41話 予期せぬ帰還
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夜のパリ本校では、まだ調理室に明かりが点っていた。樫野、安堂、花房と彼らのパートナーは揃って深刻な顔を浮かべていた。いちごと樹が調理室を出てから何時間も経っている。
途中、何度か校内を探しに行ったものの、姿を見つけられることはなく、守衛は日本人の女の子は一人も出て行ってないというばかりだった。見つかったのは何故か小城の持ち物らしき不気味な人形だけで、なんとも不安を催す。
「・・・遅すぎる・・・!」
樫野は、窓ガラスに額を押し当てて絞り出すように声を吐いた。花房と安堂は、彼の様子を横目にそれぞれ携帯電話を耳に当てていたが、息を吐いて画面を閉じる。
「いちごちゃんにも繋がらない?」
「・・・うん、だめだ。大家さんにも聞いてみたけど、まだアパートには帰ってきてないって」
樫野は唇を噛みしめている。樹のことも気になるが、きっといちごと一緒なのだろう。そして、そのいちごがここから離れる原因を作ったのは自分に違いなかった。何かあったのだとしたら、自分は。そう思っていると、出し抜けに調理室の扉が開く音がした。
「ただいまー!」
紛れも無い、いちごの声だ。安堂と花房、スピリッツ達は表情を緩めて近寄った。
「天野さん!」
「おかえり、いちごちゃん!」
「どこ行ってたんです?」
「みんなみんな、心配してたですう・・・」
樫野はガラスに向かって一人、口元を緩めた。その表情は誰にも悟られることなくすぐに消えていく。
「ごっめーん、いろいろあって!」
「へへへへへ・・・」
呑気に笑っているいちごとバニラの元へ樫野が近づき一言発しようしたところで、陰から小城とマロンが「お邪魔しまーす!」と現れた。反射的に樫野は後ずさって窓ガラスに張り付く。
「こ、小城先輩!?」
「ほらみて、樫野!フレーズ・デ・ボワ!小城さんのおかげでたどり着いたの!」
いちごはかご一杯の野いちごを掲げてにこやかに告げた。どうやら紆余曲折あって、求めていた苺を見つけ出したようだ。喜ばしいニュースにみんなは明るい顔になりかけたが、先程から放っておけない疑問が一秒ごとに膨らんでいくのを感じていた。
「あのさ・・・樹ちゃんは?」
口を開いたのは、花房だった。小城の後ろから現れるものと思っていたが、いくら待てども姿が見えないのだ。いちごは、それを聞いて「え?」と目を丸くした。
「樹ちゃん、まだ帰ってないの・・・?」
その返答に、花房は背筋がすっと冷えるのを感じた。安堂たちも思わず顔を見合わせる。二の句が継げない様子の花房の代わりに、樫野が尋ねた。
「一緒じゃなかったのか?」
「この校舎でわたしと小城さん、突然スイーツ王国にワープしたんだけど、その時樹ちゃんも一緒だったの。だけど、樹ちゃんがパートナーって言ってたスピリッツの女の子が突然樹ちゃんを連れてどこかに行っちゃって・・・」
「待て天野、パートナーだと?」
情報量に混乱し、樫野は思わず口を挟んだ。わたしもよく分からなくて、と戸惑ういちごの代わりにバニラが答えた。
「クレムっていう子。同期だったから、バニラ達は知ってるよ。魔法の力が強い子だったけど、人間界に行く許可がなかなか出なくて、その内に力を暴走させたとか言われてたの」
「なるほど、彼女が・・・人間界に来て、樹のパートナーになっていたんですね。そうしたら、樹が最初から僕らの姿を認識できたことにも説明がつく」
「お〜、すっきりしたですぅ!」
「すっきりしてる場合じゃないですわ!樹は帰ってきてませんのよ!」
「だいたい、そのクレムってやつが怪しすぎるだろ。パートナーって言ってるみたいだが、そいつと一緒で東堂は大丈夫なのかよ」
スピリッツ達の会話を聞いて、樫野は眉を潜める。
「それは大丈夫だと思うよ。樹ちゃんの話だと、その子が何かするということはない」
「・・・花房、知ってたのかい?」
「前に聞いたんだ。樹ちゃんは、最初は事情を知らないままにパートナーになっていたみたいだけど、今ではお互いに信頼してる。僕やカフェくん達と同じだよ」
「五月・・・」
花房はオーブンの方を見つめる。スイーツ王国と繋がる扉。彼の考えが分かった気がしてカフェはわずかに息を飲む。
「ということは、スイーツ王国で何かあったんだ。カフェくん、連れて行ってくれる?」
「・・・待って、五月。何か・・・」
頷こうとした矢先にカフェはオーブンから異変を感じ取った。中から光が溢れてくる。自分たちがスイーツ王国に出入りする時と同じ。ゲートが開いたときの光だ。みんなが声もなく見守る中、オーブンの扉が内側から開いた。中から小さな光が一つ零れたかと思うと、ゆっくり下へ落ちながら大きくなっていく。
それが人の形を成していくのに気づき、花房は反射的にそれを受け止めるように腕を伸ばした。光が徐々に薄くなっていき、人間の温度と重みが花房に伝わってくる。
「樹ちゃん・・・!」
姿を現した樹に花房は呼びかけたが、意識が無いらしく反応が返ってこない。呼吸はあるようだと確認し一安心するが、状況が分からない。
「・・・クレムはいないみたいね」
「どういうことかしら?」
マロンと小城も首をひねる。とにかく何処かに寝かせたほうがいいんじゃないの、と珍しく年長者らしいことを言ったかと思うと、携帯電話の着信音が調理室に響いた。
「・・・なんなんだ、こんな時に!」
樫野の携帯だ。だからと言って出ないわけにもいかない。しかも発信者は理事長だ。応対する樫野の顔が突然驚愕に染まる。
「えっ!?準決勝戦でチーム天王寺が負けた!?」
そのニュースにいちご達にも動揺が走る。花房は驚きながらも、腕に抱いたままの樹の顔に視線を落とす。その目は相変わらず閉じたままだったが、僅かに指先が動いた気がした。手に何かを握っていることにカフェが気づき、確認する。それは、半分に折れたスピリッツのスプーンの柄だった。
「アリス・・・」
譫言のように、樹の口はその名前を呼んだ。
途中、何度か校内を探しに行ったものの、姿を見つけられることはなく、守衛は日本人の女の子は一人も出て行ってないというばかりだった。見つかったのは何故か小城の持ち物らしき不気味な人形だけで、なんとも不安を催す。
「・・・遅すぎる・・・!」
樫野は、窓ガラスに額を押し当てて絞り出すように声を吐いた。花房と安堂は、彼の様子を横目にそれぞれ携帯電話を耳に当てていたが、息を吐いて画面を閉じる。
「いちごちゃんにも繋がらない?」
「・・・うん、だめだ。大家さんにも聞いてみたけど、まだアパートには帰ってきてないって」
樫野は唇を噛みしめている。樹のことも気になるが、きっといちごと一緒なのだろう。そして、そのいちごがここから離れる原因を作ったのは自分に違いなかった。何かあったのだとしたら、自分は。そう思っていると、出し抜けに調理室の扉が開く音がした。
「ただいまー!」
紛れも無い、いちごの声だ。安堂と花房、スピリッツ達は表情を緩めて近寄った。
「天野さん!」
「おかえり、いちごちゃん!」
「どこ行ってたんです?」
「みんなみんな、心配してたですう・・・」
樫野はガラスに向かって一人、口元を緩めた。その表情は誰にも悟られることなくすぐに消えていく。
「ごっめーん、いろいろあって!」
「へへへへへ・・・」
呑気に笑っているいちごとバニラの元へ樫野が近づき一言発しようしたところで、陰から小城とマロンが「お邪魔しまーす!」と現れた。反射的に樫野は後ずさって窓ガラスに張り付く。
「こ、小城先輩!?」
「ほらみて、樫野!フレーズ・デ・ボワ!小城さんのおかげでたどり着いたの!」
いちごはかご一杯の野いちごを掲げてにこやかに告げた。どうやら紆余曲折あって、求めていた苺を見つけ出したようだ。喜ばしいニュースにみんなは明るい顔になりかけたが、先程から放っておけない疑問が一秒ごとに膨らんでいくのを感じていた。
「あのさ・・・樹ちゃんは?」
口を開いたのは、花房だった。小城の後ろから現れるものと思っていたが、いくら待てども姿が見えないのだ。いちごは、それを聞いて「え?」と目を丸くした。
「樹ちゃん、まだ帰ってないの・・・?」
その返答に、花房は背筋がすっと冷えるのを感じた。安堂たちも思わず顔を見合わせる。二の句が継げない様子の花房の代わりに、樫野が尋ねた。
「一緒じゃなかったのか?」
「この校舎でわたしと小城さん、突然スイーツ王国にワープしたんだけど、その時樹ちゃんも一緒だったの。だけど、樹ちゃんがパートナーって言ってたスピリッツの女の子が突然樹ちゃんを連れてどこかに行っちゃって・・・」
「待て天野、パートナーだと?」
情報量に混乱し、樫野は思わず口を挟んだ。わたしもよく分からなくて、と戸惑ういちごの代わりにバニラが答えた。
「クレムっていう子。同期だったから、バニラ達は知ってるよ。魔法の力が強い子だったけど、人間界に行く許可がなかなか出なくて、その内に力を暴走させたとか言われてたの」
「なるほど、彼女が・・・人間界に来て、樹のパートナーになっていたんですね。そうしたら、樹が最初から僕らの姿を認識できたことにも説明がつく」
「お〜、すっきりしたですぅ!」
「すっきりしてる場合じゃないですわ!樹は帰ってきてませんのよ!」
「だいたい、そのクレムってやつが怪しすぎるだろ。パートナーって言ってるみたいだが、そいつと一緒で東堂は大丈夫なのかよ」
スピリッツ達の会話を聞いて、樫野は眉を潜める。
「それは大丈夫だと思うよ。樹ちゃんの話だと、その子が何かするということはない」
「・・・花房、知ってたのかい?」
「前に聞いたんだ。樹ちゃんは、最初は事情を知らないままにパートナーになっていたみたいだけど、今ではお互いに信頼してる。僕やカフェくん達と同じだよ」
「五月・・・」
花房はオーブンの方を見つめる。スイーツ王国と繋がる扉。彼の考えが分かった気がしてカフェはわずかに息を飲む。
「ということは、スイーツ王国で何かあったんだ。カフェくん、連れて行ってくれる?」
「・・・待って、五月。何か・・・」
頷こうとした矢先にカフェはオーブンから異変を感じ取った。中から光が溢れてくる。自分たちがスイーツ王国に出入りする時と同じ。ゲートが開いたときの光だ。みんなが声もなく見守る中、オーブンの扉が内側から開いた。中から小さな光が一つ零れたかと思うと、ゆっくり下へ落ちながら大きくなっていく。
それが人の形を成していくのに気づき、花房は反射的にそれを受け止めるように腕を伸ばした。光が徐々に薄くなっていき、人間の温度と重みが花房に伝わってくる。
「樹ちゃん・・・!」
姿を現した樹に花房は呼びかけたが、意識が無いらしく反応が返ってこない。呼吸はあるようだと確認し一安心するが、状況が分からない。
「・・・クレムはいないみたいね」
「どういうことかしら?」
マロンと小城も首をひねる。とにかく何処かに寝かせたほうがいいんじゃないの、と珍しく年長者らしいことを言ったかと思うと、携帯電話の着信音が調理室に響いた。
「・・・なんなんだ、こんな時に!」
樫野の携帯だ。だからと言って出ないわけにもいかない。しかも発信者は理事長だ。応対する樫野の顔が突然驚愕に染まる。
「えっ!?準決勝戦でチーム天王寺が負けた!?」
そのニュースにいちご達にも動揺が走る。花房は驚きながらも、腕に抱いたままの樹の顔に視線を落とす。その目は相変わらず閉じたままだったが、僅かに指先が動いた気がした。手に何かを握っていることにカフェが気づき、確認する。それは、半分に折れたスピリッツのスプーンの柄だった。
「アリス・・・」
譫言のように、樹の口はその名前を呼んだ。