9話 尊敬する先輩方
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ボランティアで協力してからというもの、樹はよくかなこに話しかけられるようになっていた。食事にも誘われるし、移動教室の時もやってくる。今日は休日だったが、またも購買付近で暇そうにしているところを捕まった。
「サロン・ド・マリーでケーキを買ったからみんなで食べようと思って」
「なるほど。これ、天王寺会長の新作のレモンタルトね」
樹は新作の情報なら美和から入ってくる。かなこが開けてみせたケーキの箱からのぞくスイーツに敏感に反応した。
「これすごく人気なんでしょう?よく手に入ったわね」
「開店まで待ってたからね」
かなこは得意げにする。いちごとルミも呼ぼうと二人は寮に入ったが、どうやら留守らしい。折角持って来たのに残念だ。
「どこにいるのかな、樹ちゃん、山田さんと同室でしょ?聞いてみてくれない?」
「いいわよ」
ものを頼むのも大分躊躇しないようになってきた。美和の情報量は寮中の女子の知るところにあるのだが、近づいたら情報を吸われそうだというのでなんとなく近寄りがたいのだそうだ。樹は割と気持ちよくつき合っているつもりなのでそのあたりの感覚がよく分からない。
「ねえ山田」
樹はぞんざいに呼び捨てながら部屋に入った。
「なんですか?」
パソコンに向かっていた美和がその声に振り返る。
「あの二人知らない?いちごとルミさん」
「ああ、加藤さんなら昨日から大阪に帰ってますよ。今日の夜に帰る予定です。天野さんはさっき、そっちのクラスのBグループの四人と森に遊びにいきました」
「どうも———えっ?」
樹はその返答に思わず聞き直す。
「天野さんは、なんて?」
「Bグループの四人と森に」
樹がそれをかなこに報告すると、かなこも不審そうな顔をした。Bグループの面々。リーダー格の中島いくえを筆頭に、佐山ちなつ、三原りえ、鮎川ようこと続くのだが、携帯電話で写真をとっているのをよく見る鮎川を除き、いつもいちごの悪口を言ったり嫌がらせをしている。
「絶対嫌がらせじゃない。なんでいちご、ついていくのかしら」
「いちごちゃんって、あんまり人のこと疑わないよね」
スピリッツみたいだ、と呟きそうになって止める。樹はいちごには負の感情が少ない、といちごを知るごとに思っていた。
「とりあえず、そのタルトは冷やしておいて、夜に持っていきましょう」
かなこは頷くと自室の小型冷蔵庫に箱を入れてまた出てきた。夜まで樹と時間をつぶすらしい。
「そういえば、サロン・ド・マリーに和菓子は置かないのね」
散歩日和なので外を歩きながらそんなことを話す。
「そういえば!なんていうか、学園自体ケーキが主流で洋風だしね」
「大福とかあってもいいんじゃないかしら」
真っ先に浮かんだ和菓子がそれであるあたり、樹は夢月の豆大福が相当気に入ったらしい。
「安堂君が高等部にあがったら、出てくるかも」
かなこは期待を込めて言った。安堂の作ったものを食べる機会は同じクラスと言えどあまりない。サロン・ド・マリーに出品されるようになったら毎日買いにいくだろうとかなこは思っていた。
「そうね、ここでももうちょっと純粋な和菓子を作ったら良いのに。抹茶味にするばかりじゃ芸がないと思わない?」
「う、うーん・・・」
かなこは口ごもる。
「夢月の大福はおいしいわよ」
「安堂君の実家の和菓子屋さんだよね。いいなあ、樹ちゃんたち、お邪魔できて」
「来れば良いじゃない」
「だ、だってそんなわけには・・・」
「やあ、東堂さん、古泉さん」
そんなことを言っていると、向かいから安堂がやってきた。隣に花房もいる。かなこは彼らに会うと思っていなかったので、服を適当に選んだことを後悔しながら思わず一歩下がった。
「ああ、ちょうど今あなたの話をしてたのよ」
「ちょっ、樹ちゃん・・・!?」
訳もないように言った樹にかなこは焦りを隠せない。
「な、なんの話・・・?」
樹が自分の話をしているということに安堂はうろたえる。彼女はほとんど包み隠さないので良い話だと言う保証がない。花房が彼の様子を見てくすくすと笑う。
「学校でも饅頭とか大福とか作ったらいいのにって話よ」
幸いちょっとした批判の部分でない方を述べたのでかなこは密かに安心する。
「ああ、作りたいとは思ってるんだけどね。和菓子の材料って学園にはあまり用意がないから自分で調達しなきゃいけないんだ。それに実家に帰るときに作るから、練習量としては十分だし」
「なるほどね。今度私も厨房の担当に入れてもらっていいかしら」
「それはもちろん」
「そういえば、いちごちゃんは一緒じゃないの?」
花房が口を挟むので樹は事情を語った。かなこの方は、緊張で話せない。曖昧に愛想笑いのようなものを浮かべている。
「二人は何をしているのよ」
「サロン・ド・マリーで何か食べようと思ってて」
「よかったら一緒にいく?」
「かながレモンタルトを手に入れて来たから結構よ」
「いいなあ、この時間じゃ僕たちはちょっと厳しいかな。樹ちゃんは運がいいね」
「朝から粘ることね」
笑いながら花房と安堂は行ってしまった。かなこは息をつく。
「樹ちゃんってやっぱりすごい・・・」
「何が」
「スイーツ王子と普通に話せるし、普通に意見できるし、普通に頼み事出来るし、誘われても何でもないみたいに断るし・・・」
「あら行きたかったの。言ってくれれば良いのに」
「それが無理なのー・・・」
まるで通じない、とかなこは息をついた。樹が彼らにしていることは、友達なら誰でもすることにすぎないのだが、かなこの目には彼らが、特にその内の一人が特別に見えているのだ。樹と同じように、一緒のグループにいたとしても樹のようなつき合い方はできないと確信している。
「よく分からないわね」
樹の方でもかなこの気持ちはよく理解できなかったのでそう口に出す。ただ、怖い口調でなく少し笑っていた感じがした。友達になって、雰囲気が柔らかくなってきた気がするとかなこは思うのだった。
「サロン・ド・マリーでケーキを買ったからみんなで食べようと思って」
「なるほど。これ、天王寺会長の新作のレモンタルトね」
樹は新作の情報なら美和から入ってくる。かなこが開けてみせたケーキの箱からのぞくスイーツに敏感に反応した。
「これすごく人気なんでしょう?よく手に入ったわね」
「開店まで待ってたからね」
かなこは得意げにする。いちごとルミも呼ぼうと二人は寮に入ったが、どうやら留守らしい。折角持って来たのに残念だ。
「どこにいるのかな、樹ちゃん、山田さんと同室でしょ?聞いてみてくれない?」
「いいわよ」
ものを頼むのも大分躊躇しないようになってきた。美和の情報量は寮中の女子の知るところにあるのだが、近づいたら情報を吸われそうだというのでなんとなく近寄りがたいのだそうだ。樹は割と気持ちよくつき合っているつもりなのでそのあたりの感覚がよく分からない。
「ねえ山田」
樹はぞんざいに呼び捨てながら部屋に入った。
「なんですか?」
パソコンに向かっていた美和がその声に振り返る。
「あの二人知らない?いちごとルミさん」
「ああ、加藤さんなら昨日から大阪に帰ってますよ。今日の夜に帰る予定です。天野さんはさっき、そっちのクラスのBグループの四人と森に遊びにいきました」
「どうも———えっ?」
樹はその返答に思わず聞き直す。
「天野さんは、なんて?」
「Bグループの四人と森に」
樹がそれをかなこに報告すると、かなこも不審そうな顔をした。Bグループの面々。リーダー格の中島いくえを筆頭に、佐山ちなつ、三原りえ、鮎川ようこと続くのだが、携帯電話で写真をとっているのをよく見る鮎川を除き、いつもいちごの悪口を言ったり嫌がらせをしている。
「絶対嫌がらせじゃない。なんでいちご、ついていくのかしら」
「いちごちゃんって、あんまり人のこと疑わないよね」
スピリッツみたいだ、と呟きそうになって止める。樹はいちごには負の感情が少ない、といちごを知るごとに思っていた。
「とりあえず、そのタルトは冷やしておいて、夜に持っていきましょう」
かなこは頷くと自室の小型冷蔵庫に箱を入れてまた出てきた。夜まで樹と時間をつぶすらしい。
「そういえば、サロン・ド・マリーに和菓子は置かないのね」
散歩日和なので外を歩きながらそんなことを話す。
「そういえば!なんていうか、学園自体ケーキが主流で洋風だしね」
「大福とかあってもいいんじゃないかしら」
真っ先に浮かんだ和菓子がそれであるあたり、樹は夢月の豆大福が相当気に入ったらしい。
「安堂君が高等部にあがったら、出てくるかも」
かなこは期待を込めて言った。安堂の作ったものを食べる機会は同じクラスと言えどあまりない。サロン・ド・マリーに出品されるようになったら毎日買いにいくだろうとかなこは思っていた。
「そうね、ここでももうちょっと純粋な和菓子を作ったら良いのに。抹茶味にするばかりじゃ芸がないと思わない?」
「う、うーん・・・」
かなこは口ごもる。
「夢月の大福はおいしいわよ」
「安堂君の実家の和菓子屋さんだよね。いいなあ、樹ちゃんたち、お邪魔できて」
「来れば良いじゃない」
「だ、だってそんなわけには・・・」
「やあ、東堂さん、古泉さん」
そんなことを言っていると、向かいから安堂がやってきた。隣に花房もいる。かなこは彼らに会うと思っていなかったので、服を適当に選んだことを後悔しながら思わず一歩下がった。
「ああ、ちょうど今あなたの話をしてたのよ」
「ちょっ、樹ちゃん・・・!?」
訳もないように言った樹にかなこは焦りを隠せない。
「な、なんの話・・・?」
樹が自分の話をしているということに安堂はうろたえる。彼女はほとんど包み隠さないので良い話だと言う保証がない。花房が彼の様子を見てくすくすと笑う。
「学校でも饅頭とか大福とか作ったらいいのにって話よ」
幸いちょっとした批判の部分でない方を述べたのでかなこは密かに安心する。
「ああ、作りたいとは思ってるんだけどね。和菓子の材料って学園にはあまり用意がないから自分で調達しなきゃいけないんだ。それに実家に帰るときに作るから、練習量としては十分だし」
「なるほどね。今度私も厨房の担当に入れてもらっていいかしら」
「それはもちろん」
「そういえば、いちごちゃんは一緒じゃないの?」
花房が口を挟むので樹は事情を語った。かなこの方は、緊張で話せない。曖昧に愛想笑いのようなものを浮かべている。
「二人は何をしているのよ」
「サロン・ド・マリーで何か食べようと思ってて」
「よかったら一緒にいく?」
「かながレモンタルトを手に入れて来たから結構よ」
「いいなあ、この時間じゃ僕たちはちょっと厳しいかな。樹ちゃんは運がいいね」
「朝から粘ることね」
笑いながら花房と安堂は行ってしまった。かなこは息をつく。
「樹ちゃんってやっぱりすごい・・・」
「何が」
「スイーツ王子と普通に話せるし、普通に意見できるし、普通に頼み事出来るし、誘われても何でもないみたいに断るし・・・」
「あら行きたかったの。言ってくれれば良いのに」
「それが無理なのー・・・」
まるで通じない、とかなこは息をついた。樹が彼らにしていることは、友達なら誰でもすることにすぎないのだが、かなこの目には彼らが、特にその内の一人が特別に見えているのだ。樹と同じように、一緒のグループにいたとしても樹のようなつき合い方はできないと確信している。
「よく分からないわね」
樹の方でもかなこの気持ちはよく理解できなかったのでそう口に出す。ただ、怖い口調でなく少し笑っていた感じがした。友達になって、雰囲気が柔らかくなってきた気がするとかなこは思うのだった。