41話 決断の時
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「まどろっこしいわ。要は、人間とパートナーとしてやっていければいいんでしょう」
樹は、すっぱりと言った。
ジュリが瞳孔を僅かに開く。
「私は既にあの子のパートナーなの。私の方がパートナーとしてふさわしい人間だってことを、そっちに証明しに行くわ。試験の日を教えなさいよ」
「・・・そなた」
「何がそなたよ。教えなさいよ、行くから。早くして」
ジュリは驚いたように樹の顔を見つめて目を瞬かせていたが、次の瞬間声をあげて高らかに笑った。
その笑い声が大きかったからか、ランプの下で休んでいたカフェが身じろぎして目を開き、きょとんとして花房の方を見る。
花房はそっと人差し指を口に当てた。
「樹か。そなた、相当面白いな。クレムが友人に選んだだけある。カノジョもユニークなスピリッツだからな。昔は王宮に来ていたことがあったのだが、ワタシはカノジョの話が好きだった」
不意に、彼の表情が優しく緩んだ気がした。
完全にそちらを睨みつけていた樹の顔からも力が抜ける。
アリスのことをなんとも思っていないわけではないのだ。
そもそも、こうして樹に連絡を寄越したこと自体が、恐らくはアリスへの何らかの情があってのこと。
「試験は明後日だが・・・いいのか?人間界では確か」
「アリスのところへ行くわ」
樹は迷いなく告げた。
その言葉に、花房が一瞬息を飲む。
カフェが「その日は」と言いかけて口をつぐむ。
「アリス・・・人間界ではそう名乗っているのか。どのような意味があるのだろう」
「不思議の国に迷い込んだ女の子よ。有名な童話に出てくる」
「それはまた、上手く誂えたものだな」
「ほんと、相当自分を客観視してるわ、あの子。それもあって必要以上に卑屈になるところがあるんでしょうね」
「卑屈・・・か」
呟いたジュリの顔が、一瞬フリーズする。
ノイズが走って画面が途切れ、また映し出される。
どうやら通信が保たないらしい。
「樹、どうやらもう保たないらしい。王宮で待っている。辿り着けるよう、なるべく助力はするが・・・」
「待って、時刻を教えて。というか、時刻の概念ってどれぐらい一緒で・・・」
「時刻は朝の・・・」
そこで、完全に途切れた。
樹は刻印された紋章を見つめながら、一つ息を吐く。
何はともあれ、やることは決まった。
明後日の朝というなら、明日出発すればいい。
黙ってやり取りを見守っていた花房の方へ、顔を向ける。
「花房くんは、グランプリに出ないと駄目よ」
樹は、静かに言った。
その視線を受け止めながらも、花房の瞳は揺らいでいた。
既視感を覚えていた。
クラスの同じグループで活動してきて一人、グランプリのチームに加わることはなかった彼女。
世界大会への進出が決まった時、喜びとは別に彼女と離れなければならない事実を受け止めるのが、苦しかった。
チームいちごと樹のそれぞれがグランプリを制して、本校への留学に進む。
やっとそうして同じ道に向かって進めるところだったのに、また前のようなことが起ころうとしている。
「・・・五月」
言葉もなく樹を見つめる姿を気遣うように、カフェが肩の上に乗る。
そんなパートナーの姿を見て、花房は薄く笑みを浮かべた。
彼女も、自身の相棒のためにそうするのだ。
その選択を誰が止められるはずもない。
誰が一緒に請け負えるはずもない。
「出るよ。そして、優勝する」
目を見てそう言った。
それを聞いた樹の口元に笑みが浮かび上がる。
選択に後悔などしない。
歩いていくのが同じ道には見えなくても、同じ方向を目指していることを、もう知っている。
そうしていれば、いつかはきっと交わるものだ。
———少しの時間でも、会えなくなるのは寂しいけれど。
樹は、花房の温度が少し残っている気がする左手の上に、自分の右手を重ねた。
世界ケーキグランプリ決勝および個人グランプリ戦まで、残すところ二夜という日だった。
樹は、すっぱりと言った。
ジュリが瞳孔を僅かに開く。
「私は既にあの子のパートナーなの。私の方がパートナーとしてふさわしい人間だってことを、そっちに証明しに行くわ。試験の日を教えなさいよ」
「・・・そなた」
「何がそなたよ。教えなさいよ、行くから。早くして」
ジュリは驚いたように樹の顔を見つめて目を瞬かせていたが、次の瞬間声をあげて高らかに笑った。
その笑い声が大きかったからか、ランプの下で休んでいたカフェが身じろぎして目を開き、きょとんとして花房の方を見る。
花房はそっと人差し指を口に当てた。
「樹か。そなた、相当面白いな。クレムが友人に選んだだけある。カノジョもユニークなスピリッツだからな。昔は王宮に来ていたことがあったのだが、ワタシはカノジョの話が好きだった」
不意に、彼の表情が優しく緩んだ気がした。
完全にそちらを睨みつけていた樹の顔からも力が抜ける。
アリスのことをなんとも思っていないわけではないのだ。
そもそも、こうして樹に連絡を寄越したこと自体が、恐らくはアリスへの何らかの情があってのこと。
「試験は明後日だが・・・いいのか?人間界では確か」
「アリスのところへ行くわ」
樹は迷いなく告げた。
その言葉に、花房が一瞬息を飲む。
カフェが「その日は」と言いかけて口をつぐむ。
「アリス・・・人間界ではそう名乗っているのか。どのような意味があるのだろう」
「不思議の国に迷い込んだ女の子よ。有名な童話に出てくる」
「それはまた、上手く誂えたものだな」
「ほんと、相当自分を客観視してるわ、あの子。それもあって必要以上に卑屈になるところがあるんでしょうね」
「卑屈・・・か」
呟いたジュリの顔が、一瞬フリーズする。
ノイズが走って画面が途切れ、また映し出される。
どうやら通信が保たないらしい。
「樹、どうやらもう保たないらしい。王宮で待っている。辿り着けるよう、なるべく助力はするが・・・」
「待って、時刻を教えて。というか、時刻の概念ってどれぐらい一緒で・・・」
「時刻は朝の・・・」
そこで、完全に途切れた。
樹は刻印された紋章を見つめながら、一つ息を吐く。
何はともあれ、やることは決まった。
明後日の朝というなら、明日出発すればいい。
黙ってやり取りを見守っていた花房の方へ、顔を向ける。
「花房くんは、グランプリに出ないと駄目よ」
樹は、静かに言った。
その視線を受け止めながらも、花房の瞳は揺らいでいた。
既視感を覚えていた。
クラスの同じグループで活動してきて一人、グランプリのチームに加わることはなかった彼女。
世界大会への進出が決まった時、喜びとは別に彼女と離れなければならない事実を受け止めるのが、苦しかった。
チームいちごと樹のそれぞれがグランプリを制して、本校への留学に進む。
やっとそうして同じ道に向かって進めるところだったのに、また前のようなことが起ころうとしている。
「・・・五月」
言葉もなく樹を見つめる姿を気遣うように、カフェが肩の上に乗る。
そんなパートナーの姿を見て、花房は薄く笑みを浮かべた。
彼女も、自身の相棒のためにそうするのだ。
その選択を誰が止められるはずもない。
誰が一緒に請け負えるはずもない。
「出るよ。そして、優勝する」
目を見てそう言った。
それを聞いた樹の口元に笑みが浮かび上がる。
選択に後悔などしない。
歩いていくのが同じ道には見えなくても、同じ方向を目指していることを、もう知っている。
そうしていれば、いつかはきっと交わるものだ。
———少しの時間でも、会えなくなるのは寂しいけれど。
樹は、花房の温度が少し残っている気がする左手の上に、自分の右手を重ねた。
世界ケーキグランプリ決勝および個人グランプリ戦まで、残すところ二夜という日だった。
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