41話 決断の時
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
その言葉の中に含まれた名前に、はっとして樹が声の元を探す。
部屋の中央、テーブルの上。
折れたスプーンの柄。聖マリーの紋章が刻印されたパーツの部分が、光っていた。
「それ、こっちに戻ってきたときに樹ちゃんが持っていたんだ」
「アリスのスプーンだわ」
「待って、僕が持ってくる」
花房がテーブルに歩み寄って、それを持ち上げる。
光っている部分に、人の姿が映っていた。
銀色の髪に、バイオレットの瞳の美しい人物。
なんとなく、どこかで見覚えがある。
花房が暫しその顔を見つめていると、唇が動いた。
これは映像だ。
「そなたが・・・?」
「僕じゃない。彼女が・・・」
喋りかけられたことに少し動揺しながらも、花房はスプーンを樹に渡す。
受け取った樹は、そこに映る人物の顔をまじまじと観察した。
「女王様に似てるわね」
「気づいたか。ワタシはその血を引いているのだ」
「・・・王子ってこと」
「ジュリという。そなたの名前は」
「東堂樹」
スイーツ王国の王子。
樹は、向こうでのアリスとの会話を思い出す。
王宮の壁を何度も乗り越えて会いに行った、王国で唯一の彼女の友達。
彼女のスイーツを食べてみたいと言ったという。
「どうしてあなたが・・・」
「細かく説明している時間はない。無理やり繋いでいるからな。取り急ぎクレムのことだが、カノジョは無事だ」
「今どうしているの」
「王宮で身柄を預かっている。ただし、無断で人間界に行ったことについては処罰しなくてはならない」
「全然無事じゃないじゃない」
ジュリの言葉に、樹は反射的に噛み付いた。
花房はスプーンを思い切り睨みつけている姿を見ながら、王子相手でも物怖じしないのはとても彼女らしいなと少し思ってしまった。
「処罰といっても、謹慎だ。その間の身の安全はワタシが保証する」
「謹慎の期間は」
「それはクレム次第だ。本来、試験の合格を経て人間界へ行く許可が降りるものなのだから、それを通過しない限りそちらへは行かせられない。それまでは必然的に監視下に置かれることになるだろうな」
「試験を・・・」
「母上が審査する。カノジョがすぐにでも人間界へ戻りたいというものだから、近い日取りで行われるのだ。人間のパートナーとしてふさわしいレベルにあると判断されたら、正式に許可を下ろす。新しいスプーンも与えられる」
人間のパートナーとしてふさわしいレベル。
その言葉が、樹の頭の中で引っかかる。
スイーツで判断するというのだから、技術としてのレベルのことを言っているのだろう。
だけど、そんなものが関係あるだろうか。
「ただ、見ている限り厳しいだろうな」とジュリは続けた。
「練習はしているようだ。だけど、完成度は低い。おまけに、こちらに伝わってくるほど不安と緊張を抱えている。今度の審査では通過しないだろう。これから地道にやるとしておそらく1年は・・・」
1年、と聞いた樹の顔色が変わる。
長い。一人で過ごすには、あまりにも。
アリスが人間界にやってきたのは、一人だったからだ。
誰も彼女と同じ立場にはなれなかった。
近づいてこないし、近づかせなかった。
人間界に来て、自分と似ていると思った樹に近づき、関わっていく中でようやくスイーツと向き合おうと思ったところだったのだ。
彼女は、今からなのだ。
今まで、スイーツを作ることはなくても、スイーツを愛する心を持つ友人として樹を支えてくれた。
だから、道を歩き出そうとするアリスをこれから支えるのは、樹でなくてはならない。
部屋の中央、テーブルの上。
折れたスプーンの柄。聖マリーの紋章が刻印されたパーツの部分が、光っていた。
「それ、こっちに戻ってきたときに樹ちゃんが持っていたんだ」
「アリスのスプーンだわ」
「待って、僕が持ってくる」
花房がテーブルに歩み寄って、それを持ち上げる。
光っている部分に、人の姿が映っていた。
銀色の髪に、バイオレットの瞳の美しい人物。
なんとなく、どこかで見覚えがある。
花房が暫しその顔を見つめていると、唇が動いた。
これは映像だ。
「そなたが・・・?」
「僕じゃない。彼女が・・・」
喋りかけられたことに少し動揺しながらも、花房はスプーンを樹に渡す。
受け取った樹は、そこに映る人物の顔をまじまじと観察した。
「女王様に似てるわね」
「気づいたか。ワタシはその血を引いているのだ」
「・・・王子ってこと」
「ジュリという。そなたの名前は」
「東堂樹」
スイーツ王国の王子。
樹は、向こうでのアリスとの会話を思い出す。
王宮の壁を何度も乗り越えて会いに行った、王国で唯一の彼女の友達。
彼女のスイーツを食べてみたいと言ったという。
「どうしてあなたが・・・」
「細かく説明している時間はない。無理やり繋いでいるからな。取り急ぎクレムのことだが、カノジョは無事だ」
「今どうしているの」
「王宮で身柄を預かっている。ただし、無断で人間界に行ったことについては処罰しなくてはならない」
「全然無事じゃないじゃない」
ジュリの言葉に、樹は反射的に噛み付いた。
花房はスプーンを思い切り睨みつけている姿を見ながら、王子相手でも物怖じしないのはとても彼女らしいなと少し思ってしまった。
「処罰といっても、謹慎だ。その間の身の安全はワタシが保証する」
「謹慎の期間は」
「それはクレム次第だ。本来、試験の合格を経て人間界へ行く許可が降りるものなのだから、それを通過しない限りそちらへは行かせられない。それまでは必然的に監視下に置かれることになるだろうな」
「試験を・・・」
「母上が審査する。カノジョがすぐにでも人間界へ戻りたいというものだから、近い日取りで行われるのだ。人間のパートナーとしてふさわしいレベルにあると判断されたら、正式に許可を下ろす。新しいスプーンも与えられる」
人間のパートナーとしてふさわしいレベル。
その言葉が、樹の頭の中で引っかかる。
スイーツで判断するというのだから、技術としてのレベルのことを言っているのだろう。
だけど、そんなものが関係あるだろうか。
「ただ、見ている限り厳しいだろうな」とジュリは続けた。
「練習はしているようだ。だけど、完成度は低い。おまけに、こちらに伝わってくるほど不安と緊張を抱えている。今度の審査では通過しないだろう。これから地道にやるとしておそらく1年は・・・」
1年、と聞いた樹の顔色が変わる。
長い。一人で過ごすには、あまりにも。
アリスが人間界にやってきたのは、一人だったからだ。
誰も彼女と同じ立場にはなれなかった。
近づいてこないし、近づかせなかった。
人間界に来て、自分と似ていると思った樹に近づき、関わっていく中でようやくスイーツと向き合おうと思ったところだったのだ。
彼女は、今からなのだ。
今まで、スイーツを作ることはなくても、スイーツを愛する心を持つ友人として樹を支えてくれた。
だから、道を歩き出そうとするアリスをこれから支えるのは、樹でなくてはならない。