41話 決断の時
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その後見た試合映像の中に、いちご達の知る天王寺はいなかった。
大画面に映し出される彼女は、小さな動き一つとっても精彩を欠いているとしか言えない。
稚拙に歪んだパイピング、素人同然のテンパリング。
そして、出来上がったドレスは、着用した天王寺が軽く腕を上げた途端に飾りがボロボロと壊れ落ちる有様だった。
その場に彼女が崩れ落ちる様をカメラは映している。
そんな中、満場一致の評価を得て勝利したフランソワはアンリ先生をパートナーに踊る。
絵に描いたように出来過ぎた美男美女の組み合わせ。
二人が回転する度に、フランソワのドレスの裾やヴェールがひらひらと揺らめき、その美しさと完成度を見せつけるようだった。
やがて、ダンスは終わり、アンリ先生が彼女の頬に唇を寄せた。
その瞬間、天王寺は雷に打たれたように息を呑み、ひとり会場を走り去っていった。
その痛々しさに顔を俯かせることしかできないメンバーの顔が一瞬だけ映った。
「もうやめて!」
たまらず叫んだいちごの言葉を受けて、執事の佐藤が映像を停止させた。
一同はしばらく言葉もなかった。
天王寺がすんなりと負けるものかと思っていたが、その差はあっさりとついてしまったのだ。
映像を見終えた後も、いちごの頭の中には天王寺の表情が焼き付いていた。
作業中からして顔色が悪かった。何か他のことに気を取られているように虚ろな目。そして、フランソワと踊るアンリ先生を見つめている時の強張った顔。
見せつけるようなキスを前にして、流した涙。
もういちごには彼女の気持ちが分かっていた。切り裂くような胸の痛みまで同調してくるようだった。
「わたし、天王寺さんに会ってくる!」
いちごはおもむろにソファから立ち上がって宣言した。じっとしていられない。
とにかく話がしたい、する必要がある、という思いに駆られていた。
「待て、天野。会ってくるって、どこに行くつもりだ?」
そこに、樫野が口を挟む。その口調はいちごよりも俄然落ち着いていた。
「どこって、天王寺さんの別荘に・・・」
「まだ戻ってないと思うよ、いちごちゃん」
「準決勝で私たちと対戦した時、モンサンミッシェルのホテルで一泊したじゃない」
「あっ!そうだった・・・天王寺さんはまだモンサンミッシェルなんだ・・・」
花房と小城にも指摘されて初めていちごは気づく。本当に衝動のままに別荘まで駆けていこうとしていたところだった。
「天野さんが心配する気持ちはよく分かるけど、明日にした方がいいよ」
安堂の言うことはもっともだ。物理的に距離が離れている以上、気持ちはどうしようもない。
いちごは小さく頷こうとしたが、天王寺が最後に流した涙がどうしても頭から消えず、そのまま俯いてしまう。
その顔を見て小城が小さく息をついた。
「仕方ないわねえ。そんなに心配なら、うちのヘリを使ってモンサンミッシェルに行けばいいわ」
「小城さん!ありがとうございます!」
いちごはその言葉にぱっと表情を明るくして深く頭を下げた。その素直な反応に、小城も呆れたような顔を作りつつ口元を緩ませる。
気前のいい女だと安堂たちはここに来てやや彼女を見直した。
「真くん達も一緒に行く?」
「いや、俺たちはチームフランソワをもう少し詳しく調べようと思います」
樫野は答える。決して小城を避けたいという気持ちからだけではなく、あの映像を見て彼女達の技術力が予想以上に高かったことに危機感を覚えたからだ。
「パリ本校の生徒だし、チームリカルドのれもんちゃんだったらあの人達をよく知っているかもね。話を聞いてみる?」
「その価値はあるかもな。花房は?」
安堂の提案に樫野が頷き、花房の方を見る。花房は黙って二人の肩に手を置いた。
「情報収集は二人に任せる。僕は樹ちゃんについていたいんだけど、いいかな」
いつものように笑みを浮かべているようで、どこかぎこちない。そんな彼を見て、安堂も肩に腕を回して応えた。
「こっちこそ、任せたよ」
その様子を見て、やや仕方なさそうな間合いを演出して樫野も花房と肩を組む形になった。
「ま、あいつのことだからどうせ問題ないだろ。目が覚めたら、心配かけんなって言っといてくれ」
「相変わらず素直じゃないよね、樫野は」
言いながら、花房もわずかに笑みを零した。
大画面に映し出される彼女は、小さな動き一つとっても精彩を欠いているとしか言えない。
稚拙に歪んだパイピング、素人同然のテンパリング。
そして、出来上がったドレスは、着用した天王寺が軽く腕を上げた途端に飾りがボロボロと壊れ落ちる有様だった。
その場に彼女が崩れ落ちる様をカメラは映している。
そんな中、満場一致の評価を得て勝利したフランソワはアンリ先生をパートナーに踊る。
絵に描いたように出来過ぎた美男美女の組み合わせ。
二人が回転する度に、フランソワのドレスの裾やヴェールがひらひらと揺らめき、その美しさと完成度を見せつけるようだった。
やがて、ダンスは終わり、アンリ先生が彼女の頬に唇を寄せた。
その瞬間、天王寺は雷に打たれたように息を呑み、ひとり会場を走り去っていった。
その痛々しさに顔を俯かせることしかできないメンバーの顔が一瞬だけ映った。
「もうやめて!」
たまらず叫んだいちごの言葉を受けて、執事の佐藤が映像を停止させた。
一同はしばらく言葉もなかった。
天王寺がすんなりと負けるものかと思っていたが、その差はあっさりとついてしまったのだ。
映像を見終えた後も、いちごの頭の中には天王寺の表情が焼き付いていた。
作業中からして顔色が悪かった。何か他のことに気を取られているように虚ろな目。そして、フランソワと踊るアンリ先生を見つめている時の強張った顔。
見せつけるようなキスを前にして、流した涙。
もういちごには彼女の気持ちが分かっていた。切り裂くような胸の痛みまで同調してくるようだった。
「わたし、天王寺さんに会ってくる!」
いちごはおもむろにソファから立ち上がって宣言した。じっとしていられない。
とにかく話がしたい、する必要がある、という思いに駆られていた。
「待て、天野。会ってくるって、どこに行くつもりだ?」
そこに、樫野が口を挟む。その口調はいちごよりも俄然落ち着いていた。
「どこって、天王寺さんの別荘に・・・」
「まだ戻ってないと思うよ、いちごちゃん」
「準決勝で私たちと対戦した時、モンサンミッシェルのホテルで一泊したじゃない」
「あっ!そうだった・・・天王寺さんはまだモンサンミッシェルなんだ・・・」
花房と小城にも指摘されて初めていちごは気づく。本当に衝動のままに別荘まで駆けていこうとしていたところだった。
「天野さんが心配する気持ちはよく分かるけど、明日にした方がいいよ」
安堂の言うことはもっともだ。物理的に距離が離れている以上、気持ちはどうしようもない。
いちごは小さく頷こうとしたが、天王寺が最後に流した涙がどうしても頭から消えず、そのまま俯いてしまう。
その顔を見て小城が小さく息をついた。
「仕方ないわねえ。そんなに心配なら、うちのヘリを使ってモンサンミッシェルに行けばいいわ」
「小城さん!ありがとうございます!」
いちごはその言葉にぱっと表情を明るくして深く頭を下げた。その素直な反応に、小城も呆れたような顔を作りつつ口元を緩ませる。
気前のいい女だと安堂たちはここに来てやや彼女を見直した。
「真くん達も一緒に行く?」
「いや、俺たちはチームフランソワをもう少し詳しく調べようと思います」
樫野は答える。決して小城を避けたいという気持ちからだけではなく、あの映像を見て彼女達の技術力が予想以上に高かったことに危機感を覚えたからだ。
「パリ本校の生徒だし、チームリカルドのれもんちゃんだったらあの人達をよく知っているかもね。話を聞いてみる?」
「その価値はあるかもな。花房は?」
安堂の提案に樫野が頷き、花房の方を見る。花房は黙って二人の肩に手を置いた。
「情報収集は二人に任せる。僕は樹ちゃんについていたいんだけど、いいかな」
いつものように笑みを浮かべているようで、どこかぎこちない。そんな彼を見て、安堂も肩に腕を回して応えた。
「こっちこそ、任せたよ」
その様子を見て、やや仕方なさそうな間合いを演出して樫野も花房と肩を組む形になった。
「ま、あいつのことだからどうせ問題ないだろ。目が覚めたら、心配かけんなって言っといてくれ」
「相変わらず素直じゃないよね、樫野は」
言いながら、花房もわずかに笑みを零した。