考えることは同じだね」
「うるせえ、こんなぞろぞろ並んでんのもアホらしい」
樫野は照れたのかひとり校門の内側に潜ってしまう。
「そういえば安堂君、なんだか失礼なことを口走ったと思うけれど、癇癪のようなものだと思うから気にしないでくれるかしら」
「いいよ、僕にも非はあるしね」
そんなことを言っていると、向こうから小走りにいちごがやってきた。みんなの姿を捉えて驚きの表情を浮かべている。
「よかった!戻ってきてくれたんだね!」
「あの、あたし・・・」
「ごめんなさい!」
花房と安堂は戸惑ういちごに一斉に頭を下げた。
「なんか、いちごちゃんの気持ち考えずに、ひどいこと言っちゃって・・・」
「あれから随分反省したよ」
「あたしこそ謝らなくちゃ!ほんとにごめんなさい!」
いちごも頭を下げた。じゃあ仲直りだ、と花房は手を差し出す。いちごが笑顔でその手を取ると、安堂もその上に手を重ねた。
「やっと帰ってきたのか」
樫野はここで姿を現した。輪に入るのは照れくさいらしい。
「もうすぐ寮の門限時間だぞ」
「樫野・・・」
「樫野は、嘘の外泊許可証を書いて寮長をごまかしたそうよ。悪知恵はたらくわね」
なんとなく一人すかした態度が気に障るので、樹は彼の行動をばらした。
「うるせえ」
「ごめん・・・ありがとう、樫野」
「ま、今回は俺もちょっと言いすぎた」
「門限まであと9分よ、帰る時間はもうちょっと考えてほしいわね」
樹はひとり謝る要素も無いのでそう言った。
「ご、ごめんなさい・・・」
「東堂さん、そんな声出さなくても」
「いちごちゃんがいなくて寂しかったものだから」
「腹いせに俺たちのことを怒鳴ってきたよな」
「ほんと失礼ね、今回は私何も悪くないじゃない」
三人に口々に言われて樹は少し赤くなった。その様子に、いちごは笑いを漏らす。
「何笑ってるのよ」
「ううん、なんだか嬉しくて」
「はあ?」
「あ、門限になるよ!みんな、走れ!」
五人は慌てて地面を蹴る。帰ってきたいちごは、みんなと風を切りながらやはりこの空間が好きだと感じていた。それに、樹が自分のことを心配してくれていたのが嬉しかった。グランプリに一緒に出られなくても、五人で一緒にいる時間はいくらでも作れるはずなのだった。
具体的に言えば、プリンの勝負で勝ったことでプリンに対して自信が出てきたらしいいちごが、みんなの助言を遮って復習は必要ないと豪語したらしいのだ。
「ああ・・・」
それはまあいちごの方が問題だなと樹は思って、そう言おうとしたのだが、なぜだか言葉にならなかった。その代わりに別の言葉が口から飛び出した。
「最低ね、あなた達」
樫野達が目を見開く。彼女のことだからいちごのどの部分が悪いか淡々と説くだろうと思っていたのだ。樹自身もなんだかよく分からないのだが、どうも自分はいちごを擁護しなくてはいけない気がしたのだった。
「よってたかって一人の女の子を責め立てるのって、倫理的にどうなのかしら。私は決して良いことだとは思えないけど」
「なんでおまえがキレてるんだよ」
樫野は戸惑いつつ不機嫌そうな声を上げた。樹は反射的にきっとそちらを睨む。
「は?勝った時いちごより
はしゃいでたくせに何よ」
「あ?んなわけあるか」
「た、確かにそうかもね、ほらオジョーと組まなくてよくなったんだから・・・」
思わず口を挟んだ花房の言葉に含まれた忌むべき名前に樫野は身震いしてみせる。
「初めての勝負に勝ったのよ。いいじゃないちょっとぐらい浮かれても。心が狭いわよねあなた達って」
「わ、悪かったとは思ってるんだって・・・」
「悪かったって言い方すごく癪に障るわね」
「えっと、でも・・・」
「えっとじゃないわよ、このヘタレ眼鏡」
安堂は思わずひっと息を漏らす。女子にこのような暴言を吐かれたのは初めてだ。
「ひでえ・・・」
花房は苦笑し、樫野も思わず呟いた。樹は少ししまったと思ったが、ここで謝るのもなんだか勢いに欠ける。フンと鼻を鳴らして背を向けた。ぽかんとその場に佇む三人の元へルミがやってきた。
「やれやれ、分かってへんなあ三人は」
「何を分かれってんだよ」
「女子の友情はなめたらあかんで!友達がいじめられてるのを見過ごしてられん!」
「いや、僕たちいじめては・・・」
安堂は必死で弁明する。樫野は、樹自身も自分が何に怒っているのか分かっていなさそうな気がしたが、ルミの見立てではいちごをかばおうとして怒っていたらしい。樫野にとっては、樹がいちごときちんと友達としてつき合っているというのがなんとなく意外であった。
「意外やった?樫野」
見事に的を射たルミの言葉に、樫野はフンと鼻を鳴らした。
その夜、もしかしたら実家に帰ったと思われるいちごが帰ってくるかもしれないと思って、樹は校門で待つことにした。だんだんと肌寒くなってきている。両手に息を吹きかけながら、夜空を見上げた。
(人を待つなんて、初めてだわ)
樹は遠い目で星を眺める。この学園に来て自分がよく分からなくなっている。いちごのことはなんとなく避けたかったはずだったのに。友達になった義務からだろうか、自分にしてはいやに親身だなと思っていた。
校門の側の壁に寄りかかって、道路の先を見つめる。それにしても物寂しい場所だ。
「東堂」
背後から短い声がしたと思ったら、樹の頬に温かい缶が押し付けられた。
「なにすんのよ、どういう風の吹き回し?」
「素直に受け取れ、アホ」
樫野が缶コーヒーを差し出して仏頂面で立っている。樹は不審に思いながらもそれをむしり取った。樫野が呟くように言う。
「・・・お前でも思いやりとかあるんだな」
「・・・何が」
「天野だけが友達だと思ってるのかと思ってた」
「それはあまりにも失礼ってものだよ、樫野」
花房が後から現れて言う。やっぱり来てた、と隣で安堂も笑顔を見せた。
「みんな考えることは同じだね」
「うるせえ、こんなぞろぞろ並んでんのもアホらしい」
樫野は照れたのかひとり校門の内側に潜ってしまう。
「そういえば安堂君、なんだか失礼なことを口走ったと思うけれど、癇癪のようなものだと思うから気にしないでくれるかしら」
「いいよ、僕にも非はあるしね」
そんなことを言っていると、向こうから小走りにいちごがやってきた。みんなの姿を捉えて驚きの表情を浮かべている。
「よかった!戻ってきてくれたんだね!」
「あの、あたし・・・」
「ごめんなさい!」
花房と安堂は戸惑ういちごに一斉に頭を下げた。
「なんか、いちごちゃんの気持ち考えずに、ひどいこと言っちゃって・・・」
「あれから随分反省したよ」
「あたしこそ謝らなくちゃ!ほんとにごめんなさい!」
いちごも頭を下げた。じゃあ仲直りだ、と花房は手を差し出す。いちごが笑顔でその手を取ると、安堂もその上に手を重ねた。
「やっと帰ってきたのか」
樫野はここで姿を現した。輪に入るのは照れくさいらしい。
「もうすぐ寮の門限時間だぞ」
「樫野・・・」
「樫野は、嘘の外泊許可証を書いて寮長をごまかしたそうよ。悪知恵はたらくわね」
なんとなく一人すかした態度が気に障るので、樹は彼の行動をばらした。
「うるせえ」
「ごめん・・・ありがとう、樫野」
「ま、今回は俺もちょっと言いすぎた」
「門限まであと9分よ、帰る時間はもうちょっと考えてほしいわね」
樹はひとり謝る要素も無いのでそう言った。
「ご、ごめんなさい・・・」
「東堂さん、そんな声出さなくても」
「いちごちゃんがいなくて寂しかったものだから」
「腹いせに俺たちのことを怒鳴ってきたよな」
「ほんと失礼ね、今回は私何も悪くないじゃない」
三人に口々に言われて樹は少し赤くなった。その様子に、いちごは笑いを漏らす。
「何笑ってるのよ」
「ううん、なんだか嬉しくて」
「はあ?」
「あ、門限になるよ!みんな、走れ!」
五人は慌てて地面を蹴る。帰ってきたいちごは、みんなと風を切りながらやはりこの空間が好きだと感じていた。それに、樹が自分のことを心配してくれていたのが嬉しかった。グランプリに一緒に出られなくても、五人で一緒にいる時間はいくらでも作れるはずなのだった。