8話 つなぐスイーツ
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「お待たせしましたー!」
七人は勢いよく教室に突入した。車を降りるなり、運転手へのお礼もそこそこに全速力で走って来たのだ。見たところ、もう一人の誕生日を迎える園児、あゆへのケーキを先ほど公開したばかりのタイミングらしい。りんごがほっとしたような顔をした。今まで肩身の狭い思いをしていたのだろう。だが、もう大丈夫だ。いちごは彼女に笑いかけた。
「遅かったじゃない。もう来ないかと思ったわ」
リーダー格の中島いくえが余裕たっぷりに言う。樫野は今にも殴りたそうだったが、めでたい席で乱闘はできない。
「天野さん、早くりんごちゃんのケーキ、出してあげなさいよ!」
「みんな待ってるわよ!」
いちごが恥をかくと決め込んで、勝ち誇ったような彼女らの催促に応えるようにして、りんごの元へ歩み寄る。いちごには、彼女らの悪意などもうどうでもよかった。
「りんごちゃん、お待たせしてごめんね!」
いちごは、みんなが見守る中、静かに箱を置いた。
「ハッピーバースデー!りんごちゃん!」
箱を開けたとたん、りんごの顔がぱあっと輝いた。他の園児達も一様に歓声を上げる。
「魔女の家のりんごちゃん、だよ!」
そこにあったのはパステルカラーにアイシングされたクッキーで作られたお菓子の家だった。あゆの側にある元のデザインのケーキよりも数段華やかな仕上がりである。あゆの側にいた園児も近くで見ようと席を立つ。幼稚園ではリーダー格だったはずのあゆは、ひとり置いていかれてしまった。Bグループの女子たちも呆然としている。
「みんな、りんごちゃんが魔女の家に捕まっています!」
いちごがみんなに話しはじめた。この家には、いちごのアイデアで仕掛けを仕込んでいるのだ。マジパン人形のりんごがマジパン魔女と家の中にいるのが分かる。
「ほんとだ!魔女がいる!りんごちゃん、大変!」
「りんごの実をえんとつから魔女にぶつけて、りんごちゃんを助けてあげてください!」
「お易い御用だ!」
いちごやりんごをからかっていたやんちゃ坊主が真っ先にいちごの声に応える。正義の味方のような任務は本質的に好きなのだろう。男の子の手でひめりんごが煙突から落とされた。
「ぎゃあああああっ!」
りんごが魔女にクリーンヒットしたとたん、この世のものとも思えない叫び声があがった。正体は家の中でスタンバイしていたカフェだ。スピリッツがメンバーにしか見えないという特徴を利用して、いちごが協力を頼んだのだ。
「こ、声が・・・」
良い演出のつもりだったのだが、予想に反して園児はおびえた顔でいちごの方を見た。いちごは咄嗟に良い理由が思い浮かばず、自分が腹話術で声を出したのだと言ってみた。
「なんだ、びっくりさせんなよ!」
「あたしも入れる!」
園児はその程度のごまかしで十分通用したらしい。霊的なものでないなら話は早い。みんなでりんごを助けるのみだ。
「りんごちゃんを離せー!」
「いてーっ!」
りんごを投げ入れるたびに、いちごがさも腹話術をしているように苦しそうな動きをしてカフェとシンクロする。花房達はその様子が可笑しくてぷるぷると笑いをこらえた。
「おい、魔女やっつけたみたいだぜ!」
全員がりんごを魔女にぶつけたところで、魔女が転がった。
「それでは、中に入りましょう!せーのっ!」
いちごは屋根に手をかけ、ゆっくりと持ち上げた。屋根が外されて、内部が露になる。そこは一変していた。
「なんと、りんごちゃんがケーキを焼いて待っててくれました!」
いつの間にか魔女は跡形もなく始末され、りんご人形はテーブルの上の大きなケーキの横に立っている。園児は仰天したが、絵本仕立てのハッピーなオチに大満足のようだ。先生方もマジックかなにかと思い感心している。Bグループの鼻もあかせたらしい。
「はあ・・・」
「間一髪ね!」
「いちご、こき使ってくれますわ・・・」
スピリッツの息は上がっていた。彼らがこの企画の立役者だ。確かに不可解な連中ではあるが、なかなかいいアシストになるのだなと樹は少し彼らを見直した。
「りんごちゃん、助けてくれた皆にお礼を言おうね!」
「・・・・」
いちごに言われて、りんごは突然の出番に緊張して真っ赤になったが、ここまでお膳立てしてくれたいちごの期待に応えたい。意を決して椅子から立ち上がった。
「あ、あ・・・・ありがとう、皆さん!」
園児はその言い回しに一瞬きょとんとしたがすぐにどっと笑い出した。
「あはは、皆さんってなんだよお!」
「どこのおじょーさまだよ!」
「りんごちゃんって面白ーい!」
りんごが初めてみんなの中心に立った。みんなが自分を友達として受け入れてくれていると気づき、りんごは嬉しさに胸を躍らせたが、笑っている皆の中に、ひとりいないことに気がついた。
「あ、あの。これ、あゆちゃんのケーキとくっつけて、遊んでも良い?」
みんなは、家と公園が一つになったケーキを囲んで楽しそうにしている。りんごはその輪の中心でもう一人の主役のあゆと人形遊びに興じていた。人形を通した「よろしくね」のあいさつで、二人はこの日大の仲良しになったのだ。
「ケーキのおかげで一気に打ち解けたな」
「ああ・・・」
「いちごちゃん、ここまで考えてあのデザインを・・・」
「どうなることかと思ったけど、うまくいってよかったわ」
やがて形を崩すことを惜しまれながら切り分けられたケーキだったが、味も申し分ないためみんなは二度目の楽しみを存分に味わった。誕生会は大成功だ。離れて見守っていたいちごに、かなこがいきなり「天野さん!」と抱きついた。
「きゃあっ!古泉さん、どうしたの!?」
「こっちで、初めて妹の笑った顔見た!天野さんのおかげだよ、本当にありがとう!」
「あたしだけじゃないよ、東堂さんが、みんなを勇気づけてくれたんだもん!」
「私も東堂さんの声聞こえたよ!迫力あった!ありがとう!」
かなこは涙目で樹の手を握ってぶんぶんと振る。突然のスキンシップに樹はどぎまぎしてぎこちなく答える。
「間に合ったのは、古泉さんと加藤さんのおかげ、じゃない」
ルミはその様子を見てじれったそうに息を漏らした。
「かたっくるしいなあ、みんな!」
ルミは強引に三人を引き寄せてぎゅっと全員でくっついた。
「今日から親友!いちごちゃん、かなちゃん、樹ちゃん、やで!なっ?」
「だね!これからもよろしくね!いちごちゃん、樹ちゃん!」
「こちらこそ!かなちゃん、樹ちゃん!」
「・・・なによこの流れ」
三人の目線が樹に向き、樹はさすがに察しながらも口ごもった。
「わ、私人のこと名前で呼んだことないんだけど」
「え?じゃあええ機会やん」
「いちごちゃん、私たち一番手だね!」
「やったーっ!」
樹は絶対に何でもないように言ってやろうと意気込みながら口を開いた。
「・・・いちご、かな」
「声裏返っとるやん!」
「もう一回!」
「嫌よそんなのなんでわざわざ練習しなきゃいけないの馬鹿みたい」
「樹ちゃんの言うことって、恥じらいを伴えば案外かわいいんだね」
「花房君あっち行ってなさいよ」
あ、これもしかして私もりんごちゃんと同じなのだろうか。樹はふと思った。いつの間にかみんなが自分の周りで笑っている。
———そうか、この人たち私の友達なんだ。
胸の中で、何かがストンと落ち着いた気がした。
七人は勢いよく教室に突入した。車を降りるなり、運転手へのお礼もそこそこに全速力で走って来たのだ。見たところ、もう一人の誕生日を迎える園児、あゆへのケーキを先ほど公開したばかりのタイミングらしい。りんごがほっとしたような顔をした。今まで肩身の狭い思いをしていたのだろう。だが、もう大丈夫だ。いちごは彼女に笑いかけた。
「遅かったじゃない。もう来ないかと思ったわ」
リーダー格の中島いくえが余裕たっぷりに言う。樫野は今にも殴りたそうだったが、めでたい席で乱闘はできない。
「天野さん、早くりんごちゃんのケーキ、出してあげなさいよ!」
「みんな待ってるわよ!」
いちごが恥をかくと決め込んで、勝ち誇ったような彼女らの催促に応えるようにして、りんごの元へ歩み寄る。いちごには、彼女らの悪意などもうどうでもよかった。
「りんごちゃん、お待たせしてごめんね!」
いちごは、みんなが見守る中、静かに箱を置いた。
「ハッピーバースデー!りんごちゃん!」
箱を開けたとたん、りんごの顔がぱあっと輝いた。他の園児達も一様に歓声を上げる。
「魔女の家のりんごちゃん、だよ!」
そこにあったのはパステルカラーにアイシングされたクッキーで作られたお菓子の家だった。あゆの側にある元のデザインのケーキよりも数段華やかな仕上がりである。あゆの側にいた園児も近くで見ようと席を立つ。幼稚園ではリーダー格だったはずのあゆは、ひとり置いていかれてしまった。Bグループの女子たちも呆然としている。
「みんな、りんごちゃんが魔女の家に捕まっています!」
いちごがみんなに話しはじめた。この家には、いちごのアイデアで仕掛けを仕込んでいるのだ。マジパン人形のりんごがマジパン魔女と家の中にいるのが分かる。
「ほんとだ!魔女がいる!りんごちゃん、大変!」
「りんごの実をえんとつから魔女にぶつけて、りんごちゃんを助けてあげてください!」
「お易い御用だ!」
いちごやりんごをからかっていたやんちゃ坊主が真っ先にいちごの声に応える。正義の味方のような任務は本質的に好きなのだろう。男の子の手でひめりんごが煙突から落とされた。
「ぎゃあああああっ!」
りんごが魔女にクリーンヒットしたとたん、この世のものとも思えない叫び声があがった。正体は家の中でスタンバイしていたカフェだ。スピリッツがメンバーにしか見えないという特徴を利用して、いちごが協力を頼んだのだ。
「こ、声が・・・」
良い演出のつもりだったのだが、予想に反して園児はおびえた顔でいちごの方を見た。いちごは咄嗟に良い理由が思い浮かばず、自分が腹話術で声を出したのだと言ってみた。
「なんだ、びっくりさせんなよ!」
「あたしも入れる!」
園児はその程度のごまかしで十分通用したらしい。霊的なものでないなら話は早い。みんなでりんごを助けるのみだ。
「りんごちゃんを離せー!」
「いてーっ!」
りんごを投げ入れるたびに、いちごがさも腹話術をしているように苦しそうな動きをしてカフェとシンクロする。花房達はその様子が可笑しくてぷるぷると笑いをこらえた。
「おい、魔女やっつけたみたいだぜ!」
全員がりんごを魔女にぶつけたところで、魔女が転がった。
「それでは、中に入りましょう!せーのっ!」
いちごは屋根に手をかけ、ゆっくりと持ち上げた。屋根が外されて、内部が露になる。そこは一変していた。
「なんと、りんごちゃんがケーキを焼いて待っててくれました!」
いつの間にか魔女は跡形もなく始末され、りんご人形はテーブルの上の大きなケーキの横に立っている。園児は仰天したが、絵本仕立てのハッピーなオチに大満足のようだ。先生方もマジックかなにかと思い感心している。Bグループの鼻もあかせたらしい。
「はあ・・・」
「間一髪ね!」
「いちご、こき使ってくれますわ・・・」
スピリッツの息は上がっていた。彼らがこの企画の立役者だ。確かに不可解な連中ではあるが、なかなかいいアシストになるのだなと樹は少し彼らを見直した。
「りんごちゃん、助けてくれた皆にお礼を言おうね!」
「・・・・」
いちごに言われて、りんごは突然の出番に緊張して真っ赤になったが、ここまでお膳立てしてくれたいちごの期待に応えたい。意を決して椅子から立ち上がった。
「あ、あ・・・・ありがとう、皆さん!」
園児はその言い回しに一瞬きょとんとしたがすぐにどっと笑い出した。
「あはは、皆さんってなんだよお!」
「どこのおじょーさまだよ!」
「りんごちゃんって面白ーい!」
りんごが初めてみんなの中心に立った。みんなが自分を友達として受け入れてくれていると気づき、りんごは嬉しさに胸を躍らせたが、笑っている皆の中に、ひとりいないことに気がついた。
「あ、あの。これ、あゆちゃんのケーキとくっつけて、遊んでも良い?」
みんなは、家と公園が一つになったケーキを囲んで楽しそうにしている。りんごはその輪の中心でもう一人の主役のあゆと人形遊びに興じていた。人形を通した「よろしくね」のあいさつで、二人はこの日大の仲良しになったのだ。
「ケーキのおかげで一気に打ち解けたな」
「ああ・・・」
「いちごちゃん、ここまで考えてあのデザインを・・・」
「どうなることかと思ったけど、うまくいってよかったわ」
やがて形を崩すことを惜しまれながら切り分けられたケーキだったが、味も申し分ないためみんなは二度目の楽しみを存分に味わった。誕生会は大成功だ。離れて見守っていたいちごに、かなこがいきなり「天野さん!」と抱きついた。
「きゃあっ!古泉さん、どうしたの!?」
「こっちで、初めて妹の笑った顔見た!天野さんのおかげだよ、本当にありがとう!」
「あたしだけじゃないよ、東堂さんが、みんなを勇気づけてくれたんだもん!」
「私も東堂さんの声聞こえたよ!迫力あった!ありがとう!」
かなこは涙目で樹の手を握ってぶんぶんと振る。突然のスキンシップに樹はどぎまぎしてぎこちなく答える。
「間に合ったのは、古泉さんと加藤さんのおかげ、じゃない」
ルミはその様子を見てじれったそうに息を漏らした。
「かたっくるしいなあ、みんな!」
ルミは強引に三人を引き寄せてぎゅっと全員でくっついた。
「今日から親友!いちごちゃん、かなちゃん、樹ちゃん、やで!なっ?」
「だね!これからもよろしくね!いちごちゃん、樹ちゃん!」
「こちらこそ!かなちゃん、樹ちゃん!」
「・・・なによこの流れ」
三人の目線が樹に向き、樹はさすがに察しながらも口ごもった。
「わ、私人のこと名前で呼んだことないんだけど」
「え?じゃあええ機会やん」
「いちごちゃん、私たち一番手だね!」
「やったーっ!」
樹は絶対に何でもないように言ってやろうと意気込みながら口を開いた。
「・・・いちご、かな」
「声裏返っとるやん!」
「もう一回!」
「嫌よそんなのなんでわざわざ練習しなきゃいけないの馬鹿みたい」
「樹ちゃんの言うことって、恥じらいを伴えば案外かわいいんだね」
「花房君あっち行ってなさいよ」
あ、これもしかして私もりんごちゃんと同じなのだろうか。樹はふと思った。いつの間にかみんなが自分の周りで笑っている。
———そうか、この人たち私の友達なんだ。
胸の中で、何かがストンと落ち着いた気がした。