41話 予期せぬ帰還
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「・・・ねえ、お城の近くまで行っていいかな?」
ふと、アリスが遠くを見ながら言った。
「私は何でも構わないけど・・・人目につかないように行けるの?」
「うん。それはいくらでも」
「じゃあ行きましょう」
「オッケー。付いてきて」
アリスが進む後ろを付いて歩いていく。森の中は相変わらずずっとどこまでも同じ景色に見えるが、アリスには勝手がわかっているようだった。他にスピリッツがいないとここがスイーツ王国だということも忘れそうだ。自分の縮尺具合にも慣れてきてしまった樹はアリスと他愛もないことを話しながら道を進んだ。
しばらくすると、森の向こうに高い壁が見えてきた。ぐるっと回り込んで城の裏手までやってきたらしい。アリスは壁の前で足を止め、遠い目をする。
「一時期、毎日この壁を飛び越えてたんだよね」
「えっ?お城に?セキュリティ緩いわね」
「私にかかればね。普通のスピリッツは超えられない壁らしいよ」
「お城に何をしに行ってたのよ」
壁を見上げながら樹は聞いたが、そこで返事が途切れた。何かと思えば、アリスが城壁の側に屈んで何かを見つめている。側に行き一緒になって屈むと、足元に紫色の小さな花が咲いている。
「菫よね」
「うん・・・こんなところにも咲いてるんだ」
人間界では菫が咲くような季節では無いが、そうした事情はスイーツ王国では不問のようだ。好きな花なのかと思ったが、それにしてはアリスの表情が不自然に遠く、何かあるのだろうと樹は察する。アリスは小さな花びらに指で触れながら、わずかに瞳を揺らす。
「友達に会いに行ってたんだよ」
「・・・えっと、お城の中に?」
「うん。その子が菫、好きだった。瞳が菫の色だからなのかな。一緒に摘んで遊んだりしてた」
急に話を戻すアリスに戸惑いながらも、樹は慎重に聞く。なるほど、友達というからには、本当に生まれてこの方ずっと一人というわけではなかったのかと少しだけ安心する。が、すぐに疑問が生じ始めた。
「・・・お城の中で?」
思わず確認するように言うと、アリスは笑った。
「鋭いね。その子、王子様だったんだよ。後でわかって色々上手くいかないことが重なって、それっきり。私のスイーツが食べてみたいとか言ってたけど、もうきっとそんなこと覚えてないよ」
やや早口になりながらアリスは一息で説明した。深く突っ込んで欲しくはなさそうだ。壁を超えてやってくるスピリッツなどそうそういないだろうから記憶には残っているのではないか、と樹には思えたが事実は王子にしかわからない。今も、この壁の向こうにいるのだろうか。
見えるはずがないその奥を感じられないかと樹が城壁に触れると、アリスは咳払いして明るい顔を作った。
「まあそれは、今はいいから置いといて!私、花房のことで分かったことが・・・」
唐突に出た花房の名前に樹が反応することは無かった。アリスのその言葉が途切れると同時に、複数のスピリッツが二人の周りを囲むように現れたからだった。世界が違うといえど、雰囲気で分かる。彼らは城の衛兵だ。
なに、と声をあげる間も無く衛兵は細長い槍に似た武器をこちらに向ける。平和ボケした話ではあるが、この世界にも防犯態勢というものが存在するのは軽く盲点だった。
「動くな!お前たち、城の側で何をしている!」
「何もしてないわ!」
樹は反射的に言い返す。アリスの様子を横目で見るとどこを見るでもなく、じっと俯いていた。怯えているだけではないようなのだが、何を考えているか分からない。
「・・・お前、クレムだな?ようやく見つけたぞ。無許可で人間界に行ったことについて、話を聞かねばならないな」
「何、クレムだと・・・?」
「おかしな魔法を使うんじゃないだろうな?」
アリスの正体に気づいた衛兵たちは、緊張が増したようだった。一体どうなるのだと思った時、樹の背に目を向けた衛兵が騒ぐ。
「おい、こいつ人間か!?羽根がないぞ!」
「なに!?無許可で人間界に行ったばかりか、人間を引き入れたのか!?」
突きつけられた槍の先端が迫り、樹は息を飲む。前回来た時はばれなかったからよかったのだ。やはり、ここは人間が許可もなしにやすやすと踏み入れて良い場所ではないらしい。罪に問われるようなことをしたつもりはないが、城に近づいたのはまずかったかもしれない。話は通じるだろうか。元の世界には戻れるだろうか。すぐ戻れなくてもせめて、グランプリまでにはーーー
樹が固唾を飲んで思考を巡らせている刹那、アリスが樹の腕に触れた。その手に、だんだんと光が集まっていくのが分かった。小さな光が、樹だけを包み込んでいく。
はっとした。アリスはぎりぎりの力で自分だけを逃がすつもりなのだと樹は瞬時に察した。不審に思った衛兵のリーダーらしきスピリッツが早く連れて行けと怒鳴る。その瞬間、樹の目の前で光が一気に弾け、何もかもが遠ざかっていった。
「待って!アリス!」
急速に意識が遠ざかっていく中、こちらに微笑みかけたアリスが力なくその場に倒れ臥すのが見えて樹は叫んだ。その叫びも、もはや言葉にはならなかった。
ふと、アリスが遠くを見ながら言った。
「私は何でも構わないけど・・・人目につかないように行けるの?」
「うん。それはいくらでも」
「じゃあ行きましょう」
「オッケー。付いてきて」
アリスが進む後ろを付いて歩いていく。森の中は相変わらずずっとどこまでも同じ景色に見えるが、アリスには勝手がわかっているようだった。他にスピリッツがいないとここがスイーツ王国だということも忘れそうだ。自分の縮尺具合にも慣れてきてしまった樹はアリスと他愛もないことを話しながら道を進んだ。
しばらくすると、森の向こうに高い壁が見えてきた。ぐるっと回り込んで城の裏手までやってきたらしい。アリスは壁の前で足を止め、遠い目をする。
「一時期、毎日この壁を飛び越えてたんだよね」
「えっ?お城に?セキュリティ緩いわね」
「私にかかればね。普通のスピリッツは超えられない壁らしいよ」
「お城に何をしに行ってたのよ」
壁を見上げながら樹は聞いたが、そこで返事が途切れた。何かと思えば、アリスが城壁の側に屈んで何かを見つめている。側に行き一緒になって屈むと、足元に紫色の小さな花が咲いている。
「菫よね」
「うん・・・こんなところにも咲いてるんだ」
人間界では菫が咲くような季節では無いが、そうした事情はスイーツ王国では不問のようだ。好きな花なのかと思ったが、それにしてはアリスの表情が不自然に遠く、何かあるのだろうと樹は察する。アリスは小さな花びらに指で触れながら、わずかに瞳を揺らす。
「友達に会いに行ってたんだよ」
「・・・えっと、お城の中に?」
「うん。その子が菫、好きだった。瞳が菫の色だからなのかな。一緒に摘んで遊んだりしてた」
急に話を戻すアリスに戸惑いながらも、樹は慎重に聞く。なるほど、友達というからには、本当に生まれてこの方ずっと一人というわけではなかったのかと少しだけ安心する。が、すぐに疑問が生じ始めた。
「・・・お城の中で?」
思わず確認するように言うと、アリスは笑った。
「鋭いね。その子、王子様だったんだよ。後でわかって色々上手くいかないことが重なって、それっきり。私のスイーツが食べてみたいとか言ってたけど、もうきっとそんなこと覚えてないよ」
やや早口になりながらアリスは一息で説明した。深く突っ込んで欲しくはなさそうだ。壁を超えてやってくるスピリッツなどそうそういないだろうから記憶には残っているのではないか、と樹には思えたが事実は王子にしかわからない。今も、この壁の向こうにいるのだろうか。
見えるはずがないその奥を感じられないかと樹が城壁に触れると、アリスは咳払いして明るい顔を作った。
「まあそれは、今はいいから置いといて!私、花房のことで分かったことが・・・」
唐突に出た花房の名前に樹が反応することは無かった。アリスのその言葉が途切れると同時に、複数のスピリッツが二人の周りを囲むように現れたからだった。世界が違うといえど、雰囲気で分かる。彼らは城の衛兵だ。
なに、と声をあげる間も無く衛兵は細長い槍に似た武器をこちらに向ける。平和ボケした話ではあるが、この世界にも防犯態勢というものが存在するのは軽く盲点だった。
「動くな!お前たち、城の側で何をしている!」
「何もしてないわ!」
樹は反射的に言い返す。アリスの様子を横目で見るとどこを見るでもなく、じっと俯いていた。怯えているだけではないようなのだが、何を考えているか分からない。
「・・・お前、クレムだな?ようやく見つけたぞ。無許可で人間界に行ったことについて、話を聞かねばならないな」
「何、クレムだと・・・?」
「おかしな魔法を使うんじゃないだろうな?」
アリスの正体に気づいた衛兵たちは、緊張が増したようだった。一体どうなるのだと思った時、樹の背に目を向けた衛兵が騒ぐ。
「おい、こいつ人間か!?羽根がないぞ!」
「なに!?無許可で人間界に行ったばかりか、人間を引き入れたのか!?」
突きつけられた槍の先端が迫り、樹は息を飲む。前回来た時はばれなかったからよかったのだ。やはり、ここは人間が許可もなしにやすやすと踏み入れて良い場所ではないらしい。罪に問われるようなことをしたつもりはないが、城に近づいたのはまずかったかもしれない。話は通じるだろうか。元の世界には戻れるだろうか。すぐ戻れなくてもせめて、グランプリまでにはーーー
樹が固唾を飲んで思考を巡らせている刹那、アリスが樹の腕に触れた。その手に、だんだんと光が集まっていくのが分かった。小さな光が、樹だけを包み込んでいく。
はっとした。アリスはぎりぎりの力で自分だけを逃がすつもりなのだと樹は瞬時に察した。不審に思った衛兵のリーダーらしきスピリッツが早く連れて行けと怒鳴る。その瞬間、樹の目の前で光が一気に弾け、何もかもが遠ざかっていった。
「待って!アリス!」
急速に意識が遠ざかっていく中、こちらに微笑みかけたアリスが力なくその場に倒れ臥すのが見えて樹は叫んだ。その叫びも、もはや言葉にはならなかった。