41話 予期せぬ帰還
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「じゃあ、私も少し休憩に出るわ。いちごがいたら連れて帰ってくるから」
しばらく互いに作ったものの出来栄えを話し合っていたが、それも一段落して樹は外に出ることにした。了解の返事をする三人に片手を上げて答えながら、調理室を背にする。
意識して校内を人気の無い方に歩いていくと、物陰からひょっこりとアリスが出てきた。やはり喋ろうと思えばこの方法に限る。
「おはよ、樹。グランプリに向けて調子はどう?」
「問題ないわ。今日は飴細工の練習よ。相手は全員ヨーロッパ圏の人間で、和モチーフが武器になると思うから日本のイメージが出せそうな花の形を色々作ってみているの」
「花に拘るのは誰かさんの影響?」
アリスがからかうと、樹は赤くなって物言いたげに眉を顰めたが否定しなかった。その反応に、アリスは「ほーう」と目を踊らせる。否定はしないかわりに、樹はアリスの肩を強めに小突いた。
「いたっ・・・普通に痛い・・・でも、素敵だと思うよ。そういうの」
「はいはい、どうも」
「本当にそう思うんだけどなあ・・・」
その時、大きな鐘の音が二人の耳をついた。あまりに大きく響き渡る音に、窓ガラスもビリビリと揺れているのが分かる。樹はゴーン、と続けざまに鳴る音の発生源を探そうと目を凝らした。
廊下の突き当たりに柱時計が立っている。随分古いもののようだが、発生源はそこだ。しかし、今までここで練習をしてきてこんな鐘の音は聞いたことがない。
「何が起きてるの・・・?」
「これは、まさか・・・」
「アリス、何か知って・・・」
辺りがとつぜん一面の銀色に包まれる。次の瞬間、二人の姿はパリ本校の校舎内から跡形も無く掻き消えていた。
ガタンゴトン、という規則正しい振動を感じて樹の意識が覚めた。空気感で、学内にいるのではないことが分かる。外の空気だ。もっと言えば、パリの空気とも違う。
そこは汽車の上だった。しっかりと座席に納まっている他の乗客たちは、いずれもスイーツスピリッツ。ただし、皆今の樹と同じ背丈をしている。
(スイーツ王国に来ている・・・?)
幸いにして一度スイーツ王国を訪れたことがある樹は、瞬時に状況を飲み込んだ。あの時は、バニラ達の魔法でスピリッツ大になった状態から日本校のオーブンを通過して汽車に乗ったが、今回はそのような手順を踏んでいない。強引に連れてこられたのだ。
はっとして隣を見ると、エプロンドレスに金髪のスピリッツが目を閉じて眠っていた。話には聞いていたが、実際にアリスがスピリッツの姿をしているところを初めて見て、樹は急速に腑に落ちる。初対面の時に胡散臭いと思った程出来すぎた外見が、この状態だとかなりしっくり来る。
「ん・・・あれ、ここは・・・」
トンネルに入って音の響き方が変わったからか、不意にアリスは眼を開いた。他の乗客や隣に座る樹の姿を見て状況を理解したらしい。その肩が強ばったのが樹にも分かった。やはり、アリスにはまだ戻ってくるのが辛い場所なのだ。
どういうことか分からないけれどこの状態からパリに戻れるのだろうか。樹はアリスに尋ねようとしたが、またトンネルを抜けた時に車両の後部から騒がしい声が聞こえることに気がついた。
「ぬあああ!私のスレンダーなおみ足はどこいったのよ!?分かったわ、これは何者かの陰謀ね!身代金ならパパが幾らでも出すわ!だから早く元にもどしてええ!佐藤!塩谷!どっちでもいいからたすけてええ・・・」
「落ち着いて、小城さん・・・」
「あ!天野いちご!何であんたは全然変わってないの!?」
「いや、十分変わってると思うんですけど・・・」
「分かった、これはあんたの陰謀ね?私を妬んで変な呪いとかかけたんでしょ!そうだわ!そうに決まってるわ!」
「呪ったりしないですよ!」
忘れもしない強烈な存在感。小城といちごもここに来ている。当然、彼女たちのパートナーのバニラとマロンも。
混乱しまくっているらしい小城は自らの変貌した姿を嘆きいちごを揺さぶっている。声をかけて止めた方が良いかと思い樹は立ち上がりかけたが、アリスが無言で樹の肩に手を置いて止めた。その顔色があまりに悪いので、樹ははっとする。
「あれ、樹ちゃん・・・?」
その時、いちごが目ざとく樹の姿に気付いた。アリスの肩がびくんと跳ねる。それを聞いて、小城の目も樹を認知する。
「え?あーら、東堂さんじゃない!東堂さんもヘチャクムクレならもうそういうもんなのね!安心安心・・・って、その子誰?」
マイペースに安心したかと思えば、唐突に核心を突いてくる。どう答えたものか樹は答えに窮したが、アリスの姿をまじまじと捉えたバニラが先に口を開いた。
「・・・クレムじゃない?」
樹は聞いたことが無い名前。だが、それを聞いたアリスは思わずバニラの方を振り返った。反応で分かる。彼女の本名なのだ。
「どうしてクレムが・・・」
「え?あの子、バニラの知り合い?っていうか、樹ちゃんも知り合い・・・?」
「あなた、女王様に追い出されたんじゃなかったの?」
ただただ戸惑っているようなバニラの横で、マロンは驚きを見せながらもさらりと言った。もしかすると純粋な疑問なのかもしれないが、それは酷く攻撃的な言葉だ。アリスの目の色が変わるのを察した樹は、彼女を庇う様に席を立ってマロン達の元へ近付く。
「この子は私のパートナーよ。私が聖マリーに転入してきてから、ずっと」
「え!?パートナーって・・・」
「・・・ごめん樹」
樹の言葉にいちご達が驚いた直後、いつの間にか席を立っていたアリスが樹の耳元で短く呟くと、急に物凄い力で腕を引っぱって汽車の窓に向かった。窓と言っても、吹きさらしでガラスが嵌っているわけではない。何をするつもりか、と樹が戸惑ったのも束の間、アリスは窓枠に足をかけ、樹も引っ張り上げるとそのまま一思いに窓外へと飛び出した。
「えっ!?・・・きゃあああああああ!」
汽車は高所の山並みを縫うようにレールの上を走っている。当然、その横は崖。その下には背の高い木々が連なる森が広がる。というか、今は純粋に樹の足下から何十メートル下かに広がっている。
落下の恐怖で、樹は今までに出したことがないほどの力が腹に込められているのを感じながら、声の限りに絶叫を続けた。
しばらく互いに作ったものの出来栄えを話し合っていたが、それも一段落して樹は外に出ることにした。了解の返事をする三人に片手を上げて答えながら、調理室を背にする。
意識して校内を人気の無い方に歩いていくと、物陰からひょっこりとアリスが出てきた。やはり喋ろうと思えばこの方法に限る。
「おはよ、樹。グランプリに向けて調子はどう?」
「問題ないわ。今日は飴細工の練習よ。相手は全員ヨーロッパ圏の人間で、和モチーフが武器になると思うから日本のイメージが出せそうな花の形を色々作ってみているの」
「花に拘るのは誰かさんの影響?」
アリスがからかうと、樹は赤くなって物言いたげに眉を顰めたが否定しなかった。その反応に、アリスは「ほーう」と目を踊らせる。否定はしないかわりに、樹はアリスの肩を強めに小突いた。
「いたっ・・・普通に痛い・・・でも、素敵だと思うよ。そういうの」
「はいはい、どうも」
「本当にそう思うんだけどなあ・・・」
その時、大きな鐘の音が二人の耳をついた。あまりに大きく響き渡る音に、窓ガラスもビリビリと揺れているのが分かる。樹はゴーン、と続けざまに鳴る音の発生源を探そうと目を凝らした。
廊下の突き当たりに柱時計が立っている。随分古いもののようだが、発生源はそこだ。しかし、今までここで練習をしてきてこんな鐘の音は聞いたことがない。
「何が起きてるの・・・?」
「これは、まさか・・・」
「アリス、何か知って・・・」
辺りがとつぜん一面の銀色に包まれる。次の瞬間、二人の姿はパリ本校の校舎内から跡形も無く掻き消えていた。
ガタンゴトン、という規則正しい振動を感じて樹の意識が覚めた。空気感で、学内にいるのではないことが分かる。外の空気だ。もっと言えば、パリの空気とも違う。
そこは汽車の上だった。しっかりと座席に納まっている他の乗客たちは、いずれもスイーツスピリッツ。ただし、皆今の樹と同じ背丈をしている。
(スイーツ王国に来ている・・・?)
幸いにして一度スイーツ王国を訪れたことがある樹は、瞬時に状況を飲み込んだ。あの時は、バニラ達の魔法でスピリッツ大になった状態から日本校のオーブンを通過して汽車に乗ったが、今回はそのような手順を踏んでいない。強引に連れてこられたのだ。
はっとして隣を見ると、エプロンドレスに金髪のスピリッツが目を閉じて眠っていた。話には聞いていたが、実際にアリスがスピリッツの姿をしているところを初めて見て、樹は急速に腑に落ちる。初対面の時に胡散臭いと思った程出来すぎた外見が、この状態だとかなりしっくり来る。
「ん・・・あれ、ここは・・・」
トンネルに入って音の響き方が変わったからか、不意にアリスは眼を開いた。他の乗客や隣に座る樹の姿を見て状況を理解したらしい。その肩が強ばったのが樹にも分かった。やはり、アリスにはまだ戻ってくるのが辛い場所なのだ。
どういうことか分からないけれどこの状態からパリに戻れるのだろうか。樹はアリスに尋ねようとしたが、またトンネルを抜けた時に車両の後部から騒がしい声が聞こえることに気がついた。
「ぬあああ!私のスレンダーなおみ足はどこいったのよ!?分かったわ、これは何者かの陰謀ね!身代金ならパパが幾らでも出すわ!だから早く元にもどしてええ!佐藤!塩谷!どっちでもいいからたすけてええ・・・」
「落ち着いて、小城さん・・・」
「あ!天野いちご!何であんたは全然変わってないの!?」
「いや、十分変わってると思うんですけど・・・」
「分かった、これはあんたの陰謀ね?私を妬んで変な呪いとかかけたんでしょ!そうだわ!そうに決まってるわ!」
「呪ったりしないですよ!」
忘れもしない強烈な存在感。小城といちごもここに来ている。当然、彼女たちのパートナーのバニラとマロンも。
混乱しまくっているらしい小城は自らの変貌した姿を嘆きいちごを揺さぶっている。声をかけて止めた方が良いかと思い樹は立ち上がりかけたが、アリスが無言で樹の肩に手を置いて止めた。その顔色があまりに悪いので、樹ははっとする。
「あれ、樹ちゃん・・・?」
その時、いちごが目ざとく樹の姿に気付いた。アリスの肩がびくんと跳ねる。それを聞いて、小城の目も樹を認知する。
「え?あーら、東堂さんじゃない!東堂さんもヘチャクムクレならもうそういうもんなのね!安心安心・・・って、その子誰?」
マイペースに安心したかと思えば、唐突に核心を突いてくる。どう答えたものか樹は答えに窮したが、アリスの姿をまじまじと捉えたバニラが先に口を開いた。
「・・・クレムじゃない?」
樹は聞いたことが無い名前。だが、それを聞いたアリスは思わずバニラの方を振り返った。反応で分かる。彼女の本名なのだ。
「どうしてクレムが・・・」
「え?あの子、バニラの知り合い?っていうか、樹ちゃんも知り合い・・・?」
「あなた、女王様に追い出されたんじゃなかったの?」
ただただ戸惑っているようなバニラの横で、マロンは驚きを見せながらもさらりと言った。もしかすると純粋な疑問なのかもしれないが、それは酷く攻撃的な言葉だ。アリスの目の色が変わるのを察した樹は、彼女を庇う様に席を立ってマロン達の元へ近付く。
「この子は私のパートナーよ。私が聖マリーに転入してきてから、ずっと」
「え!?パートナーって・・・」
「・・・ごめん樹」
樹の言葉にいちご達が驚いた直後、いつの間にか席を立っていたアリスが樹の耳元で短く呟くと、急に物凄い力で腕を引っぱって汽車の窓に向かった。窓と言っても、吹きさらしでガラスが嵌っているわけではない。何をするつもりか、と樹が戸惑ったのも束の間、アリスは窓枠に足をかけ、樹も引っ張り上げるとそのまま一思いに窓外へと飛び出した。
「えっ!?・・・きゃあああああああ!」
汽車は高所の山並みを縫うようにレールの上を走っている。当然、その横は崖。その下には背の高い木々が連なる森が広がる。というか、今は純粋に樹の足下から何十メートル下かに広がっている。
落下の恐怖で、樹は今までに出したことがないほどの力が腹に込められているのを感じながら、声の限りに絶叫を続けた。