7話 パティシエのパートナー
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いちごが皆の前でデザインを披露したのは数日後のことだった。幼稚園の園庭にあるドーム上の特徴的な遊具からヒントを得たらしいデザインで、雪の日の公園をコンセプトにしている。そこでりんご達園児が仲良く遊んでいる光景を作ることで、園児達を触発したいらしい。なかなか上手に描かれているイメージスケッチに、四人は唸った。
「園児とりんごの木はマジパン、スノードームはりんごと生クリームを求肥で包むの!」
「あっ、それは僕の担当だね!」
「ホワイトチョコにカスタードをつめて、雪だるま!ひめりんごはチョコディップにするの!」
「そっちは俺だな」
「これは楽しそうだね!」
しかも、スイーツ王子三人の得意な分野を考慮しているという用意周到さ。なかなかデザインの方面にも才能があるらしい。
「園児達のイラストも特徴をよく捉えられてるみたいね。さすが不審者」
「わっ、なんで知ってるの東堂さん!」
美和から、最近ぴよぴよ幼稚園の付近に学園の生徒と思しき不審者が園庭をのぞきこんでなにか調査しているようなのだと聞いていたのだ。ロリコンとかそういう類いのものだろうかと美和は推測していたのだが、その正体はケーキのデザイン製作に熱意を燃やすいちごだったのだ。
「普通に制服で行けば良いのに、どうして不審な格好をしていたのよ」
「だって、あたしだってバレたらからかわれるんだもん・・・」
「ガキみたいなこと言ってんじゃねえよ」
「も、もう!東堂さんも樫野もそのことはいいから!それでね、今夜練習でこのケーキ作ってみたいんだけど、いいかな?」
いちごは樹と樫野に抗議しながらも、そう提案した。みんなは二つ返事で頷き、その夜に練習が執り行われた。
練習はつつがなく進み、うまくいちごのイメージ通りのものが仕上がった。もう少し改善の余地はありそうだが、練習初日にしてはなかなかの完成度だった。
「おーい、購買部に買い出しにいかないか?」
安堂が、バンダナとエプロンを外して、戸口の方から呼びかけた。一服したいらしい。
「行くー!」
「バニラも行くー!」
「私、遠慮しとくわ」
樹はひとり残ろうとする。いちごは一緒に行くつもりだったので、首を傾げた。
「どうして?外寒いから?」
「いや・・・持ち合わせがなくて」
「そういうことなら僕のおごりで良いよ」
花房が樹に微笑む。
「キャラメルがしっかりお留守番してるですー!」
キャラメルがみんなを見送る。よりによっていちばん頼りない子だぞと樹は思ったが、本人たっての希望なので仕方がない。学園内で犯罪などないだろう。
夜中でも購買部は営業中だ。学生にとってはコンビニよりも頼りになる。樹は美和から聞いていた新作のお菓子が気になったが、花房に出してもらうので、安い肉まんをチョイスした。
「やっぱうめーっ!購買部の肉まん!」
樹の隣で安堂は嬉しそうに頬張っている。お気に入りの商品らしい。
「こう冷えてくると、いいものね」
「あんまんやピザまんもいいよ」
「新作のお菓子、いっぱい買っちゃったー!」
あんまんを頬張るいちごは目当てのものをゲットしたらしく満足顔だ。花房も新発売のカフェオレをカフェとシェアして歩いている。ひとり何も食べたりせずにいる樫野は四人を呆れたように見た。
「調理室まで我慢できないのか?」
「ほんと、お下品ですわ!」
樹は以前バニラが二人に対して吐いた『気取りやペア』という呼称を思い出した。
「まーちゃんも食べろよ!」
安堂がそんな樫野の肩を組んで肉まんを押し付ける。夜中まで友人と一緒なのは全寮制ならではだ。いちごはなんだかこんな生活もいいなあと感じはじめていた。樹も、四人と初めてこんな時間まで練習してみて、なかなか充実していると思った。
空には満天の星が輝いている。樹にとって、それは特別な景色に見えた。
いよいよ誕生会の日がやって来た。ケーキは保存の利かないクリームなどを新鮮な内に今日使用する。前日まで十分に練習を重ねた五人はパティシエ服に身をつつんで実習室に現れた。
「いよいよ今日だね!りんごちゃんも待っててくれるかな?」
「うん!マジパンも土台も出来てるし、あとは飾り付けだね!」
「何度も練習したんだ。目をつむってても出来る」
全員が完全にケーキの細部までを理解していた。樫野の言う通り目をつむっていてもイメージが浮かび上がるほどに。そう、今前からやってくるBグループの女子が持っているあの感じだ。
「!?」
五人はすれ違い様に目を丸くした。一足先に出て行くBグループの背中にとっさに声をかける。
「ちょっ、そのケーキ僕たちの!」
「はあ?」
Bグループの四人は、難癖をつけられたとばかりに迷惑そうな顔をして振り返った。
「そっくり・・・あたしが考えたのと・・・」
いちごは震える声で彼女らのケーキを指差す。園児のマジパンの配置からスノードーム、周りに並んだひめりんごまで、そのデザインは酷似していた。
「やだ、変なこと言わないで!私のデザインよ?」
「そっちが真似したんじゃないの?天野さん」
「えっ!?そんな・・・違う!りんごちゃんのために・・・一生懸命考えて・・・」
いちごは戸惑った。頭が真っ白になりそうだった。
「まあ、でもその子15日生まれだっけ?よかった!あゆちゃん4日生まれだからこっちが先に・・・」
「言いたいことは分かったからさっさと消えて」
みんなが動揺しているなか、樹が一歩前に出てはっきりと言った。
「はあ?何よ、この子・・・」
「聞こえなかったの?邪魔なのよ!消えて!」
空気をつんざくような声だった。その鋭さを自分が味わうのは初めてだった彼女達は気圧されてそそくさと実習室をあとにした。
「樹ちゃん・・・」
「折角追い払ったんだから早くどうにかしないと」
樹は内心動揺しているのを隠してひとり平静を取り戻したように言った。
「だって、あっちのケーキに手を出すのもいけなかったし・・・」
「Bグループのケーキはあやちゃんが待ってるからね」
「あの子達じゃ今から作り直す能はないわよ。私たちが早く来なかったのもまずかったわ———どうしてデザインが漏れたのか知らないけど」
樹が周りをまとめるように淡々とした口調で語ると、キャラメルが泣きながら飛び出して来た。
「あのー、ごめんなさぁい!あの子達、ケーキの写真とってたのー!ステキだからとってるのかと思って、言うの忘れてましたー!」
五人は思わず脱力する。キャラメルは留守番を務めるには警戒心がなさすぎたらしい。大泣きする彼女を、悪いのはあっちだとバニラが慰める。
「許せない・・・!ケーキを楽しみにしている子を悲しませるなんて・・・」
いちごは怒りに震えていた。今までBグループからの嫌味はこちらにも非があると思って聞き流していたが、これは訳が違う。
「誕生日会は12時・・・。1時間でデザインを変えるしかない!」
「・・・・でもこれをどうやって・・・」
調理台に並んだ材料では、もはや練習してきたケーキのイメージしか浮かばない。途方に暮れて材料を見つめてうつむく中、いちごが突然顔を上げた。
「そうだ!もっといいデザインがあるわ!」
土壇場で、いちごの才能がついに片鱗をのぞかせようとしていた。
「園児とりんごの木はマジパン、スノードームはりんごと生クリームを求肥で包むの!」
「あっ、それは僕の担当だね!」
「ホワイトチョコにカスタードをつめて、雪だるま!ひめりんごはチョコディップにするの!」
「そっちは俺だな」
「これは楽しそうだね!」
しかも、スイーツ王子三人の得意な分野を考慮しているという用意周到さ。なかなかデザインの方面にも才能があるらしい。
「園児達のイラストも特徴をよく捉えられてるみたいね。さすが不審者」
「わっ、なんで知ってるの東堂さん!」
美和から、最近ぴよぴよ幼稚園の付近に学園の生徒と思しき不審者が園庭をのぞきこんでなにか調査しているようなのだと聞いていたのだ。ロリコンとかそういう類いのものだろうかと美和は推測していたのだが、その正体はケーキのデザイン製作に熱意を燃やすいちごだったのだ。
「普通に制服で行けば良いのに、どうして不審な格好をしていたのよ」
「だって、あたしだってバレたらからかわれるんだもん・・・」
「ガキみたいなこと言ってんじゃねえよ」
「も、もう!東堂さんも樫野もそのことはいいから!それでね、今夜練習でこのケーキ作ってみたいんだけど、いいかな?」
いちごは樹と樫野に抗議しながらも、そう提案した。みんなは二つ返事で頷き、その夜に練習が執り行われた。
練習はつつがなく進み、うまくいちごのイメージ通りのものが仕上がった。もう少し改善の余地はありそうだが、練習初日にしてはなかなかの完成度だった。
「おーい、購買部に買い出しにいかないか?」
安堂が、バンダナとエプロンを外して、戸口の方から呼びかけた。一服したいらしい。
「行くー!」
「バニラも行くー!」
「私、遠慮しとくわ」
樹はひとり残ろうとする。いちごは一緒に行くつもりだったので、首を傾げた。
「どうして?外寒いから?」
「いや・・・持ち合わせがなくて」
「そういうことなら僕のおごりで良いよ」
花房が樹に微笑む。
「キャラメルがしっかりお留守番してるですー!」
キャラメルがみんなを見送る。よりによっていちばん頼りない子だぞと樹は思ったが、本人たっての希望なので仕方がない。学園内で犯罪などないだろう。
夜中でも購買部は営業中だ。学生にとってはコンビニよりも頼りになる。樹は美和から聞いていた新作のお菓子が気になったが、花房に出してもらうので、安い肉まんをチョイスした。
「やっぱうめーっ!購買部の肉まん!」
樹の隣で安堂は嬉しそうに頬張っている。お気に入りの商品らしい。
「こう冷えてくると、いいものね」
「あんまんやピザまんもいいよ」
「新作のお菓子、いっぱい買っちゃったー!」
あんまんを頬張るいちごは目当てのものをゲットしたらしく満足顔だ。花房も新発売のカフェオレをカフェとシェアして歩いている。ひとり何も食べたりせずにいる樫野は四人を呆れたように見た。
「調理室まで我慢できないのか?」
「ほんと、お下品ですわ!」
樹は以前バニラが二人に対して吐いた『気取りやペア』という呼称を思い出した。
「まーちゃんも食べろよ!」
安堂がそんな樫野の肩を組んで肉まんを押し付ける。夜中まで友人と一緒なのは全寮制ならではだ。いちごはなんだかこんな生活もいいなあと感じはじめていた。樹も、四人と初めてこんな時間まで練習してみて、なかなか充実していると思った。
空には満天の星が輝いている。樹にとって、それは特別な景色に見えた。
いよいよ誕生会の日がやって来た。ケーキは保存の利かないクリームなどを新鮮な内に今日使用する。前日まで十分に練習を重ねた五人はパティシエ服に身をつつんで実習室に現れた。
「いよいよ今日だね!りんごちゃんも待っててくれるかな?」
「うん!マジパンも土台も出来てるし、あとは飾り付けだね!」
「何度も練習したんだ。目をつむってても出来る」
全員が完全にケーキの細部までを理解していた。樫野の言う通り目をつむっていてもイメージが浮かび上がるほどに。そう、今前からやってくるBグループの女子が持っているあの感じだ。
「!?」
五人はすれ違い様に目を丸くした。一足先に出て行くBグループの背中にとっさに声をかける。
「ちょっ、そのケーキ僕たちの!」
「はあ?」
Bグループの四人は、難癖をつけられたとばかりに迷惑そうな顔をして振り返った。
「そっくり・・・あたしが考えたのと・・・」
いちごは震える声で彼女らのケーキを指差す。園児のマジパンの配置からスノードーム、周りに並んだひめりんごまで、そのデザインは酷似していた。
「やだ、変なこと言わないで!私のデザインよ?」
「そっちが真似したんじゃないの?天野さん」
「えっ!?そんな・・・違う!りんごちゃんのために・・・一生懸命考えて・・・」
いちごは戸惑った。頭が真っ白になりそうだった。
「まあ、でもその子15日生まれだっけ?よかった!あゆちゃん4日生まれだからこっちが先に・・・」
「言いたいことは分かったからさっさと消えて」
みんなが動揺しているなか、樹が一歩前に出てはっきりと言った。
「はあ?何よ、この子・・・」
「聞こえなかったの?邪魔なのよ!消えて!」
空気をつんざくような声だった。その鋭さを自分が味わうのは初めてだった彼女達は気圧されてそそくさと実習室をあとにした。
「樹ちゃん・・・」
「折角追い払ったんだから早くどうにかしないと」
樹は内心動揺しているのを隠してひとり平静を取り戻したように言った。
「だって、あっちのケーキに手を出すのもいけなかったし・・・」
「Bグループのケーキはあやちゃんが待ってるからね」
「あの子達じゃ今から作り直す能はないわよ。私たちが早く来なかったのもまずかったわ———どうしてデザインが漏れたのか知らないけど」
樹が周りをまとめるように淡々とした口調で語ると、キャラメルが泣きながら飛び出して来た。
「あのー、ごめんなさぁい!あの子達、ケーキの写真とってたのー!ステキだからとってるのかと思って、言うの忘れてましたー!」
五人は思わず脱力する。キャラメルは留守番を務めるには警戒心がなさすぎたらしい。大泣きする彼女を、悪いのはあっちだとバニラが慰める。
「許せない・・・!ケーキを楽しみにしている子を悲しませるなんて・・・」
いちごは怒りに震えていた。今までBグループからの嫌味はこちらにも非があると思って聞き流していたが、これは訳が違う。
「誕生日会は12時・・・。1時間でデザインを変えるしかない!」
「・・・・でもこれをどうやって・・・」
調理台に並んだ材料では、もはや練習してきたケーキのイメージしか浮かばない。途方に暮れて材料を見つめてうつむく中、いちごが突然顔を上げた。
「そうだ!もっといいデザインがあるわ!」
土壇場で、いちごの才能がついに片鱗をのぞかせようとしていた。