41話 決断の時
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心の整理をつける間も無く扉がまた開いて、花房が顔を出した。
彼が持つ銀のトレイにポットとカップ、シャトー製菓のパッケージの焼き菓子が載っている。
「お待たせ、樹ちゃん。執事の人が一人残っていたから用意してくれたよ。これ、カモミールティー」
「ありがとう」
花房がカップにお茶を注ぐと、湯気と共に良い香りが漂った。息をしているだけで落ち着くような優しい香りだ。
折角気が落ち着いてきたので、花房がいつからここにいるのか聞くのはやめておいた方がいい気がする。
樹は受け取ったカップに口をつけながら状況を尋ね、いちご達が今何をしているのか理解した。
「天王寺さん、そんなにひどかったの」
「今まで見てきた実力からは考えられないくらいね。そうでなくても、チームフランソワのレベルは高かった。天王寺さんが普通の状態でも互角だったもしれない」
「まあ、どちらにせよやることは変わらないわね」
樹は言いながら茶を飲み干した。
淡々としているようにも見えたが、動揺は消えていないように花房は感じた。
頭の片隅で明らかに別のことを考えている。
「それで、樹ちゃんは?何があったの」
花房は椅子に座ると、そう尋ねた。
樹は少し困ったように視線を落とす。
「なんというか、色々突飛で話しづらいのだけど」
「何かの流れに巻き込まれてスイーツ王国に行ったことと、樹ちゃんとパートナーが汽車から飛び降りて行ったところまでは聞いてるよ」
「バニラは、アリスのこと何か言ってた?」
「バニラや、カフェ君にもあまりよくわからないみたいだった。特殊な力を持っている子だというのと、関わり合いがあまりなかったということしか聞けなかったよ」
「・・・そうよね」
樹の表情は少し曇った。
ひとりコンプレックスに追い込まれるアリスのことを、誰も知らない。
誰かに美味しいスイーツを食べてほしいと思った、その気持ちは他のスピリッツ達と同じはずなのに、同じ道を歩いていけない。
「みんなと別れた後、しばらくアリスと一緒にいたわ。でも、王宮の近くで衛兵みたいなスピリッツに見つかって、アリスは捕まった。私も捕まるはずだったんだけど、アリスがぎりぎりのところでこっちに送り返してくれた」
「樹ちゃんだけを?」
「色々と力を使っていて、限界が来ていたみたいで」
遠ざかっていくアリスの姿が樹の頭の中にフラッシュバックする。
このまま、二度と会えないのだろうか。
ふと過ぎったそんな予感に、樹は思わずカップを握りしめる。
「私、スイーツ王国に行くわ」
放たれた声に宿る真剣さに、花房は一瞬息を呑んだ。
瞳が不安で揺れている。
アリスのことを思っているのだと痛いほど伝わってきた。
「だけど、どうするつもり?」
「分からないけれど、助けないと」
「行けば樹ちゃんも危ないかもしれない。それに・・・」
グランプリはどうするつもりなのか、と言いかけて飲み込む。
樹が優先するのはきっと、大切なパートナーの方だ。
話に聞いただけ、それでも聖マリーに来てからずっと一緒に過ごしてきたスピリッツのことを、彼女がどれだけ思っているかは分かる。
「分かった。樹ちゃんが行くなら僕も一緒に行く」
「どうして———」
「ひとりで行かせたくない」
花房はカップを包む樹の手の上に、自身の手を重ねる。
強い眼差しだった。樹は何故、どういうこと、と聞き返すこともできずその目を見つめる。
左の手が静かに熱を帯びていく。一瞬の沈黙が訪れた。
「———そこにいるのは、クレムの友人か」
そこに、突如として聞いたことのない声が響いた。
彼が持つ銀のトレイにポットとカップ、シャトー製菓のパッケージの焼き菓子が載っている。
「お待たせ、樹ちゃん。執事の人が一人残っていたから用意してくれたよ。これ、カモミールティー」
「ありがとう」
花房がカップにお茶を注ぐと、湯気と共に良い香りが漂った。息をしているだけで落ち着くような優しい香りだ。
折角気が落ち着いてきたので、花房がいつからここにいるのか聞くのはやめておいた方がいい気がする。
樹は受け取ったカップに口をつけながら状況を尋ね、いちご達が今何をしているのか理解した。
「天王寺さん、そんなにひどかったの」
「今まで見てきた実力からは考えられないくらいね。そうでなくても、チームフランソワのレベルは高かった。天王寺さんが普通の状態でも互角だったもしれない」
「まあ、どちらにせよやることは変わらないわね」
樹は言いながら茶を飲み干した。
淡々としているようにも見えたが、動揺は消えていないように花房は感じた。
頭の片隅で明らかに別のことを考えている。
「それで、樹ちゃんは?何があったの」
花房は椅子に座ると、そう尋ねた。
樹は少し困ったように視線を落とす。
「なんというか、色々突飛で話しづらいのだけど」
「何かの流れに巻き込まれてスイーツ王国に行ったことと、樹ちゃんとパートナーが汽車から飛び降りて行ったところまでは聞いてるよ」
「バニラは、アリスのこと何か言ってた?」
「バニラや、カフェ君にもあまりよくわからないみたいだった。特殊な力を持っている子だというのと、関わり合いがあまりなかったということしか聞けなかったよ」
「・・・そうよね」
樹の表情は少し曇った。
ひとりコンプレックスに追い込まれるアリスのことを、誰も知らない。
誰かに美味しいスイーツを食べてほしいと思った、その気持ちは他のスピリッツ達と同じはずなのに、同じ道を歩いていけない。
「みんなと別れた後、しばらくアリスと一緒にいたわ。でも、王宮の近くで衛兵みたいなスピリッツに見つかって、アリスは捕まった。私も捕まるはずだったんだけど、アリスがぎりぎりのところでこっちに送り返してくれた」
「樹ちゃんだけを?」
「色々と力を使っていて、限界が来ていたみたいで」
遠ざかっていくアリスの姿が樹の頭の中にフラッシュバックする。
このまま、二度と会えないのだろうか。
ふと過ぎったそんな予感に、樹は思わずカップを握りしめる。
「私、スイーツ王国に行くわ」
放たれた声に宿る真剣さに、花房は一瞬息を呑んだ。
瞳が不安で揺れている。
アリスのことを思っているのだと痛いほど伝わってきた。
「だけど、どうするつもり?」
「分からないけれど、助けないと」
「行けば樹ちゃんも危ないかもしれない。それに・・・」
グランプリはどうするつもりなのか、と言いかけて飲み込む。
樹が優先するのはきっと、大切なパートナーの方だ。
話に聞いただけ、それでも聖マリーに来てからずっと一緒に過ごしてきたスピリッツのことを、彼女がどれだけ思っているかは分かる。
「分かった。樹ちゃんが行くなら僕も一緒に行く」
「どうして———」
「ひとりで行かせたくない」
花房はカップを包む樹の手の上に、自身の手を重ねる。
強い眼差しだった。樹は何故、どういうこと、と聞き返すこともできずその目を見つめる。
左の手が静かに熱を帯びていく。一瞬の沈黙が訪れた。
「———そこにいるのは、クレムの友人か」
そこに、突如として聞いたことのない声が響いた。