9話 尊敬する先輩方
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「でもほんとすごいよ天野さん!」
いちごの話は実習中にスイーツ王子にも広まった。
「天王寺会長の部屋に招かれるなんて、中等部じゃいちごちゃんだけじゃないかな」
「招かれたって言うより・・・」
「保護されたんでしょう」
樹はモンブランの上にのせる栗を吟味しながら照れ笑いするいちごの言葉を引き継ぐ。
「天野はアホだもんな。クルミの季節はとっくに終わってるのに、森に入って迷子になるなんて。そんなアホと組んでる俺たちって、ボランティアか?」
樫野はいつにも増して絶好調だ。指摘している部分は樹とかぶっているが、おまけが酷すぎる。いちごもこれにはカチンと来た。
「ああ、そうですか!だったらオジョーさんと組めば!?」
次の瞬間、樫野の持つ絞り袋に急激な握力が加えられ、クリームが大量に放出された。禁句というのは本当だったのかといちごは今思い出した。
「・・・オジョー・・・!」
「まーちゃん!落ち着け!」
いつにもなく顔色を悪くしてカタカタと震えだす樫野を、安堂が苦笑いしながら気付けてやる。
「樹ちゃん、あれ教えちゃったの?」
「私じゃない。ルミさん」
樹はしっかりと否定する。オジョーさんと何があったのかといちごは再び尋ねる。
「やめてくれーっ!」
樫野は絶叫した。
放課後になってもショックは癒えず、樫野は死人のような顔をしていた。花房がいちごに、オジョーの本名は小城美夜と言って有名な大企業のシャトー製菓の社長令嬢であることと、なぜか樫野に尋常でない好意を持っていること、去年一緒に参加させられたケーキグランプリでとんでもなく足を引っ張ったことを説明した。
「それ以来樫野の女嫌いに拍車がかかっちゃって・・・」
「そ、そうなんだ・・・」
いちごは苦笑いするしかない。樹は彼が女嫌いだと言うことを今更ながら確認して、少々驚いていた。
「でも、いちごちゃんや樹ちゃんとなら、ケーキグランプリで一緒にやれるかも」
「えっ?あたしも?」
「うん!そんな気がするよ」
ついにグランプリの話になった。樹は心なしか眉をひそめる。グランプリのエントリー規定人数は四人だ。みんながどんな考えを持っているのか分からないが、出場したいのは確かだろう。
自分は出場したいだろうかと樹は考えた。自分の夢は教師になることだ。みんなでグランプリ向けの豪華なケーキを作ることは必要だろうか、いや無いだろう。
「じゃあ今年はあなた達四人ということね」
心なしか鋭い声に、樫野は少し反応した。
「えっ、ちょっと待って樹ちゃん・・・」
「私こういうの興味ないのよね。規定人数も四人だしちょうどいいでしょ。私その辺りで応援してるわ」
「でも」
「出たくないって言ってるんだから、それでいいだろ」
樫野が食い下がるいちごを止めた。樹はその言葉にすこしほっとする。
「それよりも、厄払いに行くぞ。あんな縁起の悪い名前きかされて・・」
「私、先生に用があるから失礼するわね」
樹は速やかに輪を離れた。
「えっ!?出ないの樹!?」
先生に用があるなどというのは真っ赤な嘘なので、樹は湖畔で時間をつぶしていたが、いつものようにアリスが現れた。ことの顛末を話すと、驚かれる。
「一大イベントなのに!それにメンバーにも恵まれてるのに勿体ない!」
「興味ないし、意味ないでしょ。教師になるのにみんなして大きなケーキとか作るの、必要ないんじゃない」
「いや、協調性とかって教師になろうと思ったらすごく大事じゃん」
「その辺りは授業で一緒に活動してるじゃない」
「多少進歩はあったみたいだけどさあ・・・」
アリスは呆れたように首を振る。余程自分を友達と一緒にいさせたいようだがと樹はアリスを横目でにらむ。
「あなたにどうこう言われても関係ないわよ。応援するとまで言ってきたのよ。頑張って友達やってるじゃない」
「ほんとにそれでいいんだか。ちょっとでも出たいんだったら、こういうとき退かない方がいいよ。絶対後悔するから」
「アリスは分かってない」
樹はイライラ気味に言って、その場を去った。何も分かっていない。こんなもの、誰かが興味が無いの一点張りにしておくことが一番楽に決まっているのに。
「東堂さん、小包来てましたよ」
寮に戻ると美和がそう言って樹に包みを渡した。差出人は河澄らしい。何事かと思えば、律儀に修学旅行の土産を送ってきたらしい。生八つ橋が二箱と赤が基調の根付が入っていた。
「それ食べて良いですか?」
「いいわよ」
八つ橋をさっそく美和に分け与え、樹は根付を眺める。携帯電話にもつけていれば良いのだろう。
「ひょっとして彼氏ですか?」
「馬鹿言わないで。何かと親切なのよね」
樹はからかってくる美和にそう答えながら、お礼を伴った返事を送る必要性を感じ、作り置いていた焼き菓子を寄越すことにした。ついでに一筆添えても良いだろう。近況でも書くのが無難だろうと思ったがふと自分が最近どうなのか分からなくなってきた。
「お土産をありがとうございました。私は元気です。購買の肉まんが美味しいです」
樹はそれだけ書いた。
元の中学校を出て、自分は何が変わったのだろうかとぼんやり思った。
いちごの話は実習中にスイーツ王子にも広まった。
「天王寺会長の部屋に招かれるなんて、中等部じゃいちごちゃんだけじゃないかな」
「招かれたって言うより・・・」
「保護されたんでしょう」
樹はモンブランの上にのせる栗を吟味しながら照れ笑いするいちごの言葉を引き継ぐ。
「天野はアホだもんな。クルミの季節はとっくに終わってるのに、森に入って迷子になるなんて。そんなアホと組んでる俺たちって、ボランティアか?」
樫野はいつにも増して絶好調だ。指摘している部分は樹とかぶっているが、おまけが酷すぎる。いちごもこれにはカチンと来た。
「ああ、そうですか!だったらオジョーさんと組めば!?」
次の瞬間、樫野の持つ絞り袋に急激な握力が加えられ、クリームが大量に放出された。禁句というのは本当だったのかといちごは今思い出した。
「・・・オジョー・・・!」
「まーちゃん!落ち着け!」
いつにもなく顔色を悪くしてカタカタと震えだす樫野を、安堂が苦笑いしながら気付けてやる。
「樹ちゃん、あれ教えちゃったの?」
「私じゃない。ルミさん」
樹はしっかりと否定する。オジョーさんと何があったのかといちごは再び尋ねる。
「やめてくれーっ!」
樫野は絶叫した。
放課後になってもショックは癒えず、樫野は死人のような顔をしていた。花房がいちごに、オジョーの本名は小城美夜と言って有名な大企業のシャトー製菓の社長令嬢であることと、なぜか樫野に尋常でない好意を持っていること、去年一緒に参加させられたケーキグランプリでとんでもなく足を引っ張ったことを説明した。
「それ以来樫野の女嫌いに拍車がかかっちゃって・・・」
「そ、そうなんだ・・・」
いちごは苦笑いするしかない。樹は彼が女嫌いだと言うことを今更ながら確認して、少々驚いていた。
「でも、いちごちゃんや樹ちゃんとなら、ケーキグランプリで一緒にやれるかも」
「えっ?あたしも?」
「うん!そんな気がするよ」
ついにグランプリの話になった。樹は心なしか眉をひそめる。グランプリのエントリー規定人数は四人だ。みんながどんな考えを持っているのか分からないが、出場したいのは確かだろう。
自分は出場したいだろうかと樹は考えた。自分の夢は教師になることだ。みんなでグランプリ向けの豪華なケーキを作ることは必要だろうか、いや無いだろう。
「じゃあ今年はあなた達四人ということね」
心なしか鋭い声に、樫野は少し反応した。
「えっ、ちょっと待って樹ちゃん・・・」
「私こういうの興味ないのよね。規定人数も四人だしちょうどいいでしょ。私その辺りで応援してるわ」
「でも」
「出たくないって言ってるんだから、それでいいだろ」
樫野が食い下がるいちごを止めた。樹はその言葉にすこしほっとする。
「それよりも、厄払いに行くぞ。あんな縁起の悪い名前きかされて・・」
「私、先生に用があるから失礼するわね」
樹は速やかに輪を離れた。
「えっ!?出ないの樹!?」
先生に用があるなどというのは真っ赤な嘘なので、樹は湖畔で時間をつぶしていたが、いつものようにアリスが現れた。ことの顛末を話すと、驚かれる。
「一大イベントなのに!それにメンバーにも恵まれてるのに勿体ない!」
「興味ないし、意味ないでしょ。教師になるのにみんなして大きなケーキとか作るの、必要ないんじゃない」
「いや、協調性とかって教師になろうと思ったらすごく大事じゃん」
「その辺りは授業で一緒に活動してるじゃない」
「多少進歩はあったみたいだけどさあ・・・」
アリスは呆れたように首を振る。余程自分を友達と一緒にいさせたいようだがと樹はアリスを横目でにらむ。
「あなたにどうこう言われても関係ないわよ。応援するとまで言ってきたのよ。頑張って友達やってるじゃない」
「ほんとにそれでいいんだか。ちょっとでも出たいんだったら、こういうとき退かない方がいいよ。絶対後悔するから」
「アリスは分かってない」
樹はイライラ気味に言って、その場を去った。何も分かっていない。こんなもの、誰かが興味が無いの一点張りにしておくことが一番楽に決まっているのに。
「東堂さん、小包来てましたよ」
寮に戻ると美和がそう言って樹に包みを渡した。差出人は河澄らしい。何事かと思えば、律儀に修学旅行の土産を送ってきたらしい。生八つ橋が二箱と赤が基調の根付が入っていた。
「それ食べて良いですか?」
「いいわよ」
八つ橋をさっそく美和に分け与え、樹は根付を眺める。携帯電話にもつけていれば良いのだろう。
「ひょっとして彼氏ですか?」
「馬鹿言わないで。何かと親切なのよね」
樹はからかってくる美和にそう答えながら、お礼を伴った返事を送る必要性を感じ、作り置いていた焼き菓子を寄越すことにした。ついでに一筆添えても良いだろう。近況でも書くのが無難だろうと思ったがふと自分が最近どうなのか分からなくなってきた。
「お土産をありがとうございました。私は元気です。購買の肉まんが美味しいです」
樹はそれだけ書いた。
元の中学校を出て、自分は何が変わったのだろうかとぼんやり思った。