7話 パティシエのパートナー
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それから数日経ち、樹のクラスの代表生徒は、山の麓にあるぴよぴよ幼稚園へやってきていた。定期的なボランティア活動で、誕生日会のケーキを手がけて園児にプレゼントするというものだ。
「みんなー!聖マリー学園のみなさんよー!」
「わー!」
「ケーキだー!」
先生の声に、園児は生徒の元へ突進していった。その勢いに圧倒されたいちごは思わず樫野の後ろへ隠れる。樹はいちごがくる前に一度経験していたので驚きはしなかったが、なんとなく苦手な雰囲気であることには変わりないので、仏頂面のまま立ち尽くす。
「安堂、遊ぼう!」
「こらこら」
「五月君、こっちー!」
「はいはい」
「ルミちゃーん!」
「壊れるから、慌てなーい!」
園児にはめいめい目当ての生徒がもういるらしい。三人もなかなか懐かれやすいらしく、慣れたようににこにこと返事をしている。樫野といちごは何となく慣れない様子ながら園児に絡まれはじめたが、樹は遠目に眺められはするものの、近づくなオーラを発しているのか誰も寄ってこない。
一段落ついて、本日のお誕生会が開かれた。三人の園児に一つずつケーキが進呈されて、三つに分かれたグループごとにそれをいただく。聖マリーの生徒は適当に各テーブルにつき、美味しそうに食べる園児と話したりしていた。前回、どこの輪にも入れなかった樹は歩き回って難を逃れていたのだが、今回はいちごが話しかけてきた。
「東堂さん、みんな喜んでくれてるね!」
「そうね。まあ、小さい子のとりえってそれぐらいしかないけど。素直に喜ぶとこだけ」
いちごはやたらと児童に厳しい目を向ける樹に苦笑しながら、彼女の小さい頃を想像しようとしてみたが、今の縮小版しか浮かばなかった。ふと、樹が教室の端に目を移すのに気づいて、そちらを見てみる。
「りんご、ダメじゃない。どうしてみんなと一緒に食べないの?」
赤い髪の見るからに内気そうな女の子がひとり輪から外れてケーキのお皿を持っていたのだ。同級生の古泉かなこが彼女に声をかけている。
「・・・ひとりがいい」
「そんなことじゃ、いつまでたっても友達が出来ないわよ?」
「・・・・・」
「・・・はあ」
かなこは諦めてりんごのもとを離れる。なんとなく雰囲気が似ていた。姉妹なのだろう。そう思っていると、ルミが二人に近づいて、いちごのために少女がかなこの妹であると説明した。
「古泉さんの家って、この近くなの?」
「うん。古泉さんは入学したときからひとり寮生活やけど、りんごちゃんは先月家族と一緒に青森から引っ越してきたんや」
「へえ、そうだったんだ」
その辺りの事情に疎い樹は、前回来たときにいたはずのりんごのことも覚えていなかった。彼女も制服の集団の中ひとりなのを誤摩化しているのにそれなりに必死だったらしい。
「りんごちゃん、めっちゃ大人しくてなかなかなじめへんみたいやねん」
「へえ・・・東堂さんとは真逆・・・」
「・・・天野さん?」
いちごはつい余計なことを口走り、逃げるようにしてりんごの元へ向かった。もともと面倒見の良い性格なのだ。りんごがひとりぼっちでいることは好ましく思えなかった。いちごはクッキーを差し出して交流を図るも、からかいに来た男の子を追い回すのに気をとられている隙に、話しかけられて一瞬嬉しそうにしていたりんごは皿をおいて出て行ってしまった。
「あはは、いちごちゃん、幼稚園の子にも本気やな!」
「程度が同じなんじゃないかしら」
「うわ、きっつ!あはは!」
一部始終を見ていた二人は好き勝手に語る。いちごはりんごが消えているのに気づいておろおろと探しはじめた。
「天野さん、あの子外に行ったわよ」
「あ、ありがとう東堂さん!」
いちごはすぐに園庭へ飛び出していった。
「なんだったかしら、さっき園児が天野さんのことをいちごパンツと言っていたわね」
「せやで、いちごちゃんのパンツ、そういう柄ばっかやで」
同室のルミは、何のためらいもなくばらしたのだった。
誕生会からの帰り道、いちごは来月が誕生日のりんごのために、自分が皆と仲良くなれるケーキを作ると約束したとみんなに話した。
「天野、安請け合いして知らないぞ」
樫野はいちごをにらみながら言う。夕日が彼の金髪に反射して輝いていた。それが眩しいので樹は目を細める。隣の安堂も若干細目だ。
「みんなと仲良くなれるケーキって、随分抽象的ね。そう言うからには天野さん、アイデアがあるの」
「えっと、あの・・・今回のりんごちゃんのケーキは、あたしがデザインしていいかな」
グループで作るケーキのデザインは、たいがい花房が担当していた。一番センスがいいのだ。ただ、樹は彼がいつもバラの要素を盛り込みすぎるのはいかがなものかと密かに思っていた。
「もちろん!やりたい人がやるのが一番だよ」
「ありがとう!楽しいケーキ、考えるね!」
「おお、やる気いっぱいだな!」
いちごは日々新しいことに挑戦している。グループを代表してケーキのデザインを手がけるというのも、また経験になるだろう。その行動力には全員が一目置きはじめていた。
「みんなー!聖マリー学園のみなさんよー!」
「わー!」
「ケーキだー!」
先生の声に、園児は生徒の元へ突進していった。その勢いに圧倒されたいちごは思わず樫野の後ろへ隠れる。樹はいちごがくる前に一度経験していたので驚きはしなかったが、なんとなく苦手な雰囲気であることには変わりないので、仏頂面のまま立ち尽くす。
「安堂、遊ぼう!」
「こらこら」
「五月君、こっちー!」
「はいはい」
「ルミちゃーん!」
「壊れるから、慌てなーい!」
園児にはめいめい目当ての生徒がもういるらしい。三人もなかなか懐かれやすいらしく、慣れたようににこにこと返事をしている。樫野といちごは何となく慣れない様子ながら園児に絡まれはじめたが、樹は遠目に眺められはするものの、近づくなオーラを発しているのか誰も寄ってこない。
一段落ついて、本日のお誕生会が開かれた。三人の園児に一つずつケーキが進呈されて、三つに分かれたグループごとにそれをいただく。聖マリーの生徒は適当に各テーブルにつき、美味しそうに食べる園児と話したりしていた。前回、どこの輪にも入れなかった樹は歩き回って難を逃れていたのだが、今回はいちごが話しかけてきた。
「東堂さん、みんな喜んでくれてるね!」
「そうね。まあ、小さい子のとりえってそれぐらいしかないけど。素直に喜ぶとこだけ」
いちごはやたらと児童に厳しい目を向ける樹に苦笑しながら、彼女の小さい頃を想像しようとしてみたが、今の縮小版しか浮かばなかった。ふと、樹が教室の端に目を移すのに気づいて、そちらを見てみる。
「りんご、ダメじゃない。どうしてみんなと一緒に食べないの?」
赤い髪の見るからに内気そうな女の子がひとり輪から外れてケーキのお皿を持っていたのだ。同級生の古泉かなこが彼女に声をかけている。
「・・・ひとりがいい」
「そんなことじゃ、いつまでたっても友達が出来ないわよ?」
「・・・・・」
「・・・はあ」
かなこは諦めてりんごのもとを離れる。なんとなく雰囲気が似ていた。姉妹なのだろう。そう思っていると、ルミが二人に近づいて、いちごのために少女がかなこの妹であると説明した。
「古泉さんの家って、この近くなの?」
「うん。古泉さんは入学したときからひとり寮生活やけど、りんごちゃんは先月家族と一緒に青森から引っ越してきたんや」
「へえ、そうだったんだ」
その辺りの事情に疎い樹は、前回来たときにいたはずのりんごのことも覚えていなかった。彼女も制服の集団の中ひとりなのを誤摩化しているのにそれなりに必死だったらしい。
「りんごちゃん、めっちゃ大人しくてなかなかなじめへんみたいやねん」
「へえ・・・東堂さんとは真逆・・・」
「・・・天野さん?」
いちごはつい余計なことを口走り、逃げるようにしてりんごの元へ向かった。もともと面倒見の良い性格なのだ。りんごがひとりぼっちでいることは好ましく思えなかった。いちごはクッキーを差し出して交流を図るも、からかいに来た男の子を追い回すのに気をとられている隙に、話しかけられて一瞬嬉しそうにしていたりんごは皿をおいて出て行ってしまった。
「あはは、いちごちゃん、幼稚園の子にも本気やな!」
「程度が同じなんじゃないかしら」
「うわ、きっつ!あはは!」
一部始終を見ていた二人は好き勝手に語る。いちごはりんごが消えているのに気づいておろおろと探しはじめた。
「天野さん、あの子外に行ったわよ」
「あ、ありがとう東堂さん!」
いちごはすぐに園庭へ飛び出していった。
「なんだったかしら、さっき園児が天野さんのことをいちごパンツと言っていたわね」
「せやで、いちごちゃんのパンツ、そういう柄ばっかやで」
同室のルミは、何のためらいもなくばらしたのだった。
誕生会からの帰り道、いちごは来月が誕生日のりんごのために、自分が皆と仲良くなれるケーキを作ると約束したとみんなに話した。
「天野、安請け合いして知らないぞ」
樫野はいちごをにらみながら言う。夕日が彼の金髪に反射して輝いていた。それが眩しいので樹は目を細める。隣の安堂も若干細目だ。
「みんなと仲良くなれるケーキって、随分抽象的ね。そう言うからには天野さん、アイデアがあるの」
「えっと、あの・・・今回のりんごちゃんのケーキは、あたしがデザインしていいかな」
グループで作るケーキのデザインは、たいがい花房が担当していた。一番センスがいいのだ。ただ、樹は彼がいつもバラの要素を盛り込みすぎるのはいかがなものかと密かに思っていた。
「もちろん!やりたい人がやるのが一番だよ」
「ありがとう!楽しいケーキ、考えるね!」
「おお、やる気いっぱいだな!」
いちごは日々新しいことに挑戦している。グループを代表してケーキのデザインを手がけるというのも、また経験になるだろう。その行動力には全員が一目置きはじめていた。